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杉並区長選を追った「映画 〇月〇日、区長になる女。」がいよいよ公開! ペヤンヌマキが一から始めた地域政治との関わり方とは?2023/12/31

杉並区長選を追った「映画 〇月〇日、区長になる女。」がいよいよ公開! ペヤンヌマキが一から始めた地域政治との関わり方とは?

 私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドWebでも展開中。1月号では、演劇ユニット「ブス会*」主宰で、劇作家・演出家・脚本家のペヤンヌマキ氏にインタビュー。自身の住む家が立ち退きの対象だと知ったことを機に製作が始まったドキュメンタリー「映画 〇月〇日、区長になる女。」が、ついに2024年1月2日から公開される。「区議会がどこにあるかも知らなかった」というペヤンヌ氏が、地域活動に関わったことで得たものとは?

POINT ◆地元の問題に目を向けて、自分も地域政治の当事者という意識を持つ

――「映画 ◯月◯日、区長になる女。」は、ペヤンヌさんが杉並区政に関心を持ち始め、区長候補の岸本聡子さんに密着し、当選する過程を追っています。大手メディアでは情報を得にくい地域政治について、どのように関心を持っていったのでしょうか?

「以前は区議会が区役所の建物にあることすら知らなくて。でもある時、自分の家が立ち退き区域に入っていると知り、『情報を知らないことって恐ろしい』と実感して、それから区政について調べ始めました。ネットで調べたら、道路拡張に反対している人や、児童館廃止に反対している人たちがいると分かってきて。『事態を変えるには今と違う区政になるしかないのでは?』と考え始めて、区長選を何らかの形で応援したいと思うようになりました。岸本さんが立候補すると分かった時、同じ女性だし同世代だし、興味があって演説を聞きに行ったんです。それでお話を聞いたら、応援したい気持ちになって、ボランティアでビラ配りを始めたんです。そこから地域活動をしている人たちとの人間関係が一気に広がって、ネットにも載らないような、生の区政の情報に日常的に触れるようになりました。『こういう場合は陳情を出せばいいんだ』みたいなことも、そこで初めて知りました。

 それまでは社会問題に疎くて、傍観する側でした。ニュースも『勉強しなきゃ』と意識すると全然頭に入ってこなくて、新聞を購読しても読めずに解約したり。コロナ禍以降、インボイスなど自分の生活に直結する問題が浮き彫りになって、そこでようやく『自分も当事者なんだ』と意識するようになって、ネットの署名に参加することから始めました。そこに立ち退き問題が出てきて、一気に当事者意識が高まりました。本当は当事者意識がなくても世の中の問題に関心を持つべきなんでしょうけど、やっぱり『自分も当事者だ』と気付くと、がぜん興味を持つようになりますね」

――映画は、ミュニシパリズム(=地域主権主義)がテーマです。地域に根づいた自治的な民主主義や合意形成を重視する考え方のことですが、実際はみんなの意見がまとまらずに議論が紛糾するシーンも出てきます。この現実の難しさをどう思いますか?

「私も心が折れそうな瞬間はありました。それぞれの意見にはグラデーションがあって、完全に一致するのは難しい。だからといって、話し合いを放棄してはいけないとも思っていて。杉並区の都市計画道路の問題でも、自主的に勉強会が開かれていて、住民たちがいろいろ学んだ上で議論を深めるということをやっています。『1回うまくいかなったから諦める』ではなく、『継続して考え続ける・議論し続ける』ことが大事なのだと実感しています。岸本さんは区長になりましたが、『あとは区長に託します!』ではなく、区民は区民の側で勉強をして、引き続き意見を言っていくようにしています。ただ、地域の話し合いにずっと参加できるのが理想ですけど、特に現役世代は仕事が忙しくなると活動に参加することが難しくなる。『100か0か』ではなく緩くであっても継続的に関わり続けるというのが、もっとできるようになるといいなと思っています」

――地域活動に関わって、自分自身が変わったと感じることはありますか?

「人生の転機と思えるほど、大きく変わりました。大学入学で上京して、杉並区に住んで約20年になりますが、ご近所付き合いが全然なくて。東日本大震災の時も避難場所がどこなのか知らなくて、地域の中で孤独だったんです。でも活動に参加することで、近所に知り合いが増えて、やっと生活の基盤ができたと感じています。道を歩いていると、知り合いから声をかけられるということが増えました。それで一層地元が好きになる、という好循環が生まれていますね」

取材・文/前田隆弘

【プロフィール】

ペヤンヌマキ
劇作家・演出家・脚本家。演劇ユニット「ブス会*」主宰。現代に生きる女性のリアルを、シニカルさと優しさが共存する視点で描き続けてきた。作・演出の舞台「お母さんが一緒」が2024年2月にホームドラマチャンネルで実写ドラマ化される。

【作品情報】

杉並区長選を追った「映画 〇月〇日、区長になる女。」がいよいよ公開! ペヤンヌマキが一から始めた地域政治との関わり方とは?

「映画 〇月〇日、区長になる女。」 
2024年1月2日からポレポレ東中野で新春ロードショー(以降全国順次公開予定) 

22年に行われた杉並区長選を追ったドキュメンタリー。音楽を黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子)らが担当した。1月2~8日は、監督と豪華ゲストによるトークショー付き上映イベントが開催。

<映画公式サイト>https://giga-kutyo.amebaownd.com/

監督/ペヤンヌマキ 配給/映画 〇月〇日、区長になる女。製作委員会 
Ⓒ2024 映画 〇月〇日、区長になる女。製作委員会

【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】

杉並区長選を追った「映画 〇月〇日、区長になる女。」がいよいよ公開! ペヤンヌマキが一から始めた地域政治との関わり方とは?

「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩、山極寿一、竹田ダニエル(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊「スカパー!TVガイドBS+CS 2024年1月号」に掲載。



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