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ブックディレクター・幅允孝「『映像の帯』が本を読んでみようという気持ちを起こさせる」――「理想的本箱 君だけのブックガイド」レギュラー放送スタート2024/03/30

ブックディレクター・幅允孝「『映像の帯』が本を読んでみようという気持ちを起こさせる」――「理想的本箱 君だけのブックガイド」レギュラー放送スタート

 そのお悩み、解決のヒントを本の中に見つけてみませんか? 選書家・ブックディレクターの幅允孝さんが、漠然とした悩みや好奇心に寄り添う本を3冊選書して紹介する番組「理想的本箱 君だけのブックガイド」が4月6日からNHK Eテレでレギュラー放送されます。過去3年間、特番として放送されていた番組で、ドラマやアニメなどの映像によって本の世界に入り込む「映像の帯」というオリジナルの演出が魅力です。

 レギュラー放送第1回目の収録は神奈川県立図書館で行われ、収録後に「理想的本箱」司書・太田緑ロランスさんと幅さんに取材。レギュラー化された喜びや、もっと気軽に本を楽しんでほしいという熱い思いを、お互いのコメントに共感し合いながら楽しそうに語ってくれました。

ブックディレクター・幅允孝「『映像の帯』が本を読んでみようという気持ちを起こさせる」――「理想的本箱 君だけのブックガイド」レギュラー放送スタート

さまざまな本の解釈を毎週視聴者の皆さんとシェアできるなんて幸せ

――レギュラー放送第1回目の収録を終えた感想を教えてください。

太田 「振り返ってみると、番組の初回放送(2021年)はデリケートなテーマだったんですよ。(吉岡里帆含め)3人とも緊張を感じる中で、視聴者の方にどんな言葉で伝えようかという話になりました。お二人の言葉選びは慎重で優しさがあふれていて、お会いしたその日から信頼することができました。その印象は約3年たっても深まるばかりです。番組スタッフさんとのチームワークもどんどん高まってきているので、またこのチームで収録することができてうれしいです」

 「選書テーマごとに本を3冊選ぶ作業は、ものすごく大変なんです。まずは一気に読み直しながら20タイトル以上の本を選び、そこから約10タイトルを番組スタッフさんに提案します。さらに『映像の帯』を制作する監督さんたちに3冊選んでいただきます。選び抜かれた本が番組で紹介されて花開いていく感覚がすごくありますね。それに、『理想的本箱』主宰の吉岡里帆さんもロランスさんも、私が選書した本を読まずに臨んでも大丈夫なはずなのに、お忙しい中でも目を通してくれています。読み深めることで自分との『結び目』を作って収録に臨み、意見を聞かせてくれます。さまざまな読み方がこの番組に集約されているようで楽しいです」

――4月からレギュラー番組になるお気持ちは?

太田 「得るものが多くて、新しい発見がたくさんあります。幅さんがどんな本を紹介してくれるのか、テーマを聞いていつも予想するんですけど、その予想を毎回気持ちよく裏切ってくださいますよね。王道の本だったり、斜め45度からスコーンとくるような予期せぬ本だったり、バランス感覚がすごいです。毎回の収録は皆さんと話しているうちに気付くことも多いですし、収録前に本を読んで解釈を考えたり、幅さんに聞きたいことを考えたりする時間もすごく楽しいです。さらに、これからは視聴者の皆さんと読書体験を毎週シェアすることができるなんて、なんて幸せなことなんだろうと思います」

 「毎回の収録、楽しいですよね。本を読む機会が減ったり、読みたくても読めなかったり、人と本の距離がどんどん離れてしまっている時代だからこそ、毎週定期的に見ていただくことで、本を読んでみようと思う気持ちを少しでもかき立てられるとうれしいです」

――お二人から見て吉岡さんはどんな印象ですか?

太田 「肝が据わっていて、ものすごく誠実な人です。『戦争が迫ってきた時に読む本』や『宗教に悩んだ時に読む本』のようなデリケートなテーマを扱った時に、自分が伝えられることは何か、自分の発言で傷つく人はいないかということを真剣に考えて、慎重に言葉を選んで伝えようとされていた姿が心に残っています。勇敢でもあり優しい人でもあり、すごく格好いいです」

 「ロランスさんがおっしゃったように、吉岡さんは『気骨の人』ですね。もう少し肩の力を抜いてもいいですよと思うぐらいです。毎回、真面目に本を読んで来てくださるし、さまざまなテーマに対して真剣に向き合ってくれます。すごく心(しん)がしっかりしている方です。主宰にあれだけ気合が入っていると、こちらも気が抜けないですね(笑)」

ブックディレクター・幅允孝「『映像の帯』が本を読んでみようという気持ちを起こさせる」――「理想的本箱 君だけのブックガイド」レギュラー放送スタート

「映像の帯」は知らないジャンルへ手を伸ばすチャンス

――「映像の帯」で本を見ることの魅力は?

太田 「本のどの部分を切り取ってどのように映像の帯にするのか、毎回工夫が凝らされているので楽しみです。今日の収録でも、想像していたものとは違う、面白い視点からのすてきな作品がありワクワクしました! 決して本の紹介ビデオや再現ビデオではないので、紹介した本を知っていたとしても、『映像の帯』だけ見ても全く別物として楽しめます」

 「『映像の帯』は本の内容を凝縮したような一つ作品になっていて面白いですし、『本を読んでみよう』という気持ちをふつふつと起こさせます。『自分の読み方とは違う読み方が多種多様にあるんだな』と、本を読む仕事をしている私でも面白いと思うぐらいなので、凝り固まった読み方を解きほぐすいい機会になるのではないでしょうか。『映像の帯』は『本を読んでみよう』という気持ちを起こさせますね」

――幅さんの選書についてはいかがですか?

