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「“チカラくんを愛してほしい”ただそれだけです」遊川和彦がドラマを通して伝えたい思いとは――「となりのチカラ」インタビュー2022/02/24

「“チカラくんを愛してほしい”ただそれだけです」遊川和彦がドラマを通して伝えたい思いとは――「となりのチカラ」インタビュー

 現在、放送中のドラマ「となりのチカラ」(テレビ朝日系)。嵐の松本潤さん演じる優柔不断で悩みすぎるあまり、いつも中腰になってしまう中途半端な男・中越チカラが、同じマンションの住人たちが抱える問題に首を突っ込み、解決…とはいかないものの、声を掛けることで住人たちの孤独や不安に寄り添い、心を少し軽くしてくれる“社会派ホームドラマ”です。

 そんな本作で脚本と演出を手掛けているのが、遊川和彦さん。これまでに「女王の教室」や「家政婦のミタ」「過保護のカホコ」(すべて日本テレビ系)、「ハケン占い師アタル」(テレビ朝日系)などで、個性的かつブレない女性の主人公を描いてきた遊川さんが、「となりのチカラ」ではなぜ“優柔不断な中腰の男”を描くことになったのか――。本作の主人公・チカラが生まれた理由や遊川さんが生み出すキャラクターへの思い、主演の松本さんの魅力、そして本作を通して伝えたいことを伺いました。

「“チカラくんを愛してほしい”ただそれだけです」遊川和彦がドラマを通して伝えたい思いとは――「となりのチカラ」インタビュー

――まずは、“中腰の男”中越チカラというキャラクターが生まれた経緯をお伺いできますでしょうか?

「僕は今まで個性が強い女性を作ってきたのですが、今回は松本潤さんが主演ということで、格好いい男性が格好いい役を演じるとどうしてもリアリティーを感じず、感情移入ができないなと。松本さんは他の作品でも格好いい役をたくさんやっているということもあって、格好悪い役をやらせてみたいなと常々思っていました。僕が描く主人公は信念があって迷わない女性が多かったのですが、逆に『迷いすぎる男や悩みすぎる男というのも面白いかな』『それを松本潤さんにやらせる脚本家は他にはいないだろうから、自分がやったら面白いのかな』って思ったのがきっかけです。それで、“悩みまくる”ということは“中腰になる”ということかなと、彼が中腰になる姿を想像したらキュートになる気がして。そこから広がっていった感じですね」

――隣人たちが抱える問題にチカラが介入して、後にマンション全体が一つのコミュニティーになっていくというストーリーですが、本作を着想して制作することになったきっかけは何だったのでしょうか?

「自分たちの周りにはいっぱい問題があるんですけど、逆に情報が多すぎてしまって、自分の中で取捨選択ができずに自分のことだけを考えている人が多いと思うんです。でも、実は自分のすぐ近くにはいろんな問題があるということに気付いてほしくて。そして、問題を目の当たりにした時に、人と触れ合うことで何かできることがあるんだと、『しょせん自分は何もできない』と思わないでほしいなって……年を取って、余計なお節介を考えたくなってしまったんです(笑)。本人は『自分たちには何もできない』と思ったりするのですが、すぐ隣にいる人に何か優しい言葉を掛けてあげるとか、ちょっと話を聞いてあげるとか、そういうことが広がっていけば、幸せも少しずつ広がっていくんじゃないかなと、見てくださる皆さんが思ってくれたらいいなと。だから、最初に主人公はこういう男にしようと思った時に、彼が周りの住人に少しずつ幸せな気持ちを伝えていく話にしていこうと考えました。そして、日本全体、ひいては世界が抱えている問題を少しずつ入れて、彼から外の世界に優しさが広がっていく。そういう話にしたいなと思ったんです。そういう話がどのくらい受けるかは少し不安な部分もありましたが、今だからこそやるべきじゃないかと思いました」

――チカラをはじめ、本作に登場する住人たちは個性的なキャラクターが多いですが、遊川さんがキャラクターを作り上げていく上で大事にされていることは何でしょうか?

「リアリティーですね。そのリアリティーがどういうものかというと、『あなたは怖い人だからずっと怖くいてくれ』とか、『あなたは優しい人だから優しくいてくれ』とかそういうことではなく、怖い人だって笑う時は笑うし、泣く時は泣く。そういう人間としての感情をちゃんと出すようにした方がいいなって。なので、ちょっと個性的なキャラクターではあるのですが、『こういう人いるよな』という人物を演じてほしくて、『この役はこういう感じです』という説明をしました。すぐそばで起きているようなドキュメンタリータッチにしたいという気持ちがあり、芝居している感じにはしたくなかったんです。例えば、長尾(謙杜)くんが演じている(柏木)託也くんも、彼がやるととても優しく見えるのですが、優しいだけではなく、どこか冷たさのようなものを表現したり…。キャラクターを作る上では、“その人と逆の感情は何なのか”を考えることが一番大事だったかもしれないですね」

――そんなキャラクターの中で、遊川さんご自身が一番思い入れのあるキャラクターはいますか?

「みんな好きですよ。もちろん一番好きなのはチカラですけど、その次は灯ちゃんかな。最初にチカラを“中腰の男”にしようと考えた時に、『じゃあ奥さんは俺が今まで好きだった心(しん)の強い真っすぐな、表面的には怖いんだけど内面はとても優しい人』にしようと思って。灯役の上戸彩さんには、『なるべくこのセリフのままで言うのではなくて、本当は優しい人だけど、それが故に厳しいのだということを意識してほしい』『だからこの夫婦はすてきなんだよ』と伝えました」

――主演の松本潤さんとご一緒されるのは初めてですが、実際に演技をご覧になって、すごいと感じた点を教えていただけますか?

