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「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」2023/10/31

「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」

 ハリー杉山さんがPR大使を務める「第50回日本賞」の記者会見が10月24日にNHK放送センターで行われました。「日本賞」は世界中の教育コンテンツの質の向上に貢献するために、NHKが1965年に創設。第50回を迎えた今年は、世界55の国・地域から391の作品と企画が寄せられ、そのうち34作品がファイナリストに残り、ティーンエージャーの性の悩みや多様な家族の形、パレスチナの子どもたちが向き合う現実など、今考えるべきテーマを反映した4部門の最優秀賞4作品から、「グランプリ日本賞」が11月23日に決定。今年はどの作品が獲得するのか、注目が集まっています。

 第47回から授賞式の司会を務め、第50回のPR大使に就任したハリー杉山さんが、自身の人生観を変えたという大会への意気込みを熱く語ってくれました。

――杉山さんにとって4度目の日本賞、ずばり魅力を教えてください!

「日本賞は自分の人生観を変えてくれました。映像を通して、世界情勢や日常の出来事を自分の目で見て感じ、究極に学ぶことができます。世界各国の老若男女の日常を映す映像は『あなただったらこういう場合どうしますか?』と語りかけられているようで、“考えること”や“知ること”ができたおかげで大きな刺激をもらい、自然と広い心とグローバルなビジョンを持つようになりました」

――多くの作品をご覧になったと思いますが、世界各国の作品と日本の制作物との違いはありますか?

「海外の作品はものすごくリアルで親近感を持てる作りになっているので、鑑賞後に具体的にアクションを起こさせる力がずば抜けて高いと思います。一つ一つ心に突き刺さるようなメッセージが必ず含まれているのです。今回の幼児向け部門(0-6歳)最優秀賞作品『スメッドさん一家とスムーさん一家』はクリスマスにイギリスで驚異の36%の視聴率をたたき出したんです。この国の方が長けているという話ではなく、本当に日本賞に集まる作品が、それぞれの国を代表するトップクラスの教育コンテンツであり、エンターテインメントでもあり、どれも自分の心の中にずっと残る作品です。ほかに、一般向け部門(18歳以上)最優秀賞作品『トゥー・キッズ・ア・デイ』(イスラエル)を見ました。この作品はユダヤ系のイスラエル人の監督が作られたドキュメンタリーで、今、大きく報道されているガザ地区とヨルダン川西岸地区での衝突の話です。パレスチナ人の子どもたちがイスラエル軍に小石を投げたりする日常の中で、毎年700人、つまり、1日に平均して2人の子どもがイスラエル軍に逮捕されて拘束されています。その事実の数字がタイトルになっていて、痛切に問題提起をしています。見終えた後、画面から『現場に行ってみて自分の目で実際何を感じるか確かめてみたら?』という声が聞こえてきました。父親がジャーナリストで、子どもの時から世界各国の最前線に連れて行ってもらっていたので、新聞記者の息子の血が騒いだのか、メッセージ性が強過ぎてそう受け取ってしまったのかは分からないんですけど。危ないから行くことは不可能なのですが…。過去の作品でもそういった強い魅力にあふれる作品が多かったです」

――それは作品の優劣ではなく、日本と比べてメッセージ性がはっきりしていて、制作者の意図が強く出ているということでしょうか?

「はっきりしていて鮮烈ですね。イメージとしては、シャツの襟をつかまれて『こういうことなんだよ! これに対して何も知らなかったの? 意見はないの?』って詰め寄られている感じです。見た後、その場ですぐ誰かとディスカッションをしたくなるくらい、とても強いです。僕は11歳からイギリスで教育を受けているのですが、イギリスに行って衝撃だったのは、どんなトピックであろうと、英文学、歴史、ラテン語、フランス語であろうと、学んだ後に先生が『あなたはどう思うの?』と投げ掛けてくるのです。11歳の時から、自分の意見をしっかり言わないとクラスの中で変な序列が生まれるので、必然的に意見を言っていました」

――多くの魅力的な作品がある中で、「これ!」といった作品に出合いましたか? それは杉山さんの人生を変えたり、感情を動かすものでしたか?

「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」

「たくさんあったのですが、特に『スメッドさん一家とスムーさん一家』(イギリス)を母親と一緒に見たいと思いました。母親だったらこのアニメーションを通して何を感じるのかと。ストーリーの話をすると、現代版の『ロミオとジュリエット』で、全身赤色のスメッドさんファミリーと全身青色のスムーさんファミリーは、生まれた時から相手と話しては駄目と言われて育ちます。『never never play with them』『絶対あいつらと遊んじゃ駄目。絶対あいつらと結婚しちゃ駄目だよ』というフレーズが何度も何度もリピートされます。というのも僕自身、父親がイギリス人で母親が日本人です。歴史を振り返ると、第2次世界大戦では日本とイギリスは戦っています。僕が初めて渡英した時は、クラスメートだったり、町を歩いているおじいさん、おばあさんに、いつ何時も戦争のことを話されてきました。日本人とイギリス人の血が流れる僕に対して色眼鏡で見られることは多く、十字架のようなものを背負ってきました。父方の祖父は軍人だったので、変な話、祖父同志で戦った可能性もあるわけです。その完全アウェーな環境で暮らし続けていた母親は、この映画を見て何を感じるのかと興味深いです」

――家族のバックグラウンドや歴史をも考えさせられる番組なのですね。

「子どもの時にもしこの作品を見ていたら、もう少し気持ちが楽になったかもしれません。イギリスだけではなく、アフリカの部族同士の争いであったり、パレスチナ人とユダヤ人の関係であったり、世界各国の争いの地で上映会をしたら、お互いどういう気持ちが生まれてくるのかな」

――このような教育番組の見方、また見どころは何でしょうか?

