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映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回2026/06/12 12:10

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

 TVガイドWeb特派記者の佐藤あかりです。風間太樹監督のロングインタビュー後編をお届けします。前編では、映画「モブ子の恋」に込められた自己修養というテーマや、風間監督の演出論についてじっくりお話を伺いました。後編では、風間監督の映像クリエーターとしての原点に立ち返り、彼がいかにして「風間太樹」という監督へと成長したのか、その経緯とともにこれから先のビジョンも伺いました。

 それではいきますよ~。

「あかりサーチ、一本!」

「普通」という視界が切り拓く クリエーティブの未来

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

――風間太樹監督の映像表現における独自の視線は、どのような経験によって育まれたのでしょうか。キャリアの原点について伺いたいと思います。これまでに影響を受けた作品や人物はいらっしゃいますか?

「​えーと。これ実はですね、著名な方だったり映画人でもなくて。ずっと心に残っているのは大学1回生の時に出会った友人なんですよ。美大なので周囲にはとんでもないカリスマ性を持った同期がたくさんいまして。強烈な個性マウントの中で彼らと自分を比較しては『自分は普通なんだ』と、一歩引いてしまう自分がいました。まさにモブですよね」

――「普通」であることに劣等感を抱いていたのですか。

「そうですね。そんな時、その中でも一番強烈だった友人から『普通だって割り切れることってすごいことだと思うけどね』と言われたんです。『それも才能だよ』と。その言葉を聞いた瞬間、肩の荷が下りたといいますか、脱力できたんです」

――それが今の演出にもつながっていると。

「ええ。特別なカリスマを撮るのではなく、視界の中に当たり前に見えている日常を、いかに丁寧にすくい取れるか。自分の視点に対する肯定感は、あの時の言葉から始まった気がします。『モブ子の恋』という作品が、日常の輝きや、何げない瞬間のいとおしさを再発見する物語になったのも、あの時の気付きがあったからこそかもしれません」

――今の言葉、グサッと刺さりました。「モブ子の恋」を見て思ったのですが、日常の会話一つ一つがとても大事なんだなって感じたんです。何げなくそばで当たり前に一緒にいてくれる人たちも、いろんな感情と向き合いながら自分を応援してくれているのかなって思ったり……なんていうんでしょうね。「普通がすごいことだよ」っていうその言葉は、表に立つ人間としてすごく焦っている自分を一度戻すというか、同時にその気持ちを大事にしていいんだなって思えました。とても感動しています。

CM制作を経験して得たものと 映画制作で得たもの

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回
映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

――大学卒業後はAOI Pro.に入社され、CM制作の現場も経験されています。映像制作の現場は、学生時代の自主制作とは異なりましたか?

「インターンで初めてCMの現場に入った時の衝撃は忘れられません。制作のスピード感や、プロフェッショナルたちがそれぞれの役割で作品を撮り上げていく連動性。負けず嫌いな性格もあって、がむしゃらに喰らい付いたのですが」

――CMの制作現場での経験は、その後の映画作りでどう生きていますか?

「CM現場で出会ったスタッフたちとの縁は、私の財産です。2年後に異動して映画部へ移った後も、ショートフィルムを撮る時などに『お金じゃなくて、一緒にやりたいからやるよ』と快く力を貸してくれる仲間がいました。一つ一つの機会を大切にするという意識は、あの下積み時代に芽生えたものだと思います」

――脚本家の生方美久さんとのタッグも有名ですが、お二人の信頼関係はどのように築かれたのでしょうか。

「『silent』(フジテレビ系)は初対面でしたが、生方さんが私のドラマを見ていてくださっていたのが大きかったかもしれません。私は生方さんを『言葉の人』だと思っているんですが、向き合うたび、ほかにはない新品の言葉で対話し、創作している感覚になると言いますか、その時間を大事にしたいという思いを強く抱いて。自分としては、カメラを通した映像でシナリオにある言葉の魅力を増幅させられるように取り組んでいる感じです。お互いが『ここは委ねよう』という余白を持ちながら大切にできる関係性だから、続いているのかもしれません」

――すてきですね。監督はまだ34歳と若いですが、これまで多くの作品を作ってきた中で、ご自身の映像表現が変化したとお感じになったことはありますか?

「『海のはじまり』を撮るときに、自分では大きな変化をしようと思って臨んだのですが、思いのほか変わらない自分が出てしまったと感じた瞬間がありました。もちろんクリエーティブにも、俳優との向き合いにも一切の妥協なく、あの時の自分にできることをすべてやり切った作品です。勘違いしてほしくないんですが、でもちょっと自分の表現に飽きてしまった瞬間があったんですよね。なので作品が終わったあとは2か月くらいボーっとしてました」

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

――次の作品が「モブ子の恋」ですよね。どんなことを変えていこうと思ったのですか?

