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「青天を衝け」脚本・大森美香、吉沢亮&草彅剛のシーンで「空想を超えるお二人の表情に引き込まれました」2021/12/11

 最終盤を迎える大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合ほか)も残すところあと3回。「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一(吉沢亮)が主人公というものの、放送前は新1万円札の顔の人というイメージしかなく、どんな人物かあまり知られていませんでしたが、本作により、栄一の功績が日本中に知れ渡りましたよね。

 栄一をはじめ躍動感あふれる生き生きとした人々を描いた脚本の大森美香さんから、執筆の苦労や裏話、今後の見どころなどを伺いました!

――非常に長い期間執筆されていたと思いますが、脚本を書き終えられた率直な今の気持ちを教えてください。

「書いている途中でコロナ禍になり、本当に放送されるんだろうかと心配しながら執筆していました。執筆中には視聴者の皆さんの声に励まされていましたね。今は最終回まで書き終わり、撮影も終わって、すごくほっとしています。このまま無事に最終回まで放送されることを楽しみにしています」

――コロナ禍での執筆で、大変だったのはどんなことでしたか?

「役者さんたちの演技を少し拝見しながら書きたかったのですが、(緊急事態宣言が出て)撮影現場に行けなくて。それもあって、現場との一体感が感じられない中で書く心細さがありました。ですが、映像を見られるようになってからは、ワクワクしながら書いていました」

――91歳まで生きた渋沢栄一の前半生に重点を置いたのはなぜですか?

「渋沢栄一さんを書こうと思った時に、とても分かりにくい人だと感じました。商売もしていた百姓の人がなぜ攘夷の志士になり、その後、一橋家に入ったのか。そこから幕臣としてパリに行って、帰国後、静岡で働くもなぜ新政府に行くのか。きっかけは分かるんですけど、どういうメンタルでそんなふうになったのか分からなかった。もしかしたらコロコロ意見を変える人なのかとも思いました。ただ、どこかに一本筋があったからこういう人生になったはずで、それを書くためにも、根っこにある市郎右衛門さん(小林薫)やゑいさん(和久井映見)の両親からの教え、そして子どもの頃から畑に出て働いていて、商売もしていたことを描きたい、お母さんの大きな愛情と、お父さんの厳しいながらも人生はこういうものなんだと教えてもらう素養が渋沢栄一という人を作ったのだと、皆さんに分かっていただきたいと、そこに重点を置きました。後半は、もうちょっと書けると思っていたし、書きたかったんですよ(笑)。だけど書いている途中からコロナ禍で世界が一変し、放送が進むうちに期せずしてこの2021年の時代に合うドラマになっていったような気もして、今はこういうのもありだったかなと納得しています」

――愛される栄一を描く上でどんなことを意識されましたか?

「栄一さんは(連続テレビ小説)『あさが来た』(2015年)の時に調べた銀行の神様というイメージが強かった。その方を主役で書こうと思った時に、偉人伝ではなく、人間ドラマが見たいと私自身思っていたところがあったんです。その人がどうやって出来上がったかというところが要になるんじゃないかなと。いろんな資料を読んで分かったのは、栄一はもちろん偉いんですが、お父さんとお母さんが偉いんですよね。そして、奥さんがまた偉くて。その人たちがいたから栄一が伸び伸びと才能を伸ばすことができたんです。私は『また、栄一はこんなことをして』と思いながら、栄一さんの自伝や資料を読んでいたので、視聴者の方にも『それは無謀でしょ』とか『もうちょっとお父さんの言うことをちゃんと聞いて』とか、一緒に育てていくという思いで見ていただければと思っていました」

――吉沢さんが栄一を演じられるからこそ、こだわった部分はありますか?

「吉沢さんが栄一を演じると決まってからタイトルを付けたんです。渋沢栄一さんはお札のイメージがあるから座ってお話をしているとか、人形を抱いている優しいお写真の印象がありますが、吉沢さんの栄一には走ってほしいと。この人生を駆け抜けてほしいという気持ちがありました。吉沢さんは走って、しゃべって、行動して、と休む間のない怒濤(どとう)の人生を演じられ、さぞ大変だったことと思いますが、私はそんな吉沢さんの栄一がとても好きでした」

――草彅剛さんが演じる徳川慶喜をご覧になっていかがでしたか?

