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「24時間テレビ45」SPドラマ「無言館」監督兼脚本・劇団ひとりが語る作品への思い 「反戦ではなく、画学生、遺族、窪島さんの思いを焦点に台本を書き上げた」2022/08/26

 日本テレビ系で8月27~28日放送の「24時間テレビ45」内で放送されるスペシャルドラマ「無言館」(27日午後9:00ごろ)。長野県上田市に実在する美術館「無言館」を題材に、太平洋戦争で命を落とした画学生が残した絵を集めるため、全国を駆け巡った窪島誠一郎氏の姿を描く。「無言館」には、実際に窪島氏が集めた戦没画学生らの絵が展示されており、出征直前の限られた時間でも絵を描き続けた若者たちの思いを守り続けている。

 主人公の窪島役を浅野忠信が、「無言館」設立のきっかけとなり、窪島のよき相棒となる洋画家の野見山暁治役を寺尾聰がそれぞれ務め、ベテラン俳優の確かな演技力が物語を彩る。そして監督兼脚本は、映画「青天の霹靂」(2014 年)、「浅草キッド」(21 年)を手掛けた劇団ひとりが担当。劇団ひとりが地上波ドラマの監督・脚本を務めるのは今回が初めてだ。

 作家や映画監督といったマルチな才能を見せる劇団ひとりだが、戦火に散った若者や遺族の思いというセンシティブな題材を扱うドラマの撮影に、どのように挑んでいるのか。作品を作り上げる際に重視した事柄や撮影の裏側などについて話を聞いた。

――今回、「無言館」の監督・脚本のオファーが来た時にどう思われましたか?

「オファーの段階では、どのような話を題材にするか決まっていなかったです。そのため企画の段階から制作に関われたのは楽しかったですし、貴重な経験でした」

――企画段階からの参加とのことですが、さまざまな題材の中から「無言館」を取り上げた理由をお伺いしたいです。

「複数のテーマの中で、『無言館』が一番魅力的でした。戦没画学生たちの画集を見た時に絵の強さも感じましたしね。当初は『無言館』を知らなかったのですが、絵や建物の雰囲気に魅了されました。今回のオファーを受けた時は、ロシアとウクライナのニュースばかり流れていました。僕自身が戦争について考える時間が増えた時に、戦没画学生の存在、そして『無言館』に出合いました」

――どうしても「戦争」を意識してしまう時期でしたね。

「はい。ただ、実際に窪島さんの著書を拝見した時に、『美術館は反戦をテーマにしたものにしたくない』と書かれていました。『あくまで学生たちの絵を楽しんでほしい、絵と戦争は直接的に関係のないことだから』と。窪島さんにお会いした時も『自分の活動を美談にはしないでほしい』と話されていたので、反戦というメッセージを持つ内容にはならないように気を付けました。もちろん、戦没画学生を扱うと戦争に触れることは避けられないのですが、それを前面に出してプロパガンダにはならないように配慮しました」

――脚本を書き上げるにあたり参考にされたものは何ですか?

「参考にしたのは主に窪島さんの本です。窪島さんはいろいろな著書を出されているので、資料に困ることはなかったです。逆に読むのが大変なくらい情報がありました。窪島さんはパーソナルな部分もとても面白い方です。その部分を描くべきか、『無言館』の設立にあたって絵を集めていく活動を中心に描くべきか、とても頭を悩ませました。窪島さんは戦後、かなり数奇な運命をたどっていまして、実際に過去にもドラマになっているくらい窪島さんの人生はすごいものでした」

――窪島さんの人生や人柄にも魅力的な要素があったのですね。

「企画段階でこんなに情報があるので、ドラマ化には困らないと思っていましたが…。逆に、パーソナルな部分を描いた上に『無言館』の設立に触れると、2時間では収まらないなと感じました。連続ドラマにしないと描き切れないと思ったので、今回は『無言館』だけに焦点を当てることにして、窪島さんのドラマチックな生涯は泣く泣く取り上げないことに決めました」

――描きたい部分を諦めるのはつらいですね。

「そうですね。ただ、取捨選択をしたおかげでとてもスッキリとした台本になりました。戦没画学生の絵を大事にしているご家族の方、そして、その絵を預かりに行く方々の姿と思いに十分に焦点を当てることができたのが良かったです。窪島さんの著書では、窪島さん自身が『何でこんなことをやっているのかよく分からない』と書いてあります。『なぜか分からないけど使命を感じる』と…。絵を実際に集めていく中で、自分の行動に意味を見いだしていく。意味を見いだしてから動くのではなく、動いていくうちに分かってくる…。そういう部分を台本に反映しました」

――台本でも窪島さんの心の動きが細かく描かれていると感じました。

「戦争は悲惨で醜いものですが、自分の絵に向き合った画学生、その絵を守ろうとするご家族、その絵を引き継いでいこうとする窪島さんの思いは、戦争とは対照的にとても美しいものだと感じましたので、その美しい部分を中心に台本を書き上げました」

――窪島さんや野見山さんは戦争を肌で感じてきた世代です。対して、ご自身や主演の浅野さんは戦争の実体験がない中で、今回の作品を作り上げる際にギャップを感じましたか?

