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「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー2022/05/09

「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー

 2017年に「M-1グランプリ」で王者に輝いたお笑いコンビ・とろサーモン(村田秀亮、久保田かずのぶ)。結成は2002年。06年には「第27回ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞、「オールザッツ漫才」優勝、08年には「第38回NHK上方漫才コンテスト」で最優秀賞を獲得するなど、早い段階から実力を見せつけてきたコンビです。

 そんなとろサーモンの久保田かずのぶさんは、お笑い芸人としての活躍はもちろん、映画やドラマへの出演、アパレルのデザインのほか、“MCサーモン”名義でラッパーとして「戦極MCBATTLE」などのMCバトルに出場、L-VOKALさんやPizzaLoveさんといったラッパーの楽曲に客演で参加するなど、多方面で存在感を発揮しています。

「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー

 5月10日からは、初の個展「とろサーモン久保田和靖個展 なぐりがき」を7日間にわたり開催。絵を描き始めたのは今年の1月からとのことですが、なんと本個展では50点以上の作品を披露するといいます。このたび、絵との向き合い方や初の個展に込めた思い、今興味を持っていることなど、さまざまなお話をお聞きしました。

「正解がない。だから面白い」

「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー

――どのような経緯で絵画展を開催することになったのですか?

「相方が新国立劇場で上演の舞台(「裏切りの街」)に出演することになったので、時間が空いたんですよ。その時間をつぶすために始めたのがきっかけですね。もともと自分は“人生は暇つぶし”だと思っている人間なので、絵の具でその時間を埋めたいと思いました」

――絵は、ずっと描いていたのですか?

「全然、全然。全く描いてこなかったです。なんなら、20歳を越えてからは一度しか描いたことがなかったんです。麒麟の川島(明)さんの家で『描こうか』となって、その1回だけ。ただ、自分のおやじも3年くらい前に、約1年間かけて『宇宙戦艦ヤマト』の作品を作って、それがでかでかと(久保田さんの地元の)『宮崎日日新聞』の記事になったんです。『私は久保田かずのぶの父親です』なんて俺の名前を使うことなく、ストリートで、街じゅうで有名になったんです。そんなこともあって、もともと絵の家系だとは分かっていました。表現することが好きなんだと思います」

――今年の1月27日にInstagramに絵を投稿し、その後も定期的に作品をアップされていますね。時間をつぶす手段として、絵を選んだのはなぜですか?

「後輩の家で酒飲みながら落書きしとったんですよ。そしたら『兄さん、うまいですね』って言われたんです。あとは僕のファッションを見て『色がすてき』とか『久保田さん、色選びうまいですね』って言われることもあって。洋服も好きなんです。絵って、洋服に近いところあるじゃないですか。色を落としたりとか、模様を入れたりとか。もともと洋服も好きで、これ(取材の日に、久保田さんが着ていた上着)も自分で作ったものなんです」

――SUZURI(通販サイト)にアップされていた、ネコのTシャツもかわいかったです。

「ありがとうございます。それ以外にもめっちゃデザインしてますよ。めちゃくちゃ売れてます」

――今回の個展では、何点くらいの作品を披露される予定ですか?

「40~50点の絵を用意しようと思ってます。めっちゃ描いてますよ。止まんないんですよ。言い方悪いですけど、もう猿の交尾みたいな。ずっとやってるんです。止めてほしい」

――絵は、ご自宅で描いているのですか?

「そうです。ブラックミュージックを流しながら、炭酸水飲んで描いてます。一つの作品を完成させるのに、早ければ1時間。3、4枚まとめて描くんですけど、6~7時間ぶっ通しでやったり。で、描いたら寝る。もう病気ですわ。集中力が人より長いだけです」

――頭の中で「こういうものを描こう」と決めて描いているのですか?

「決めてないです。キャンバスの前に立って、初めて絵を描きます。何を描くかは未定の状態でキャンバスの前に立つんです。頭の中に浮かんだものをどんどん描いているうちに完成形が見えてくるので、それを描いていきます。でもそれさえも上から塗りつぶすんです。正解がない。だから面白い」

――制作中、行き詰まることはありますか?

「行き詰まることなんてないです。後から見て『変な絵だな』と思って塗りつぶすことはあります」

――お笑い芸人でありながら画家としても活躍されているジミー大西さんに相談しながら進めている模様もInstagramにアップされていましたが、もともと親交があったのですか?

「仲良くさせてもらってましたよ。ジミーさんに絵を見てもらったら『1枚だけとんでもない絵がある。絶対YouTubeに上げるなよ、描き方パクられるぞ』『お前が思ってる以上にすごいことしてるから』って言ってもらえたんです。『こんな手法見たことない』って褒められました。最初はできるたびに見てもらってたんですけど、途中で『久保田もうやめてくれ。送ってこんといて』って。『お前のパクりそうになってる』って言われて、それから送るのをやめました」

――久保田さんとしては、アドバイスが欲しくて送っていたのですか?

