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上川隆也インタビュー「11年前に感じた一瞬を大事に続けていきたい」 ――「遺留捜査」に懸ける思い2022/07/14

上川隆也インタビュー「11年前に感じた一瞬を大事に続けていきたい」 ――「遺留捜査」に懸ける思い

 事件現場に残された遺留品から事件の真相を解き明かすだけでなく、事件の裏に隠された被害者の思いや最後のメッセージを見つけ出すミステリードラマ「遺留捜査」(テレビ朝日系)。 

 2011年から放送がスタートし、11年目を迎える本作。そんな中、渡瀬恒彦さん主演の「おみやさん」(02~12年)や名取裕子さん主演の「京都地検の女」(03~13年)、沢口靖子さん主演の「科捜研の女」など珠玉のミステリードラマを23年にわたって多数世に送り出してきた「木曜ミステリー」が本作をもって幕を閉じることが発表され、まさに“集大成”ともいうべきシーズンに。 

 今夜の最新シリーズの放送開始を前に、主人公の風変わりな刑事・糸村聡を演じる上川隆也さんを直撃。糸村と、そして「遺留捜査」とどのように向き合っているのか。「変わらないことに価値がある」と語る上川さんの変わることのない思いを伺いました。 

上川隆也インタビュー「11年前に感じた一瞬を大事に続けていきたい」 ――「遺留捜査」に懸ける思い

―――シリーズ11年目、第7シーズンを迎えた心境はいかがですか? 

「第7シーズンでこれまでにない大きな展開を迎えるかというとそうではなくて、むしろ一作一作重ねてきたからこその“変わらなさ”が間違いなく存在しています。でも一方では、これまで培ってきた“土台”がアップデートしていることを座組一同で実感しているところです」 

――と、言いますと…? 

「例えば新しく車を手に入れた時、乗りはじめの段階では車と運転者の親和度はさほど深くありませんが、乗り続けていくことで運転者の練度は上がっていき、同乗者にとっても快適な時間になる……。『遺留捜査』という“乗りもの”は変わらずとも、キャスト、スタッフが一作ごとに作品の理解を深めることで、視聴者の皆さまに一層楽しんでいただける作品が届けられるなら何よりだと思います。僕自身、『遺留捜査』は年々“深化”が重ねられていると感じていて、そういう意味では第7シーズンもまた、ひと味変わったと感じられるところがあるかもしれません」 

――ご自身にとって「遺留捜査」という作品はどのような存在ですか? 

「皆さんもご自身のワードローブの中に、『いつも着ていたい』と思うような着心地のよい一着があると思います。また、身に着けるものが立ち振る舞いに影響を与えることも共感していただけるのではないでしょうか。僕にとって、袖を通した時の心地よさ、落ち着きを感じさせてくれるのが、『遺留捜査』。心地よく身に着けた装いが、役としての思考・行動も導いてくれる……そんなふうにすら思えるのがこの作品です」 

――糸村という役柄はご自身にとってどのような存在ですか? 

「独自のアイデンティティーを持っているといいますか、彼が携えているどこか不思議な雰囲気やつかみどころのない行動を含めて、他に類を見ないキャラクターだと思っています。僕のキャリアの中で最も長く演じさせていただいている役でもあり、愛着も含めてほかにはない距離を感じる人物です」 

――では、上川さんが“糸村”になる瞬間はいつですか? 

「これはかなり明確で、糸村の衣装を着た瞬間にそう感じます。幸い糸村は、もう衣装合わせが必要ない役柄なんです。スーツも1着しか持っておりませんし、変えるものはネクタイぐらいで、カバンもスニーカーも京都に来てからずっと使わせていただいているものが相変わらず頑張ってくれています。ですが、シーズンごとに衣装合わせはあるんです。それはもしかしたら、監督も含めた座組全体における必要な儀式なのではと思っていて、僕が糸村の衣装を着て、そこからがスタートなんだと確認するものなのではと勝手に思っています。なので僕自身も、衣装部屋で最初に糸村の衣装を着る瞬間が『今回も糸村を演じます』という、言葉にはしない宣言のように感じています」 

――去年、一昨年とコロナ禍でこれまでとは現場も違う状況だったと思います。現場でチームワークを高めるために上川さんがされていることはありますでしょうか? 

「特別にはありません。以前は食事に行く機会などもありましたが、去年、前回のシーズン6の時にそれがなくなっても、座組の士気は決して下がらなかったんです。もちろんそうした皆で食事ができるような機会があれば、それはそれでうれしいのは確かですが、たとえなくなったからといって作品の士気が下がるものでもないんだと、新たに認識したのが前回のシーズンだったように思います。ですから今回のシーズンも、現場でみんなと過ごせる時間を楽しんで盛り上がっていくことができる。それが、この現場なんだと受け止めています」 

上川隆也インタビュー「11年前に感じた一瞬を大事に続けていきたい」 ――「遺留捜査」に懸ける思い

――2011年のシーズン1終了後のインタビューでは、撮影中に東日本大震災に見舞われて「ドラマが持っている、その作品の意義のようなものを感じた」とおっしゃっていました。ここ数年は人とのつながりや、残された人の思いというものをより強く感じる、そんな機会も多くあったと思います。あらためて上川さんは「遺留捜査」の持っている作品の意義やメッセージ性をどのように感じていらっしゃいますか? 

