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「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー2024/05/24

「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー

 4月1日からNHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。物語の主人公・佐田(猪爪)寅子(伊藤沙莉)は、昭和13(1938)年に日本で初めて誕生した女性弁護士の1人として日本中から注目され、憧れの的になります。そんな寅子が弁護士として社会的信頼を得るために結婚相手として選んだのが、猪爪家の書生として一緒に暮らしてきた佐田優三(仲野太賀)でした。2人の間には娘・優未も生まれ幸せな家庭を築いていく一方で、日本は戦争に突き進み、ついに優三も出征することに…。

 今回は、寅子の夫・優三を演じた仲野太賀さんにインタビュー! 伊藤さんとの共演エピソードや、自身の演じる役どころなどをお伺いしました。

――まず、本作への出演が決まった際の心境を教えてください!

「率直にすごくうれしかったです。日本で初めて女性弁護士、そして裁判官になった人物を題材にしているので、女性が社会進出していく姿が現代に続く話になっていくんだろうなと思いました。今の朝ドラでそういうことを描くことがすごくすてきなだなと思っていたので、とても楽しみでした」

――伊藤さんとは、2022年に放送された「拾われた男 Lost Man Found」(NHK BS)に続いて再び夫婦役ですが、いかがでしたか。

「沙莉ちゃんとは本当にあうんの呼吸というか、打ち合わせをせずともお芝居がしやすいんです。こちらがどんな表現をしても、すべて受け入れてくれるし、僕としてはとにかくコンビネーションがよくて。隣に沙莉ちゃんがいるだけですごく安心するので、夫婦という大事な関係性ですが、思いっきり飛び込むことができました。本当に絶大の信頼を置いています」

「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー

――お二人の信頼関係があるとアドリブが多くなったりするんでしょうか?

「意図してアドリブを仕掛けていくことはないんですけど、芝居の延長で出てくるものがあった時には、沙莉ちゃんがすぐに寅ちゃんとして対応してくれるんです。脚本からはみ出た瞬間でさえも、作品の世界観が損なわれないような寅ちゃんの姿でいてくれるのでありがたいです」

――現場で朝ドラらしさを実感したことはありますか。

「一つの役にじっくり向き合うことができて、いろんなゲストの方が出たり入ったりするので、自分の中で“役が育っていく”感覚があるのは朝ドラならではだなと思いました。また、現場の空気が非常に良くて、1年以上一緒に作品を作っていく仲間なので、スタッフやキャストの間に他の現場にはない温かさがある気がします。1週間の撮影で、最後のカットを撮り終わったら『お疲れ!』とみんなで拍手をしたり、スタッフさんからも『沙莉ちゃんを絶対に支えていくんだ』『このチームで朝を盛り上げていくんだ』という、とってもいい空気が流れているのを感じました」

――伊藤さんの座長としての雰囲気を教えていただけますか?

「現場でのたたずまいは本当に尊敬の一言というか、素晴らしいです。沙莉ちゃんがいるから現場がすごく明るくなるんです。朝ドラは、約1年間撮影をして過酷だと思うんですけど、沙莉ちゃんはキャリアも経験もあって地に足が着きまくっているので、頼れる主役で言うことはないです」

――共演経験がある仲野さんから見て、大変そうだなと思ったことはありますか?

「思ったことをちゃんと口にする人で、それがあまりにも率直で素直な言葉で。沙莉ちゃんの言葉でいろんな問題がスムーズになるので、風通しのいい現場です。いろんな人を気遣ってコミュニケーションをとってもいるけど、気遣いすぎていない感じもするし、沙莉ちゃんのまま気負わずにやられていると思います。中心にそういう人がいると、われわれもスタッフも『気張らなくていいんだ』という気持ちでリラックスして現場に挑むことができます。もう、みんな沙莉ちゃんのことが大好きだと思います」

「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー

――優三は猪爪家と一緒に暮らしていますが、母・はる(石田ゆり子)や父・直言(岡部たかし)ら家族のシーンでの撮影エピソードも教えてください!

