映像クリエーター・風間太樹監督をひもとく!(前編)「あかりサーチ、一本!」第7回2026/06/05 12:00

TVガイドWeb特派記者の佐藤あかりです。今日のインタビューのお相手は風間太樹監督です。すぐに思い浮かぶのは川口春奈さんと目黒蓮(Snow Man)さんのドラマ「silent」(フジテレビ系)ですよね。見逃し配信の累計再生数7500万回を記録して、SNSの世界トレンド1位になるなど数々の社会現象を巻き起こした作品でした。その後も風間監督、生方美久脚本、村瀬健プロデュースの「silentチーム」で手がけた「海のはじまり」(フジテレビ系)にも心を揺さぶられました。私も泣いたなあ。
そんな風間監督の最新作が6月5日から公開される映画「モブ子の恋」です。この作品の核心にあるのは原作が持つ「誰かの人生の背景に同化している自分=MOB」という感覚です。そんな繊細な感情の機微を、風間監督らしくとても丁寧に表現された素晴らしい作品でした。これは過去の監督作品にも通じる丹念で丁寧な演出の“巧さ”が詰まったものだとも感じました。どこか昔の自分が心の中で感じていた葛藤、迷い、不器用さを思い出させてくれるこの作品を紡ぐ作業はどのようなものだったのでしょう。しっかり伺いたいと思います!
それではいきますよ~。
「あかりサーチ、一本!」
「自分自身を好きになるための自己受容」風間太樹が刻んだ“繊細な揺らぎ”

――『モブ子の恋』を拝見しました。胸が締め付けられるような繊細な感情の機微に、強く心を動かされました。まず監督として、この作品で一番大切にしたテーマや、観客に届けたかった想いから伺えますか。
「ありがとうございます。『モブ子の恋』というタイトルから、純粋な恋物語を想像される方も多いと思います。もちろんそうなのですが、私自身の中では、この映画を『自己受容の物語』と位置づけて作っていました」
――「自己受容」ですか。
「はい。恋愛をすること、アルバイトをすること、あるいは就職活動に向き合うこと。それらは、小さな社会のなかで『自分自身がどう問われているか』を知るプロセスでもあります。主人公の信子が悩み、葛藤し、他者との距離感に足踏みする姿は、決して彼女だけの物語ではない。見てくださる方が、自分自身の内側にある不安や心もとなさを重ね合わせ、それをのぞき見てしまうような、そんな映画を目指していました」
――この作品の構想期間はどれくらいになりますか?
「この作品はイオンエンターテインメントさんが企画から携わる第一弾の映画なんです。イオンさんは劇場を持っているので配給もされるし、自社でも映画を作っていますが、企画立案からというのは初めて、ということで2021年にオファーをいただきました」
――5年間! それがやっと皆さんに届くんですね。
「はい。原作は人の心の揺れ動きや、言葉を届けるまでの歩みをじっくり丁寧に描いています。それを映画のシナリオにどう落とし込むかは難しい作業でしたので、じっくり時間をかけて向き合っていきました。自分自身の映像表現がドラマや他の映画を通じて変容していく過程とも並走していました」
――ロケ地にもこだわりを感じました。
「そうですね。映画やドラマを構想していくなかで、ロケーションはどうしてもパッチワークになってしまうことが多いです。『silent』の頃から始めたことなんですが、キャラクターの動線だったり……このあたりに住んでいて、ここを通ってこの電車・バスに乗って職場や学校に向かって、みたいなイメージを巡らせながら街観をビジョン化していくと、継ぎ接ぎではない良さが生まれます。言葉に、暮らしの生活感を加えていくと言いますか、街観を探るなかで得た感慨をシナリオに還元していく作業は映画作りの出発点で大切にしていることです。今回もその過程にこだわりました」
――すごい。とても丁寧な作業ですね。お忙しい中でいろんな作品が重なりますが、どのように気持ちの切り替えをしているんでしょうか。
「作品の本づくりと現場の準備が重なることはあっても、別の作品の準備と準備が重なることは避けていますね。掛け持ちすることが不得意なので自分のリズムは守るようにしています。一方で本と向き合う時間と画をイメージする時間は切り分けながらも、意外と双方から返ってくるものもありますし、予期せずインスピレーションをもらえることも多いです」
桜田ひよりに感じた「輪郭」俳優に求めること

――主演の桜田ひよりさんとは、今回で3度目のタッグとなります。これほど頻繁にお仕事をご一緒するというのは、監督にとっても特別なことではないでしょうか。
「そうですね。今回に関して言えば、人となりを知った上で更に深掘りしたい、という思いもあったので再会のキャスティングが多いのですが、プロデューサーの皆さんも納得してくれて。映画作りにおいて、とても大きな局面で、ここまで寄り添っていただけることはまれですから非常に恵まれた環境でしたね。ひよりさんにオファーしたのは『彼女自身』をもっと見たいという興味が強かったからです」
――「彼女自身」ですか。気になります。
「『silent』『バジーノイズ』でご一緒するなか、なんとなく彼女の輪郭がつかめたような気がしていたのですが、振り返ってみれば彼女自身を形容する言葉の選択肢はいろいろあるなと。定まらないと言いますか。それで正しいとも言えるかもしれませんが。彼女は人に自分を見せるということに、細心の注意を払っている印象で、人をよく見ているからこそ、心配りができるからこその、迷いもあるのだろうなと。でも、『バジーノイズ』で演じた『潮』という役は奔放で自由。その『本人と役の生きざまの差異』を埋めるレンジの広さが、彼女の役者としての一つの武器であり、私が最もひかれているおぼろげな部分ですね」
――単に俳優としての実力というだけでなく、人間としての「輪郭」を追い求めているような。
「そうです。演出家として対話をするたびに、彼女の新しい一面が見える。そして自分の中にも新しい言葉が生まれる。今回、ひよりさんの多種多様な感情の表出を作品に焼き付けることができれば、必ず多くの人の心に届くと信じていました」
繊細な演出の裏にある役者との信頼関係