「戦争の過酷さなどは経験したことがないからこそ、想像するしかないですよね。分からないという言葉で片付けたら終わりですから。さまざまな本を読んで、人の話を聞いて想像するしかないですね。『自分の家族が過酷な運命に翻弄(ほんろう)されたら…』というふうに…。想像して感じた思いを引き継いでいくことが、戦争を繰り返さないことにつながると思います。体験していないから人の痛みを想像できないとなると、同じ悲劇を繰り返してしまう。今回のドラマを見て、子どもたちが何かを感じて『無言館』を訪れて、自分たちで想像して考えるようになってくれたら思います」

――戦没画学生の絵を見た時はどのように感じましたか?

「絵は魂を込めた作品で、実際に目の当たりにすると何かが宿っていると感じました。描いた時の空気感も伝わり、絵の先に実際の風景が見えることもあります。だからこそ、この絵を渡したくないというご遺族の気持ちが理解できます。自分の子どもや兄弟の存在を感じられるものですしね。たくさん絵があるのですべての作品にスポットを当てることができないのが残念ですが、扱う絵に関しては、しっかりとしたライティングを当てないと失礼に当たると思いました」

――絵から画学生の特別な思いが伝わってきたのですね。

「窪島さんの著書でも書いているのですが、戦没画学生は絵を描くことが好きで喜んで描いています。戦争という現実はあるのですが、絵を描いている瞬間がとても楽しいということが作品から伝わってくる。家族の一番楽しい瞬間が伝わるから、遺族も絵に対して特別な思いを抱きます」

――浅野さんの様子や演技についてお伺いしたいです。

「脚本の段階でさまざまな想像を膨らませながら執筆をするのですが、現場に入ると自分が想定していた以上の演技が見られます。浅野さんの演技は多分にそれがありますね。そんなに長く見せる予定がないシーンでも、浅野さんの表情は登場人物の心情をよく表現してくださるので、想定より長いカットになるということが多いです」

――大地康雄さんや笹野高史さんなど、脇を固める俳優も実力派ばかりですね。

「今回は名俳優ぞろいです。現場の演技の指示は微調整だけですね。おそらく、出演者の方たちの得意ジャンルのお芝居をしていただいているので、画には困らないです。逆に、表情だけで演技ができる方たちばかりだから、寄りが増えちゃうかも(笑)。ベテランの方たちはカメラが寄った時の表情に哀愁があるので、今回の作品は役者さんの力が存分に見える作品になると思います」

――戦争で亡くなった画学生とその恋人に、影山拓也さんと八木莉可子さんを起用した理由を教えてください。

「影山さんは昭和の好青年を演じられる雰囲気を持っているので起用しました。八木さんは、日本テレビのエレベーターに小さいテレビがついていて、そこで八木さんのCMが流れているのを見て、この人だと直感しました。CMを見た後に出演している人は誰かを調べて八木さんと分かりまして…。すぐにオファーを出して快諾していただきました。2人ともすごく初々しく、純粋さが演技からも伝わってきます。演技もセリフだけでなく目の動きも意識していますし、期待できます」

――演出を指示するのも楽しそうですね。

「普段なかなか接点を持てない出演者の方が多く、その方たちの演技を見られるのはとても楽しいし、刺激的でした。ベテランの俳優の方たちは僕の考えをよく聞いてくれます。寺尾さんも『気になったことがあったらどんどん言ってくれ』とおっしゃってくれましたし、浅野さんも僕のイメージをくみ取り、納得するまで付き合ってくださいました。僕のような新米監督の意見なんか聞いてくれないと思いましたが、杞憂(きゆう)でした。皆さん本当に寛大で、純粋に良い作品を作るということに妥協せず協力していただき、感謝しています」

――ありがとうございました。

 当初は、学生が描いた絵に価値があるのか懐疑的だった窪島。しかし、戦争という過酷な運命に翻弄されても絵を描き続けた画学生、その絵を守り続ける遺族たちの姿を目の当たりにし、窪島の心境は徐々に変化していく。人間の繊細で複雑な感情を浅野はどう表現するのか、そして劇団ひとりとのタッグでどのような化学変化が生まれるのか必見。実話を基に描く本格ヒューマンストーリー「無言館」は明日8月27日午後9:00ごろ放送。

【番組情報】

「24時間テレビ45 スペシャルドラマ『無言館』」
日本テレビ系
8月27日 午後9:00ごろ~10:54ごろ(予定)

取材・文/W.O(日本テレビ担当)



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