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吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」2021/12/19

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

 第39回(12月12日放送)の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合ほか)では、財界の代表として、日露戦争への協力を求められ、公債購入を呼び掛ける演説の直後に倒れた渋沢栄一(吉沢亮)。容体が悪化する栄一を徳川慶喜(草彅剛)が見舞い、「どうか、尽未来際…」とつぶやき、「生きてくれたら、何でも話そう」と涙ながらに語り掛けたシーンに、「ここで平岡円四郎(堤真一)が慶喜に言った言葉が出てくるのか!」と大森美香さんの脚本の妙に感嘆した方も多いのではないでしょうか。

 そんな物語もあと2回。1年以上にわたって制作を手掛けてきたチーフ・プロデューサーの菓子浩さんに、撮影を終えての気持ちや、ラストに向けての思いを語っていただきました!

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――撮影を終えられた率直な気持ちをお願いします!

「『青天を衝け』は新型コロナウイルスの脅威の中で作ってきた作品でした。クランクイン直前に緊急事態宣言の1回目が出て、2カ月遅れてのスタートとなり、そこから先も新型コロナウイルスの感染者数は増減を繰り返していて、コロナ禍とともにあったドラマです。そんな中でスタッフもキャストも『本当にこのドラマは完走できるのか』『どこかで途切れてしまうんじゃないか』という不安をヒリヒリと感じながら、収録や編集に臨んでいました。だから、クランクアップの日を迎えた時に、『よくぞ無事に撮り切れたな』と。放送に穴を開けることもなく、撮影が止まることもなく、無事終わったことにホッとしています」

――放送後、毎回SNSなどで話題になっていましたが、視聴者の反応をどのように受け止めていらっしゃいましたか?

「放送前は『地味』だとか『渋沢って誰?』という声がありました。なかには、『次の大河は1年休みか』みたいな言われ方もしましたが、それはほとんどの方が渋沢栄一を知らないし、お札になる方というイメージしかなかったからで、栄一のダイナミックでどんどん逆転していく人生を見てもらえれば楽しんでもらえると思っていました。今、多くの方に応援していただけているのは、脚本はもちろんですが、俳優さんたちの力。栄一だけではなく、それぞれの人物を愛し、魅力的に育てていただいた結果、キャラクターが豊かになり、応援いただける方が増えたんだと思います」

――あらためて、渋沢栄一が大河ドラマの主人公になった経緯を教えてください。

「大河ドラマは約3年前から企画を考えます。僕の場合は連続ドラマを作る際に、『放送時、世の中の人はどんな気分なんだろうか』と一生懸命想像するのですが、その時はオリンピックが2020年にあると思っていて、オリンピック後は、日本のこれから先の10年を考えているムードだろうと予想し、激動の時代となった幕末から明治にかけての話にしようと決めました。その後、主人公を決めるために幕末を題材にした大河を調べたところ、過去に15本放送していて、主人公はみんないわゆるヒーローでした。西郷隆盛や坂本龍馬、新選組…それぞれ志を立てながら、半ばで果ててしまう、それらはヒロイックに作れるからドラマとしては非常に盛り上がるのですが、そうじゃない見方ができる人はいないだろうかと探したところ、渋沢栄一を知ったんです。渋沢さんは農民や幕臣、実業家など次々と立場を変えていって、一元的じゃないところがとても面白い。市井の人々から見た世の中に加えて、新政府のトップの話も見られるし、最終的には経済の話もできると思って決めたのですが、そこから予想を超えて、今の時代が変わっていって…。しかし、時代が閉塞的で予想外になってきた中で、渋沢さんを調べれば調べるほど、逆境になってもくじけずに立ち上がっていく人で、今の時代に合っているなと。最終的には、何度も失敗しているけど、必ず立ち上がって次のステージに行くところが物語のテーマにもなりました」