「番組を見ることで、より広い心で人と触れ合い、人の話を聞く機会をもたせてくれると思います。僕は、20代中盤までは人の目を通して世の中を見ることはできませんでした。両親や僕のことを大切に思ってくれている人、事務所のスタッフ、共演者だけでなく、例えばコンビニで出会った店員さんの目を通すと日常がどのように見えているかを知ると、人生観ってものすごく変わるんですよ。心がどんどん広くなるし、シンプルに言うとより面白くなる。そういう広い心を持たせてくれる作品がこの大会ではあふれています」

――ここ3年くらい、審査員が“エンパシー(empathy)”=共感を育む番組かどうかを大切にして審査しています。そのような話に通じることでしょうか?

「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」

「そうですね。“シンパシー(simpathy)”=同情は、かわいそう、大変だねと、どこか人ごとなんです。一方、エンパシーはその人と同じ感情の波を取って、その人の思いを受け取り、相手の立場に立つことなんです。審査基準の中で、エンファサイズ(共感する)できるかどうかが大切になってきます」

――児童向け部門(6-12歳)の最優秀賞作品「小石の丘」はどのような印象を持ちましたか?

「この作品はフランス制作で、手書きのタッチのようなデッサン風のアニメーションになっています。スイスのアニメーション監督、マージョレーヌ・ペレトンさんが、ヨーロッパで大きな社会問題になっている難民について、子どもたちにも関心を持ってほしいと考えて作りました。洪水で住む場所を失ったとがりネズミの家族を難民になぞらえて、ロードムービー仕立てで構成しました。環境問題と難民問題という二つの社会的な課題を盛り込んでいるので、一見お説教っぽくなりがちなのをアニメのタッチにしておしゃれで分かりやすくすることで、子どもたちの心にスッと入ってくるんです。素晴らしい作品でした」

――最後に杉山さんが気になっていたタイトルにハートを付けた作品「ライク♡ミー二度目のチャンス」(青少年向け部門(12-18歳)最優秀賞)はいかがでしたか?

「こちらは非常にハイクオリティーな作品です! ノルウェー公共放送が制作したティーンエージャー向けのドラマになります。すでにノルウェーでは7シーズンにわたって放送され、その中の1エピソードが今回出品され、最優秀賞に輝きました。扱われているテーマがティーンエージャーのセックスなんですよね。制作者の方が、今の若い子たちがセックスを学ぼうと思うと、ネット検索をするとポルノしか出てこない現状に非常に心を痛めてこのドラマを作ったのが始まりです。ノルウェーの性教育では避妊までしか教えてくれなくて。ではどうやって安全に、お互いの同意を持って行為に及べばいいかを作品の中で真摯(しんし)に伝えています。性の問題は全世界共通で、人間としてごく当たり前のことであるからこそ、より深く、より分かりやすく、タブーとしてではなく、ためらいもなく話せるトピックになるべき。そのためにこの番組は必然だと思います」

――杉山さんはイギリスで性教育を受けたとのことですが、どんな教育でしたか?

「イギリスでもほぼノルウェーと同じで、避妊の仕方までが教育の内容でした。性の問題は全世界共通で、ただ僕は深いことを話すと、父親から大事なことを教わっています。父親は結構細かく、例えば、ちゃんと相手の目の奥を見て、ここをどういうふうに感じているのかなど、相手をいかに安心させる言葉やフィジカルのアプローチなどを何から何まで僕が10代の時に教えてくれました。ドラマ内でも主人公と父親の同じようなシーンがあるのですが、その瞬間はすごく気まずいんですよね。でもその恥ずかしさを乗り越えると、さらなる絆というものが父親と生まれる。このシーンを見て、すごいすてきな関係性だなと感じ、これこそが究極の教育だと思いました」

「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」

 ファイナリストに選ばれた作品の中には、女性のための避妊法を教える番組や、女性に対する性暴力に声を上げようというドキュメンタリーや教育番組もあります。杉山さんがお話されたように、世界的な一つの共通認識として扱われている問題がファイナリストに残っている理由だといいます。

 そして、11月23日に「グランプリ日本賞」が決定します。ティーンエージャーの性の悩みや多様な家族の形、パレスチナの子どもたちが向き合う現実など、今日的リアルなテーマを反映した四つの力作から、どの作品がグランプリを獲得するのか、ぜひご注目ください! 11月20日~23日に、東京・原宿のWith Harajuku Hallにて最優秀作品の上映会があります。足を延ばしてご覧になり、周りの方と意見を交換してみるのはいかがでしょうか。なお、映像祭前日に前年度“第49回グランプリ作品”を放送。

【番組情報】

アニメーション映画「ドゥーニャとアレッポのお姫様」(カナダ制作)
Eテレ
11月19日 午後3:45~5:00

「日本賞」のPR大使を務めるハリー杉山「僕の少年時代にこの作品に出合っていたら…」

 内戦によって祖国シリアを追われ、難民となった6歳の少女ドゥーニャの旅路を描くアニメーション映画。シリア難民の子どもたちへの取材を基に、彼ら彼女らの実体験とファンタジーとをかけあわせた、希望と勇気あふれる物語。

取材・文/NHK担当 平野純子



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