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「麒麟がくる」脚本家・池端俊策が絶賛。「長谷川博己さんは光秀役のためにいる人」2020/01/26

 ついに、大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合ほか)が始まりましたね! 戦で初めて鉄砲を目にした明智光秀(長谷川博己)が斎藤道三(本木雅弘)に掛け合い、京へ向かう姿を見て、いよいよ光秀の物語が動きだすのだなとワクワクしました。まだ何者でもない若者が、どのようにして織田信長(染谷将太)と出会い、「本能寺の変」を起こす人物となっていくのか。これから1年間、楽しませてくれる本作を執筆されている脚本家・池端俊策さんにお話を伺いました!

──まずは、明智光秀を主役にした物語を作ることになった経緯を教えてください。

「戦国時代の後半ではなく、前史を描きたいというオファーがNHKさんからありました。僕は、以前描いた大河ドラマ『太平記』で室町時代を作った足利尊氏を描いたので、室町幕府の最後の将軍・足利義昭を描きたいという気持ちはあったんです。義昭と関係が深いのは織田信長なのですが、散々大河ドラマでやられているので…。そうしたら、大河ドラマ『国盗り物語』でやったけれども斎藤道三はどうかという打診があったんです。全く違う斎藤道三をやってみると、そこから信長も見えてくるし面白いとも思ったんだけれど、道三は早く死んじゃいますから…。その後、『明智光秀というのもありますね』と言われて。光秀は僕もやりたかったし、信長と義昭をつなげたのは光秀だという説があるのでそこに飛びついたという感じです」

──光秀は資料が少ないということですが、脚本は作りやすいのでしょうか? それとも難しいのでしょうか?

「光秀を描こうとした時に、若い頃の資料が全くなくて。信長と義昭を結び付ける人物として41歳に登場してくるまでは全く分からない。ドラマは作るもので、研究結果を発表する場ではないので、生まれてから41歳まで何をしていたのかを考えるところから出発しました。光秀は誰も見たことも会ったこともない人物ですから、ある意味自由なわけです。江戸時代の書物では、光秀は頭がいいんだけど陰湿で繊細すぎて信長とソリが合わなくていじめられて、最後は本能寺に突入したことになっています。これは、徳川家康側から見た光秀で、逆賊であるという発想からスタートしているんですが、それは違うんじゃないかなと。もっと客観的な光秀がいたはずで、それはどんな顔をしていて、どういう人物だったのだろうかと考えて想像するしかないんです。僕は今までの光秀像を白紙にして美濃というところで生まれ育った人間が何を考え、どんな風景を見たのだろう。自分が光秀だったらどう感じるかを考えて、道三や信長と会った時の出会いを描いていく。その時の受け止め方やリアクションから光秀像を導き出しています」

──あまり資料がない光秀に興味を持ったのはどうしてですか?

「子どもの頃は映画少年で、親に連れられて映画館に足を運んでいました。その時に初代松本白鸚さんが演じていた光秀を主役にした映画『敵は本能寺にあり』(1960年)を見たことがあるんです。暗い感じがしたけど、『光秀はいい人だ』と感じました。後にいろんな本を読むと光秀はよくない人物として描かれていたんですけど、子どもの頃に見た印象があったので興味がありました。また、僕はひねくれ者で裏街道を行く人が大好きで、今までも裏道を歩く人たちをずいぶん描いてきたつもりなんです。戦国時代で裏街道を歩いた人というと、光秀は代表的な人なんです。『本能寺の変』は大変な事件であの時代では一番大きな事件だっただろうと。そうするとそれをやった張本人ですから、面白いだろうというのが僕の中にありました」

──光秀の人物像は白紙にして考えていくしかないとのことでしたが、光秀の性格はどのように描かれるのでしょうか?

