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「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】2022/08/08

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

「私の人生の中で、この作品に出演したことは本当に重大なことになるんだろうなって。お話をいただいた時からそう感じていました」。

 2019年にNMB48を卒業後、ドラマや映画、舞台に出演し活躍の場を広げている太田夢莉さん。21年は、連続ドラマ「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系)へのレギュラー出演のほか、朗読劇や会話劇も含めた舞台作品に多数出演。舞台「AI懲戒師・クシナダ」では主演を務めた。

 22年、三宅健さんが主人公・安倍晴明を演じた舞台「陰陽師 生成り姫」に綾子姫役で出演。さらに日本映画の傑作「フラガール」の舞台版「フラガール – dance for smile -」ではメインキャストの1人に。「『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THE STAGE」では、主人公・カタリナ役を見事に演じきった。そんな彼女がこの夏、全国のスクリーンに姿を現す。

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

 8月19日に公開する映画「バイオレンスアクション」。殺し屋の主人公・菊野ケイを演じるのは、橋本環奈さん。太田さんは、ケイのアルバイト仲間のすご腕スナイパー・だりあを演じる。撮影当時の心境について、こう語る。

「プロ中のプロの中にアマチュアが来た感がすごくて。私と環奈ちゃんって1歳しか変わらないのに、こんなに違うんだ…って、すごく焦りました」。

 19歳の時、初めて足を踏み入れた芝居の世界。日に日に強くなる「お芝居の仕事がしたい」という思いから決意した、NMB48からの卒業。そして訪れたコロナ禍――。そんな当時の葛藤から、この「バイオレンスアクション」の公開を目前にした今、冒頭の言葉で息を弾ませるまで。22歳、等身大の彼女を捉えた。

自分の壁をぶち破ることができない

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

――橋本環奈さん、杉野遥亮さん、鈴鹿央士さん、馬場ふみかさんや、佐藤二朗さん、城田優さん、高橋克典さん、岡村隆史さんが出演する映画「バイオレンスアクション」。豪華なキャストの皆さんが集結した映画への出演が決まった時、どのようなお気持ちでしたか?

「最初は、マネジャーさんから内容については全く聞かされていない状態で、瑠東(東一郎)監督と面談の機会をいただいたんです。その場では『今後、どういう役をやっていきたい?』と尋ねられたのですが、私は『殺し屋の役がやりたいです』と答えて。この作品のお話だとは何も知らない状態だったので、奇跡ですよね。そこからありがたいことに抜てきしていただきました。もう、初めはとにかくプレッシャーで。橋本環奈さんなんて誰でも知っている女優さんですし、共演者の方々もベテランの有名な方ばかりで、そんなところに自分が飛び込んでいくのが、もう…。その時はNMB48を卒業して1年くらいだったのですが、卒業後にちょうどコロナ禍になってしまって。お芝居のお仕事を全然できていなかったので、演技経験も、経験値も、とにかく浅すぎてヤバい!!という思いでした」

――クランクイン前には、演技レッスンを重ねたとお聞きしました。

「瑠東監督の知り合いで演技レッスンをされている方がいて、そこに参加させてもらいました。お忙しい中、瑠東監督も見に来てくださって。そこで初めてちゃんと演技について学びました」

――難しかったですか?

「もう、自分の壁をぶち破るのがとにかく難しかったです。そこでよく言われていたのが、『アイドルをやっていると我慢しないといけないこともたくさんあるし、日本人って結構我慢しがちだよね』と。『だから感情を抑え込むことに慣れすぎている。それがよくない』と言われたんです。『役者はもっと衝動に逆らわないように生きていかないといけない』とご指導いただいたんですが、『そんなのできない』って思ってしまうこともあって。恥ずかしい気持ちもありますし、感情をさらけ出すことにも慣れなくて…。『こんなんで、役者、できるのかな…』って不安に感じたりもしながら、一緒にレッスンを受けている同世代の方にも手伝っていただいて、ワークショップのような形で演技レッスンを重ねていました」

――レッスンを経て、実際にクランクインを迎えてからは、どのような心境で過ごしていましたか?

「撮影は2021年の1~3月頃に行われたので、体感としては結構前なのですが、当時はやっぱり押しつぶされそうな気持ちになっていました。セリフが言えなくなるとか、そういう不安は全くなかったんですけど、やっぱり大きい作品なのでスタッフさんもたくさんいますし、出演者も有名な方ばかりだったので、現場に行くとどうしても…。でも、演技レッスンで教えてくださった講師の方や、手伝ってくださった方々の顔を思い浮かべて『皆さんの思いを絶対無駄にしない!!』と、自分を奮い立たせて現場に向かっていました」

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】
「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

――橋本さんをはじめとした共演者の方々と過ごす時間は、いかがでしたか?

「たくさん刺激を受けました。環奈ちゃんと2人で話すシーンや、アクションのシーンなど、ご一緒させていただく場面が多かったのですが、もう圧倒されましたね。環奈ちゃんは10代の頃からたくさんの作品に出演していますし、アクションの経験も豊富なので、プロ中のプロの中にアマチュアが来た感がすごくて。私と環奈ちゃんって1歳しか変わらないのに、こんなに違うんだ…って、すごく焦りました」

――試写を拝見したのですが、橋本さん、城田さんとのアクションシーンの迫力が印象に残っています。本当に痛そうでした…。

「ははは! 痛そうですよね(笑)。優さんとも撮影前にアクションのレッスンをさせていただいたのですが、私が本当に下手くそで…。アクションが初めてというのもあったんですけど、講師の方もあきれるほどでした。なのに嫌な顔一つせず『全然大丈夫だよ』って何度も何度も練習に付き合ってくださって、本当にお世話になりました。撮影が始まってからも、待ち時間に現場にあるお菓子を持ってきてくださったりとか、寒い時期の撮影だったので、置いてくださっているあったかいコーヒーを『飲む?』って渡してくださって。こんなに有名で売れてらっしゃる方なのに、私みたいなぺーぺーにも優しくしてくださるなんて、本当にいい人だなって感動しました」

