「浦沢直樹の漫勉neo」新作放送! 番組愛&漫画愛を語る――「描き続けて一生終わるんだろうな」2022/02/24
日本を代表する漫画家・浦沢直樹氏が、漫画家たちの創作の秘密に迫る、NHK Eテレで不定期放送中の異色ドキュメンタリー「浦沢直樹の漫勉neo」(午後10:00)が、3月2・9・16日の3週にわたり放送されることが決定。プレゼンターを務める浦沢氏が、番組や漫画への思いを語った。
同番組は、普段は担当編集者ですら立ち入ることができない漫画家たちの仕事場にカメラが密着し、漫画誕生の瞬間をドキュメント。「YAWARA!」「MONSTER」「20世紀少年」など、数々のヒット作を手掛けてきた浦沢氏が、その貴重な映像を基に、同じ漫画家の視点から対談で切り込んでいく人気シリーズだ。2014年からの「漫勉」に18人、20年からの「漫勉neo」には11人の漫画家が登場している。
今回は、3月2日に少年漫画「弱虫ペダル」を手掛ける渡辺航氏、9日に少女漫画「ケルン市警オド」の青池保子氏、16日は青年漫画「パンゲアね」(読み切り作品)の新井英樹氏と、それぞれのジャンルで存在感を放つ3人の漫画家が登場。一人一人全く違うペン先からドラマが生み出される瞬間に迫っていく。
自身が関わっていなくても「録画して何度も何度も見るような番組だと思う」という「漫勉」。浦沢氏は「漫画は普段は1人の世界で作っているので、周りがどんなことをしているのか全然分からないんですよね。ですから、この番組を見ることで、みんなこんな苦労をしているんだとか、こんなことをやっているんだと発見できるのは、手前みそながら、漫画界に役立っているんじゃないかと思います」と番組の意義を語る。周囲の漫画家からの反応もいいそうだが、実際に出演をオファーすると、作業を公開することを嫌う漫画家も多く、「僕は無理」と断られることが多いと嘆く。
そんな中で、今回は、渡辺氏、青池氏、新井氏の3人の漫画家が出演。漫画家の顔を見ると、どの作品を描いた人か分かるほど、自分も含めて作品には自分が投影されていると言い、作業中は、漫画で描いている顔を同じ顔をしていることも多いそう。そんな中で、今回の注目ポイントには「ペンスピード」を挙げた。
「ペンスピードやペン選びがそれぞれの作品のムード作りに関係していると思いました。渡辺さんは、番組史上最速のスピードで描かれているんですが、あのスピードには、大量のインクをつけて描くことができるペン先が必要。それが、あのタッチを生み出して、自転車の躍動感や作品の雰囲気につながっている。反対に新井さんは、作品からすると早い方かと思っていましたが、番組史上一番遅いのでは?という感じで。あの作風を遅く描かれるということは、ちょっと逆に怖いなと思いました。勢いに任せるのではなく思慮の上、ゆっくり観察しながら描いてらっしゃる感じが、新しい発見でした」と感想を伝える。
番組からさまざまな刺激をもらっているという浦沢氏は「番組を始めてから自分の描き方も相当変わったんじゃないかと思いますよ。ちばてつや先生が、原稿が汚れないようにキッチンペーパーを使っているのを見て、あれはいいなと思いましたし、少女漫画系の作者の方が、“瞳が命”というように、大切に描かれているのを見て、自分も大事しなきゃいけないと思って、大事に描くようになったかもしれません。(番組には、ちばやさいとう・たかをら数々のレジェンドも出演してきたが)漫画家に定年がないといういうのは、この番組を続ける中で、しみじみと感じています。ずっと描くというのが、われわれの宿命だなと思いますね。僕は物心がついてからずっと描いていますが、手が止まるまで書いているんだろうな、描き続けて一生終わるんだろうなと感じています」と漫画への大きな愛をにじませた。
