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4大会連続五輪出場!日本アーチェリー界のエース&ロンドン五輪銀メダリスト・古川高晴選手2019/08/07

Cheer up! アスリート2020!

 2012年のロンドン五輪で銀メダルを獲得。04年のアテネ五輪から4大会連続でオリンピックに出場している日本アーチェリー界のエース・古川高晴は、5大会目となる東京五輪に向けて挑戦を続けている。

大舞台で狙い続けている、小さな的。

「オリンピックへの出場を憧れではなく具体的な目標と捉え始めたのはいつ頃ですか?」

 アテネ、北京、銀メダリストとなったロンドン、そしてリオ五輪と4大会連続でオリンピックに出場経験がある日本アーチェリー界の第一人者にそう問うと、意外な答えが返ってきた。

「初めて出場した、アテネ五輪が終わってからです」

 その真意は、こうだ。

「アテネの前年の03年に世界選手権があって、そこで成績を残せばオリンピックに内定だったんです。でも、何位に入ればオリンピックに出られるのかなど、理解していませんでした。世界選手権ではただ一生懸命にやって、そうしたら出場枠がとれてオリンピックに出られたという感じだったんですよ。出るだけでうれしくて、満足していました。そこから、もう1回この大舞台を経験したいとアテネの後に思ったのが、オリンピックを本当の意味で意識した時ですね」

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 弓で矢を放つ競技と出合ったのは中学時代。運動部の応援に出かけた際、たまたま弓道の試合を目にしたという。

「見ていて純粋にカッコいいと感じました。でも、進学した高校は弓道部がなく、アーチェリー部があったので、同じ弓だからいいかと思って始めました」

 競技を始めると早くから頭角を現し、高校3年生の時に国民体育大会(02年)で優勝するなど、今へと至る礎を築いた。好きで始めた競技とはいえ、上を目指す過程ではつらいことや厳しい時期もあったのではと話を向けると、あっさりと否定された。

「それは全くなかったですね。楽しい思いしかなかったです。アーチェリーははっきりと点数が出るので、特に始めた頃は練習すればするほど得点が上がっていって、それがただうれしかったです。試合に勝ったらうれしくて、負けると悔しいからもっと練習する。それを繰り返してきました」

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 日本のトップ選手である彼は、「アーチェリーはメンタルが95%を占める」と言う。

「オリンピックのトーナメント戦では1セットにつき3回矢を放つんですが、連続で10点に入れたら、最後も10点に入れたいじゃないですか。でも“よし、次も”と思ったら力んでミスをしてしまうんですよ。その欲を出さず、自分の気持ちを抑えて、どんな結果でも平常心でいないといけないんです」

 ではいかにして、心を平静に保つのか。

「僕の場合、ミスをしても“仕方ない。次から気を付けよう”と思うんです。闘争心を燃やすタイプの人もいて、試してみましたが自分には合いませんでした。たくさん経験して試して、自分に合うのは気持ちを抑えていくスタイルだという結論に達しました。自分のスタイルが分かれば自信になりますし、それによって平常心が保てるんです」

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 初の五輪だった04年アテネと次の08年北京の個人戦は序盤で敗退。そして経験を重ね、自分のスタイルを築き上げた12年のロンドンで銀メダルを獲得する。

「最初のアテネでは、矢をつがえているあたりからカメラのシャッター音が一斉に鳴り出して、それで一気に緊張しました。北京では結果を意識し過ぎて、力んでしまった。そういう経験があったからこそ、ロンドンでは結果が出せたと思います」

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 2大会連続のメダルとはならなかった前回のリオ五輪は、喜びと悔しさが半々だった。

「僕の目標は、国際大会で安定してベスト8に入ること。オリンピックでそれができたので、最低限の目標は達成できました。だけど、もう1戦勝てばメダルマッチに絡めたので、そこは悔しいですね」

 来年に控える東京五輪は、自身にとってどんな意味を持つ大会になるのか。

「メダルはもちろん目指していきますが、目標はあくまでもベスト8に入ること。東京では日本人の観客の声援が、すごく力を与えてくれると期待しています。その声援をプレッシャーに感じず、自分の力にしないといけません。でも、今、僕の口からこういう言葉が出ているので、きっと大丈夫でしょう!」

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 アーチェリーは比較的、競技人生が長い。東京五輪を終えた時、36歳になる彼が考えるこれからの競技人生とは?

「実際に終わってみないと分からないと思います。でも、東京で競技人生が終わると思ったら、自分で自分にプレッシャーをかけてしまうと思うんです。そうならないよう、平常心を意識して臨みたいと思っています」

 東京五輪の先に、何があるのか。それを一番に見たいと願っているのは、古川自身なのかもしれない。

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【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
08年の北京五輪で、水泳の北島康介選手が金メダルをとった後に「何も言えねぇ」とコメントしたシーンですね。プレッシャーがある中で結果を残した後だったので、確かに言葉が出ないよなと思って納得しました。

Q2 好きなTV番組/音楽(応援歌)を教えて!
「チコちゃんに叱られる!」(NHK総合)を見て大爆笑しています! チコちゃんのコメントやツッコミが面白いですよね。応援歌はゆずの「栄光の架橋」。地道に努力を続けていくしかないんだな、とあらためて思わせてくれる曲です。

Q3 “2020”にちなんで、アーチェリーの1射の制限時間“20”秒の中で最も大事にしていることは?

自信を持って、積極的にプレーすること。アーチェリーは見ている方には静かな競技かもしれませんが、積極的にならないと射てません。ミスしたらどうしようと思うと、絶対に射てないんです。攻める気持ちじゃないと戦えません。

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【アーチェリー競技概要】
70m先の的を狙い、12.2cmの中心円に当たると10点。離れるほど得点は下がり、的を外すと0点。オリンピックの個人戦のトーナメントは1射20秒の制限時間内に交互に射(う)ち、最大5セット行う(1セットは3射)。各セットで得点の高い選手が2ポイント、同点の場合は共に1ポイントを獲得し、先に6ポイントを上げた選手の勝利。日本は、五輪で男子個人において古川を含め過去に3人がメダルを獲得しているが、男子団体でのメダル獲得はいまだにない。

【プロフィール】

古川高晴(ふるかわ たかはる)

1984年8月9日青森県生まれ。獅子座。A型。

▶︎中学時代は文科系のクラブに所属し、高校でアーチェリーを始める。

▶︎思い出深い大会は銀メダルを獲得したロンドン五輪。「大会期間中は、集中し過ぎて頭が痛くなったんです。競技のことが浮かんだらすぐ切り替えて、ご飯のことを考えたりしていました。気持ちを落ち着かせるようにして勝ち上がり、いい結果が残せました」

▶︎18年にはアジア大会の混合リカーブで優勝。武器は「安定したフォーム。再現性の高いフォームで同じ動作をすれば、矢は同じ所に飛んでいくはず。他の選手に比べて点数の波は小さいと思います」

▶︎自身にとってアーチェリーとは「今までにも聞かれていますが、キレイな答えが出ないんですよね」。「選手として強くなれて、人間として成長させてくれるもの?」と問うと、「いいですね、それにしましょう(笑)」

取材・文/カワサキマサシ 撮影/西木義和



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