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「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?2023/07/17

「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「らんまん」。本作は植物学者・牧野富太郎をモデルに、神木隆之介さん演じる槙野万太郎が、幕末から明治、大正、昭和と四つの激動の時代を植物学者としていちずに突き進んでいく、波瀾(はらん)万丈の人生を描いた物語です。

 万太郎(神木)は大窪昭三郎(今野浩喜)と共に新種のヤマトグサを世に発表。そして、図鑑を発刊したことで植物学者として世間にも認められて順風満帆の日々を送る。一方、田邊彰久教授(要潤)は、新種として発表予定だった植物が、イギリス留学中の伊藤孝光(落合モトキ)によって突如イギリスの雑誌に発表されてしまい、失意のどん底に。そんな時、万太郎の住む長屋に藤丸次郎(前原瑞樹)がやって来て、新種の発表を巡って学者同士が競い合う状況に気を病み、大学を辞めると言い出す。

「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?

 ここでは植物監修を務める田中伸幸さんに、「らんまん」を監修する際の苦労や作品についての印象などをお聞きしました。

――「らんまん」の植物監修ではどんな仕事をされているのでしょうか?

「台本を作成する際に、ストーリーを成立させるためにどのような植物を出していくか、ドラマの設定の季節に合った植物で実際に手に入るもの、そして、当時の日本にあった植物で学名や和名が付いているのか、いろいろな制約がある中でそれに沿ったものを提案するところから監修作業をやっています。ほかにも、万太郎が植物学者になっていく過程で出てくるシーンのセットやセリフ、東京大学の研究室内や博物館には何を置いていなければいけないのかなどを考えています。明治時代では今とは専門用語に違いがあったり、当時の学名や和名のどちらかが付いていなかったり、ウリ科を当時は葫蘆(ころ)科と呼んでいたりなどさまざまな違いがあるので、なるべく『らんまん』の時代に合わせてリアル感が出るようにしています。植物のレプリカにも苦労していまして、たいてい撮影の時期と花の季節が違っているので、ほとんど本物の植物を出せません。なので、前もって本物の植物の型を取ってレプリカを作っているのですが、この時期の撮影ならこの植物や花が得られるから物語に出せるということも考えて、台本制作の助言をしています。そして最後に演出を加えた撮影現場を見て、それが正しく再現されているかを確認しています。この仕事に私を含めた計6人の植物監修チームで当たっています」

――神木隆之介さん演じる万太郎と牧野富太郎さんとの共通点を教えてください。

「槙野万太郎は爽やかで、とにかく植物オタクというのはモデルの富太郎と共通していると思います。特に植物好きな度合いはとても再現されていると思います。植物を見たらとにかく夢中になる。孫の牧野一浡さんにも、ご飯の時にしか書斎から出てこなかったと言われていますし。特に『らんまん』というタイトルは富太郎をよく表しているなと思っていて、おそらく富太郎は道楽に生きた人で、天真らんまんな性格だったことは確実だと思うので、思ったことは何でも言う、いい意味でも悪い意味でも鈍感さがあって自分の道を突き進む万太郎は、牧野富太郎と根底では同じように描かれていると思っています」

「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?

――植物学者の方々からの「らんまん」の反響はいかがでしょうか?

「皆さんからの反響は多いです。植物分類学はあまり注目されない分野というのもあり、その発展がドラマになっているというところに毎日感動して見ているという人もいます。植物分類学が中心となる作品は、後にも先にも『らんまん』だけかもしれませんね。植物分類学というものを日本中に届けることができたのも富太郎がいたからですので、功績の一つになったとも思います」

――監修作業の苦労や大変だったことはありますか?

「週の副題の植物は実際に入手できるのかを調べる時間や、実際に植物を提供することができるのかの答えを出すのに悩んでいます。なるべく脚本の長田育恵さんの意思を実現するにはどうしたらいいか。第14週のシダの時は、随分検討して選びました。最初のうちは準備期間が長かったので考える時間がありましたが、後半にいくにつれてスケジュールが詰まってきて、監修として答えを出さなくてはいけない時間が短くなってきます。ユウガオやヤマザクラも咲く季節とは違ったので、手に入るのか確認するのは大変でした。第17週のムジナモも生育している場所を苦労して探していました。あとは、植物そのものではないですが、第15週のヤマトグサや第20週のキレンゲショウマなど、新種と確定させるまでの思考過程を当時の学者の立場で考え、ストーリーを確立させるのにとても苦労しました」

「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?

