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Z世代的価値観を通して世界の今を分析する文筆家・竹田ダニエルが問いかける“ニュース”と関わるあなたの“立ち位置”【完全版】2023/03/29

Z世代的価値観を通して世界の今を分析する文筆家・竹田ダニエルが問いかける“ニュース”と関わるあなたの“立ち位置”【完全版】

 私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドWebでも展開中。今回は、文芸誌「群像」での連載をまとめた著書「世界と私のA to Z」が話題を呼んでいる、アメリカ在住のライター・竹田ダニエル氏が登場。アメリカと日本の文化を鋭く見つめ続けてきた経験から、ニュースと関わる前提や姿勢を問うインタビューとなった。以前公開した「前編」に合わせて、現在発売中の4月号で掲載中の後編を加えたロングバージョンでお届け!

POINT ◆「中立的とはどういうことか?」、なぜ「中立を求めるのか?」自分に問うてみる

――ニュースの拾い方について、どう考えていますか?

「どのニュース媒体、どのジャーナリストでも主観は入ってきます。そもそも“どのトピックを掲載するか”の時点で、既に主観が入っているわけです。もっと大枠でいうと、日本のニュースメディアは“日本人にとって受けがいいニュース”を選んでいるので、“日本語でしか情報を得られない”という時点で選択肢が狭まっているとも言えます。たとえば環境問題で『北極の氷が溶けています』というニュースは流れてきても、『アメリカの若者が環境問題に対してこんなアクションを起こしています』というニュースは、なかなか日本のメディアでは報道されませんよね。

 “マジョリティーに受けのいいニュースを流す”というのはアメリカでも起こっていて、私の身近な例でいうと、ここ最近、カリフォルニアではアジア系が被害者になる銃撃事件が相次いでいます。でも、そういうマイノリティーが被害者になる事件は、大手メディアでなかなか取り上げられなかった。そこへアジア系のジャーナリストたちがSNSで問題提起をして、やっと認知されるようになった…ということがありました。私はそれをきっかけにアジア系のジャーナリストをフォローするようになりました。

 こういう『ニュースとの付き合い方を教えてください』という質問は、取材でよく聞かれるトピックなのですが、私は『何を知るか』よりも『なぜ?』と問うことの方が大事だと思っています。たとえば『ニュースは中立の立場が大事』という人はたくさんいますが、『なぜ中立的な情報を得なければならないのか?』『その考えはどこから来ているのか?』『中立であるためにはフェイクニュースも読む必要があるのか?』、本来はそういうところから考える必要があるわけです。SNSでは、フォロワー数の多いアーティストが『政治に興味を持とう』『選挙に行こう』『差別はいけない』と意見を言っただけで、『偏った意見だ』『思想が強い』と言う人がたくさん出てきます。『その意見をうのみにせず、いろんな意見を中立的に聞こう』という人も。でもそこで『中立とは何か』が議論されることはない。『ヘイトクライムで黒人が殺された』という事件があったら、『黒人にも非があった』『どっちもどっち』と受け止めるのが果たして中立であるということなのか。特に考えもなく『中立的』を信奉する人は、権力関係に鈍感だと感じます」

―― 鈍感さといえば、竹田さんが以前ツイートしていた「日本からやってきた研究生と話したら、全く政治のことを知らず、関心もなかった」という話が、とても印象的でした。

「その人は理系の研究生でしたが、日本にいるとジェンダーのことも、差別のことも気にしなくていいし、社会のことを知らなくても、研究者としての職はあるから生きていける。社会に関心がなくても生活に支障がないし、社会というのは空気のような存在で、違和感を持つこともない…いわばマジョリティー属性なんです。逆にいえば、日本の社会に違和感を持っている人…何かしらマイノリティー属性を持つ人の方が、ニュースに関心を持ちやすいというのはあると思います。つまり、ニュースに対して当事者意識を持っているかどうか。『新聞を読まないと就職活動やビジネスに対応できない』と新聞購読を訴える広告がありますが、あれはそうでもしないと当事者意識や興味を持てないことの表れだと思います。だから結局、『どうやってニュースに関心を持つか』というのは『当事者意識を持てるか』という話に行き着くのかもしれません」

POINT ◆「偉い人の意見」に追従するのではなく、それをもとに自分で考えたり議論したりしてみる

――日本のニュースメディアについて感じることは?