「自分が人に見せたくないところや弱いところを次の作品で一回見せちゃおうかな、みたいな感じですかね。『人にがっかりされるのが怖い』というセリフがあるのですが、それは自分で書き出したセリフです。いつも人と向き合いながら、やっぱり根本ではそういった弱さ、心細さを抱えながら人と向き合っている。本当の自分を開いて向き合ったら……それはひよりさんと同時に向き合うということでもありますけど、何かが自分の中で揺れ動くかもしれない、そんな気持ちを内包しながら『モブ子の恋』に取り組みました。だから自分なりには本作が一つ分岐点になっています」

――そうなんですね。とてもすてきな作品だったのは監督のその思いが表れていたからなんでしょうね。

「ちょっと抽象的な言い方になるかもしれないですけど、映画もドラマも、シナリオという設計図の中で全部が説明できてしまうのは少しもったいない、つまらないな、と思ってしまいます。アドリブの話に、もしかしたら回帰するかもしれないですが、なんというかそういう潔癖さを捨てて、偶発的なものをちゃんと面白がれる自分でありたいなと」

――なるほど。Netflixでの配信映画にも挑まれていますね。柴咲コウさんと赤楚衛二さんの「余命一年、男を買う」が2026年世界独占配信されます。配信作品と劇場映画との違いは感じますか?

​「劇場は、観客の皆さんが箱の中で2時間を委ねてくれる空間です。一方で配信は、スマホやテレビなど、さまざまなノイズがある環境で見られることもある。その中で『本当に届けたいもの』をどうフレーミングするかという工夫は、映画よりも広く、繊細に考えなければならないと感じましたね。幸い、現場はクリエーティブファーストで、劇場映画を作る時と何ら変わらぬ心構えで挑むことができました」

趣味は自分へのインプット プライベートと仕事の境界線

――では少しプライベートな質問をさせてください。一人の時間はどのように過ごされているのですか?

「正直なところ、プライベートと仕事の境界は曖昧かもしれません。街を歩いていても、さまざまな物事を記録しているし。写真も趣味というよりは、自分自身の日常を切り取り、作品に還元するためのインプットの一部ですね」

――拝見しています。世界観がとてもすてきです。同じカメラで撮った写真を投稿されていますよね。プライベートなのか仕事の資料なのか気になりました。

「そうなんです(笑)。その辺は宙ぶらりんですね。プライベートで目にしたものも作品につながっていきますから。だからといって行き詰まる訳でもなく」

――ほかに趣味はないのですか?

「ひよりさんにも『趣味は増えましたか?』と聞かれまして。かろうじて先日登山をしたのでその話をしましたが、登山の良いところを聞かれて『黙々と登る中で、あれこれ考えることができたから』と答えてしまって。めちゃくちゃつまらないですよね(笑)。ただ映画を見るのも本も読むのも、結局それが日常で。変わらない安心ということなのだと思います」

――私は登山で朝陽が昇ってくるのを見たことがあるんですが、その景色にものすごく感動しました。いつかそれを体感してほしいです!

「いつかやってみますね」

――もしもこのお仕事に就いてなかったら、どんな人生を歩んでいたと思いますか?

「どうでしょうね。中学生の頃には映像に関わりたいと思っていましたから、ifをあまり考えたことがなかったですね……でも自分の好きな場所ってあるから、うん、観光地で働いてみたいですね。地元が山形県の赤湯温泉に近い場所なんですけど、観光地の路地裏でひっそり喫茶店とかいいですよね。なんか老後みたいな話になってますけど」

――すてきだと思いますよ。これからは、どのような作品を撮ってみたいと考えていますか。

「良くも悪くも、見ていただいている方にはおそらく空気感や世界観に一貫したイメージを持っていただいているんだろうなと。やっぱり自分の手の中にあるものだったり、自分の手が届きそうなものだったりを描いてきましたからね。でも例えばサスペンスやホラーといった、異なるジャンルを撮ってみたときに、自分という人間がどう変わり、どう変わらないでいられるのかを試してみたいという思いもあります。逸脱した題材を扱う中で、どんな感情を撮りたいと思うんだろう、というのも気になります。そういうチャレンジをしてきたいですね」

――それはとても楽しみです!

「ありがとうございます」

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

――ではこの連載の恒例企画なんですが、「一問一本!」いかせてもらいますね。5秒以内で答えてください!

「はい(笑)」

――撮影終わりについ食べたくなるものは?

