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【推しの作家さま】「すきすきワンワン!」水橋文美江2023/03/16

【推しの作家さま】「すきすきワンワン!」水橋文美江

 ドラマになくてはならない存在である作家=脚本家を深掘りする、完全無料&安心の会員制コミュニティーサービス「TVガイドみんなドラマ」のコラム「推しの作家さま」。こちらをTVガイドWebでも展開! 今回は、3月27日に最終回を迎える日本テレビの連続ドラマ「すきすきワンワン!」の水橋文美江氏を紹介。

水橋脚本が伝える、登場人物を通して映す社会性と現代性

 水橋氏は、坂元裕二氏や野島伸司氏と同じく、「フジテレビヤングシナリオ大賞」がきっかけでデビューし、1990年代の初めから数多くのテレビドラマを手掛け、初期の同賞の名前を高めた。その確かな技術と手腕には定評があり、90年代には「妹よ」(94年/フジテレビ系)や「いつかまた逢える」(95年/フジテレビ系)、「僕が僕であるために」(97年/フジテレビ系)などをヒットさせた。そして、「光とともに…〜自閉症児を抱えて〜」(2004年/日本テレビ系)、「神はサイコロを振らない~君を忘れない~」(06年/日本テレビ系)、「ホタルノヒカリ」シリーズ(07年ほか/日本テレビ系)など、2000年代には、個性的な作品を連発。近年も、「母になる」(17年/日本テレビ系)、土曜ドラマ「みかづき」(19年/NHK)、「古見さんは、コミュ症です。」(21年/NHK)などの意欲作を多数執筆している。

 特に、連続テレビ小説「スカーレット」(19~20年/NHK)では、戸田恵梨香や松下洸平、黒島結菜の新たな魅力を掘り起こして話題となった。また、「24時間テレビ」(日本テレビ系)のドラマスペシャルを数多く手掛けていることでも知られ、21年に放送された平野紫耀主演「生徒が人生をやり直せる学校」も、彼女の脚本。こうして見ると、スケールが大きくてアクロバティックな展開よりも、日常生活に根ざしたリアルな感情表現の豊かさが印象に残る作品が多いのだ。

【推しの作家さま】「すきすきワンワン!」水橋文美江

 そんな水橋氏の脚本にあるのは、何と言っても登場人物たちを見つめる視線の温かさ。主人公たちはみんな個性的で、自ら困難を抱え込んでいることも多いほか、時には世間の良識にあらがっても自分の信じる道を貫くことを選ぶ。「スカーレット」の主人公・喜美子の“朝ドラヒロイン”らしからぬ激しい生き方が話題になったのも、記憶に新しいところだ。それでも彼女の視線はいつも主人公に寄り添い、「私は主人公の味方だよ」と語り掛けている。「その優しさに元気づけられた」という視聴者も多いのではないだろうか。「すきすきワンワン!」でも、コタくん(雪井炬太郎/岸優太)やてん(木ノ宮天/浮所飛貴)への柔らかなまなざしが、ドラマのそこここに感じられる。

 もう一つの特徴は、こうした個人に焦点を当てたドラマを多く描きながらも、社会性や現代性を忘れないこと。それを象徴するのが、新型コロナウイルス感染症の流行後の世界をいち早く舞台にした「世界は3で出来ている」(20年/フジテレビ)や「#リモラブ〜普通の恋は邪道〜」(20年/日本テレビ系)を発表したことだろう。どちらも極めてパーソナルなテーマを扱いながら、コロナ禍で生きる不自由さと救いがリアルに描かれており、正論を盾に振りかぶらない水橋氏の本領発揮と言えるのではないだろうか。

【推しの作家さま】「すきすきワンワン!」水橋文美江

さまざまな愛の形が心地よく共存する「すきすきワンワン!」

 そして、放送中の「すきすきワンワン!」でも、ファンタジー的な物語の枠組みの中に、23年ならではのリアルを見事に活写している。深夜ドラマということで登場人物の少なさも効果的で、不動産屋さんの柿田さん(おいでやす小田)もいい味を出している。さまざまな愛の形が自然と同居しているのも、非常に今らしい。

 それにしても、コタくんとてんのほほ笑ましくも“胸アツ”な心の交流には、毎回心を打たれる。全体が一種のツンデレ構成になっていて、回が進むにつれて、コタくんのてんへの愛がダダ漏れになっていくところもまた、面白い。そして、浮所の愛らしいこと! シッポをブンブン振っているのが目に見えるよう。最近は、子犬系男子と表現されることが多いが、今回はそもそもイヌの役なのだ、とハッとしてしまうほどだ。

【推しの作家さま】「すきすきワンワン!」水橋文美江

 さらに、岸の圧倒的な存在感は、このドラマの肝だろう。独身ニートで自称ダメ男・炬太郎の現在進行形のリアリティーを支えているのは、まさに、岸のさりげない名演技の賜物。劇中では、あまり具体的なことは語られないが、コタくんは、おそらく多くのつらさを乗り越えて生きてきたということが、岸の演技から伝わってくる。「小学校5年生が俺のピークだったな」というセリフもあったが、生きづらさを抱えている人々には刺さるセリフだったのではないだろうか。一人ぼっちだと思っていても、てんやエリザベス(元セレブネコ・湊エリー/松本まりか)、ダブルダメ太郎の比嘉光太郎(前原滉)など、実は多くの人(イヌ? ネコ?)に愛されていたと気付いていく過程も感動的…。「過去が今を救うことだってある」というエリザベスの言葉は、今ならではの希望の象徴のようにも思える。

 そんなドラマも、いよいよクライマックス。コタくんが次第に自分に自信を持ち始め、てんとの関係も微妙に変化してきた。ファンタジーとしての奇麗なエンディングが待っているのか、はたまた、あっと驚く展開が待っているのか。いずれにしても、心がホッと温かくなるような結末と、コタくんたちの新しい明日に期待したいところだ。

【番組情報】

「すきすきワンワン!」 
日本テレビほか 
月曜 深夜0:59~1:29



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