そして、「漫画を描くことは1人の世界。どんどん1人だけが大変な思いをしていると感じてしまうことがあるんですが、たくさんの先生方に会いまして、みんなが頑張ってるっていうのが励みになりますね。この番組を放送することで、あれを見ているほかの漫画家の皆さんも、『大変なのは俺だけ、私だけじゃないんだ』と感じられていると思います。みんな大変だし、しつこく作業をしているんだなぁというのを示してもらっていて。1人じゃないんだと感じているはずです」と漫画家へのエールとなっていることに期待する。
また、幼い頃から「漫画を描いている時に面白さを感じていた」という浦沢氏は、それは漫画家の醍醐味(だいごみ)の一つだが、出来上がった漫画を読む読者には、その面白さは伝わらない。そのことが「描き手と読者の間に深い溝を作っているのではないか?」とジレンマを感じていたそうで、「漫画家の作業中の様子を見ることで、漫画に対する読者の認識が変わるのでは?」という思いから、番組を企画したと明かす。
創作現場に入り込むことで「読者の皆さんもそうでしょうけど、創作現場に入ることは、その作品を深いところまで見つめるきっかけになると思います。みんなすごいなぁと。本当にそう思いますね」としみじみと語り、「番組を見ると漫画が読みたくなる」という視聴者の反応には、「そう言っていただけるのが一番うれしいですね」と顔をほころばせた。
エンタメ分野の中で、唯一、世界に負けない“最強コンテンツ”といえる日本の漫画。漫画が“最強”である理由について浦沢氏は「漫画って、妄想から始まるから、制作に全くお金がかからないんですよ。巨大なプロジェクトが動いていない。なぜこんなに成長したのかとさかのぼれば、手塚治虫先生たちが、紙とペンだけでエンターテインメントを表現しようとしたことが、大きなビッグバンで、われわれはそれを引き続いているのかなと思います」と分析し、「その時のビッグバンが非常に画期的なもので、僕らはそれを次の世代に伝えていかなければいけないと思っているので、番組がそのお力添えになればいいですね」と意欲を持って番組作りをしている。
現在日本では、漫画の電子書籍が浸透し、紙とデジタルの過渡期を迎えている。浦沢氏も昨年末、これまで電子書籍化されていなかった自身の作品を解禁し、話題となった。
その理由を尋ねると、「一番大きなところでは、行きつけの本屋さんが閉店したというのがありますね。本屋さんに自分の本があるといううれしさもなくなってしまって、それじゃ、僕の本はどこに置けばいいんだって。これはもう意地を張っていても仕方ないなと思ったんです」と打ち明け、「今まで紙メディアで漫画を読まれていたある年齢層から上の方たちは、僕のことを知っているけど、若い世代には僕のことを知らないという世代もいる。若い人たちにとっては、新しく発見した新人のようになっているのかもしれなくて。電子書籍は絶版もありませんし、若い人たちにも読んでいただけるなら、それだけでも価値があることだと思いますね」と告白。
番組を続ける中で、あらためて思う「漫画の魅力」については、「漫画家の皆さんを見ていると、描くのが好きで好きで楽しくてしょうがない人たちが、そのまま仕事になっている。こんなに楽しいことは、仕事ではないんじゃないかというくらい、楽しい作業なんですよね。例えば面白いシチュエーションが頭に浮かんだ時に、すぐに映画にはできないけど、漫画を描くテクニックがあれば、紙とペンがあればすぐに描き始めることができるんです。漫画家は妄想する力と、それを画にする力の二つを持っていて、その楽しさに取りつかれた人たちなんじゃないかな。僕もそうですが、その楽しさを、脳みそを見せてあげることができるなら見せてあげたいくらい、楽しいんですよ」と、「好き」「楽しい」から生まれた作品であることが魅力につながっていると話しつつ、その作業は「すごく大変でもありますけどね」と付け加えた。
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