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新井順子プロデューサー「ドラマは、夢を届けられる手段」 ――「石子と羽男」インタビュー【後編】2022/09/16

 TBS系で放送中のドラマ「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」。「カフェで充電していたら訴えられた!」「コンビニでお釣りを多く受け取ったら訴えられた!」 など、一見ささいに思えるが、どんな小さなトラブルでもその裏に存在する誰かの“大切な暮らし”。そんなトラブルに向き合うのは、4回司法試験に落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子、通称・石子(有村架純)と、司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男、通称・羽男(中村倫也)。正反対のようでどこか似た者同士の2人が、さまざまなトラブルに挑む中で自らのコンプレックスに向き合い、成長していく姿をオリジナル脚本でコミカルに描きます。

 今回は最終回を目前に、本作を手掛ける新井順子プロデューサーのインタビュー後編をお届けします! 最終回に向けての見どころはもちろん、本作を作るきっかけの一つとなったある出来事や視聴者に伝えたい思いなどたっぷりと語っていただきました。(前編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1751257/

――作中、新井さんが“これはいい表情が引き出せたな”と思ったシーンはどこでしょう。 

「石子と羽男は、真面目シーンとコミカルシーンのギャップがいいのですが、コミカルシーンはお二人のアドリブも多いんです。第5話の思いやりからのすれ違いと絆を深めた回を経て、第6話からはちょっと2人のアドリブが違うテイストになっていて、編集をしている時に『そういうお芝居なんだ!』というシーンがたくさんありました」 

――特にどんなシーンでそう思われましたか? 

「羽男がニヤニヤしながら『顧問弁護士の契約取れるかも』と言うシーンで、 それまでの石子だったら『そんなこと考えてはいけません!』と言いそうなのに、石子も『ですねぇ〜』って同じようにニヤニヤするんです。関係性をどう変えていくかは本人たちもかなり考えてくださっていたので、後半は2人と意見を交換して決定稿に反映するようになりました」 

――ほかに、お二人に驚かされたシーンはありますか? 

「第9話では、大庭蒼生(赤楚衛二)が逮捕されたこともあってかなりシリアスなシーンがあったのですが、今まではコミカル寄りに撮影していたので、こういうシリアスな顔もありなんだとあらためて思わされました」 

――特にそう感じた部分はどこでしょうか? 

「大庭が不起訴になったと電話で聞くシーンをちょうど昨日(取材当時)撮影したのですが、石子と羽男が『不起訴』と聞いて涙をこらえるシーンがグッときました。本作ではコミカルなシーンが多いので、ストレート芝居がくるとドキッとします」 

――では、大庭のシーンで印象に残っているところはどこでしょう。 

「赤楚さんは、第4話で就職の面接に向かう時に、石子から『いってらっしゃい』って言われた時の表情がすごくよかったです。かわいい新入社員感をどう払拭してもらおうかなと思っていたので、あのシーンでそれができたかなと。第5話ラストの告白シーンも、どんなお芝居をするんだろうと思ってドライを見守っていたのですが、想像以上でした! この人なら付き合ってもいいな…って思わされる表情をされていました」 

――本作はテンポがいいこともあって、俳優の表情を捉える映像が気持ちゆったりに感じています。そのあたりは意識されているのでしょうか? 

「話によってはなかなかトントン拍子にいけないところもあるので、そういう心情のシーンはゆっくり撮るようにはしていますね。逆にほかのシーンはテンポをよくして緩急をつけています。編集的な部分では、『リーガルハイ』(フジテレビ系)と『99.9-刑事専門弁護士- 』(TBS系)という人気作とどう差をつけるかを意識しました。『それやっちゃうと、“リーガルハイ”だよね』とか、『カットをバンバン切ると“99.9”だよね』とか言いながら(笑)」 

――人気作との差別化ですね。 

「はい。今挙げた二つの作品と大きく違うのは、本作は事件が身近なこと。明日はわが身かもしれないような危険性をはらんでいる事案が多いので、視聴者の皆さんにも身近に感じてもらえているのではないでしょうか。今までの弁護士ものとは少し違う作品になったかなと思います」 

“真面目に生きている人たち”に寄り添う作品ができた理由

――大庭の逮捕から発展した不動産投資詐欺事件など、物語終盤から最終回の見どころを教えてくだい。 

「石子と羽男に関しては、もし身近な人が犯罪に巻き込まれて容疑をかけられてしまったら、2人はどこまで被疑者を信頼して弁護できるのかを描きたかったんです。そして大庭は、第2話から第6話まで恋愛要素を多めに描いてきたんですけど、それだけではない彼の成長も描けたらいいなと思って最終回に向けての展開を作りました」 

――赤楚さんには逮捕される流れを伝えていたのでしょうか? 