太田 「すごく魅力的です。幅さんの物の見方は、共感できるところも多いですし、不意を突かれるところもある。バランスが本当に面白いです。3冊のうちだいたい1冊は逆説的なところから選ばれた本が入っているところも好きです。今日の収録のテーマの一つは『時間に追われている時に読む本』だったんですけど、1冊目に紹介された本が宮沢章夫さんの著書『時間のかかる読書』だったんですよ。なぜ1冊目に持ってくるのかを考えることによって、その本の深みも増します」

 「近所のおそば屋さんから『この本読んだよ』と言ってもらいました。今、日常会話の中で本のことを話す機会が減っている気がするんですよ。だからこそ、本を読んだことや感想を聞けるのは喜ばしいことです。番組への投稿など文章で伝えていただけると、面白かったところや印象に残ったところを読み深めることができるので、より楽しいですね。本に長く触れていると、どうしても読むジャンルや読み方が固まってきます。知らない作家や知らないジャンルはなかなか手を伸ばしにくいと思うんですけど、全く思い付かなかった本を手に取ることで、未知なる世界に手を伸ばすいいきっかけになればうれしいです」

この番組を「本を読む環境作り」に役立ててほしい

――本を読む環境作りも大事だと思います。いつもどんな環境で本を読んでいますか?

 「夜、ベッドやソファーに寝転びながらとか、お酒を飲みながらも多いですね。最近、京都と東京の2拠点生活を始めたんですけど、東京は時間の流れが速く感じるので『読まなきゃ』が加速し過ぎて、走り読みや斜め読みになってしまったり、プラクティカルな本ばかりになってしまって、壮大な物語に手を伸ばしづらいのが正直なところです。一方で、京都は東京と比べて時間の流れが遅く感じるので、長い物語もゆったり読むことができます。読書はある程度筋力が必要なので、久々に長いものを読むと全然進まなくて困るんですよ。でも、本の世界と現実の行き来が楽しくて(笑)。本を読む時間と環境を自分でうまく作ることは大事ですね。例えば、腹筋や背筋は家でもできるし、ランニングは家の周りを走ることもできる。それでもジムに行くのは、モチベーションと時間の確保が大きな理由だと思います。何に時間を使うか『時間の奪い合い』が激しい今の社会では、ある程度読む環境を整えて『読むぞ』という気を起こさせないとなかなか読んでくださらない。読書が日常の行為ではなくなりつつあることは残念な一方で、それでも読んでほしくて。ずっと本を読んでいる方にはそのまま継続してほしいですし、しばらく本から離れた方にはぜひ戻ってきてほしいという思いをこの番組に込めています」

太田 「最近は、午前中や昼間に時間を作って『読むぞ』という気持ちで読みますね。朝早く起きて、朝日が部屋に差し込む中で読むのと、夜に読むのとでは感じ方が全然違います。一日が始まった時の自分と、その日に起きた出来事を引きずっている自分では、集中力や内容の捉え方も違う。その時のマインドが読書に影響するので、シチュエーションを変えて読み直すようにしています。また、時間のある時に読むために積んである本があって、『どれから読もうかな、いつ読もうかな』と考えることも好きです。子どもの頃から本を読むのがすごく好きで、図書館で借りてきた本を読むのが楽しみでした。寝る時間になったら本を枕元に置いて、わくわくしながら眠りについていたことを思い出しますね(笑)」

――本を読みたくても読めない人へ提案があればお願いします!

太田 「音読をすると楽しいです。声に出して読んでみると、文章の意味が分かったり新しい考えに気付けます。目と耳のダブルで読むと理解がより深まります」

 「複数の本を並行して継続して読むのがいいですね。ご飯を食べる時って、その日の体のコンディションによって食べる物や順番を変えると思うんですよ。本もその日の気分に合わせて読んでいくのがいいと思います。それに、絶対に読まないといけない本ってそんなにないので(笑)。何かに気付くことができればいい気がします。あとは、本を売ったり、捨てたり、あげたり、貸したりすると二度と読まないので、よく見えるところに積んでおく『積ん読(つんどく)』がいいですね。私はトイレに積んであります。本は待ってくれるので、気長に本と付き合ってみてほしいです」

 選書テーマは視聴者から寄せられた中からピックアップされており、これまで「もう死にたいと思った時に読む本」や「同性を好きになった時に読む本」「もっとお金が欲しいと思った時に読む本」など、核心を突くようなテーマについて、真剣に、柔らかく取り上げてきました。どのような本が映像の帯となって紹介されるのか、幅さんの個性あふれる選書や、本好きの吉岡さん、太田さんの解釈、3人の仲むつまじいトークにも注目です。

ブックディレクター・幅允孝「『映像の帯』が本を読んでみようという気持ちを起こさせる」――「理想的本箱 君だけのブックガイド」レギュラー放送スタート

【番組情報】

「理想的本箱 君だけのブックガイド」
4月6日スタート
NHK Eテレ
土曜 午後9:00~9:29

取材・文/Y(NHK担当) 撮影/Kizuka(NHK担当)



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