「人間のいいところや悪いところを複眼的に見ることができる力のあった人だろうと思います。信長とつながった人はみんなそうですけど、『この人(信長)はいけるな』と判断を下した人たちばかりが来ているんですよ。光秀もそういう人を見る目はあったろうと。ほかにも、たまという娘がいて、熙子(木村文乃)という妻との夫婦仲も良かったであろうとか、いろんな予測はついて、やはり優しい人だったろうなと思います。信長と光秀の関係を見ていくのがこの話の軸で、信長とはどういう感じの付き合い方だったかというのを書いているんですけど、光秀も信長もナイーブで優しいところがあるんです。頭が良くて猜疑心が強くてというかつての光秀のイメージは拭い去って描いています」

──脚本は順調ですか? それとも苦労されているのでしょうか?

「著名な戦国武将たちと光秀がどのように関わっていくのかを描くのは、戦国時代を探訪しているような感じがあって非常に楽しいです。今まであったイメージをちょっとずつ自分なりに解釈をして、変えて書くというのはとても楽しくて。歴史上それぞれの人物がやったことははっきりしているけど、点をつなぐ線はこちらが自由にやれるんです。戦国時代はいろんな人が出てきて人物図鑑みたいなところがあって、それを一つ一つ塗りつぶしていくという楽しさがあります」

──光秀にとって重要な関わりのある道三の人物像についてどのように考えていらっしゃいますか?

「道三の父親は、油売りの商人から身を興して美濃の偉い人物に成り上がった人物です。室町時代が崩壊し、価値観が多様化して幕府が無力化されていたからこそ、一介の油売り商人が美濃の国を牛耳ることができたんです。従来の道三のイメージは、自分の力でのし上がり、1代で築いたことになっていますが、現在は、親子で一つの国を牛耳ったという研究結果があります。そうすると、野心だけで生きてきた人ではなく、父親が手に入れたものを守る部分があったのではないかと思います。僕が面白いなと思ったのは、非常にケチだったというところです。父親が築いたものを人に分け与えるのは嫌だという。道三は父親の代から争っていた美濃の守護大名・土岐家をねじ伏せ、うまく利用してお飾りにしちゃう。父親がやったことを完成させる人で、よくできた2代目なんですよ。だから、狡猾(こうかつ)だけれども身内に対する愛情もあって、子どもを何とかうまく育てたいと思うけど、うまく育っていないという親としての悩みがある。野心一筋で生きた人ではないように描きました。もちろん獰猛(どうもう)なところもありますよ。自分を守るためには、ほかを殺さなければいけないそういう瞬間があるわけで、それも描いています。光秀は道三に対して、『こいつケチだな』とか『渡すものを全然渡さない人だな』と思いながらもついて行こうと思った。道三が息子の高政に滅ぼされるまでついて行こうと思える魅力があったんだろうと思って描いているつもりです」

──では、信長についてはいかがでしょうか?

「道三の出戻りの娘・帰蝶(川口春奈)が信長に嫁ぐんです。ということは、光秀は一族なんですね。道三に嫁いだ正妻が光秀の叔母だという説に沿って描いているので、帰蝶はいとこなんです。いとこが信長の奥さんになっていくわけです。この帰蝶との関係も面白いなと思って描いたんですけど、その帰蝶が嫁いでいく信長ですから縁浅からずというところがあるわけです。自分が子どもの頃から知っている帰蝶がお世話になるわけですから、尾張に行って信長のそばにずっといるわけではないけれども、帰蝶を通じて信長という人間を見ていくわけですよね。信長という人物は散々描かれていて、スーパーヒーローですけれども、弟殺しをやっていますよね。それに異端児でそばにいた平手政秀も信長をいさめるために腹を切ったといわれているけれども、それは違うだろうと。自分なりに考えた結果、母親(土田御前/檀れい)に愛されなかった男というのが浮かび上がってきました。母親は弟・信勝(木村了)を大事にしていて、信長が信勝を殺そうとした時に母親が命乞いをしたことも残っているんです。信長は正室の長男なのに弟を母親がかばったというのはどういうことなんだと。弟殺しというのはどういうことで出てくるんだろうか。権力争いでやむを得ず殺すこともありますが、家族を殺すということですからよほどのことがあるわけで。父親(織田信秀/高橋克典)からどれくらい愛されたかは分からないですけれども、少なくとも母親から愛されなかった男の子というのは、なんとなく想像がつくんです。コンプレックスの裏返しとして異端児のようにふるまう、つまり不良少年ですね。そういうふうに幼児期を育った暴れ者だと考えると気持ちが繊細な人だろうと思います」

