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「VIVANT」圧勝の陰で健闘したドラマは? 2023年夏ドラマ大検証2023/10/30

中村倫也(ハヤブサ消防団)/デジタルTVガイド全国版 2023年8月号増刊 ドラマコンプリート2023夏
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 連続ドラマをクールごとに大検証する恒例の人気企画で、今回は2023年7月クールドラマを振り返る。関東114万台を超えるレグザ視聴データをもとに、TVガイドWebで毎週集計・発表している「地上波録画視聴ランキング」を集計。7月クールに最も録画視聴されたドラマはなんだったのか?

 まずは、7~9月に放送された連続ドラマを放送回ごとに集計した「放送回ランキング」のベスト30。ポイントは1位を100とした場合の割合である(以下同)。

「VIVANT」圧勝の陰で健闘したドラマは? 2023年夏ドラマ大検証

 一目瞭然。TBSの日曜劇場「VIVANT」全10話がベスト10を完全制覇した。この夏は大きなスポーツ大会が重なり各局とも編成が流動的で、ドラマにとって恵まれたクールではなかった。そんな中、「VIVANT」の本気度は完全にほかを圧していた。堺雅人阿部寛役所広司二宮和也と、過去に「日曜劇場」枠で主演を務めた俳優たちを一堂にそろえたほか、大抜てきされたドラム役や日本では無名なチンギス役の俳優が人気を博すなど、終始ドラマ界の話題をリードし続けた。まさに7月クールのドラマは「VIVANT」の一人勝ちだったと言っていい。

 数字を細かく見てみると、10位の初回ポイントが最終回ポイントの6割弱にとどまっている。これはいわゆる“覇権ドラマ”のポイント傾向としては非常に珍しいパターンである。世帯視聴率でも「VIVANT」は7月ドラマで一人勝ちだったが、初回の数字は比較的低かった。スタート前にドラマの内容を一切公開しなかったことが影響したと見られるが、最終的にきちんと結果を残したということだ。

 11位以下に関しては、最終回が「VIVANT」の初回に匹敵する数字を残した「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)と、こちらも尻上がりに数字を上げた「最高の教師  1年後、わたしは生徒に■された」(日本テレビ系)が健闘している。

 今度は7月クールドラマの「平均録画視聴ランキング」を見ていこう。ドラマごとに録画視聴ポイントの全話平均を集計したもののベスト10。今回はプライム帯のドラマと深夜ドラマに分けて検証していく。まずはプライムタイムの平均値 ベスト10である。

2023年夏クール プライムタイムドラマ/平均録画視聴ランキング ベスト10

 続いてプライムタイムドラマの「最終回継続率ランキング」のベスト10も併せて見ていただく。「最終回継続率」とは最終回のポイントを初回ポイントで割った数値。最終回継続率が高い(=初回に比べて最終回のポイントが高い)ということは、作品内容に対する満足度が高い傾向があるのでは?という仮説に基づいた検証である。

2023年夏クール プライムタイムドラマ/最終回継続率ランキング ベスト10

 両部門とも「VIVANT」の圧勝である。平均値が高いのは当然として、最終回継続率も2位に大きな差をつけている。初回の数字が比較的低かったとはいえ、ほかのドラマのすべての放送回より高いポイントだったわけで、そこから167.7%の伸長を遂げるというのは並大抵のことではない。内容的にも満足した視聴者が多かったことは間違いがない。世帯視聴率でもほかを寄せつけない高視聴率で、まさに23年の7月ドラマは「VIVANT」一色だったと言って差し支えないと思う。

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 ここからは2位以下のドラマに目を向けて行こう。上記の平均値と最終回継続率の二つのランキングでともにベスト10入りしているドラマが「VIVANT」のほかに5本ある。「ハヤブサ消防団」、「最高の教師  1年後、わたしは生徒に■された」、「真夏のシンデレラ」(フジテレビ系)、「18/40~ふたりなら夢も恋も~」(TBS系)、「シッコウ!!~犬と私と執行官~」(テレビ朝日系)の5本である。この辺りが7月クールを代表するドラマだ(初回が好調だったTBS系の「トリリオンゲーム」は逆に2話以降数字を下げる結果となった)。

