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「クロサギ」氷柱が黒崎に発する「1人じゃない」という言葉はすごく大事なテーマ――最終回直前プロデューサーインタビュー2022/12/22

「クロサギ」氷柱が黒崎に発する「1人じゃない」という言葉はすごく大事なテーマ――最終回直前プロデューサーインタビュー

 King & Prince・平野紫耀さんがTBS系のドラマで初主演を務める「クロサギ」が、12月23日に最終回を迎えます。

 詐欺によって家族を失った主人公・黒崎高志郎(平野)が、“詐欺師をだます詐欺師=クロサギ”となって、本当の“敵”を探し出し打倒していく本作。最終回を直前に、TVガイドwebではプロデューサーの武田梓さんと那須田淳さんにインタビュー。最終回の見どころはもちろん、平野さんが演じている黒崎の魅力、印象に残っているシーンや撮影エピソードなどについてお伺いしました。

――御木本(坂東彌十郎)との戦いを描く物語の前半戦と、宝条兼人(佐々木蔵之介)が登場する後半戦で、制作する上で意識したことはどんなことでしょうか?

武田 「前作のドラマシリーズでは、まだ原作が完結していなかったこともあり、黒崎が御木本を倒すか倒さないかという展開の中で、結局決着がつかないところで終わっているんです。今作は原作が完結した上でのドラマ化だったので、その決着までを描くというのを最初から強く打ち出してきました。完全版と銘打ってやるからには、ラスボスである宝条を倒すまでを描くことが、結果的に黒崎と吉川氷柱(黒島結菜)、そして桂木敏夫(三浦友和)との関係などそれぞれのキャラクターの決着みたいなものを、宝条含め描いて“クロサギ完全版”と言えるのかなと思っています。視聴者の皆さんがラスボスだと思っていた御木本を黒崎が倒した後の後半戦でさらなる敵が出てくるとなったら、御木本の衝撃に匹敵するインパクトがないといけない。なので、宝条は登場した時にインパクトがあるような存在にしたいと意識していました。御木本は、詐欺師の中での世界の大物で、遠い世界の人という印象があったと思います。ですが、宝条は詐欺師の世界に存在する側面だけではなく、実は自分たちの身近に、社会の中に潜んでいるかもしれない存在であり、巨悪です。視聴者の皆さんが、ちゃんと心からこいつ悪いやつだなと思える存在にしたいと思いました。その方がより宝条にだまされた数々の被害者に共感してもらえるようになりますし、実際にこういう形で泣かされている人は多々いるかもしれないと思うので、“やっつけてほしい”と視聴者の皆さんが黒崎を応援したくなる敵にするということが後半のテーマでした」

那須田 「“遠い”とか“近い”というのを違う角度から見ると、御木本の詐欺は、人の欲望を利用して、人のお金を巻き上げる詐欺師としてのダイレクトな動機なんですよね。次に現れた宝条は、お金に固執しているというよりは、お金を得ることで、自分の社会に対する野望をかなえようとしている。詐欺は一つの手段であるけれど、詐欺に頼ることで力を持ち、自分が世の中を変えてやろうという動機なので、そこが違うんです。御木本は彼の個人的な欲望で詐欺をやっているのに対し、宝条がやろうとしていることは、社会を変えてやろうというようなこと。そのためなら手段を選ばず詐欺をし、権力を奪取するのにお金を集めて自分の社会的地位も上げていく、社会の構図の中に宝条も組み込まれているわけです。黒崎は、御木本のような詐欺師がいる限り自分の家族のように不幸になってしまう人がいるから、クロサギとして詐欺師を食い尽くそうと思っている。しかし、御木本を食った後、もっと社会の中に根付いている悪いやつがいるということに気付き、戦い方のステージが変わっていくことに、自分の中で葛藤があります。世の中と向き合っていく時に、いろんな若い方々が社会に出ていく葛藤じゃないけど、自分の中でも整理のつかない葛藤と戦っている人たちが、世の中にはたくさんいらっしゃると思います。氷柱や神志名将(井之脇海)のように、世の中の秩序を守るのは法律に代表されること、例えば“正義”に代表される理想的なことで、それはそれで大事だけれども、その一方で果たしてそれで何ができるのか、すべては変えられるのか、守れるのか…。また宝条も、理想的な手段だけで何かを成し遂げることができるのかと考えているわけですよね。こういう答えの出ないものこそ、世の中に起こっていることとして照らし合わせられるものがいろいろあるんじゃないかと思います。そういうことを考えるきっかけにもなるのがエンタメの力かなとも思っています。ただ黒崎が葛藤のせめぎ合いみたいなものを背負いながら、新たな敵・宝条をどうやっつけるのか、これらをどうエンターテインメントにしていくのかっていうのは難しいところではありました。ですが、その複雑な背景を背負っている構図をうまく楽しめるようにするのが後半戦の課題でもありましたし、そこでまた新しい形のエンタメができるのではないかと思い制作しました」

――最終回に向けて脚本を担当された篠﨑絵里子さんと物語を作り上げる上で意識したことはありますか?

