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「俺の家の話」磯山晶チーフプロデューサーを直撃!「長瀬さんは、寂しくなってきたという感じもあるし、そう思えることが幸せだと感じているみたいですね」2021/03/24

「俺の家の話」磯山晶チーフプロデューサーを直撃!「長瀬さんは、寂しくなってきたという感じもあるし、そう思えることが幸せだと感じているみたいですね」

 現在放送中の金曜ドラマ「俺の家の話」(TBS系)。主演・長瀬智也さんと脚本・宮藤官九郎さんの令和初タッグで描くのは、濃すぎる家族が織りなす新しい形のホームドラマです。3月26日の最終回を前に、磯山晶チーフプロデューサーを直撃。佳境に入った撮影現場の様子や、最終回に向けての見どころをお聞きしました。

――毎回放送後に大きな反響がある本作ですが、視聴者の声をどのように受け止められていますか?

「始まる前は、介護というテーマは重くて皆さんに避けられてしまうかなと思っていました。でも実際に放送が始まってみると、現在介護をされている方、そろそろそんな年代に入る方、もう介護を終えた方、いろんな世代で前向きに捉えてくださっている方が多くてうれしいです。宮藤さんにも現役の能楽師のご家族から励ましのお手紙が届いたそうで、制作側のメッセージがきちんと伝わっていると感じますし、ありがたいなと思っています」

――ドラマを作る当初に描いていたテーマは実現できていますか?

「できていると思います。視聴者の皆さんも細かいところまで受け取ってくださってるなと思っていますし、何よりも演者の皆さんのお芝居が素晴らしくて、うそっぽさを感じないんです。宮藤さんの書いたすてきなセリフをそのキャラクターの人生の1ページとして演じてくださっているので、想像以上のものになっています」

――宮藤さんの脚本を現場の皆さんと解釈したり、一緒に考えたりすることはありますか?

「前室や合間の時間で話したりすることはあまりないのですが、現場で演者さんがセリフを言ってみた時に、もっとこっちの方がいいんじゃないかと積極的な議論になることはあります。誰かがセリフを言いにくいような状況になった時は、お互いに助け舟を出し合うというか。そういう大人のプロの現場ですね」

――長瀬さんとはこれまで長年にわたりさまざまな作品を作られていますが、改めて今作の現場での長瀬さんはどのように映っていますか?

「長瀬くんは自分の役に対しての準備が早いし完成度も高い。それにもすごく感動していたのですが、撮影中に宮藤さんのセリフをどうすればもっと面白くできるかと、ギリギリまで考えているのも素晴らしいなと思っています。真剣に考えを巡らせ『もっとこうした方が…』とか言いながら模索しています。完璧主義というか、どんどん高みを目指している感じですね。今作はこれまで以上に宮藤さんと長瀬さんの相性がばっちりだね!と言われることが多いのですが、私も本当にそう思います」

――常にアイデアを考えていらっしゃるんですね!

「そうですね。常に考えてくれています。急に一点を見つめてじーっとしているときは、だいたいどうしたらもっと面白くなるかを考えている時です。昔からアイデアを出してくれる人でしたが、今作ではさらにその幅が広がったなと思います」

――撮影も佳境に入っていると思いますが、長瀬さんはどのような様子でいらっしゃいますか?

「寂しくなってきたという感じもあるし、そう思えることが幸せだと感じているみたいですね」

――何かそういうエピソードがあったのでしょうか?

「長瀬くんと西田敏行さんの2人が別れるシーン(第8話)の撮影の日は、目を合わせるだけで2人とも涙が出てしまい、感傷的な空気になりました。もちろん面白いシーンは爆笑しながら撮影しているし、ずっと楽しそうではあります。プロレスなどの大掛かりなシーンが大部分終わったので、精神的にもちょっと楽になったところもあるかもしれません」

――視聴者の皆さんからも本作が終わってほしくないという声がたくさんあがっていますね。プロデューサーから見て、本作の長瀬さんは集大成という感じはありますか?

「彼は『池袋ウエストゲートパーク』や『うぬぼれ刑事』(共にTBS系)の時も、その時々に違う、年齢に合わせた表現をしてきたと思います。本人はたぶんあんまり意識してないと思うのですが、今作でもこれまで積んできたいろいろな経験を全て出してくれているなと感じます。これが集大成と言うと、もう見られないような気もするので、そういうふうには言いたくないですね。個人的には50歳、60歳の長瀬くんもまだまだ見たいと思いますし…」

――放送が始まる前に行われたインタビューで、宮藤さんが「新しい長瀬さんを見せられるんじゃないか」とお話されていたかと思いますが、そう思われることはありましたか?

「今まで演じていただいた役は奇天烈なキャラクターが多くて、今回がある意味、一番普通な人だと思います。突拍子もないことはしない人物だし、心の中の葛藤もモノローグで語っているので、長瀬くんの素に一番近いというか…。宮藤さんの脚本も、長瀬くん本人が本来持っている気質にだんだん近づいていっているような気がしています。長瀬くん本人には聞いていないですが、私たちが想像する“長瀬くん”に(役の観山)寿一が近づいていて、今までにない長瀬くんの一面を届けられているのではないかなと思います」

――志田さくら役の戸田恵梨香さんと西田さんの演技もすごく話題になっていると思いますが、2人の魅力はどういったところでしょう?