――記者会見でも、城田さんとのシーンで起きたハプニングについて話していましたね(笑)。

「そうなんですよ!(笑)。飛び蹴りしておなかを狙わなきゃいけないシーンだったんですけど、なかなかうまくいかなくて、優さんの息子さんが危ない時がありました…。『ごめんなさい!!』と謝ると、嫌な顔せず『大丈夫、大丈夫だから』って。本当に格好いいお兄さんです」

孤独を抱えるだりあは「『どう演じたらいいんだろう』と迷うことがなかった」

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

――だりあと重なる部分や、逆に「自分とは違うな」と感じた部分はありますか?

「違うなと思うことが全然ないくらい、共感できるキャラクターでした。演技講師の方も『だりあは君だよ!』っておっしゃるくらい。だりあが抱える孤独を『どう演じたらいいんだろう』と迷うことがなくて。だりあのセリフの中で『持たなければなくさない。だから持たなかった、すべて』という言葉があるのですが、それが一番『分かる~~~!』って共感しました。そもそも持たなかったら傷つくこともないし、それが怖くて避けてきたというのは、私もすごく分かります」

――具体的に、太田さんの中で重なるものがあったのでしょうか。

「そうですね…。例えば、人を信用しすぎちゃうと、その人を失った時に勝手に傷ついたり悲しくなったりすると思うんですけど、そういうのも怖いし。傷つきたくないから、あまり人を信用しすぎないようにしたりとか…。そういうことを普段から考えて生きてきたので、これはだりあを演じるにあたって使える感情だなって思っていました。だりあを演じている時に気付いたのは、だりあという人は、人と心から関わってないんだろうなということ。きっと一定の壁を作ってしまうんだろうなって。それがよくないとは言いきれないですけど…。でも、それがいいとは限らないんだろうなということを、だりあを演じていく中で感じていました」

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

――そんなだりあと行動を共にするケイが、投げやりなだりあに「バタバタが楽しいんじゃん」と言うシーンがありますよね。何げないセリフですが、人と壁を作っているだりあに対して、そういう言葉がサッと出てくるケイはすてきだなと感じました。

「私も思いました! 私も割と『何でもいい』って言っちゃうタイプだし、結果を求めてしまうんですけど、それまでの過程も楽しもうよっていうケイちゃんを見て『なるほど!』って。自分にはその考えがなかったので、セリフを受けて『(染み渡るように)はぁぁ~~~』ってなっていました」

――だりあがケイに「どうしてこの仕事を始めたの」と尋ねるところは、だりあの弱さが見え隠れするシーンですよね。

「あの後、すぐに『余計なことだったな』って感じのことを言うんです。一瞬ケイちゃんに心を開きかけて、一歩踏み出してみたけど、『あっ、行き過ぎたかも』ってすぐ引いちゃうんですよね。だりあのその行動もすごく分かるなって。自分もそれ、めっちゃやっちゃうなって思ったんです。人との距離感が変わる時に、臆病になってしまう。すごく繊細なキャラクターなんです」

 インタビュー後編はこちら(https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1689271/)。

「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】
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「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】
「自分の壁をぶち破ることができない」。太田夢莉が「バイオレンスアクション」で切り開く新境地【ロングインタビュー前編】

【プロフィール】

太田夢莉(おおた ゆうり)
1999年12月1日生まれ。奈良県出身。AB型。2011年、NMB48 第3期生オーディションに合格し、デビュー。19年、22ndシングル「初恋至上主義」でセンターを務める。19年11月25日、兵庫・神戸ワールド記念ホールにて「太田夢莉 卒業コンサート ~I wanna keep loving you!~」を開催し、11月30日、NMB48を卒業。主な出演作は、映画「せみのこえ」、ドラマ「ミナミの帝王ZERO」(関西テレビ)、「ランチ合コン探偵 ~恋とグルメと謎解きと~」(日本テレビ系)、「日暮里チャーリーズ」(テレビ朝日系)、「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系)、舞台「Cheer up act -vol.1-『裏方の女』~ハロー野菜祭り大きなカブ~」「This is a お感情博士!」「トキワ荘のアオハル」「AI懲戒師・クシナダ」「陰陽師 生成り姫」「フラガール – dance for smile -」「『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THE STAGE」など。9月3、4日、埼玉・ところざわサクラタウンにて上演される朗読劇「アルバート家の令嬢は没落をご所望です」に出演。9月17日、東京・YMCAアジア青少年センターにて開催される「『coemiru』vol.3 会話劇『眠れない眠りたくない feat.太田夢莉』」に出演する。

【作品情報】

「バイオレンスアクション」
8月19日(金)、全国の映画館で公開
原作:浅井蓮次・沢田新「バイオレンスアクション」(小学館「やわらかスピリッツ」連載中)
監督:瑠東東一郎
脚本:江良至、瑠東東一郎
出演:橋本環奈、杉野遥亮、鈴鹿央士、馬場ふみか、森崎ウィン、大東駿介、太田夢莉
   佐藤二朗、城田優、高橋克典/岡村隆史 ほか
製作:「バイオレンスアクション」製作委員会
制作プロダクション:ファインエンターテイメント
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©浅井蓮次・沢田 新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会

取材・文/宮下毬菜 撮影/尾崎篤志



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