「ゆり子さんが折り紙を持ってきてくれて、前室で家族みんなで鶴を折りながら『最近おいしいご飯食べた?』みたいなたわいもない会話をしています。そういう意味では、ゆり子さんが家族の団らんのきっかけを作ってくださいました。また、食事をするシーンでは、撮影が終わったら食卓に並んでいた食事をみんなでつまみながら『お昼ご飯の代わりになるね。おいしいね』と食べたり、終始和やかですね」

――今回、優三という役を演じる上で特に意識されていることはありますか。

「優三が持つ柔和な空気感というか、温かい空気感みたいなものを大事にしています。寅ちゃんは猪突猛進というか、真っすぐに物事に立ち向かって向き合っていく人なので、それと対照的に、頼りない一面もありつつ、彼の中にはある太い芯を表現できたらいいなと思います」

――ご自身と優三が共通している部分はありますか。

「夢に向かってひたむきな姿というか、自分にやりたいことがある部分はすごく近いのかな。逆に、僕は優三ほど柔和なキャラクターじゃないんですよね。どちらかというとクラスの中で騒がしい方のタイプの人間なので、そういう意味では違うかなと思います」

――「あまちゃん」(2013年)以来、11年ぶりの朝ドラ出演ということで、役者としての成長を実感したことはありましたか。

「当時、20歳そこそこで、右も左も分からず、すごいガムシャラにやっていたと思うんです。それが10年たって、いろんな現場に参加させてもらって、心は熱く、頭は冷静に現場と向き合えるようになりました」

――今回の朝ドラ出演がキャリアにおいて大きな存在になると思いますが、30代の展望と、30代になってからの役者業への思いの変化をお聞きしたいです。

「予測はできないんですけど、今こうして恵まれた環境でお仕事をさせてもらっているので、いい40代を迎えるために、しっかり30代でやれる限りのことをやって、成熟していけたらいいなと思っています」

――役者への情熱は、年とともに変化があるものなのでしょうか。

「ありますね。もっともっといい芝居をしたいという気持ちは高まる一方です。そのために何が必要なのかな、今の自分には何が足りていないのかを日々ぼんやり考えたりするんです。でも、これをすれば芝居がうまくなるという“答え”なんてないので、やっていくしかないのかな。本当…いい俳優になりたいです」

――優三は、高等試験(現在の司法試験)になかなか合格できないという挫折や悲しみを経験する人物ですが、仲野さんが悲しみや挫折を感じた経験、それをどのように乗り越えたのかを教えてください。

「10代の頃からこの仕事やっているので、数えきれないぐらいオーディションを受けて、たくさん落ちました。受かったけど、もらえる役が小さかったり、セリフがなかったり、チャンスをもらえたのにつかめなかったりという時期もありました。そういう時間がすごく長かったなと思います。チャンスはあるのにどうにも首が回らないとか、そういう意味でうっ屈とした10代、20代前半を過ごしていたけど、志はあったし、情熱も絶えることはなかったので、いろんな現場でしがみつくように、自分の可能性を試させてもらっていました。でも、一番心の支えになったのは、自分が尊敬する人に大丈夫だって言ってもらえていたことです。演出さんや監督さんに、仕事がなくても売れていなくても『太賀、面白いよ』って言ってもらえていたんですよね。みんなの注目を集めることは難しいけど、自分の好きな人に『大丈夫だよ』と言ってもらえていた時間は、すごく心の支えになりました」

――くじけそうになった時に、自分から誰かに相談することはあったんでしょうか。

「10代のうだつの上がらない俳優が醸し出す負のオーラに満ち満ちていたので、僕が何か言わずとも『こいつ悩んでるんだな』って一目瞭然だったと思うんです。自分から相談しなくても自ずとそういう話になっていました」