「草彅さんの演技は、第2回(2月21日放送)の能の面を外したシーンから、ずっとびっくりしながら見ていました。もしかしたら慶喜はこういう人だったんじゃないかな、と草彅さんを見て思わされるようなところも多くて。サービス精神が旺盛じゃないから何を考えてるか分からないと思われがちで、ただ絶対に悪い人じゃないなという感じが、草彅さんの慶喜からにじみ出ていて…。それがよく表れていたのは、平岡円四郎(堤真一)とのシーンですよね。慶喜は何を考えているか分からないけれど、お父さんの徳川斉昭(竹中直人)のこともちゃんと思っている人であることが伝わってきて、すごくいい慶喜になりそうだなと思いながら見ていました。栄一とのやりとりを見ていても、草彅さんと吉沢さんが自然にお芝居をしてくださっていて、毎回楽しみなんです。最近、慶喜が出てこないので、早く出てきてほしいですね(笑)」

――第1回(2月14日放送)と第14回(5月16日放送)で慶喜が「言いたいことはそれだけか」と同じセリフを言い、第1回と第28回(9月26放送)では栄一が「渋沢栄一でございます」と同じセリフを言っていましたが、これは最初のセリフの時点でその構想があったのでしょうか?

「『渋沢栄一でございます!』『言いたいことはそれだけか』『否、まだ山ほどございます』という第1回冒頭の出会いのシーンが第14回で再び出てくることは最初から決まっていましたが、予告などで何度も拝見するうちに、そのお二人の声が頭の中に強く残っていました。第20回で『言いたいことはそれだけか』『今となってはもうそれひとつ。それのみにてございまする』と再びその掛け合いが登場したのは、そのお二人のお芝居に引っ張られ、立場が変わった2人でその掛け合いをもう一度見てみたいと思ったところが大きかったと思います。また、第28回で、栄一が慶喜に篤太夫の名前を返した場面の『渋沢栄一と申します』については、今このタイミングで栄一から『渋沢栄一』の名を聞いたら、慶喜さんはきっとあの出会いを懐かしく思い出してくれるのではないかと空想しました。実際に出来上がった映像を見て、空想を超えるお二人の表情に引き込まれました」

――では、書いている間に自分でも思わぬ方向に動き出した登場人物や、変わっていった人物はいますか?

「栄一と慶喜のシーンは、放送を見るにつれてお二人の相性みたいなものが見えてきて、もっとシーンを見ていたいという気持ちになりました。また、川村恵十郎(波岡一喜)は、感情移入されたスタッフさんから、もっと恵十郎を生かしたいという意見をたくさんいただいて膨らんでいきました。その後も、登場人物に愛情を持ってくださった演出家やスタッフの皆さんから、どんどんアイデアをいただくようになったので、それを生かしながら作っていきました。喜作さん(高良健吾)も、後半でも大いに活躍していただきたいとアイデアを出し合いました。でも、みんなの愛情が一番強かったのが千代(橋本愛)かな。お千代さんは本当に魅力的でした」

――毎回楽しい演出が見どころの一つですが、大森さんが驚いた演出を教えてください。

「空想して書いていた血洗島が、あんなに緑の多いすてきな場所だったのかと。渋沢家は広くて、上にお蚕様のお部屋がある構造になっていたんだということに、第1回(2月14放送)から驚きながら見ていました。そして、まさかお蚕様が踊るとは、全く想像していませんでした(笑)。栄一がああいうところで伸び伸びと育ったんだなというのも分かって…。驚くことばかりでしたね」

――確かにお蚕様が踊るシーンは衝撃でした(笑)。ほかにもさまざまなシーンがありましたが、その中でも一番のお気に入りはどのシーンでしょうか?

「たくさんあって選べないのですが、今思いついたのは第20回(6月27日放送)の栄一がピンチになったところを土方歳三(町田啓太)が救いに来るシーンです。大沢源次郎(成田瑛基)はすぐに捕まるという資料を読んでいたので、少しだけ捕り物をしようという気持ちで書いていたのですが、映像ではものすごい捕り物になっていて(笑)。思っていたのとは違いましたが、戦っている土方の姿と友情が芽生える栄一のシーンがとてもすてきでした」

――作中のセリフでは「おかしれえ」や「ぐるぐるする」がとても新鮮に感じました。あのセリフはどういうところから着想されたのでしょうか?

