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「Aではない君と」で加害者の父親を演じた佐藤浩市が、中高校生へ伝えたい思い──。「心は何度殺されても蘇生できるから、どうか死を選ばないで」2018/09/19

 テレビ東京系で9月21日午後9時から放送される、スペシャルドラマ「Aではない君と」。佐藤浩市さん演じる吉永圭一は、ごく普通の会社員だったにもかかわらず、息子の翼(杉田雷麟)が起こした死体遺棄事件により事態が一変。弁護士・神崎京子(天海祐希)に支えられながら、事件の真相、そして翼と向き合っていきます。自分の子どもが「殺人の罪」に問われた時、どう向き合うか…。そんな正解のない、だけど誰にでも起こりうるテーマを問いかけてくるヒューマン・サスペンスドラマです。

 今回、吉永を演じる佐藤浩市さんを直撃取材。難しい役柄を演じる上で意識したことや、親としての思い、また共演者である天海さんはもちろん、瀬戸調査官役・安田顕さんの意外な一面まで(!?)お伺いしました。

──今回、「息子の犯した“罪”とどのように向き合うか」や「命の意味とは?」など正解がないテーマの作品となっていますが、実際に演じられてみていかがでしたか?

「自分たちが予想した通りになりました。要は、二元論では済まないんですよね。今の時代、良いか悪いか、勝ったか負けたかって物事を無理矢理二元論で進めていくことも多いじゃないですか? でも、世の中の事象はそうではないということですよね。これはどうしたって被害者の側から見れば絶対許されることではないし、許してもいけない。それも一つの正論でありながら、だけど未来永劫(えいごう)それでは被害者の家族が救われないということも皆さん分かっている。それでも、やっぱり許してはいけない。そこの非常に複雑な思いというのは、当然被害者の方々にもあるでしょうしね。さらに、物事が起こってしまう場合には理由があって…。そういった部分も全部内包しながら、このドラマの是非だけでそれを進めていくにはなかなかの難しさがありましたね」

──視聴者の方も、それぞれ感じ方が変わってきそうですね。

「何らかの事件を起こしてしまった息子が、その事件と、今後に対してどう向き合うか。そして、向き合うために“父親自身も向き合えなかった自分”ということをどう認識するかということが、ドラマ的に伝わればいいのかなと思いました。このドラマを見ていろんな意見を持つ方々がいらっしゃると思うんですけど、そういった反応はある種楽しみではありますね。当然賛否両論あるだろうから」

──ドラマだけで結論がつくものではないと…。

「そうですね。ただ、その間口まではなんとかたどり着けたかな? 決してそこがゴールではなく、やはり少年Aが、自分が犯したことにどう向き合えるか。それに対してちゃんと“向き合うことをする”ことが、“生きるということ”なんだという入り口までは行けたのかなと」

──翼が本当に殺人を犯したのか、どうすれば真実を言ってくれるのか分からないながらも、翼に寄り添おうとしていく姿がとても印象的でした。そんな吉永を演じるにあたり、意識した点があれば教えてください。

「僕自身も親である以上、『自分の息子が本当にその事件を起こしたのか』ということに対して非常に懐疑的になるということも分かりますからね。あとは、僕が演じた吉永の年齢が原作の設定より随分上になっているので、子どもたちの生き方に対して少し距離を置いていた自分の姿勢に対する反省というものをちょっと強めに出してみました」

──親子の在り方というテーマも、このドラマにおいて大きな比重を持つかと思うのですが。

「とにかく、吉永と翼の年齢が離れているじゃないですか? 安田顕くんが演じる瀬戸調査官に対してのセリフで『遅くにできた子なので、昔から、周囲の若い親たちへの気後れなんかもあって…』というものがあって。それに対して『そんな言い訳を聞かせて、私にどうしろと?』と言われるんですけど、そういうことの自分に対する嫌悪感が吉永の中に絶対にあったと思うんです。だから自身も、どこか最後の最後で息子や、この事件のいろんな部分に対して向き合うことができるというところまで行きたかったんじゃないかな」

──「もし自分がこういう立場になったら」ということも考えながら演じられたのですか?

「そうですね。『自分だったら人としてどうであるか』ということを考えていました。あと、父性と母性の違いはあると思います。母親のようになるために、息子や事件のことを含めいろんなことを考えるんだけど、でもそこにふっと出てくるのが自分の社会的な立場や、これからの家族のこと。いろんなことを大きく捉えてしまうところが、男親だと思うんですよね。ドラマの中で、息子と、別れた妻の名前・写真が全て世間に出てしまうシーンがあって。で、思わず自分の名前と息子の名前を併せてネットで検索すると、何も情報は出ていない。それにホッとしてしまう自分に対する嫌悪感。その気持ちは僕も含めて誰もが持つもので、ドラマの中でも強く出したいと思っていましたね」

──物語の展開が二転三転して、見ているこちらも何が真実なのか考えさせられる印象を受けました。そのような先が読めない展開について、佐藤さんはどのような印象を持ちましたか?