「これは決まっています。ロイヤルホストのポークロースステーキです。ジンジャー味のやつです」

――このあと食べたくなりました。じゃあスマホの写真フォルダに一番多く映っているものは?

「これは絶対に空です。フィルムで写真を撮っているとなんか、思わず空を撮ってます」

――分かる気がします。今一番ハマっている音楽は?

「baobab(バオバブ)さんですね。Haruka nakamura(ハルカナカムラ)さんとのスペシャルユニットがあるんですけど、環境音楽が好きなのでよく聞いています」

――聞いてみます! 人生で一度はやってみたい髪型は?

「うーーーーん。じゃあちょっと伸ばしてみますか。ベリーショートでもいいかな(笑)」

――ロングでお願いします。幸せだなと思う瞬間は?

「公開直前っていう今が最高の時間です!」

――ありがとうございました! では最後に『TVガイドWeb』をご覧の皆さんに、改めてメッセージをお願いします。

「映画『モブ子の恋』は、生きていくうえで、何かと足踏みを繰り返してしまう不器用な主人公のラブストーリーです。『自分自身を好きになるための物語』とも言えるかもしれません。日々誰しもが懸命に何かを頑張っていると思いますが、そんな自分の頑張りとか、積み重ねてきた努力を、自分自身で認めてあげたり『よしよし』とねぎらってあげたりすることは意外と難しいですよね。自分に対してどこか厳しくなってしまって、常に緊張の糸が張っているような……そんな方のほうがこの世界には多いのではないかと思っていて。この映画がそうした自分の厳しさや緊張を、ほぐしてあげられるような映画になったなら。自分のことをどうしても認めてあげられない、好きになれない、という人にこそ、信子の頑張りを見つめてほしいと願っています。この映画にはたくさんのときめきと、希望の兆しが詰まっているのではないかなと思います」

――今日はありがとうございました。

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

あかりサーチ後記

 前後編にわたってお届けした風間太樹監督のロングインタビュー、いかがでしたでしょうか。風間監督のキャリアの原点や制作の裏側に触れ、より一層その誠実な人柄にひきつけられました。「普通」であることの価値を認め、日常の機微を大切にする監督の視点は、焦りを感じることもある私にとって大きな救いとなりました。人の心の揺れや、言葉にならない感情を丁寧に描きながら作品を作り続け、常に挑戦し続ける監督の姿に背中を押してもらいました。監督が切り取る温かくも繊細な世界を、これからも心から追いかけ続けたいと感じた貴重な時間でした。

 ここでお知らせです! 7月1水曜日からスタートする横山裕SUPER EIGHT)さんと関水渚さんが出演する新ドラマ「今夜もシリアルキラーと待ち合わせ」(カンテレ・フジテレビ)の第1話に、私、佐藤あかりがゲスト出演することになりました! この作品は「good!アフタヌーン」で連載中の人気漫画の実写化。一匹オオカミの刑事と、殺人鬼に触れると“殺した人数”が見えるという特異な能力を持つ女性のバディサスペンスです。ドキドキの撮影風景は、この連載でたっぷりお届けしたいと思いますので、皆さん、お楽しみに!

 それでは最後にもう一度♪

「あかりサーチ、一本!」

【Information】「あかりサーチ、一本!」のスペシャル動画がスタートしました! インタビュートークに加えて、即興質問に5秒で答える「一問一本!」など見どころいっぱいです。YouTube「東京ニュース通信社チャンネル」でお楽しみくださいね。

【プロフィール】
風間太樹(かざまひろき)AOI Pro.所属

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

 1991年山形県出身。東北芸術工科大学 映像学科卒業。在学中に初監督映画「Halchon days」が山形国際ムービーフェスティバル13にて入賞。「チア男子!!」(2019年)で長編作品デビュー。ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになるらしい」(20年/テレ東系)はBL枠に収まらない人間ドラマとして世界配信され、「チェリまほTHE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」(22年)として映画化された。「silent」(22年/フジテレビ系)、「海のはじまり」(24年/フジテレビ系)、映画「バジーノイズ」(24年)と話題作を世に送り出している。最新作「モブ子の恋」が6月5日に公開。

佐藤あかり(さとう あかり)

映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく(後編)「あかりサーチ、一本!」第8回

 1996年2月23日大分県出身。特技は剣道(3段)。インターハイ3位、全国大会優秀選手賞受賞。渡辺正行さん率いる剣道普及番組「剣道まっしぐら!」(YouTube/2020年~放送中)にレギュラー出演中。雑誌「B.L.T.」に「日本一かわいい剣道女子」としてグラビアに登場以来、剣道タレントとして注目を浴びる。B.L.T.Webにて「あかりくらぶ」連載中。

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