――その後、制作に取り掛かったんですね。

「ドラマ制作の過程では、自分たちが作っている物語と同じような出来事が世の中でもあったり、苦しい時期に作り手でありながら、登場人物たちの行動やセリフに励まされて、前を向いて進むことがありました。それは、脚本の大森さんが史実に寄り添って徹底的に作られる方だからなのかなと。そこに吉沢さんが血肉を与えて、生涯青春で力強く駆け抜けていく。僕らが一緒に作っているんだけど、吉沢さんが演じる栄一に励まされる不思議な瞬間が何度もありました」

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――91歳までの栄一が描かれるそうですが、なぜ最晩年まで描くことになったのでしょうか?

「大森さんと、栄一の人生を途中で描くのをやめたら、全然描いていないことになるのではないかという話になり、結構早い段階から亡くなるまでを描くことにしたのを覚えています。その時は、吉沢さんに91歳の亡くなるまでを演じてもらうかどうか決めていませんでした。20代の吉沢さんを90代に見せることに限界があるので…。ただ、そういうことよりも吉沢さんにやっていただくことがドラマとしての誠意だと思いましたし、何より吉沢さんに『やりたい』と言っていただいたので、91歳まで演じていただきました」

――これまでの吉沢さんの演技をご覧になっていかがでしたか?

「すごく難しい主人公ですが、想像をはるかに超えた演技でした。13歳から91歳まで演じることが、無理難題だし、農民から幕臣、明治政府への仕官、そして実業家へとステージがどんどん変わっていくので…。渋沢栄一という役の中にいろんな形の栄一がいて、それぞれのステージごとにとても魅力的に演じていただきました。力強いお芝居はもちろん、繊細な部分でも引き付ける力があるので、吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――そして、最晩年。91歳の栄一はどのように作られていったのでしょうか?

「91歳のビジュアルをどういうふうに作るかは、吉沢さんを含めて演出陣が何度も話しました。今はいろんな技術があるので、特殊メークでリアルな91歳を作ることもできますが、物語が長ければ長くなるほど、逆に特殊メークが気になってくるんじゃないかと考えて、物語の自然な流れを損なわないことを優先しました。怒る時はバーっと激しくまくし立てるので、そういうところは、おしゃべりな栄一のままですが、基本、吉沢さんは計算しながら年齢を重ねた歩き方や話し方をされていました。実際、芝居だけを見ていると、本当に年をとっているように見えるんですよね」

――また、第2の主人公ともいうべき草彅剛さんが演じる徳川慶喜もすごく魅力的でした。

「草彅さんは天性の俳優と言いますか…。ご本人は『歴史のことも全然知らないし、自分のセリフ以外、台本も読みません』とおっしゃっていて、現場でもひょうひょうとされているのですが、いざ本番になると、慶喜にしか見えない。当然僕は慶喜に会ったことはないですが、草彅さんが演じる慶喜を見て、『慶喜はこういう人だったんだろうな』と感じました」

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――栄一が大隈重信(大倉孝二)と言い合う回や廃藩置県をリモート会議のように紹介する回など、楽しい演出になったきっかけを教えてください。

「台本には細かい演出の指定はされていないので、それぞれの演出が膨らませていくのですが、栄一と大隈との丁々発止のやりとりは、2人のお芝居で一気に見せることが演出の狙いでした。リモート会議のような廃藩置県の見せ方は演出の黒崎(博)さんのアイデアです。実際に、全国の大勢の大名たちの屋敷を建てて撮影することはできないという現実的な制約がある中で、それを逆手にとって面白くしていきました」

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――残り2回でも楽しい演出はあるのでしょうか?