本田仁美&窪塚愛流&山下幸輝&田中美久/「最高の教師 1年後、わたしは生徒に■された」会見より

 特に2位グループで好成績を残したのが、テレビ朝日の「ハヤブサ消防団」と日本テレビの「最高の教師  1年後、わたしは生徒に■された」だった。両者とも最終回継続率も上位で、視聴者の満足度も高かったと考えられる。「ハヤブサ消防団」は、池井戸潤の原作を「VIVANT」とは違った意味での好配役でドラマ化。確かな手応えを感じさせたし、「最高の教師」も芦田愛菜加藤清史郎ほか、生徒たちの配役は同世代のオールスターと言っていい豊かさと多彩さでこちらも大いに楽しませてくれた。どちらもそれぞれの局の特色を感じさせる作品が結果を出したという点で、秋以降に向けた伸びしろを感じる。少しポイントは下がるが、フジテレビの「真夏のシンデレラ」も長い伝統を持つ「月9」枠として大きなチャレンジをした作品で、今後への大きな布石となるだろう。各局それぞれに可能性を模索していたという意味でこの夏は印象深い。

 続いて午後11時以降の深夜枠ドラマの「平均録画視聴ランキング」と「最終回継続率ランキング」のベスト10を紹介。

2023年夏クール 深夜枠ドラマ/平均録画視聴ランキング ベスト10
2023年夏クール 深夜枠ドラマ/最終回継続率ランキング ベスト10

 平均値と最終回継続率、双方ともベスト10に入っているのは「ウソ婚」(フジテレビ系)、「警部補ダイマジン」(テレビ朝日系)、「彼女たちの犯罪」(日本テレビ系)、「癒やしのお隣さんには秘密がある」(日本テレビほか)、「初恋、ざらり」(テレビ東京系)、「週末旅の極意~夫婦ってそんな簡単じゃないもの~」(テレビ東京系)の6本である。作品傾向は千差万別で、深夜ドラマらしくバラエティーに富んでいるが、2/3が小説や漫画が原作の作品となっている。

菊池風磨&長濱ねる&渡辺翔太&トリンドル玲奈&黒羽麻璃央/「ウソ婚」会見より

 プライムタイムではまだ顕著ではないが、深夜帯では既に3カ月クールで一斉にドラマが入れ替わるというスタイルは失われつつある。30年以上このスタイルが続いてきた理由はもちろんテレビ局にとってそうするメリットがあったからだが、配信が重視されるようになって変化が始まっている。上記の6作に限っても、総話数は全8話から13話と幅広い。「ウソ婚」「警部補ダイマジン」と午後11時台の早い時間スタートのドラマが好調な中、比較的遅い時間に放送されている「彼女たちの犯罪」と「癒やしのお隣さん~」を上位に送り込む日本テレビ系の動きは注目に値する。

 プライム・深夜に共通するもう一つの動きは、準キー局を中心とした制作局の多様化だ。配信需要の高まりを背景にドラマの放送数が飛躍的に増え、在阪局を中心としたキー局以外の局が制作するドラマ枠が増えている。関東では独立U局や配信でしか見られない作品も多く、個性豊かな作品群が生まれ始めている。放送作品が増えることは新しい作り手や出演者のチャンスが増えることにもつながるわけで、ここにこそドラマの未来があるとも考えられる。テレビを取り巻く変化の動きが急を告げる中で、今後どのような番組が生まれてくるのか。引き続き見守っていきたい。

生田斗真&向井理、三池崇史、新しい学校のリーダーズ/「警部補ダイマジン」会見より

文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社



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