武田 「平野さんとお会いする前の初期の段階から、篠﨑さんとは『クロサギ』は“自分は1人だ”と思っている主人公の黒崎に、周りの人たちが『1人じゃないよ』と伝えていく物語だとは話していました。ドラマの前半は、その意味をあまり前面に打ち出しすぎずに作ってきたんですが、後半になってくるにつれ、独りで戦っている黒崎に対して、周りの人が『1人じゃない』と言葉にせずとも伝えていくようなシーンが増えてきて、それは篠﨑さん自身も意識して書かれていたことなのではと思います。われわれも作っていく上で、黒崎の“孤独な戦い”をどう応援してあげられるかというところは、意識していました」

那須田 「氷柱が黒崎に発する『1人じゃない』という言葉は、実はものすごく大事なテーマなんですよね。孤独であるからこそ成り立っているような人生を歩んでいる黒崎だって、『1人じゃない』って言ってくれる人がいないといけないと思います。世の中には、まだまだ出会ってはいないけど、同じ思いを持った人たちはたくさんいるはず。“私、ぼっちかな”と思っている人も、社会に生きている限りは独りぼっちなわけじゃないと思うので、その独りじゃないということがどういうことなのかという部分も、ぜひ最終回を見て感じていただけたらうれしいです。ばらばらな小さな思いが、一つになって力になっていくようなことはあるはずです。そういうことも、登場人物たちの中に込められればと意識はしています」

――平野さんが演じている黒崎の魅力はどんなところにありますか?

武田 「最初の頃から、黒崎って圧倒的“主人公”だなと思っています。平野さんが黒崎を演じると華もありますし、行動とかも含めて、本当に全部が魅力的に見えるんですよね。後半戦にかけてもさらに見たことのない黒崎の顔がどんどん出て来て、驚くばかりでした。それがただ多面的なだけでなく、どの顔もちゃんと黒崎らしいと思わせてくれるのが、平野さん演じる黒崎のすごいところだと思います」

那須田 「黒崎というキャラクターを演じてくれた平野くんは、最初から一つの人格を生きているわけではなく、自分はどういう人なのか分からない状況の中で、人間の中にある多面的なところを面白く演じるということに長けていると思います。前半戦でも、悲しいシーンの悲しみや、人をだましているところを演じている顔、そして氷柱に少し見せる切なさだったり、ちょっとした温かい気持ちを受け取った場面など…。いろんな人間のいろんな側面を瞬時のうちに感じさせてくれるその技量は、後半戦でよりさらに素晴らしくなっていると思います」

――撮影してきた中で、一番印象に残っているシーンを教えてください。

武田 「本当に全シーンが見どころだなと思うので、印象に残っているシーンを挙げるのがすごく難しいですね(笑)。その中でも私が好きなのが、第5話で神志名が上海まで黒崎を追ってきた時に、お互い言い合いになって感情をぶつけ合うシーンです。そこは2人とも感情が爆発していました。自分の中で正義というものの整理がつかない葛藤とどうやって戦っていくかという部分で、黒崎も神志名も、確実に今思っている本当の感情みたいなものがすごく出ていて、あのシーンは現場でもとても迫力がありましたし、すごく印象的なシーンだなと思っています」

那須田 「このシーンの2人の表情は、その一瞬、数秒の中に、ストーリーを感じさせてくれるような、微妙な変化があって素晴らしいなと思いました。ほかのシーンと違って、お互いの考えは違うけど、それぞれの正義感を元に若い人が感情をあそこまでぶつけ合うシーンはなかなかなかったりするので、これこそ映像作品だなと思います。芝居の力と迫力、繊細さが同居していた大変素晴らしいシーンでした」

武田 「本当はもっと細かくカットが割られていたのですが、横顔の2ショットがすごく良かったので、この2ショットをたっぷり見せようという監督のこだわりで完成したシーンです。編集上がりで最初は音楽がついていたんですけど、音楽もない方がいいとなり、音楽も外しました。純粋にあの2人のお芝居の力で持っているシーンだなと思います」

――印象に残っているエピソードはありますか?