「第40回(12月19日放送)では、70歳を超えた栄一がミリオンダラートレイン(100万ドル列車)というアメリカの実業団が用意した列車に乗って、アメリカ60都市を横断しながら、平和を訴えます。そこでは、パリ編で生かされた撮影の手法を取り入れています。楽しみにしていただければと思います」

――栄一の後を継ぐことになる篤二役の泉澤祐希さんと敬三役の笠松将さんの起用理由と、実際に演技をご覧になった感想をお願いします。

「篤二は、栄一の息子で偉大過ぎる父の後を継ぐことへのプレッシャーで放蕩(ほうとう)し、廃嫡される人物。芸術家肌で生きる道が違えば才能を発揮した人なんだろうけど、プレッシャーにつぶれていく。どなたに演じてもらえば篤二の繊細さが出るだろうと考えた結果、結構早い段階で、連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK総合ほか)でもご一緒し、信頼している泉澤くんにお願いしようと思いました。一方、敬三も実は博物学や文化人類学など学者肌の方なのですが、栄一に頭を下げられて後を継ぎます。後に日銀の総裁を経て、大蔵大臣にもなる方です。実際の篤二さんはすごく痩せていて細い方なのですが、敬三さんはふくよかな方でちょっと柄が大きい。笠松さんには、より力強く粗削りな感じだけど何か秘めた力を持っている若者を演じてほしいと思ってお願いしました」

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

――また、物語の語り手として登場していた北大路欣也さんが演じる徳川家康は、最初から最後まで描きたいと思われていましたか? また、愛されるコーナーになったことをどのように感じていらっしゃいますか?

「北大路さんじゃなかったらここまで愛されていなかったでしょうね。放送時間が限られているので、その回の歴史的な背景をコンパクトにまとめて解説するわけですが、北大路さんの説得力だからこそ、ふに落ちるところがあり、家康さんにだいぶ助けられました。実は、どこまで家康が出るかをはっきりしないまま撮影を進めていたところ、北大路さんから『家康として最後までこの物語を見届けたいんです』と言われて、ものすごく感激しました。それからは、どうしてもここは家康に話してほしいという時に、満を持して出てくるという発想に切り替えました。終盤も登場するので、楽しみにしていてください」

――後半になるにつれて家康の後ろのパフォーマーも華やかになり、バージョンアップしているように感じました。北大路さんの思いを受けてそうなっているのでしょうか?

「家康の背景のパフォーマンスは、小野寺修二さんが主宰されている『カンパニーデラシネラ』の皆さんです。北大路さんが家康をどう演じるかを予想しながら、小野寺さんが背景の動きを考えられます。収録前のテストで北大路さんのご意見も取り入れて、さらにブラッシュアップしていきました」

――最後に、最終盤の見どころと注目ポイントを教えてください!

「いよいよ最終コーナーを曲がった『青天を衝け』。渋沢栄一さんご自身が91歳までご存命で、最後の最後、死ぬ間際まで走り続けた方でした。通常1年かけたドラマでは、最後は振り返るノスタルジーがメインになることが多いのですが、最後まで次々に新しいことが出てきます。栄一は喜寿を機にほとんどの会社を辞めて実業界から退き、人生でやり残したことに精力を注ぎます。その一つが、徳川慶喜の名誉回復。汚名を被ったまま歴史に埋もれている慶喜の名誉回復をするために、彼の伝記を作ります。もう一つは家族。自分が築いてきたものを次の世代につないでいく。息子の篤二や孫の敬三など、渋沢家の話が一つの軸になります。そして最後が民間外交。栄一は日本を豊かにするために走ってきて、富国強兵の“富国”をやり続けていたのに、国全体は“強兵”の流れになっていて。それを何とかしたいと、国と国のきな臭い事態を回避するために走り続ける栄一を見てほしいです」

――ありがとうございました!

吉沢亮とともに最晩年まで駆け抜け――想像をはるかに超えた演技に「吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと」

【番組情報】

大河ドラマ「青天を衝け」
NHK総合 
日曜 午後8:00~8:45ほか ※12月19・26日は午後8:00~9:00
NHK BSプレミアム・NHK BS4K 
日曜 午後6:00~6:45 ※12月19・26日は午後6:00~7:00

NHK担当/K・H



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