Feature 特集

「八月は夜のバッティングセンターで。」主演の仲村トオルが人生の軸にしているものとは… 「周りにいる人たちを幸せにすることが、自分が幸せになる方法だと思います」2021/08/18

 高校生の夏葉舞(関水渚)と謎めいた元プロ野球選手・伊藤智弘(仲村トオル)が、バッティングセンターに現れる女性たちの悩みを、野球に例えた独自の人生論で解決へと導いていくドラマ「八月は夜のバッティングセンターで。」(テレビ東京ほか)。誰かに認められたかったり、恋愛に臆病になっていたり、仕事の環境に満足できていなかったり…。とてもリアルな女性たちの悩みに、舞と伊藤、そして往年の“野球レジェンド”たちが寄り添い、野球論を通して励ます姿は、見ていて「自分も頑張ってみようかな」という気持ちにさせてくれます。

 今回は、そんな謎の男・伊藤智弘を演じる仲村トオルさんを直撃取材! 大の野球好きで、中学時代は野球部だったという仲村さんですが、撮影の裏話や本人役で出演するさまざまなレジェンド選手とのすてきなエピソード、さらに仲村さんご自身が背中を押された瞬間や、人生の軸にしている考え方についてなどたっぷり明かしてくれました。

――野球を通して悩みを解決していくというストーリーがとても新しいように感じたのですが、台本を読んでどのように感じられましたか?

「僕は中学生でプロ野球選手になる夢を諦めてしまったんです。でも、野球はずっと好きで、俳優になってからも野球選手の言動から多くの勇気をもらってきました。なので、企画を伺った時から面白そうだと思いましたし、台本も『あぁ、分かる分かる!』と。例えば、中学では、キャッチャーをやらされることが多かったんですけど、第5話(8月11日放送)にゲスト出演してくださった里崎智也さんとの雑談がとても印象的でした。里崎さんは『手柄はほとんどピッチャーに持っていかれる』『三振を取るための変化球を投げさせたのは自分なのに、三振を取ったらピッチャーが評価される』そして、『勝利投手は常にどの試合にもいるけど、勝利捕手はいなくて、敗戦すると原因はキャッチャーにあると監督から言われることが多かった』と。そこで、僕は『キャッチャーをやっていて一番楽しかったことは何ですか?』と聞いてみたんです。そうしたら、『自分のチームのピッチャーがタイトルを取った時』とおっしゃった。第5話は、夢を追おうとする夫についていけない主婦・寺本沙織(佐藤仁美)がバッティングセンターにやって来る回でしたが、伊藤は彼女に『勝利投手はご主人かもしれないけど、家族というチームで勝てたらいいんじゃない?』というメッセージを送るんです。『あなたも縁の下の力持ちではなく、勝利チームの一員なんですよ。だから、旦那さんを勝たせてあげなよ』と。里崎さんが今までの野球人生で得たことは、ドラマのセリフとの共通点があるだけでなく、望まずにキャッチャーをやっていた頃の僕自身が目指していた理想にも近くて。そういう、自分の経験とも重なるシーンが、この回だけではなく、いくつもありました」

――台本に書かれているセリフも作られた言葉ではなくて、実在のレジェンド選手たちの人生や生きざまに沿ったものだから、説得力が違いますよね。

「それはずっと現場で感じていました。自分の肉体を鍛え上げて偉業を成し遂げた人が持つ佇まいは、それだけで説得力がありましたし、人として魅力的でした。多くの言葉を費やさなくても、伝わってくるものがあるんじゃないかなと思いますね」

――劇中では、野球場でのシーンも多数出てきます。伊藤が監督やコーチとして登場する回もありますが、そういったシーンは実際に撮影されてみていかがでしたか?

「特に晴れている日の野球場は本当に気持ちが良いところだなと思いました(笑)。あとは、伊藤は監督やコーチ的な立場で球場に存在するので、プレーのシーンはないんです。撮影の流れで第8話(9月1日放送)に出演されるレジェンド選手の方がノックバットを持ってノックしてくださる一幕があって、元野球部のスタッフが歓喜していたんですけど、僕は役の設定上、ユニホームを汚すわけにはいかないので全然加われなくて(笑)。『ああ、グラウンドに立ちたいな、ちょっとでいいからプレーしたい』と思いました。あと、球場での伊藤の基本ポーズは、腕組みにしかめっ面なんですけど、悩みを抱えた女性に最後の言葉を掛ける時だけ、腕組みをほどいています。叱咤(しった)激励だけでなく、応援する気持ちを込めて」

――率直な思いを明かしていただいてありがとうございます!(笑)。そんな伊藤のユニホーム姿もすごく格好いいのですが、意識された点などあったのでしょうか?

「僕が中学生の時のユニホームの格好いい着方とは、今はだいぶ変わっているんですね。昔はアンダーストッキングとストッキングをひざ上くらいまでひっぱって、ユニホームのパンツと折り込んで合わせるのが格好いいとされていたんですけど、今はそうじゃない着方が主流みたいで。ドラマでは実際にプロ野球の監督の方たちを見習って、ユニホームの一番スタンダードな着方をしています」

――伊藤のユニホームにも改めて注目ですね。本作はバッティングセンターが主な舞台になっていますが、プライベートでバッティングセンターには行かれますか? 