「栄一はワクワクする方に動いていく人なんだろうなと思っていたのですが、ワクワクという言葉をそのまま使うことに違和感があり、栄一らしい言い方で擬音を生み出すとしたら、どんな擬音になるかなと考えて生み出した言葉です。『おかしれえ』もやはり円四郎のキャラクターを考えていた時に、栄一の『ぐるぐるする』を円四郎だったらどんなふうに表現するかなと想像して。円四郎は早くに亡くなるので、何かを栄一が引き継いでほしいということもあって、円四郎の象徴となるような江戸言葉を書き始める前から探していたんです。その中で見つけたのが『おかしろい』。当時の造語で行儀のよい言葉ではありませんが、粋な人が使っていた言葉だったので、使ってみたいと思ったのがきっかけです」

――大森さんといえば、朝ドラ「あさが来た」を手掛けられ、今回も五代友厚役でディーン・フジオカさんが出演されています。今回、五代を描くにあたって変えたことや意識したことを教えてください。

「朝ドラの五代は『あさが来た』の主役・あさ(波瑠)から見た人物で、人生の先輩。いいところで現れて去っていくというような役割でした。実際の彼は面白くて不思議な人生を送った方で、機会があったらもう1回書きたいと思っていたんです。栄一の目線で調べてみると、パリでは栄一と相反する活躍をしていたことが分かって。後年、『西の五代、東の渋沢』と呼ばれますが、『あさが来た』では見せなかった幕末の志士としての顔も見せたかったんです。さらに、栄一にとっては良いライバルであり、商売の友でもある。そういう五代を書いてみたかったんです」

――演じられたディーンさんを映像でご覧になってどのように感じましたか?

「ちょっと大人になった五代というと変ですが、クールな姿が見られてよかったです。こういう姿が見たかったんだなと。『ディーンさん、ありがとう』と思いました」

――より書きたかったのはこちらということですね?

「五代友厚としての本来の魅力かもしれません。商人としてこの時代を駆け抜けた五代さんの魅力が出ていたらいいなと思っています。欲をいえばもう少し書きたかったですね」

――ということは、五代を主役にしたドラマを書きたいという意欲があるということでしょうか?

「長崎の話は相当面白いですし、薩英戦争では英国の捕虜にもなりますし。ただこの時代には小栗忠順(武田真治)をはじめ魅力的な方がとても多いので、いろいろと書きたくて困ってしまいます(笑)」

――いつか見てみたいです! 話は変わりまして、徳川家康(北大路欣也)のコーナーが毎回話題となっていましたが、最後まで書き続ける予定でしたか?

「私は最初から最後まで家康さんに見守ってほしいと思っていたので、もし視聴者の皆さんから『やめろ』と言われて、フェードアウトしなきゃいけなくなったらどうしようと心配していたのですが、想像以上に愛されて、北大路さんのおかげだとありがたく思っています」

――途中からどんどん豪華になっていきましたが、あの演出は大森さんの意志もあったのでしょうか? また、終盤に向けて工夫したことはありましたか?

「出てもらって『うれしい』と思ってもらえるタイミングに家康に出てもらいたいというのは、意識して書きました。セリフはこちらで書いていますが、家康さんと背後のカンパニーデラシネマさんの動きは、全部それぞれの回の演出の方たちの発想です。もっと派手にやってくれなど私からお願いしたことはないです(笑)」

――ご覧になっていて、変化は感じていらっしゃいましたか?

「パリに行く時のふすまがおしゃれだなと思ったし、私が外来語で書いていない言葉も時々外来語で話していたので、毎回、楽しみに見ていました」

――「あさが来た」も今作も明治に活躍した実業家が主人公ということが共通していますが、明治の実業家の魅力を教えてください。

「今の時代はこうしたら危ない、こういうことをしたらたたかれると危惧する風潮がありますが、明治の人たちは、そういうことをほとんど気にせずに突っ走っている。あさも、女であることを全然気にせずに走っていたし、栄一も人にどう思われるかとか、偉い人の前では頭を下げようとかそういう気が一切なく、どんな人でも才能ある人の話は聞こうする。自分で何かを作り上げようとする力が強い人のお話というのはパワーがあるなと。岩崎弥太郎さん(中村芝翫)もそうですよね。そういった部分にひかれるものがあります」

――吉沢さんは、慶喜と栄一の最後のシーンにこの物語のテーマが表れてるとおっしゃっていました。最後のシーンにはどんな思いを込められたのでしょうか?

「慶喜は天璋院(上白石萌音)に腹を召せといわれ、他の人たちに恨まれながら、それでも生きていくことが使命だと思って、生きてこられたと思うんです。最終的に長生きをしてよかったと思うシーンになってほしいと思っていました。それを言えるのが、一緒に長生きしてくれた栄一だけだったということ。吉沢さんがそうおっしゃるなら、すごくいいシーンになったと思うけれど、私はまだ見てないので、楽しみにしています」

――最後に最終盤の見どころと、注目ポイントをお願いします。

「今まで日本のために頑張ってきた栄一が、今度は世界に目を向けていきます。足を止めずに最後まで生き抜く姿にぜひ注目してください」

――ありがとうございました!

【番組情報】

大河ドラマ「青天を衝け」
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K 日曜 午後6:00~6:45

NHK担当 K・H



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