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「中継が終わった後に競技場の控室で泣きました」。藤井貴彦アナが高校サッカー第100回大会への思いを語る2021/12/27

「中継が終わった後に競技場の控室で泣きました」。藤井貴彦アナが高校サッカー第100回大会への思いを語る

 第100回全国高校サッカー選手権が12月29日に開幕。過去3度、高校サッカー決勝の実況を務め、記念すべき第100回大会を前に、全国の地元局アナウンサーたちとともに高校サッカーへの思いをつづった書籍「第100回全国高校サッカー選手権記念 伝えたい、この想い アナウンサーたちのロッカールーム」を上梓した日本テレビの藤井貴彦アナウンサーに、高校サッカーの魅力や観戦のポイントを聞いた。

――高校サッカーのことを伺う前に、藤井さんがサッカーに魅せられたきっかけを教えてください。

「実は子どもの頃は野球少年でした。王貞治さんが大好きで、左打ちで王さんのまねをしていました。ある日、引っ越すことになるのですが、引っ越した先に野球チームがなく、たまたまサッカーが強い地域でした。進学した公立中学で1年生の時には、先輩方が全国大会準優勝を果たし、自分も全国大会に行けるのではと思い、どんどんサッカーにハマっていきます。就職するころには、ずっとサッカーの近くで生きていきたいと思い、サラリーマンでサッカーを中継できるアナウンサーを志し、日本テレビに入社しました。現在はサッカー実況を担当していませんが、今でも戻りたい思いがあります。もし定年退職の前に一つだけわがままを言っていいと言われたら、サッカー実況をしたいと言いますね」

――FIFAクラブワールドカップなどの実況を行い、世界最高峰のサッカーに触れる一方で、編著を務めた「第100回全国高校サッカー選手権記念 伝えたい、この想い アナウンサーたちのロッカールーム」を上梓するほど、高校サッカーに情熱を傾けるのはなぜですか?

「サッカー経験があるから分かるのですが、試合残り5分の苦しい時間帯に力を振り絞って走るのは、ありえないくらいの情熱、思いがなければできません。高校サッカーでは強豪校になると100を超える部員がいて、その中で11人が輝くために残りの選手たちはサポートに徹します。11人は、その友情に応えるために残り5分の苦しい時間帯も走り切れます。たとえ点差がついたとしても、スタンドを見ると支えてくれている補欠選手がいて、その前で全力を出し切る姿が素晴らしいです。部活には、Jリーグや世界最高峰のクラブW杯にもない“想い”があります。選手たちの思いなくして、高校サッカーは語れません。また、高校サッカーの選手はみんながみんなうまいというわけではありませんが、全国大会出場を目指して頑張っている中に、うまい選手や強い選手がいて、Jリーグに進んだり、日本代表になる選手が生まれます。裾野が広くないと頂点は高くなりませんし、高校サッカーは日本サッカーの発展につながっているということも伝えたいです」

――本の中でも、藤井さんや地元局アナウンサーの取材エピソードが数多く紹介されています。試合の状況に加え、選手の思いを伝えるために、アナウンサーは取材を欠かさないんですね。

「そうです。以前、ラフプレーで相手選手を負傷退場させてしまった選手がいて、SNS上で選手への批判が書かれたことがありました。勝ち上がった次の試合で、私と選手の地元局のアナウンサーで、試合後にけがをさせてしまった選手に謝りに行っていたこと、選手の人柄などを紹介しました。これはロッカールームまで取材していないと分からないことです。その後、選手の監督さんや親御さんから地元局アナウンサーのところにお礼の連絡があったそうです。取材をしっかりしていたから、選手を批判から救えたとも思います。この話は一例で、どの試合にも取材しているからこそ分かるドラマがあります」

――藤井さんは高校サッカー実況の第一線からは退いていますが、実況を担当していた当時に印象的だったことを教えてください。

「私は決勝の実況を3度担当しましたが、初めて決勝の実況をした2006年度(第85回)の『盛岡商(岩手)対作陽(岡山)』です。初の決勝で緊張しているところに、決勝進出を予想しておらず、事前取材が厚くできなかった盛岡商が勝ち上がってきました。地元局アナにいろいろと教えてもらうのですが、最終的に優勝した盛岡商の情報を自分で追加取材できずに決勝を迎えてしまったこと、試合中に両校の地元局アナの情熱を引き出し切れなかったこと、さらに私のスキル不足を露呈したことなど、自分がふがいなくて、中継が終わった後に競技場の控室で泣きました。そんな経験があってからは、次に決勝の実況ができる時に備えて、1年間毎日サッカー実況の勉強をすること、そして年間100試合グラウンドで直前取材することを自分に課しました。責任感を強く持って臨まないと、全国のアナウンサーの代表として決勝の実況は担当できない、いや担当してはいけないと思っていました」