武田 「クランクインから5日間連続で、内容の濃いシーンの撮影をしたのは特に印象に残っています。特に平野さんは怒濤(どとう)の撮影内容で、セリフも難しいものがいっぱいありましたし、キャラクターを練り上げていくには十分な時間がない中、濃い内容で大変だったと思います。ただ、私たちスタッフもまだ手探りの中、クランクインをし、平野さんが1日、2日目にして黒崎をつかんでいらっしゃって、ここを目指して作っていけばいいんだっていうのがわれわれも分かり心強くなりました。黒崎のさまざまな変装も本作のポイントの一つですが、平野さんは何でも似合ってしまうので、それが逆に難しいなと思いました。毎回スタイリストさんとも話し合いながら衣装を決めていますが、何でも似合ってしまうから変な人にはできないんです(笑)。第8話のホスト風の男みたいな平野さんの変装は、すごく奇抜な格好ではありましたが、金のメッシュとかほかの人がやったら無理だろうっていうものまで、それっぽく見えてしまうのが詐欺師っぽくていいなと思いました」

――シリアスなシーンの撮影も多いかと思いますが、現場の雰囲気はいかがですか?

武田 「後半にかけて皆さんだいぶ打ち解けて、初期以上に雰囲気は良くなっていきました。台本上の内容はどんどんハードになっていっているんですけど、現場は割と穏やかというか、楽しい雰囲気で撮影も進んでいます。平野さんが新しい変装衣装を着て現場に現れた時に、監督やカメラマンが『お、今日も格好いいですね』と声をかけるというのが現場での定番のやりとりになっていたり、山本耕史さんが絶対に使えないアドリブで現場を爆笑させたり、いい雰囲気だなと思っています」

――平野さん、黒島さん、三浦さんの魅力についてもお伺いできればと思います。

武田 「撮影が進んでいく中で、皆さん自分の役として現場にいらっしゃるので、台本にないような言い方などを監督に提案してくださいました。平野さんに関して特に思うのですが、その提案が黒崎としての正解なんだなって思う場面が多くあります。例えば、第9話の冒頭で桂木と別れを告げるシーンがあったのですが、台本にないような温度感が出てすごくいいシーンになったなと思いますし、黒崎をちゃんとつかんで黒崎として現場にいる、それがすごくいいなと思いました」

那須田 「最初にイメージしていた、こんな役になってほしいなというところは、お三方ともすごく出してくださっています。黒島さんも、彼女のストイックさだったりチャーミングさというのが、後半、特に垣間見えました。表現、お芝居、表情、それらがすごく長けているなと思いました。三浦さんは平野くんたちのキャラクターとは違う意味で、人間の多面的なところや微妙なニュアンス、そこの奥に何があるのかを知りたくなるような繊細さをすごく上手に出してくださいました。静かなエンタメを三浦さんのお芝居で楽しませていただいているなと思います」

武田 「黒島さんも、氷柱って基本真っすぐなんですけど、その真っすぐの中に揺れ動く感情みたいなのがあって、ただ純粋に正義感が強いっていう設定上の話だけじゃなくて、ちゃんとした感情の揺れ動きだったり、そのバランスがすごく後半にかけていくにつれて、どんどん出てきています。それが黒崎と氷柱の関係性の切なさみたいなところにつながっていっているのかなと思います。見ていてどんどん魅力的になっているなと思いました。桂木が本当はどう思っているのかというのは、作品の全体を通して分かりやすい部分は一つもないのですが、その分からないところが桂木の魅力だっていうのが念頭にあったんです。三浦さんはそれを見事に体現してくださいました。個人的に好きなのは、桂木は黒崎とやりとりをしている時はぶっきらぼうな感じなんですけど、氷柱と話す時はちょっとイケメンになるところです(笑)。ただ、後半の第8話以降で氷柱が桂木のことを怪しむような場面になるところと、氷柱に第9話で『ごめんね』と言うシーンでは本当にすごく怖くなって、氷柱に見せるあの顔はうそだったのか、どこまで計算されていたんだって、恐ろしくなりました。三浦さん、普段本当にお優しい方なんですけど、画面の中で見る桂木は怖くて、それがすごく見ている側として楽しめるポイントだなと思います」

――作品を通して新たな一面を見せてくれたと感じるキャストはいらっしゃいますか?