「そうです。俺が無知なんでしょうね。『すごいねんで、お前もう世界観できてんねん』『やからもう見せんといてくれ』って言われました。絵を描き始めてから1~2週間は送ってたんですけど、もうアドバイスをもらうのは卒業しました」

――個展に込める思いがあれば教えてください。

「“日本人が描きそうな絵”じゃないものがいいような気がしていて。海外の落書きじゃないですけど、そういうのを意識したりしています。壁に描かれたストリートアートというか、そういうのがいいなと思っています」

今は“絵のカード”を切る時

「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー

――久保田さんというと、先ほどもおっしゃっていたようなアパレルのデザインや、ラップ、映画やドラマへの出演など、お笑い以外にも多方面で活躍されている印象です。芸人を始めた頃から、こういうふうにいろいろなことに挑戦したいという思いは抱いていたのですか?

「全くないです。(お笑いを)やっていたら、どんどん出てくるんですよ。だから“カード”ですよね。お笑いも日本一取った。ヒップホップやラップも西東京の大会で1位取った。芸人でも一番うまいと思ってるし。で、次は“絵のカード”。また50代になったら切ろうと思ってるカードがあるので、その時に出そうと思ってます」

――それは自分の心の中に隠しているカードですか?

「いや、別に言ってもいいですよ。“軟式テニスのカード”です。50代になったら出そうと思ってます」

――学生時代、インターハイに出場するほどの実力者だったんですよね。それをなぜ50代で?

「スポーツって、体力があるからとか、筋肉があるから人を魅了するということではなくて。ヨボヨボになった人間が一生懸命スポーツをしているところに人は集まると思います。だって筋肉がついているやつがスポーツするのは当たり前でしょ? 今まであまり言ってこなかった部分なので、技術を見せようかなと思ってます」

最近、刺激を受けたこと

「集中力が人より長いだけ」。とろサーモン・久保田かずのぶ、初の個展「なぐりがき」インタビュー

――いろいろなことに興味がありそうな久保田さんが、今、ひかれているものはありますか?

「5歳の女の子がやっているInstagramですね。望蘭(みらん)ちゃんという子なんですけど、すごく癒やされます。大人っぽいんですよ。仕事に行って、仕事現場で大人たちの薄汚い人間像を見た後に、透き通った無邪気な子どもを見ると、すごく心が奇麗になるんですよね。深夜、寝る前のルーティンにさせてもらってます」

――私も毎日Instagramを見ている、かわいい姉妹がいます(笑)。

「僕はほかの子どもには興味が皆無なので。望蘭ちゃんしか見ないんです。もうその子以上はないだろうなと思っているので。それにこの感じでいろんな子どもたちをフォローしてたら、俺やばいと思いますし。関連動画でほかの子のアカウントが出てきますけど、望蘭ちゃんしか見ないです」

――貫いてるんですね。

「コメントもしてますよ。僕のコメントにめっちゃ『いいね』がついたりしてますけど」

――気付かれてるんですね(笑)。

「『いいね』が1000件来たりしますもん。めっちゃ気付かれてます」

――久保田さんは、芸人の後輩の方などに対して“刺激を与える側”という印象があるのですが、最近久保田さんが刺激を受けている人やものがあれば教えていただきたいです。

「刺激……。ないですね、刺激を受けるということが。なので答えになってるか分からないですけど、『ちゃんとせなな』と思ったのは、BSよしもとでやってる『競輪LIVE! チャリロトよしもと』という番組があるんですけど、先日ルミネに行ったら和牛の水田(信二)に『僕、タイミングよく見るんですよね。普段はザッピングだけして、じっくり番組を見ることってなかなかないんですけど、“チャリロト”は最後まで見たんですよ。見終わった後、“なんでこんなにずっと久保田さんのこと見てたんやろ?”って考えてたんですけど、答え出ました。人って、あんなに態度悪かったら目止めるんですね』って言われました」

――それを直接言われたんですか?

「はい。だから俺は水田に『ありがとう』って言いました。それ聞いて、これからも態度悪くしていこうって思いましたね。視聴者の意見って大事でしょう?」

――視聴者の意見は大事です。

「ですよね。だからこれからも態度悪くしていきます(笑)」

【プロフィール】

久保田かずのぶ(くぼた かずのぶ)
1979年9月29日生まれ。宮崎県出身。2002年、村田秀亮とお笑いコンビ・とろサーモンを結成。06年、「第27回ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞、「オールザッツ漫才」優勝。08年、「第38回NHK上方漫才コンテスト」で最優秀賞を受賞。17年、「M-1グランプリ」で王者に輝く。5月10日~16日、初の個展「とろサーモン久保田和靖個展 なぐりがき」を東京・渋谷モディ1階 イベントスペースにて開催予定。入場は無料。5月10日、12日、15日には、複製画の購入者にサイン会を実施する。

取材・文・撮影/宮下毬菜



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