――第100回大会では8年ぶりに国立競技場でも試合(開幕戦、準決勝、決勝)が行われ、聖地・国立に高校サッカーが帰ってきます。

「旧国立で行われていたのは8年前で、今の高校生には聖地・埼スタ(埼玉スタジアム2002)になっているかもしれません。だからこそ、今大会で新国立での新たな歴史が始まると感じます。作りは変わりましたが、歓声が降り注いでくるという感覚を選手たちに感じてもらいたいです。昭和の人間、平成の人間、令和の人間で、素晴らしいと思う場所は違いますが、国立で新たな歴史を作ることで、昭和のおじさんである私が素晴らしいと思っている場所を、令和の高校生たちも素晴らしいと思ってくれたらうれしいです。その一方で準決勝、決勝は予期せぬドラマが起こることが多いですから、国立には魔物がすんでいることも感じるかもしれませんね」

――高校サッカーに詳しくない方に向けて、第100回大会をどのように楽しんだらいいのか、アドバイスをいただきたいです。

「まずは尚志(福島)のDFチェイス・アンリ選手や青森山田(青森)の松木玖生選手など、素晴らしい選手に注目する正統派の見方です。その選手のプレーに加え、友達や仲間とともに戦い、どうやって次のステップに進む経験を手に入れるのかを見てください。そして、会場に行けるのであれば、会場に行っていただきたい。先ほど言った、11人を支える友達や仲間が一生懸命に応援する姿、1点を取ってみんなで喜ぶ瞬間など、高校サッカーを体感してもらいたいです。それができなければ、テレビで見ていただきたいと思います。私たちは、選手たちの努力を取材して極上の情報を用意して中継していますので、映像と情報のコラボレーションを楽しんでください!」

――第100回大会に出場する選手たちにエールをお願いします。

「まず地方予選で負けてしまった選手に、高校サッカーの経験を糧にこれから頑張ってくださいと伝えたいです。第100回大会に出場する選手には敗れて涙を流した選手の思いも背負って走り切ってもらいたいですし、誰かの応援で力が出るという貴重な経験を味わってほしいです」

――その選手たちの姿を伝える後輩アナウンサーにもエールを送ってください。

「第100回大会を実況できるラッキーなアナウンサーのみんなには、『伝えたい、この想い』を読んで、先輩たちはこんな思いでやっていたんだとプレッシャーを感じてもらいたい(笑)。まあ、プレッシャーは冗談ですが、歴史の流れの中に自分がいることを感じてください。昭和のスタイル、平成のスタイルが作り上げられてきた裏側を知ることで、一つステップアップできると思います。そして、第100回大会の目の前の試合を大事にするのはもちろん、令和のスタイルを構築していって、第101回に向けての歴史を紡いでもらいたいです」

【プロフィール】

藤井貴彦(ふじい たかひこ)
1971年12月生まれ。東京都出身。94年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦や、クラブワールドカップ決勝、2010年のバンクーバー五輪の実況などを担当。高校サッカーでは、第85回(06年度)、第86回(07年度)、第87回大会(08年度)の決勝などを実況。10年からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務める。新型コロナウイルスが猛威をふるい、暗いニュースが多くなる中、視聴者に寄り添う、心に染みるコメントが注目された。

【番組情報】

「第100回全国高校サッカー選手権大会」
日本テレビ系
1月8日 午後0:00~4:50(準決勝)
1月10日 午後2:00~4:50(決勝)ほか
日テレジータス
12月28日 午後10:00~深夜0:00ほか

【書籍情報】

「第100回全国高校サッカー選手権記念 伝えたい、この想い アナウンサーたちのロッカールーム」

「中継が終わった後に競技場の控室で泣きました」。藤井貴彦アナが高校サッカー第100回大会への思いを語る

全国高校サッカー選手権が100回大会を迎えることを記念し、高校サッカーを愛するアナウンサー、日本テレビの藤井貴彦アナが、福岡放送の福岡竜馬アナや札幌テレビの岡崎和久アナをはじめとした日本全国の地元局アナウンサーたちとともに、その魅力を語り尽くす1冊。

高校サッカー決勝の実況も担当した藤井アナが、自らの高校サッカー取材裏話や高校サッカー中継の仕組みなどを解説するほか、地元局のアナウンサーたちが、彼らだけが知る名選手たちの高校時代…星稜の本田圭佑、滝川第二の岡崎慎司、野洲の乾貴士、鹿児島城西の大迫勇也、青森山田の柴崎岳、四日市中央工の浅野拓磨、鹿児島実業の遠藤保仁、東福岡の長友佑都、韮崎の中田英寿らの素顔や、伝説的な試合の実況、取材の裏側を明かします。

さらに、本書の中には、内容と連動した動画を見られるQRコードを掲載。「アナウンサーたちのエピソード」×「名シーン」で高校サッカーの魅力をより深く味わえます。

●発売中
●定価:1,650円
●発行:東京ニュース通信社
●発売:講談社

全国の書店、ネット書店(honto<https://honto.jp/netstore/pd-book_31305885.html>ほか)にてご予約いただけます。

文/山木敦 撮影/蓮尾美智子



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