「さくらはとても難しい役だと思うのですが、大変魅力的に演じてくれています。こんなにどっちつかずみたいな状況を面白くお芝居してくれる女優さんは、ほかにいないかも。さくらは割とその場に応じて良い顔をする人なのですが、それが闇に見えないし、とってもかわいいんですよね。捉えどころのない魅力を体現してくださっています。ラーメンを食べるシーンなんかも、寿一との会話は全然かみ合ってないのに、すごく甘い気持ちになりました。西田さんはとにかくお風呂のシーンに代表されるように、本当に隠すところなく今の年齢のご自身をさらけ出してくださっています。もともと素晴らしい俳優さんだと思っていましたが、長瀬くんとのお芝居では特に生き生きされていて、本当に長瀬くんが大好きなんだなと感じることが多いですし、ノリノリの西田さんを見られて幸せです」

――観山秀生役の羽村仁成さんも絶妙な演技で個性のある役柄を演じていらっしゃいますが、いかがですか?

「秀生役はオーディション選考だったのですが、本当に彼がいてくれてよかったなと思っています。成長が著しくて、この3カ月で身長もすごく伸びたみたいです。声変わりするとお能の稽古が大変らしくて、だんだん声がかすれてきたから大丈夫かしらなんて思ったことも…(笑)。演技は落ち着いているし頭もいいし、すごく頼りになる人です。とても中学1年生とは思えないです」

――磯山さんの作品はさまざまな家族や人生の形を肯定してくれる温かさがあるなと感じています。これは昨年ご担当されていた「恋する母たち」(TBS系)や他の作品にも共通していると思うのですが、制作にあたってこだわっているところはありますか?

「昨今は正しい主人公を奇麗に描かねばならない風潮ですが、人は誰しも間違えるし、正しく生きている人ばかりではないと思ったりもします。そんな人間のダメな部分を『それも含めて人間だよ』と言える作品が作れたらなと思っています。今作でも主人公の寿一は家業を継がなきゃいけないのに25年も家に帰らないという点で、割と間違っている人ですよね(笑)。でも、そこから家族の介護のために帰ってきて、やり直したっていいじゃないとも思うんです。全く間違いを犯さずに、失敗しないで生きる人を描くよりは、寿一のような人間を描くことで人生の多面性を表現できると思いました」

――だからこそ多くの人々の共感を呼ぶんですね。毎話、声を出して笑っているのに温かい涙があふれる不思議な感覚になっています。

「それはやはり、宮藤さんの脚本が見る人のスイートスポットにハマっているからじゃないでしょうか。そこに長瀬くんや西田さんの覚悟が重なって、人と人とのつながりがいいなって描写がうそくさくないし、押し付けがましくない。そして、(西田演じる観山)寿三郎も本当にちょっとひどい父親だけど、それでも魅力がある人なんですよね。そういう人は実際にもたくさんいますし、父(親)という大きな存在の死に対して子どもが思うことは、結構、普遍的だと思います。もちろん皆さん家族関係はそれぞれ違うと思いますが、本作の2人は見てくださる方がご自身を投影しやすいキャラクターになったのかもしれません」

――家族を持つたくさんの人々の生涯に寄り添う作品になりそうですね。磯山さんにとってはどういう作品になりましたか?

「長瀬くんの今の事務所での最後の作品となるので、これで最後かよ!と思われないようにするという責任は特に感じて作りました。宮藤さんともそういう話になりましたし、現時点での彼の最高傑作にしたいという気持ちは一緒でしたね」

――ずばり最終回の見どころはどこでしょうか?

「観山寿一という人間がどういう人か。25年ぶりに家に帰ってきて親の介護をして、観山家にとってどういう役割を果たしているのかがはっきりすると思います。彼の生きざまが見てくださる人にとって良いものになればいいなと」

――改めて、視聴者にはどんなことが伝わればいいなとお考えですか?

「最終回の10話まで見てきて良かったと思ってほしいです。そして何より、今作では家族や介護というテーマを真正面から扱ったので、見終わった後に家族に電話しようとか、家族を大切にしようとか思うきっかけになればと思います。人は一人では生きていけないし、家族がいなければ自分は生まれていない。人と人との関わりの大切さを改めて提示できたらいいなと思っています」

――最終回を見る前に振り返ったり、これまでの放送で注目してほしいポイントはありますか?

「お能はドラマの内容とリンクさせるのがすごく難しい芸能だったのですが、最終回では『隅田川』という演目をやります。これは8話から寿一がずっと練習してるものなのですが、親子の生き死にを題材としているお話なので、それが今作のテーマとマッチして効果的に使えたのではないかと思います。そして、ホームドラマということもあり、本作は食事のシーンがすごく多いです。寿一の『いただきます』が長男らしくていい!というのがこのドラマのポイントの一つでもあるので、それも最終回に向けてのフックになっていると思います」

――では最後に、最終回を楽しみにしている視聴者の皆さんへメッセージをお願いいたします!

「ぜひ気持ちを真っさらにして見てください! あらすじとか事前情報をあまり入れずに見てもらえたらうれしいです。最終回をお楽しみに!」

――ありがとうございました!

【番組情報】

金曜ドラマ「俺の家の話」(最終回)
TBS系
金曜 午後10:00〜11:09

【あらすじ】

グループホームを抜け出し観山家にやって来た寿三郎(⻄田)は、3度目の脳梗塞で危篤に…。多くの門弟や家族たちに囲まれ、最期の時を迎えようとしていた寿三郎の前に、今まで正体を隠してきた寿一(⻑瀬)がスーパー世阿弥マシンとして現れる。そして「肝っ玉!しこたま!さんたま!」の掛け声で、奇跡的に寿三郎は一命を取り留め、寿一は新春能楽会で舞う予定の「隅田川」の稽古に励む。

取材・文/TBS担当 A・M



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