「何年も行ってなかったです。それで、なんで自分がバッティングセンターに行かなかったんだろうと、この仕事がなければ考えなかったであろうことを考えてみたんですけど(笑)。『自分は衰えていないだろうか、あの頃のように打てるだろうか』という恐怖心があったことに気付きました。自分ではボールをとらえたと思っていたのに、ボテボテのゴロになった時に『あれ、俺、衰えているんじゃないか』と分かってしまうのを恐れて。それで足が向かなかったんじゃないかな、と。でも、第1話(7月7日放送)のゲスト、岡島秀樹さんからいただいたお言葉に勇気をもらえたので……」

――どんな言葉だったのでしょうか?

「岡島さんは引退して何年もたってらっしゃるので、『コントロールって衰えないんですか?』と聞いてみたんです。そうしたら、『リリースポイント次第』とおっしゃって。つまり『(ボールを)離す場所を間違えなければ、リリースポイントを忘れなければ、コントロールは衰えない』と。これは僕ら世代の仲間たちに伝えたい言葉でした。『俺らは昔のような剛速球は投げられないかもしれないし、パワフルなバッティングはできないかもしれない。だけど、リリースポイントを忘れなければ、コントロールは衰えない。ということは、野球に限らず、仕事でも大切なことを忘れなければ、まだまだ戦えるぞ』と、思えたんです」

――すごく前向きになれる言葉ですね。ドラマでは、「野球」を通して人々の背中を少しだけ押していくというのがテーマになっていますが、仲村さんご自身が、今までの人生を振り返った時に背中を押してもらった経験があれば教えていただけますか?

「舞台でのカーテンコールのお客さんの拍手や、出演したテレビドラマに対して『視聴率良かったね』『面白かったよ!』と掛けていただく言葉には、もちろん背中を押されます。さらに、自分が関わっていない作品がすごく面白かったりした時に、『その時期、俺は何をやっていたんだ!?』というネガティブな感情も、自分の背中を思いっきり蹴とばすのに使います。こういう感情はそっと押してくれるわけではないです(笑)。少年野球や中学の野球部での経験にしても、失敗や敗北、挫折から学んだことの方が多いですし、今この俳優の仕事をやらせていただいていても、劣等感や失敗、足りなかったと思う経験が『もっと前に行け、進め!』と激しく背中を押してくれます」

――仲村さんのストイックさが伝わってきます。それでは最後に、劇中では「ライフ・イズ・ベースボール」が合言葉になっていますが、仲村さんの人生の軸となっているものを表すとすると「ライフ・イズ・○○」になりますか?

「やっぱり、“家族”ですかね。自分が子どもの頃も、分からないなりにそう感じていたような気もしますけど、1人で楽しくなったり、幸せを感じることってすごく難しいと思うんですよ。周りの人が楽しくて幸せそうじゃないと、楽しかったり、幸せを感じることができない気がします。だから、一番近いところにいる妻と娘たちはもちろん、自分の周りにいる人たちに幸せを感じてもらえるように生きていないと、自分も幸せと感じられないんじゃないかな。この考え方は、ドラマの撮影現場でも同じで。『俺、1人がすてきな作品なんて、あるわけないだろう』と思います。照明部さんが良い明かりを当ててくれて、撮影部さんが良い映像を撮ってくれて、監督が望んだものがレンズを通して記録されていく……。共演者のみんなも良い気持ちで仕事ができる環境じゃないと、良い作品は生まれないと思うんです。だから“家族”という言い方で間違っていないと思うんですけど。自分の周りにいる人たちを幸せにすることが、自分が幸せになる方法だという考え方が、人生の軸かなと思いますね。言葉にすると、きれい事言ってるように聞こえるかもしれませんけど(笑)」

【プロフィール】

仲村トオル(なかむら とおる)
1965年9月5日生まれ。東京都出身。おとめ座。A型。ドラマ「あぶない刑事」シリーズ(日本テレビ系)、「チーム・バチスタ」シリーズ(フジテレビ系)、「ラストチャンス 再生請負人」(テレビ東京系)、「ネメシス」(日本テレビ系)、映画「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ(1985~88年)、「22年目の告白-私が殺人犯です-」(2017年)、舞台「ベイジルタウンの女神」、ミニ番組「土曜名馬座」(テレビ東京系)などに出演。ドラマ「密告はうたう 警視庁監察ファイル」(WOWOW)が8月22日よりスタート、舞台「砂の女」が8月22日より上演、ドラマ「日本沈没ー希望のひとー」(TBS系)は10月よりスタート。映画「愛のまなざしを」が年内公開予定。

【番組情報】

水ドラ25「八月は夜のバッティングセンターで。」
テレビ東京ほか 
水曜 深夜1:10~1:40
※ Paravi、ひかりTV、dTV、Amazon Prime Video にて配信中

取材・文/鬼木優華(テレビ東京担当) 撮影/蓮尾美智子 ヘア&メーク/宮本盛満 スタイリスト/中川原寛(CaNN)

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