――アドリブであったり、「間」って、役者さんたちがお芝居をする中で、その時に生まれるものでもありますよね。風間監督の繊細な演出とお芝居の関係性について教えていただけますか?
「委ねるために対話するという感じですかね。作品本編で語られている役柄の『外側』をイメージしてもらうために、そのキャラクターのプロフィールというか履歴書のような『サブテキスト』をお渡ししています。衣装合わせでお会いしたところから、現場に立つまでの間に、役柄の人物がどう生まれ育って、家族関係や友人関係がどうであったか、彼らがこれまでどう生きてきたかというものを理解していただくためなんですけど、それらをインプットしていただくと、共通言語を持てると思っていて。その準備の過程に並走することで、現場ではお互い身軽にいられる感覚と、信頼が生まれるなと」
――準備が信頼を生む、ということですね。
「そうです。根本にあるキャラクターをお互いしっかり握り合っているからこそ、その選択肢もあるよねっていうことをお互い安心して出していけると思っています。現場で多少はみ出しても爆(は)ぜることはないというか、作品をより良くする方向へ向かう感じです。『ここはアドリブでお任せします』みたいなことはしたくないので、シーンのメッセージ性は必ず添えるようにしていて。言葉ではなく空気を撮るみたいな状況のときは、程よく潔癖さを捨てて、脱力してお互いがいられるので、そういった場面では俳優に委ねることも多いと思います」
――信子の人間関係への躊躇(ちゅうちょ)や足踏みする感情を、川に入っていくシーンで表現されていたのが私はとても印象的でした。
「言葉で説明しきれない、あるいは収まらない内面の葛藤——手元や、足元のお芝居に気持ちを乗せている部分を、カメラも観察するように捉えていくことを大事にしていました。沈黙の時間とか言葉のない時間の中にある、他人には見えないあらゆる感情の揺れと一緒に、カメラも精神的に揺れていけるように、その脳内に入っていこうとした意識はすごくありましたね。そういった局面で、(川のシーンなど)心象風景に感情を変換し、託すことも、映画表現ならではと言えるのかなと。川のシーンは予告編にも出てきますが、本編を見ていただくと思いがけず壮大なシーンと出会うと思います。ぜひ劇場という空間で感じていただければうれしいですね」
――とても深いお話ですね。ありがとうございました。次回も引き続きよろしくお願いいたします。

あかりサーチ後記
風間太樹監督のインタビュー前編はここまで。いかがでしたか? 風間監督の演出論から、俳優への深い信頼関係までをお聞きしましたが、自身の葛藤や迷いさえも作品に昇華させる監督の丁寧な姿勢に、胸が熱くなりました。特に、桜田ひよりさんの人間としての「輪郭」を見出そうとする監督の眼差しは、見る者の心に触れる作品が生まれる理由を物語っていました。信子の繊細な感情がスクリーンでどう表現されているのか、私も改めて劇場でその「揺らぎ」を全身で体感したいと強く思いました。
後編では、風間監督のキャリアの原点について、そして貴重なプライベートについても伺いました。恒例企画の「5秒で答えて! 一問一本!」コーナーもどうぞお楽しみに!
それでは最後にもう一度♪
「あかりサーチ、一本!」
【Information】「あかりサーチ、一本!」のスペシャル動画がスタートしました! インタビュートークに加えて、即興質問に5秒で答える「一問一本!」など見どころいっぱいです。YouTube「東京ニュース通信社チャンネル」でお楽しみくださいね。
【プロフィール】
風間太樹(かざまひろき)AOI Pro.所属。

1991年山形県出身。東北芸術工科大学 映像学科卒業。在学中に初監督映画「Halchon days」が山形国際ムービーフェスティバル13にて入賞。「チア男子!!」(2019年)で長編作品デビュー。ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになるらしい」(20年/テレ東系)はBL枠に収まらない人間ドラマとして世界配信され、「チェリまほTHE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」(22年)として映画化された。「silent」(22年/フジテレビ系)、「海のはじまり」(24年/フジテレビ系)、映画「バジーノイズ」(24年)と話題作を世に送り出している。最新作「モブ子の恋」が6月5日に公開。
佐藤あかり(さとう あかり)

1996年2月23日大分県出身。特技は剣道(3段)。インターハイ3位、全国大会優秀選手賞受賞。渡辺正行さん率いる剣道普及番組「剣道まっしぐら!」(YouTube/2020年~放送中)にレギュラー出演中。雑誌「B.L.T.」に「日本一かわいい剣道女子」としてグラビアに登場以来、剣道タレントとして注目を浴びる。B.L.T.Webにて「あかりくらぶ」連載中。
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