「2011年3月に一時感じた無力感と、それを経て『遺留捜査』という作品からいただいた“ドラマ”をお届けすることの意義は、11年たっても僕の中では何一つ色あせてないと思えたのが今回のシーズン7であるように思っています。と申しますのも、3月11日にも撮影をさせていただいていたのですが、その日の現場が京都市の消防所の消防士の皆さんが訓練をされている訓練所だったんです。もちろん11年前も、消防士の皆さんをはじめたくさんの方々が自らの危険も顧みずにその現場で大変な思いをなさったと思うのですが、その軽重にかかわらず今も消防に関わってらっしゃる方は命と向き合ってらっしゃって、その“変わらなさ”をまさに3月11日に目の当たりにすることができました。その姿に『亡くなってしまった人の思いを届けるドラマというものが、もしかしたら演ずるべき、届けるべきものとして意味があるのかもしれない』と思った11年前の一瞬が、今も気持ちの中に変わらずあることや、あらためてこの物語の巡り合わせのようなものを感じて、自分があの時感じたことの再確認と更新ができたひとときでもありました。今日もそうした思いを大事に『遺留捜査』を続けていきたい、演じていたいと思いましたし、これからもきっと変わらないでしょう」 

――今回の撮影ですごい巡り合わせをされていたのですね。あらためて第7シーズンの台本を読まれて、どのように感じられましたか? 

「決して乱暴な物言いではなく、あらためて変わらないなというのが何よりの印象です。どこまでも空気を読めない糸村がいて、その糸村が、被害者が残された何がしかを頼りにメッセージをしかるべき人に伝えていく……。その大事にするべきマンネリがきちんと今回も踏まえられている、まさに『遺留捜査』の台本だと思いました」 

――私自身も「遺留捜査」がとても好きで、今回の台本を拝見した際に「糸村が帰ってきたな」とホッとするような台本だと感じました。 

「ありがとうございます。そうした部分も含めて、『遺留捜査』は変わらないことにある種の価値のある物語なのだと思います」 

――第7シーズンは長く視聴者の方に愛された「木曜ミステリー」の集大成を担う作品でもありますが、その点はどのように感じられていますか? 

「そうした大きな誉れを担うには、『遺留捜査』という作品は“埒外(らちがい)”にいるのではという思いもあります。事件に関わる人々の心情にまで踏み込んで描く『遺留捜査』は、刑事ドラマとしてもミステリー作品としてもある意味、スタンダードを逸脱したスタイルでお届けしてきましたから……。でも、歴々の作品が重ねてきた歴史に恥じない作品にしたいという思いは強く、そのために今できることはできる限り、注ぎ込みたいと考えて全力で努めています」 

――「遺留捜査」も長く愛されている作品の一つですが、上川さんご自身は思い出に残っている作品や長いこと大好きな作品はありますか? 

「少し質問の趣旨とずれてしまうかもしれないのですが、僕は黒澤明さんの『椿三十郎』(1962年)という作品がとても好きで、これは折に触れて見てしまう1本のうちの一つです。あそこまで徹頭徹尾エンターテインメントに徹している物語というものはある種憧れでもありますし、観客として見ていても本当に一瞬たりとも飽きることのない。長く、ずっと変わらずに大好きな作品です」 

――最後になりますが、あらためてシーズン7に向けて視聴者の方にメッセージをいただいてもよろしいでしょうか? 

「物語はシリーズ7を迎えて、シーズン1から数えて11年目という長い時間をこの作品で過ごしてきたことのありがたみを感じながら演じています。今回はその枠である木曜ミステリーが終わるということで、キャッチコピーも『これが最後のメッセージ』となりました。このコピーにもさまざまな意味が込められていると僕は受け止めています。ご覧になってくださる方にも、その“最後のメッセージ”とは、一体何なのだろうかと思いを巡らせながら、ご覧いただければと思っています。しかし一方で、相変わらず糸村が無神経で、村木さん(甲本雅裕)が愉快な、いつもと変わらぬ『遺留捜査』をきちんとお届けしたいと思っておりますので、これまで同様にお楽しみいただければ何よりです」 

上川隆也インタビュー「11年前に感じた一瞬を大事に続けていきたい」 ――「遺留捜査」に懸ける思い

【プロフィール】 

上川隆也(かみかわ たかや) 
1965年5月7日生まれ。東京都出身。NHK大河ドラマ「功名が辻」では山内一豊役で主演を果たしたほか、ドラマ「ノーサイドゲーム」(TBS系)、「執事 西園寺の名推理」(テレビ東京系)などに出演。2008年には故蜷川幸雄さん演出の舞台「ヘンリー六世」で主演を務め、第18回「読売演劇大賞 優秀主演男優賞」を受賞する。舞台「魔界転生」(18年、21年)などに出演し、舞台、テレビ、映画と幅広く活動する。 

【番組情報】 

「遺留捜査」
7月14日スタート
 テレビ朝日系 
木曜 午後8:00~8:54 

テレビ朝日担当 K・T



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