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元京大総長・山極寿一が語る、現代社会の情報との付き合い方とは?【前編】2022/09/30

 私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドwebでも展開中。今回は、ゴリラ研究の第一人者であり、元京都大学総長で、現在は総合地球環境学研究所・所長の山極寿一氏に話を聞いた。

POINT 1◆「受け止めるのは事実だけ」と意識する

――今、私たちはどんなニュースの拾い方をするべきですか?

「事実だけを受け取ること。ニュースには憶測や背景など、いろんな考えがついてきます。私は普段、直接的なニュース報道だけを見て、SNSのニュースは見ていません。いろんなコメントが付いているので。今はお手軽にニュースを発信できてメディアの信頼性が薄れているから、『受け止めるのは事実だけ』と心がけていないと、すぐニュースに流されてしまう。『フェイクニュースは駄目だ』と言っても情報を止めることはできないし、メディアの数は膨大だから好みのニュースだけを集めて安心することさえできてしまう。だから個人個人が事実を受け止めて、自分で考え、自分が判断するしかないわけです」

――スマートフォンの普及は社会にどんな変化をもたらしましたか?

「現代社会の大きな誤解は、言葉を“気持ちを伝える手段”と思い込んでいること。言葉というのは、情報を組み合わせて物語を作ることには長けている。でも気持ちを伝える手段はほかにあるわけです。一緒に歌ったり食事をしたり、いろんなことを体を合わせてやることで、共感が生まれる。会って話をする時は、声のトーンやその場の状況など、いろんな要素が絡むことで、気持ちとなって相手に伝わる。そこでは言葉は主役ではなく脇役なんです。なのに若い人たちは『スマホで気持ちが伝わる』と錯覚して、かえって苦しんでいる。スマホは情報を得るためには便利な手段ですが、気持ちを伝えるには不便な手段だと理解した方がいい。 

 人間は猿の仲間だから、視覚を主に使います。その次に使うのが聴覚。視覚・聴覚は仲間と簡単に共有できるものだから、コミュニケーションはこの二つに偏っている。それを代替したものが言葉なんです。で、聴覚・視覚は情報として伝えることができるけれども、嗅覚・味覚・触覚は情報になりにくい。たとえば触った感じと触られた感じは違うはずで、どんな感覚で触れ合っているかは説明できませんよね。でも簡単に共有できないからこそ、『共有したい』という気持ちが生まれ、それが共感力を高める。食事を一緒にするのは、実は言葉よりも分かり合えるコミュニケーションなんです。あえて共有できない感覚を通して一緒になろうとするから。そういう逆説的なことがコミュニケーションには必要なのに、今の情報社会は、視覚と聴覚を拡大させすぎてしまった。そこでほかの三つの感覚を拡大して共感点を取り戻そう…というのが僕の主張です」

POINT 2◆「自分で考え、気付く」という“過程”を大事にする

――スマホは情報の判断にどんな影響をもたらしましたか?

「スマホを持つというのは、常にデータベースを持ち歩いているということ。だから『ここはどんな場所か』『これから行く店はどんな特徴があるか』など、意味をすぐ求めてしまう。でも『情報を検索する』=『過去に聞いている』ということ。あらかじめ出された情報に従って動くように、若者だけでなくみんなの心が向いてしまっている。これまでの人間社会は、人が何かに出合って自分なりの感想を持つことで、新しい考えを抱いたり、新しい道を開いたりしてきたわけです。

 なのに今は、あたかも価値というものは自分の中ではなく、ネットの中にあるように思われている。それはつまり自分が考えたり気付いたりすることを放棄していることになるわけです。だから話をしていても、分からなくなったらすぐスマホを見て、自分の頭の中で考えた自分の意見を述べることができない。結果よりも、そのプロセスの中で『何かに気付く』ということをもっと大事にするべきだと思いますね」

★インタビュー【後編】は、「スカパー!TVガイドBS+CS 12月号」(11月24日発売)に掲載予定。

取材・文/前田隆弘

【プロフィール】

山極寿一(やまぎわ じゅいち)
1952年生まれ。人類学者、霊長類学者であり、ゴリラ研究の世界的権威。第26代京都大学総長を経て、現在は総合地球環境学研究所・所長。著書に「スマホを捨てたい子どもたち」(ポプラ社)、「京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ」(朝日新聞出版)など。

【書籍情報】

『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』 
ポプラ新書 946円(税込) 
依存しつつも子どもたちが「スマホを捨てたい」と感じるのはなぜか? ゴリラ研究から人類を考察してきた山極氏が、この時代を豊かに生きる術を語る。

【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】

「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS 2022年10月号」に掲載。



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