武田 「新たな一面で言うと、早瀬かの子役の中村ゆりさんです。原作では男性だった早瀬をどういうふうに作っていくかという悩みはあったんですが、逆に自由度が高くなりました。第5話でチャイナドレスを着たり、アクションシーンがあったり割と砕けたキャラクターで、桂木がああやってどっしり構えているから早瀬は役柄として遊べたと思います。黒崎とのやりとりもお姉ちゃんと弟みたいな感じで、中村さんの本来のかわいらしさかもしれませんが、見ていて非常に私も楽しかったです」

那須田 「出てくるキャラクターが皆生き生きとしています。あえて、それぞれの背景は細かく描いてはいないですが、狙い通りに皆さんが瞬時に魅力を全開にしてくださるので、楽しく見れていると思います。一番謎の女であるかの子役の中村さんは、氷柱とは違う大人なかわいらしさや深みのようなものを瞬時に魅せて楽しませてくれているなと思っており、毎回楽しみに見ています」

――黒崎と氷柱の関係も非常に切なくなってきていますよね。黒崎と氷柱の最終回の見どころは、どういったところになりますか?

武田 「最後までどうなるか分からない関係性の2人でいてほしいですし、それをすごく楽しめるような最終回を作れたと思います。第9話でも切ない2人だったと思うのですが、黒崎と氷柱がどういう形であれ幸せになってほしいと、視聴者に応援してもらえるような2人を描こうと思いながら作ったので、そこが見どころです」

那須田 「ドラマが始まる前も言っていたんですが、この2人は結ばれることのない悲劇の関係なわけですよね。でも最終回、そんな2人の間にどんな未来があるのかというのを感じさせるようなシーンを作ったので、それはぜひ楽しみにしていてください。ラブストーリーって結末を見るものだけじゃないと思うんです。特にこの2人は、設定上21歳で、人生まだ始まったばかり。そこにラブストーリーの関係性とは違うことが起こっていくのも見どころだと思っています」

――第9話で桂木に決別を告げた黒崎ですが、黒崎と桂木の最終回の見どころはどうでしょうか?

武田 「家族の敵だけど親子みたいだった黒崎と桂木が第9話で決別し、どういう決着をつけるのか。また、桂木が今まで黒崎にかけてきた言葉はどういう意味だったのか。黒崎も桂木に対して、本当はどう思っているのか。その、今まで一見仲がよくて親子みたいないい雰囲気だったから描けなかった、2人の本当の思いというのが分かる最終回になると思うので、そこは注目していただければと思っています」

――最終回の中で注目してほしいポイントを教えてください。

武田 「黒崎と氷柱、黒崎と桂木、それぞれの2人の関係性がどうなっていくのかというところと、黒崎自身がどうやって旅を終わらせるのかというところもポイントかなと思います。クロサギの生きる目的としては、この世の詐欺師を1人残らず倒していくというのがあり、御木本を倒してもまだ終わることができなかった、後戻りできないクロサギの旅がどうなっていくのか。黒崎の行く末を、視聴者の皆さんも一緒に見届けてほしいです」

那須田 「黒崎の旅を一緒にたどりながら見てほしいというのが、このドラマの大事なところかなと思っています。悲劇性が強かろうが弱かろうが、みんな大なり小なり生きていく人生じゃないですか。だから、黒崎の人生を一緒に体感することで、これからの長い人生を生きていく若い方にもこのドラマを見返して、それぞれの結末に思いをはせてもらえたらうれしいです。神志名や氷柱が、黒崎と出会ったことで自分ができることってなんだろうと模索してきたわけですが、それはどんな人にもあることだと思います。自分ができることはどういうことなんだろう、そして、それをどんなふうに解決していくのかみたいなことを感じ取ってもらえる最終回になっていると思います。自分の正しいと思っていることを実現するのに、どうしたらできるんだろうと葛藤している氷柱や神志名のような人、それがちょっと複雑化している黒崎。そんな若い人たちが自分の理想や夢に向かっていく術を見つけ、どう決着をつけるのか。そういう若者たちと、このドラマに登場する人生のベテランな桂木、宝条、桃山哲次(宇野祥平)などは、自分の生きてきたラストステージにどう決着をつけるのか。大人たちは今までの自分のやってきたことに決着をつけざるを得ないことになります。たくさん大人が出てくると、若者が奮闘している意味にクロスする、そういう最終回にできたような気がしています。そういうのはある意味、悲劇的なドラマをエンターテインメントとしてみる醍醐味(だいごみ)にもなり、見る人のヒントになればと思っています」

――ありがとうございました!

【番組情報】

金曜ドラマ「クロサギ」
TBS系
金曜 午後10:00~10:54

TBS担当 M・M



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