「一番すごいと思ったのは、感情的な芝居を理論の中で構築して、正確さを求めるところ。そこが徹底していますね。例えば、スーパーの袋から落ちたものを拾うような時でも、どのタイミングでどれを拾うか、そういうところを映っていない時でも全部ちゃんとしようとするんです。それは彼の中で理論構築されていて、整合性がないとできないって言うんですが、彼はそれを見事にやりますね。それでいて理屈っぽい芝居になるかというとそうではなくて、感情的でエモーショナルな芝居になっているので、自分の中で計算し尽くした上で、それを計算しているように見せないことがすごい才能だと思います。『年を取ったらしんどくなるよ』って言いたくなりますけど(笑)、逆に彼はそうじゃないとできないんだと思うんです。天才型というよりは、ものすごい究極の秀才型。でも、僕はそういう人の方が好きですよ」

――今回、遊川さんは脚本と演出を担当されていますが、両方をご自身で担当することのメリットや良い影響はありますか?

「良い影響ばかりと言いたいんですけど、現実はなかなか…。自分で演出して一番思うのは、この脚本はとっても厄介な脚本だなと(笑)。『なんでこの作家はこんな面倒くさいことを書いていて、なんでこんなにいろんなことを要求しているんだろう』って思います。その気持ちがよく分かるので、脚本だけの時は毎回、演出家に優しい脚本にしようとするんですが、やっぱりダメですね。自分で演出すると、しみじみそう感じます」

――本作で視聴者の方にどのようなメッセージを届けたいですか?

「その人なりに感じて、楽しんで、受け止めてくれればいいなと思います。『そういうふうに感じるのか』『そういう受け止め方もあるんだ』ということは結構あって、作家が『こういうことを伝えたい』というと逆に誤解を与えてしまったりするので、なるべく作っている側は言わない方がいいと思っています。どういうメッセージを受け取ってもらえるのかは、受け止める側の自由です。その上で伝えたいのは、“チカラくんを愛してほしい”ということだけ。チカラくんをウザいと思う人もいると思うんです。それでも、チカラくんをウザいと思う人よりも、チカラくんを愛してくれる人が1人でも多くいてくれれば……それは作家の願いであり、祈りです。松潤も本当に一生懸命演じてくれていますし、とても魅力的なキャラクターになっています。最初はチカラくんを少し苦手と感じるかもしれませんが、だんだん見ているうちに彼の優しさや、この役は松潤じゃなきゃいけないなというのが伝わればいいなと思っています」

「“チカラくんを愛してほしい”ただそれだけです」遊川和彦がドラマを通して伝えたい思いとは――「となりのチカラ」インタビュー

――後半、チカラはどんどん愛されるキャラクターになっていくのでしょうか?

「後半は愛されるというよりも、もっと大変になります。『今まで人にお節介していたけど、自分の問題はどうなった?』という感じで彼の身にも大きな問題がやってきて、もっとテンパります。悩みがさらに深くなり、さらに言うと『自分とは何なのか』『今の自分でいいのか』という問題も含まれていく展開になって、チカラくんが自分を見失いそうになるんです。彼自身が変わらなければいけない状況になるのですが、その時にこれまで見てくれていた人に『チカラくん頑張れ』って思ってもらえたらいいですね。最後にチカラくんがどうなっていくのかが後半の見どころになっていきます」

――後半は一皮むけたチカラが見られるということでしょうか?

「そういうチカラくんになればいいなと思いますが、見ている方からしたらあまり変わらないと思う方もいるかもしれないです。あまり変わりすぎるとそれはそれで違うと思いますし、その辺りのバランスが難しいですが、成長するというのもドラマの一つのテーマではあるので、チカラくんの成長も楽しみにしていただければと思います」

――後半も楽しみにしております。ありがとうございました!

2月24日放送・第4話 あらすじ

 隣に住む道尾頼子(松嶋菜々子)に「とっても困ってるの。助けてくれる?」と相談されたチカラ(松本)が部屋を訪ねると、そこには灯(上戸)や柏木清江(風吹)やマリア(ソニン)、木次達代(映美くらら)の姿が。戸惑う一同に、黒ずくめの服を着た頼子は「今日は皆さんをお救いするために集まっていただきました」と告げる。それぞれが悩んでいることを次々と言い当てていく頼子。すっかり頼子の能力を信用した清江が、ペットボトルに入った謎の水と数珠を買ってしまいそうになったその時、頼子を「おかあさん」と呼ぶ男性が現れる。「これからはあまり関わらないようにしないと」と話す灯とチカラだったが、チカラは頼子と訪ねてきた男性の関係、そして全く目を合わせようとしない灯と娘・愛理(鎌田英怜奈)の様子が気になり…。

【プロフィール】

遊川和彦(ゆかわ かずひこ)
1955年10月24日生まれ。東京都出身、広島県育ち。ドラマ「魔女の条件」(TBS系)、「女王の教室」「家政婦のミタ」「過保護のカホコ」「35歳の少女」(すべて日本テレビ系)、「はじめまして、愛しています」「ハケン占い師アタル」(共にテレビ朝日系)などドラマで脚本を担当。映画「恋妻家宮本」(2017年)、「弥生、三月 君を愛した30年」(20年)では、監督と脚本を手掛けた。

【番組情報】

「となりのチカラ」
テレビ朝日系
木曜 午後9:00〜9:54 ※2月24日は午後9:00~10:04

K・T(テレビ朝日担当)



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