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「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」2019/08/06

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

 放送中の連続ドラマ「スカム」(MBS/TBS)で振り込め詐欺に手を染めていく若者を映し出している小林勇貴監督。インタビュー後編では、主演の杉野遥亮さんの印象や作品に込めた思いを聞いた。(【前編】はこちら)

「放送されるのが、快感で仕方がない」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

 振り込め詐欺に手を染めて“しまった”主人公の草野誠実(杉野)だが、成功体験やリーダーへの抜てきを経験し、次第に詐欺師としての才覚を発揮。自身の躍進に葛藤しながらも、着実に裏社会に身を堕としていく姿が切なく描かれる。大事な家族にうそをつく罪悪感を一人で抱え込みもがく一方、詐欺グループの中で居場所を見いだし、共に働く仲間も見つけた誠実。しかし、そこで見つけた希望も奪われてしまう。

「これしか方法がないからこの子たちはここにいて、そんな日々が楽しくて。こうやって自力で幸せを一つつかんだのに、なぜこうなってしまうのかという悲しみと悔しさは再現したいと思ったんです。ここには希望があったのに、なぜそれすらも…っていう」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

 新卒切りに遭い無職に。そして父親の大病のための多額の治療費の捻出、奨学金の返済。生きていくにはお金が必要。でも誰も助けてくれない、どうしようもない――。そんな時に目にした、裕福な老人たちが豪華な施設で人生を謳歌する姿。老尊若卑。格差社会。理不尽な社会に絶望した誠実の行く末には、果たして幸せはあるのだろうか。誠実は、どうすべきだったのだろうか。小林監督が、この作品を通して一番伝えたいことは何かを聞いた。

「最終話のある場面で、圧倒的な圧力を受けた杉野遥亮演じる誠実が『俺に触るんじゃねぇ!!』って怒り狂うんです。この作品の出発点を言えば、貧困に直面して追い詰められた若者の『税金を払っているのに誰も助けてくれない』という思いや、自己責任論をかざして彼らを追い詰める人たち、弱者を作るのは国なのに弱者を助けないのも国という実態に対して、だったら強者になりたい、その手段として犯罪をすることの何が悪い、という気持ちにさせたいというところからのスタートだったんです。そこから撮影が始まって、最終話の撮影で杉野遥亮から『俺に触るんじゃねぇ!!』って言葉がアドリブで飛び出した瞬間、『俺はこれが撮りたかったんだ!!』ってすごく思いました」

 クランクアップから約1カ月が経過してからの取材だったが、小林監督が感じたその時の興奮は、まだ冷める様子を見せない。

「踏みつけてバカにして、指をさしてきたくせに、人が失敗したと思ったらそうやってつかんできて。そりゃ『触るんじゃねぇ!!』って思いますよね。でもこれって、何にでも言えるなって思いません? 今まさにニュースでやってるようなことに、みんな嫌悪感を抱いていて。今この時代に生きていて、みんなが嫌がっていることって同じなんですよ。今まで隠してこれたことにいろんなところから亀裂が生じて、悲鳴が上がり始めている今この時に、このドラマを撮ることができたのは本当にうれしくて。会社、家庭、学校、どこにいても襲ってくるいろんな圧力に対して、みんな『俺に触るな!』って言いたいと思うんです。だから誠実は時代の代弁者だし、そんな時代を言い表した言葉が台本ではなく、誠実を演じてきた杉野遥亮の口から出てきたってすごいことで。それが放送されるっていうのが、もう快感で仕方ないです」

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