「展開は原作通りなんですけど、それを薬丸岳氏が単純にサスペンスという要素の中で盛り込んだと感じるのか、それともそこにどこか最後の救いを求める親の浅ましさのような心情を感じるか…。われわれは、サスペンスとしてそれが入ったわけではないという解釈の中で作っていったので。あと『心を殺すのと身体を殺すのはどっちが悪いの?』というセリフがあるんです。これを踏まえて僕は、翼の世代である中学生や高校生へ向けて、心は何度殺されても蘇生できることを伝えたい。彼らは学校やスマートフォンの中など狭い世界で生きているから、その世界が崩れた瞬間に死を選んだり絶望したりしてしまう子もいると思うんです。でも本当はそうではなくて、世の中に出ていろんなところで人と出会って経験をしていくと、世界はそんなに小さいところじゃないということが分かる。それを、翼も含めて気付けるかどうか。そういうことを感じてもらいたいという思いが僕の中で一番大きくありました」

──今回、弁護士役の天海さんや家庭裁判所調査官を演じた安田さん、被害者の父親・藤井智康役の仲村トオルさんなど共演者の方々もとても豪華ですが、皆さんの印象はいかがでしたか?

「天海祐希さんは、彼女らしいところ、そうでないところの二つの部分ですごくよく頑張ってくださったと思います。天海さんは意外にプロフェッショナルなので(笑)、2人で冗談を言い合いながらも真剣にやっていました。安田顕くんは初共演だったんだけど、すごく感情豊かな印象で。一緒に演じたシーンは物語の展開がつらかったからか、彼の方が泣いちゃっていましたね。感情が揺さぶられるタイプなんだなって。大泉洋とはえらい違い(笑)。仲村トオルくんも撮影期間は短かったけど、あのテンションで来てくれた彼の思いは、見ていただければ十分に伝わるものがあると思います」

──ドラマの演出は、「アンナチュラル」(TBS系)が記憶に新しい塚原あゆ子監督でした。

「塚原さんはすごく頑張っていらっしゃいました。翼を演じる杉田雷麟くんは16歳という難しい年齢の男の子なんですよね。2人でチャーハンを食べて、彼が、“食べている”という状況を自分が受け入れるということに対して思わず慟哭(どうこく)するシーンで、感情を出して演じるということが若くてやりづらかったと思うんです。でも、僕はそれだと『どうしたんだ? 大丈夫か? どこか痛むのか?』というセリフが出せないと言いました。塚原さんに『申し訳ないけど、俺の中で琴線に触れない限りこのセリフは出ないからね』と言って4〜5分やらせたんです。だから、彼は『なんで佐藤さんはセリフを言ってくれないんだろう』って怒っていたと思うんだけど(笑)。でも、塚原さんはそういうことも分かってくれて、全て受け入れてくれていたんですよね。そういうふうに一緒に作品を作れたから良かったです」

──キャストや監督含めそれぞれの思いが込められた作品なんですね。最後に、あらためてドラマの見どころを教えてください。

「最後の藤井と翼、吉永の3人のシーンです。それを絶望と見るか、贖罪(しょくざい)の間口と見るか。2時間18分テレビの前にいるのがつらいかもしれないけど、見終わった瞬間にいろんなことを反すうできるものをみんなで作らせてもらったと思います。ぜひ見ていただきたいですね」

【プロフィール】

佐藤浩市(さとう こういち)
1960年12月10日生まれ。東京都出身。ドラマ「石つぶて〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜」(WOWOW)、「ハッピー・リタイアメント」(テレビ朝日系)、「LEADERS リーダーズ」(TBS系)、映画「北の桜守」、「64-ロクヨン- 前編/後編」、「起終点駅 ターミナル」、「愛を積むひと」などの話題作に出演し、多方面で活躍している。ドラマ「コールドケース2~真実の扉~」(WOWOW)の第4話(11月3日放送)に出演。映画「ザ・ファブル」、「記憶にございません!」が2019年公開予定

【番組情報】

テレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャル 「Aではない君と」
テレビ東京系 
9月21日 午後9:00~11:18

取材・文/鬼木優華(テレビ東京担当) 
撮影/蓮尾美智子

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