Feature 特集

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」2018/06/15

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」

「平成」という一つの時代が終わろうとしています。およそ30年間の中で起きた出来事や世の中の変化に思いをはせ、新しい時代の始まりに期待を膨らませる。いよいよ2年後に迫った東京五輪の開催も相まって、これからやって来る「未来」に、ちょっとだけ、希望を見いだしてもいいんじゃないか。そんな雰囲気が日本に漂っている瞬間に出合うことが、これまでより少しだけ増えた気がします。

 平成という時代を振り返る。「いろいろあったけど、良い時代だったな」と言う人がいる。「過去は美化される」とよく言いますが、平成の終わりに人々に求められたのは、「過去の思い出にすがっても良いんだよ」と誰かが言ってくれることだったのではないかな、と思います。

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」

 最終回を迎える、TBSほかで放送中の連続ドラマ「やれたかも委員会」(MBS制作)。2016年からwebで連載されている漫画作品が原作で、毎回主人公の違うオムニバス形式となっています。物語は、女性との「やれたかもしれない(セックスできたかもしれない)」思い出を抱えた男性が、“やれたかも委員会”所属のメンバーの前で大切な過去についてその一部始終を明かし始めるところから始まります。相談者の独白を聞き、委員会メンバーが最後に「やれた」か「やれたとは言えない」か判定。また、決して口数の多くない委員会の主宰者・能島譲(佐藤二朗)が話を聞き終えた後、ぼそっと放つ言葉に人生哲学が詰まっている…(かも)。

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」

 ラストのエピソード8「太陽の塔編」では、初の女性相談者が登場します。35歳のソーシャルワーカー・岩瀬さつき(MEGUMI)が、10年前、恋人との入籍を2カ月後に控えた頃に出会った男性との思い出を語るのですが、女性視点の「やれたかも」はなんだか新鮮な展開。

 恋愛において、「男性は“名前を付けて保存”、女性は“上書き保存”」と格言めいた言葉がありますが、女性だって“名前を付けて保存”したい過去があっても良いと思います。やれたかも委員会唯一の女性メンバーで、厳しく「やれたとは言えない」判定を掲げ続ける月綾子(白石麻衣)は、最後まで着眼点が鋭い。「太陽の塔編」は、原作では「大阪LOVER」というタイトルで、原作者の吉田貴司さんが「とてもお気に入りのお話です。エピソードを投稿してくれた方の文体がとても美しく、ほぼそのまま描かせていただいています。何回読んでもいい話です(自画自賛)」とwebサイト「note」に公開したセルフライナーノーツで振り返り、単行本第2巻の表紙にもなっているエピソードです。バイクの後ろで彼の背中に頬を添え、堂々とそびえる太陽の塔を眺めながら、岩瀬さつきはどんなことを考えていたのか。

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」

「やれたかも委員会」は「note」での連載が話題となり単行本化、そしてドラマ化に至った作品ですが、ここ1年の間にwebやSNSで話題にのぼった作品として、「ボクたちはみんな大人になれなかった」(燃え殻・著/新潮社)、「1ミリの後悔もない、はずがない」(一木けい・著/新潮社)、「往復書簡 初恋と不倫」(坂元裕二・著/リトル・モア)を思い浮かべました。「ボクたち~」はTwitterのつぶやきに多くの共感を得た作者によるweb連載の小説で、人生にもっとも大きな影響を与えたかつての恋人のことを軸に語られる私小説の体裁をとったラブストーリー。「1ミリ~」は出口の見えない家族関係に光を差した、忘れられない恋の記憶を綴った物語。「~初恋と不倫」は坂元裕二さん脚本の連続ドラマ「カルテット」(2017年・TBS系)放送終了後に出版された、坂元さんが過去に手掛けた朗読劇の書籍化。男女2人の手紙やメールのやりとりのみで構成された絶妙な会話劇で描かれるのは、過去を背負いながらもがく登場人物たちの姿。

「やれたかも委員会」を含めた上記の3作品には、過去の思い出にすがることを許してくれる優しさがあります。虚しい心に寄り添ってくれる静かなあたたかさがあります。過去の思い出を支えにして生きている彼らを見ながら、少しだけ立ち止まる時間をくれます。

 やれたかも委員会の主宰者・能島は、ある相談者に「『やれたかもしれない』夜は、人生の宝です」と言葉を掛けました。「~初恋と不倫」の坂元裕二さんは、脚本を手掛けた連続ドラマ「anone」(2018年・日本テレビ系)で「大切な思い出って支えになるし、お守りになるし、居場所になるんだなって、思います」というせりふを残しています。明るく照らされているであろう「未来」に向かってみんなが突き進もうとしている時代に、自分だけうまく前を見ることができないでいる。立ち止まってしまう。ふとSNSを開くとまぶしく映し出される他人の日常。誰もがSNSを更新し、日常を「見せる」「見られる」ことが当たり前となった「平成」という時代の終わり、SNSにより発信され話題となった作品たちは、自分に向き合う時間をくれる。振り返ると、そんな気がしました。「やれたかも委員会」最終回において、相談者の岩瀬さつきは10年前の過去をこう言い表すんです。「神さまが与えてくれた何か」。あなたにとって大切にしている過去を思い浮かべながら、ぜひご覧ください。

「やれたかもしれない」思い出にすがって生きる。入籍直前に別の男性にデートに誘われ「やれたかも?」

【番組情報】

「やれたかも委員会」(最終回) 
MBS 日曜 深夜2:15~2:45 
TBS 火曜 深夜1:35~2:05

文/宮下毬菜



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.