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「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」2019/08/06

独特な音楽の使い方に「大事にしたいのは、正直であること」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

 第2話で誠実らが目の当たりにした、豪華なゴルフ場や温水プールではしゃぐ老人たちのどこか狂気じみた笑顔。誠実ら詐欺グループの若者たちが「格差社会」の現実を突き付けられるショッキングなシーンだが、小林監督が「露骨な悪意に触れた瞬間」を再現するためにBGMとして用いたのは、軽快な洋楽だった。

「劇中での音楽の使い方に関して、ライムスターの宇多丸さんをはじめとした多くの方から『独特だ』と言っていただけているんですが、絶対にやらないようにしていることが一つあって。“異化効果”というんですが、その場に合わない音楽を流すことで、日常的で見慣れたものを未知の異様なものに見せる効果なんですけど。正直、それはなんのためにやっているのか意味が分からないなって思いますね。逆に絶対にやろうと思っているのは、必ず文脈を踏まえて、そのシーンに対して一番自然な音楽を選ぶことですね。温水プールのシーンに関して言えば、そこで遊んでいる老人たちは心地よくて、リラックスしている。あの音楽に合う気持ちだったと思うんです」

 小林監督がミュージックビデオ(MV)を手掛けたNGT48のシングル曲「春はどこから来るのか?」でも、印象的な音楽の使い方は健在だ。MVの冒頭で約1分にわたり、クラシック音楽にのせてどこか妖艶なポーズや表情を魅せるNGT48のメンバーが映し出される。そして彼女たちが部屋を飛び出して駆け出すと「春はどこから来るのか?」のイントロが流れ、曲がスタートする。

「あのMVは、本間日陽ちゃんがシングルの表題曲で初めてセンターに選ばれた時の感情を冒頭で表現しています。たぶん、あの曲みたいに『ふわぁ~』って気持ちなんじゃないかなと思うんです。あまりにも仕事がうまく進んだ時って、浮遊感というか、ふわってなっちゃうから。大事にしたいのは、やっぱり正直であることですね。そのシーンの気持ちに対して、ズレがないものを選ぼうと思っています」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

 作品に対して真摯に、さらに言えば社会や人々が抱く感情に対しても嘘をつくことをせず、正面から向き合う逃げない姿勢。それは小林監督が手掛ける作品の随所に散りばめられていると感じた。いよいよ後半戦に突入した「スカム」で、小林監督がクライマックスに向けて描きたいことを最後に聞いた。

「杉野遥亮演じる草野誠実が、やっと見つけた“詐欺”という止まり木さえも奪われて、振り回されて、利用されて…。傷ついてもがいている誠実を見て、きっと苦しいシーンはたくさんあると思うんですけど、ちゃんと面白いエンターテインメントになるように撮っているので。見てくださる方にとって、振り回されながらも一緒に考えるような作品になればうれしいです。それで最終回、みんなで『俺に触るんじゃねぇ!!』の大合唱ができたら、もうこれ以上のことはないですね」

「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」
「スカム」小林勇貴監督インタビュー【後編】 怒り狂う杉野遥亮のアドリブに「俺はこれが撮りたかったんだ!!」

【プロフィール】

小林勇貴(こばやし ゆうき)
1990年9月30日生まれ。静岡県富士宮市出身。監督作は、映画「Super Tandem」「NIGHT SAFARI」「孤高の遠吠」「逆徒」「全員死刑」「ヘドローバ」、ドラマ「GIVER 復讐の贈与者」(テレビ東京系)、「すじぼり」(U-NEXT独占配信)など。2019年秋には、映画「爆裂魔神少女 バーストマシンガール」が公開予定。 

【番組情報】

「スカム」
MBS 日曜 深夜0:50~1:20
TBS 火曜 深夜1:28~1:58
※放送時間は変更の場合あり。

取材・文・撮影/宮下毬菜(MBS・TBS担当)

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