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「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」2023/11/03

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

 NHKで放送中の「きょうの料理」(Eテレ=月・火曜午後9:00、総合=金曜午後0:20)。料理人や料理研究家を講師として招き、おいしい料理のレシピや役立つテクニックを24分の短時間で紹介する料理番組です。昨年の11月で番組誕生から65年となり、テレビ料理番組の最長放送記録としてギネス世界記録にも認定され、先日行われたギネス世界記録の授賞式の様子を含んだ特別番組が、11月3日にNHK総合で放送されます。

 放送に先駆け、「きょうの料理」で24年間司会を務め、軽快な駄じゃれでお茶の間を和ませる名物アナウンサー・後藤繁榮さんに番組の歴史や裏話などをお聞きしました。

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――まず、24年間を振り返ってみていかがでしょうか。

「24年間を振り返ると、時代の流れみたいなものが紹介してきたメニューにあるのかなと思っています。24年前も現在と同じように料理研究家の先生もいらっしゃっていましたし、管理栄養士の方もいらっしゃいました。でも、今と比べるとプロのシェフの方の登場が多く、定番料理はもちろん、プロのコツが詰まったバラエティー豊かなレシピも教えてくれたと思います」

――思い出に残っている講師の先生はいらっしゃいますか?

「番組の担当を始めてすぐの頃、ばあばの愛称で親しまれていた鈴木登紀子さんと撮影になった際、僕は料理を食べるのは好きですけど、自分では料理を作るわけではなく、何を質問していいのか分かりませんでした。いつも『はい! はい!』と相づちを打っていたところ、ばあばに『後藤さん、ぼーっとしていないで、何か質問でもしてみたら』と言われ、ちょうど落としぶたを入れて煮ものを作っていたところだったんですね。そこで、『今使っている鍋には専用のふたがあるはずですけど、なぜ一回り小さいふたで落としぶたをしないといけないんですか』と質問をしたら『いい質問よ。そういう質問を女子アナがすると、あの女子アナは何も知らないって苦情がかかってくると思うけど、こんなおじさんが料理のことを知るわけがないと思っているから、素朴な質問の方がいいのよ』とおっしゃって。『実は視聴者の奥さま方も落としぶたを使った方がいいけど、なぜおいしくなるのかはご存じでない方もいると思うから、そういう初歩的な質問をしてくれて助かったという方もいらっしゃるから、その線で行きなさい』と言われて、自分は料理ができなくても初歩的な質問を繰り広げればいいんだなと教えられました」

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――お得意の駄じゃれが生まれたきっかけを教えてください。

「こちらもばあばに『少しは手伝ってちょうだい』と言われ、『何を手伝ったらいいですか?』と尋ねたら『あそこにこしょうの瓶があるでしょ。それを鍋に振ってちょうだい』と言われて一生懸命振ったんですけど、こしょうが出ず、ばあばに『後藤さん、ふたをしたまんまじゃないの』と言われ『故障(こしょう)しているのかと思いました』と返したのが初めての駄じゃれでした。その時にいた3人のカメラマンの方たちが肩を揺らされていて、フロアディレクターの方が口を押さえて突っ伏して必死に笑い声を出さないように耐えていて、それを見たばあばが『後藤さん、駄じゃれが受けたみたいよ。お茶の間でご覧になっている方も、和むかもしれないわね』と言ってくださり、“そうか、駄じゃれを挟めば、お茶の間をほっとさせられるんだ”と言い始めたのがきっかけで、今も続いています。でも、駄じゃれが苦手な方もいらっしゃるので、今日は言い過ぎたかなと、プロデューサーの顔色をうかがいつつ撮影をしています」

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――「きょうの料理」を担当してから今までに変わったことはありますか?

「実は昔、料理の勉強をやりかけたことがあったんです。ところが人間って悲しいもので、練習するとそれをアピールしたくなるんです。『先生、知っています。この間やったから分かっていますよ』みたいものがにじみ出ているのに気が付いてしまい、料理の勉強をやめてしまいました。いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――料理初心者として反響はあったのでしょうか?

「以前、フランス文学者の鹿島茂さんがエッセーに僕のことを書いてくれたことがあって、そのタイトルが『おままごとボーイ』というタイトルでした。鹿島さんのお宅の奥さんとお嬢さんの2人が『きょうの料理』をよく見てくださっているみたいで、僕が出ている回は喜んでボリュームを上げて見てくださっているそうです。それを見た鹿島さんは『このアナウンサーは料理が得意でもなさそうなのに、なぜうちの家族は後藤さんが好きなんだろう』と分析してくださって、これは小さい頃、おままごとで女の子にモテる男子と同じだなと書いていました。男の子はおままごとの時は料理しませんよね、『いい匂いがするね』『おいしい料理だね』と反応すると、おままごとをする女の子たちはとても気分がいい。これをおままごとボーイと名付けてもいいんではないか、みたいなことが書いてあったのを記憶しています」

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――好評意見ばかりだったのでしょうか?

「実は、消しゴム版画家のナンシー関さんにも『料理素養なしおじさん』と書かれたことがあって、20分で1汁3菜を作るという中、先生もテンパっていらっしゃっていて、料理素養なしおじさんが足を引っ張っているという言葉が書いてありました。最後の結論に、話し相手がいるというのはとても大切なことと書いてくださっていました。ナンシー関さんは辛口でバッサリ切るので、むしろ料理素養なしおじさんぐらいで良かったなという笑い話になりました」

――番組の魅力はどんなところにあると思いますか?

「アナウンサーをやっていると、コミュニケーションの大切さを考えさせられるんですけども、料理はそこにあるだけで会話のきっかけになるというのをいつも感じています。いつもはろくに口を利かない高校生の娘が喜んでくれて、久しぶりに会話が生まれたとかそういった声を聞いて、すごく大切なツールになると思っていて、その手助けができるというのが魅力だと感じています」

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――収録後に講師の皆さんとコミュニケーションを取ったりしているのでしょうか?

「収録も2本目があったりすると、すでに次の先生が来ていたり準備が忙しかったりするので、ゆっくり会話をする時間がないですね。でも、収録が時間内に収まると、出演者同士で『やったね!』みたいな空気になります。編集をほとんどしない収録スタイルで、私も先生も時間を一番気にしているので、ぴったり収まるとハイタッチするぐらいの気持ちで喜び合います」

――印象に残っている料理はありますか?

「ばあばの大茶わん蒸しが印象に残っています。普通は1人前ずつ容器に入れてますけど、15㎝ぐらいの器に入れて家族のみんなで食べる。僕の頭の中では1人前ずつ食べる料理というイメージがあったので、みんなで分けて食べましょうと出された時は、食卓が盛り上がるだろうなと衝撃を受けました。きっと味は同じなんでしょうけど、喜びや楽しさから違うおいしさがあるんだろうなという感じがしました」

「きょうの料理」で24年間、料理初心者として活躍を続ける後藤繁榮アナにインタビュー「いつまでも初心者の立場でいることを大切にしています」

――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

「食は命という言葉がある通り、命を支えてくれる大切なものです。それに加えて、コミュニケーションのきっかけになる力を持っています。なので、家族と一緒に住んでいても住んでいなくても、家族でも友達でもいいので、誰かと料理を作って楽しむということをぜひ試していただきたいです」

【番組情報】

「きょうの料理~65年続けたらギネス世界記録に認定されましたSP」
NHK総合
11月3日 午前11:20~11:54

NHK担当/S・A



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