「日本は専門家でもないコメンテーターがいて、ニュースに意見を言うのが一つの特徴です。かつ、そのコメンテーターの意見を何の疑いもなく受け入れる人が多い印象です。視聴者の側に『偉い人の意見は正しい』という感覚が強いのかもしれませんし、メディアの側も、例えば私に取材する時でも『正しい答えを教えてください』という姿勢で聞いてきたりします。でも本来、そういった意見は『こういう考え方もあります』という例示でしかないわけです」

――ニュースのリテラシーを高めるには「自分で考えたり議論したりすること」が必要不可欠になってくる?

「そうだと思います。アメリカは『政治について知らないと恥ずかしい』という文化があって、家族で集まると政治の話になるのはごく普通の光景です。それは小さい頃から意見を言う/議論するという教育をされてきたからで、私も子どもの頃に議員に手紙を書いたり、模擬選挙をやったりしていました。それはつまり『自分たちの力で社会は変えられる』と教えられてきたということです。さらに言うとアメリカでは、『みんなにとってよい社会にしたい』と考える人もいますが、基本的には『自分にとって都合のいい社会にしないと損だ』という考え方がすごく強いんです。『主張しないと生き残れない』というのは、一種の過酷さでもありますが、そのことによって自分の意見を言う力が鍛えられている。日本の教育は基本的に正しい/間違いの二元論ですよね。英語の穴埋め問題があったとして、『正しい単語以外はすべて間違いだ』と教え込まれていたら、道端で外国人に話しかけられても、間違えるのが怖くて話せない。『自由に発言してとにかく意思を伝えることが大事だ』と教育されていたら、そうはならないと思います」

――教育以外の面で、日本に議論する文化が根付かないのはなぜだと思いますか?

「二つあります。一つは、日本は基本的に『みんな一緒』という安心感がベースにあることで、社会が成り立っているということ。だから『違いを認めると面倒くさくなる』と考える人が多いのでしょう。アメリカはみんな違います。電車で隣に座ってる人も、向かいに座ってる人も違う。違うことが前提だから、意見も違って当然なんです。『みんな一緒』が支配的な社会の中では『マジョリティーにとっての模範解答』が決まっていて、空気を読んでそれを言うことが求められます。よくテレビニュースで『冬休み楽しかったですか?』と聞かれた小学生が、『楽しかったです』と答える場面がありますよね。実際に楽しかったかどうかはともかく、あれはそう答えるのが求められる場面で、子どもの頃から『空気を読む』ことに慣れさせられている。

 もう一つは、アメリカの場合、差別や排除が生命の危機に直結しているんです(カリフォルニアではこの数年、アジア系ヘイトクライムが急激に増加)。そうなると『自分の手でなんとかしないといけない』『社会を変えていかないといけない』と考えるようになるのは自然なことです。今を生きるのに必死で、そうなっている。

 日米でそういう背景の差はありますが、しかしどちらも『よりよい社会を作るためには弱者の権利が守らなければならない』という状況に直面しているのは同じです。今は自分の持っている考えから動こうとしない人が大多数ですよね。いろんな考えに触れることで、考えに変化が起こるという『流動性』がそれぞれにあれば、もっと違う世界が見えるんだろうな…と感じています」

取材・文/前田隆弘

【プロフィール】

竹田ダニエル
1997年生まれ。米・カリフォルニア州出身、在住。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆しているZ世代の新星ライター。著書に、文芸誌「群像」での連載を書籍化した「世界と私のA tо Z」がある。

【書籍情報】

Z世代的価値観を通して世界の今を分析する文筆家・竹田ダニエルが問いかける“ニュース”と関わるあなたの“立ち位置”【完全版】

「世界と私のA to Z
講談社 1,650円(税込)
Z世代とは何なのか…? その視点から、SNSや音楽などのカルチャーを通し、日本とアメリカの現在を鋭く、また鮮やかに読み解いていくエッセー。

【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】

Z世代的価値観を通して世界の今を分析する文筆家・竹田ダニエルが問いかける“ニュース”と関わるあなたの“立ち位置”【完全版】

「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS 2023年3月号」(前編)「スカパー!TVガイドBS+CS 2023年4月号」(後編)に掲載。



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