――監修の仕事をされる際のこだわりを教えてください。

「モデルの牧野富太郎と関連した植物を物語に登場させて、それをドラマ風にアレンジしています。万太郎が新種として発表するヤマトグサは、時代は前後しますが史実に基づいていますし、高知編では、池田蘭光先生(寺脇康文)が仁淀川で植物の種類を見分ける方法として、ある植物だと思うが、かじってみて違うことを教えるシーンを描きたいと要望があり、ストーリーにするためには何を出したらいいかの相談を受けました。当時トウキは漢方として使われており、江戸時代の草木図説などにも載っていたので、万太郎も土佐にいた時に草木図説で見ていたと思いますし、富太郎も実際に見ていただろうと思います。当時、名前が付いていなかったイヌトウキとの違いを蘭光先生から習うというシーンが出来上がりました。実はこのイヌトウキ、史実ではのちに牧野が命名した植物なのです。キンセイランも草木図説には載っているけど学名はなく、これも将来、富太郎が学名を付ける。そういう後につながる一つ一つの史実を織り込みながら物語にはめ込んで選んでいます。見る人が見ればあっと思うかもしれません」

――作中使用された植物のレプリカを見て感じたことはありますか?

「『らんまん』のレプリカは、国立科学博物館の室内展示で使用する植物を作ってもらっている、日本のトップクラスの技術を持つ京都の職人さんが作っています。でも、本来のレプリカは博物館でケースに入れて展示されているものです。なので、レプリカを土に埋めたり、引っ張ったりというのを想定して作られていません。レプリカでも限界はあり、植えた際に違和感が出てしまっていました。なので、周りのコケやほかの植物を本物にしてリアル感を出しています。風が吹くとレプリカ感が出てしまっているのではと思って心配していましたが、ドラマを見た方たちに聞くとレプリカだと分からないと言っていただけたので、視聴者の皆さんには本物に見えていたんじゃないかなと思います。しかし後半では、そのようなドラマで求められることに耐えるレプリカの改善がなされています。ドラマ後半ではレプリカも進化しているのでお楽しみに」

「らんまん」植物監修・田中伸幸が語るドラマの裏の世界とは?

――富太郎さんがいなかったら起こらなかった植物学の発展はどんなところだと思いますか?

「少なくとも富太郎さんは、日本の植物に一番多く学名を付けている日本人だと思います。ほかにも採集と収集を重ねて、数多くの標本や文献を数多く後世に残しています。でも、一番大きい功績は、人生の後半で行った植物知識の普及だと思います。日本全国で自分のような植物の研究を趣味にする人たちを育てる活動は、富太郎さんほど力を入れた人はほかにいないんです。大正から昭和初期にかけて植物同好会を全国へ広げて、弟子をつくっていました。それは地域の理科の教員で、教わった教員が生徒に教えて輪が広がっていきました。富太郎さんが地域で活動したからこそ、日本の地方の植物研究のレベルが上がって、植物を調べるために図鑑を開くとすぐ調べられる。これは富太郎さんが残した大きな功績だと思います」

――最後に視聴者の皆さんへ、注目して見ると楽しめるところを教えてください。

「皆さんが普段散歩したり山を訪れたりする際に目にする植物、スーパーや八百屋さんに売っている果実や野菜にもすべてに名前が付いています。日本でも図鑑を見れば、たいていの身近な植物の名前は知ることができます。普段意識されていないかもしれませんが、牧野富太郎さんをはじめとする、明治時代以降の植物分類学者たちが研究を積み重ねた結果、私たちが恩恵を受けているわけです。日本の植物学の黎明(れいめい)期に植物を研究する人たちの意気込みを知っていただき、植物学の監修をしっかり行って描いているというのを念頭に置いて見ていただければ、ドラマをより楽しんでいただけるんじゃないかと思います」

――ありがとうございました。

第76回 あらすじ

 田邊が発表の準備をしていたトガクシソウを、留学中の孝光が突如イギリスの雑誌に発表。田邊の名を冠した学名は幻となる。新種の発表は一刻を争うもので、一手負ければそれで終わり。それが学者の世界なのだと徳永政市(田中哲司)は言うが、藤丸はそこまでして新種発表や名付けを競うことに耐えられないと、教室を出て行ってしまう。万太郎は藤丸の言葉が心に深く刺さり…。

【番組情報】

連続テレビ小説「らんまん」
NHK総合
月曜~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は一週間の振り返り
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
月曜~金曜 午前7:30~7:45ほか

NHK担当 S・A



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