――周りの方の言葉に救われて今があるという感じですか。

「そう思いますね。宮藤(官九郎)さんや(映画監督の)石井裕也さん、岩松了さんなど自分の尊敬する方々に面白がってもらえていたことが、今につながっていると思います」

――朝ドラの特徴として、年を重ねて成長していくという変化を表現していかなければならない部分があると思いますが、その部分の難しさや面白さをどう感じていますか。

「1人の役を長いこと演じる、そして時間の経過や時代の変化も感じながら演じるのは朝ドラならではですし、貴重な経験をさせてもらえているなと思いますね。撮影はそのままの時系列でできるわけじゃないので混乱することはありますが、自分の中にあるものだけじゃなくて、衣装やヘアメークで完璧にその役の時代の年齢を表現されていたりと、いろいろな面で年の積み重ねを助けてもらっているので、気負わずにできています」

「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー

――1人を長く演じたことで、役者としての新たな気付きはありましたか?

「見た目とか目で見えるそのものより、精神的な老成の方が伝わるのかなと考えたりします。そして、やっぱり1人の人生を演じ遂げられる喜びがすごくあります」

――優三は出征してしまいましたが、出征のシーンを演じるにあたって考えていたことを教えていただければと思います。

「出征が近づくにつれて、本を読み進めていくのが苦しかったんです。家族のいなかった優三が本当の家族を手にすることができて、愛する娘もできて…。法律の道には行けなかったけれど、彼が心の底から手に入れたかったものは家族だったんだろうなと。そんな時に、戦況はどんどん悪化していって…。優三は『なんで戦争に自分の幸せを奪われなきゃいけないんだ』と感じていたでしょうが、きっと彼の考える主語は、常に寅ちゃんなんだろうなって。だから、『戦争に行くのは仕方がないから、せめて寅ちゃんを悲しませないように』という思いだったんじゃないかな」

――これまで何度も戦争に行く役を演じていらっしゃいますが、過去の経験を生かして演じることもあるのでしょうか。

「いろんな作品で戦争に行かせてもらっているんです。経験としては積み上がっているものはたくさんあるし『ちょっと軍服は落ち着くな』と感じるところもあるので(笑)、生かせるものはたくさんあると思います」

――優三の一番好きなシーンと撮影のエピソードを聞かせてください。

「出征前に、寅ちゃんといつもの河原で最後のデートをするシーンは印象深いです。そこで寅ちゃんが土下座をして、優三に『今までつらい思いをさせてごめん』と謝るんです。寅ちゃんは『自分が弁護した相手は、本当に弁護すべきだったのか』『自分の社会的地位のために優三さんと結婚してもらったことは正しかったのか』と自分を厳しく責め立てます。でも優三には、社会的な正解ではなくて、寅ちゃんの心の正しさを大事にしてほしいという思いがあって。『寅ちゃんは誰かのためにいっぱい頑張る人だからこそ、自分の人生をすごく大事にしてほしい』という優三の優しさが伝わるシーンになればいいなと思って、心を込めて演じました」

――切ないですね。

「思い出すだけでつらいです。悲しすぎて台本を読み進められないという経験は今まであまりなかったので、本当に素晴らしい脚本と巡り合えてよかったです。その上でお芝居に臨めたので、自分にとって大事なシーンになりました」

「一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」――「虎に翼」仲野太賀インタビュー

――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

「戦前は女性が社会に出て活躍することがこんなにも難しかったんだと、この物語を通して知り驚きました。女性たちが言葉にできない“ため息のような言葉”がセリフとして脚本に落とし込まれているので、痛快さもあります。法曹の世界を目指す女性の物語と聞くとすごく硬く聞こえますが、寅ちゃんも家族も登場人物みんなのキャラクターが豊かで、すごくユーモアにあふれた物語です。いろんな言葉や思いを背負った寅ちゃんの生きざまが見ている人の胸に響くと思いますので、一生懸命頑張っている寅ちゃんの姿を見届けてください」

――ありがとうございました!

【番組情報】

連続テレビ小説「虎に翼」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月〜金曜 午前7:30〜7:45ほか

NHK担当/Kizuka



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