──そんな信長が帰蝶と夫婦になるのですね。

「帰蝶は道三の娘で道三は“マムシ”と言われるくらいにおそれられた人なんです。それの娘ですから、はんぱな娘じゃないんです。この娘が入ってきた時に信長はどう受け止めただろうかというのは、そこも信長を考えるよすがになりました。お嫁に来た帰蝶がいつ消えたかはっきりしていないけれども相当大事にしたのは間違いない。側室が産んだ息子を帰蝶に育てさせているので、信頼関係は相当あっただろうと。帰蝶は信長にとってお母さんだなという直感みたいなものがあって、母親に愛されなかった男が帰蝶という母親を手に入れて、その帰蝶のはるか後ろに光秀がいるという構図が僕の中で徐々に出てきたんです。そう考えると非常にナイーブな信長が出てくるわけです。今までのような、強直で独裁者ふうで偉大な信長ではないんじゃないかと。ただ、人間というのは変貌していきますから、権力を手に入れると変わっていくし、年齢を経ると人間はみな変わりますから、変わった結果どうなったのかはまた別の話ですね。ただ、基本ベースの幼い頃はこういうことで、それは後々必ず影響してくるはずだということを考え合わせながら育てていこうと思っています」

──光秀を演じている長谷川さんの印象はいかがでしょうか?

「長谷川さんは『夏目漱石の妻』(NHK総合)で夏目漱石役を演じていただいて、とてもすてきな俳優さんだなと思いました。繊細で誠実で優しさがあるけれども、どこか殺気と緊張感がある人ですね。多くの人が『ぴったりだね』というのは、従来の光秀のイメージから長谷川さんをぴったりだとおっしゃるんでしょうけど、僕は暗い光秀じゃなく、透明感があって人の中をずっと探訪して歩いていく、当時の人間たちを洞察して一気に躍り出ていく41歳から十数年を生きた人として合っていると。最初に言いましたけど、僕自身がこの時代に生きていたらどういうふうに思うだろうか。いろんな人物とどういうふうに接するだろうかと考えながら作ってきたんですけれども、長谷川さんに似たものを感じるんです。繊細に周辺を見渡して、透明感を持って緊張感を持って生きていくというのが長谷川さんだよなと。撮影を見ていても、一見受け身のようなんです。道三はどんどん攻め込んでくる役だし、信長だってアクティブですから。光秀は絶えず相手を見ているけど、ただの受け身ではいけない、必ず気持ちの中で何かを返している。道三とのやりとりを撮影で見ていて『いい感じだな』と。突っ込みの道三と受けの光秀の芝居が成立して非常にバランスがいいと思いました。長谷川さんは光秀役のためにいる人だと思っています(笑)」

──「本能寺の変」をどのように描こうというプランはすでにあるのでしょうか?

「全体のアウトラインは僕の中にあります。最初は手探りでしたけど、ようやく『本能寺の変』はこうあるべきだというのが見えてきました。できているけど、言いません(笑)」

──ありがとうございました!

 池端さんには「本能寺の変」の構想がすでにある!ということで、それがどうなるのか気になるところですが、来るべき日を楽しみにしましょう。

 さて、1月26日の第2回では、燃えさかる火をくぐり抜け、少女を助けた光秀に心を開いた医者の望月東庵(堺正章)と助手の駒(門脇麦)は光秀とともに美濃へ向かうことになります。しかし、その行く手には、尾張の織田信秀が侵略をもくろみ、大軍で美濃に迫っていました。斎藤道三は、光秀と道三の嫡男・斎藤高政(伊藤英明)が反対する中、籠城を決めます。道三の策は吉と出るか凶とでるか…。

【番組情報】 

大河ドラマ「麒麟がくる」 
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K 日曜 午前9:00~9:45ほか
NHK BSプレミアム 日曜 午後6:00~6:45

NHK担当 K・H

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