「撮影が始まる前から逮捕される話は伝えてありました。パワハラ左遷から始まり、会社を訴えたり、不動産詐欺の疑いをかけられたりと、ドラマの中での大庭の1年半の人生は本当にてんやわんや。現実世界でも、大庭のようにいろいろなことに巻き込まれる人って多いと思うんです。そういうとことんついていない人の、なぜそういうふうになってしまうのだろうという葛藤とか、真の深い部分を描けたらいいなと。第9、10話は、たくさん取材をしてどういう事件にするか、どういう結末にするかを悩み抜きました。時間をかけて作ったので、最後まで楽しんでもらえたらうれしいですね」   

――全体を通して、真面目に生きている人たちに寄り添う作品だなと感じています。あらためて、本作に込めた思いをお聞かせいただけたらなと思います。 

「法律は遠い存在で、難しくて、『弁護士さんに相談するなんて、とんでもない!』みたいな、日本人の奥ゆかしい考え方があると思います。でも、ニュースを見ていると、どうして誰かに相談しなかったんだろうと思う事件が多く、そういう時には心が痛みます。知人には話せなくても、第三者や少し離れた人には話せる側面もあると思うので、“声をあげる”という行為自体が誰にとっても身近な世の中になればいいなと思ったんです」 

――おっしゃる通りですね。新井さんがそう思うようになったきっかけはあるのでしょうか? 

「実は、私自身あるトラブルに遭ってしまって、高額のお金を支払ったことがあるんです。人って責められると、不思議と謝ったり、払わなきゃいけない心理になるんですよね。その後、弁護士の先生にその話をしたら『そんなの絶対払わなくていい。なんで相談してくれなかったの』って言われて、相談すればよかったんだと気付かされました。そういうトラブルが自分の身にあったことも、本作を作るきっかけになっています」 

――新井さんの作品は視野を広げられるものばかりですが、本作ではより知識を身につけられている気がします。 

「今世の中で起こってる事件を、小中高生に向けて分かりやすく作ろうと思っています。ニュースは見ないけど、ドラマだったら見る人も多いと思うんです。 ちょうど話題になっている不動産投資詐欺もその一つ。台本を作っている当時はそこまで取り上げられていなかったのですが、最近ニュースが目立つようになりました。『狙いすぎ!』って思われているかもしれませんが、作るのが早かったので偶然ですよ(笑)」 

――(笑)。 

「今問題になっていることを取り上げると、自然とやっぱりニュースに出てきますし、これを機に『不動産投資詐欺かもしれない!』と気付いて、思いとどまってくれる人がいればドラマをやったかいがありますね。ためになるコメディードラマをお届けできればいいなと思って制作しています」 

――ドラマのキャッチフレーズに、「真面目に生きる人々の暮らしを守る“傘”になろう」とありますが、まさにあらゆる人に差し出された大きな傘になっていると思います。最後に、ドラマプロデューサーとして、ご自身はどんな人たちの、どんな傘でありたいのか。そして、世間にどういう影響を与えていきたいか教えてください!

「ドラマは、夢を届けられる手段だと思います。私自身もドラマを見てたくさんの夢を見させてもらいました。毎日がつまらない、将来何になりたいのか分からないなど、何かに悩んでいる人に週1回楽しい時間を過ごしてもらえればいいし、ドラマを見て『○○になりたい』などと将来の夢が見つかればそれほどうれしいことはありません」

 いつも言葉を選びながら、明朗快活に作品への思いを語ってくださる新井プロデューサー。「“男らしい”って言葉はこの時代にそぐわないね」など、さまざまな人への配慮が見える言葉が見え隠れし、新井さんの作品が多くの視聴者に刺さる理由が伝わるインタビューとなりました。 インタビュー後の追加質問にも快く答えてくださり、そのドラマにかける思いに感動。新井さんの作品に救われ、夢を与えらてもらっている人は多いことでしょう。本作の最終回を含め、新井さんの手掛ける作品は今後も見逃せません。

【プロフィール】  

新井順子(あらい じゅんこ)  
TBSスパークル所属。ドラマプロデューサーとして活躍。主な担当作に「最愛」「着飾る恋には理由があって」「MIU404」「わたし、定時で帰ります。」「中学聖日記」「アンナチュラル」「リバース」「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」「Nのために」「夜行観覧車」などがある

【番組情報】

「石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー」 
TBS系 
金曜 午後10:00〜10:54 

取材・文/TBS担当 A・M



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