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杉野遥亮主演「スカム」小林勇貴監督インタビュー【前編】 「極端な貧困層には人々は共感してくれない」2019/08/06

杉野遥亮主演「スカム」小林勇貴監督インタビュー【前編】 「極端な貧困層には人々は共感してくれない」

 小林勇貴監督、28歳。不良、暴力、宗教、窃盗、抗争……。奇抜な題材を扱うことを得意とするイメージが先行するが、バイオレンスな表現の中に落とし込む現代を象徴する社会問題や人間模様は、見る者の胸に後味を残す。

 2014年より自主制作映画を撮り始め、17年には主演に間宮祥太朗さんを迎えた「全員死刑」で商業デビュー。同年には商業第2作目となる「ヘドローバ」が公開され、翌年18年には主演に吉沢亮さんを迎えた連続ドラマ「GIVER 復讐の贈与者」(テレビ東京系)が放送。さらにアイドルグループ・NGT48のシングル曲「春はどこから来るのか?」のミュージックビデオの監督も務めるなど、エンターテインメントの世界で存在感を増しながらも、社会が映し出す事実をリアルに、そして大事に描くことに正面から向き合い続けている。

杉野遥亮主演「スカム」小林勇貴監督インタビュー【前編】 「極端な貧困層には人々は共感してくれない」

 杉野遥亮さんを主演に迎えた放送中の連続ドラマ「スカム」(MBS/TBS)は、振り込め詐欺に手を染めていく若者を実際に取材して書かれた「老人喰い」(鈴木大介/著)を原案とし、リーマンショック後の東京近郊で生きる若者の姿や詐欺組織の実態が活写されている。この度、演出を務める小林監督に作品に込めた思いや撮影でのエピソードをお聞きしたインタビューを前編・後編にわたりおくる。

「そいつのせいだろう」という心ない自己責任論なんかで間口を広げることはしない

杉野遥亮主演「スカム」小林勇貴監督インタビュー【前編】 「極端な貧困層には人々は共感してくれない」

 自主制作映画、商業映画、地上波ドラマ、配信ドラマと、その形態によって表現内容や規制が異なるのではと思うが、今回の「スカム」は深夜といえど地上波での放送。さらに裏社会を中心に取材を重ねるルポライター・鈴木大介氏による著書が“原案”だ。

「自主制作映画の時から、作品の手法は毎作品意識的に変えています。自主制作映画を撮っている時は感情が揺れるので、希望的な終わり方をするものを撮った後は絶望に堕ちるところで切り上げてしまうような作品が撮りたくなったり。(感情が)上がったり下がったりするんですよね。商業映画を撮るようになっても、いただける作品のテーマが自分の感情の波とちょうど沿っているんです。今回の『スカム』は“原作”ではなく“原案”があって、『老人喰い』は鈴木大介さんによる複数人の若者のインタビュー集なんですが、そこに書かれているエピソードを抽出して、一人の人間に詰めて一つの物語にしていくという方法をとりました。なので、物語としてはオリジナルと言っていいと思います」

杉野遥亮主演「スカム」小林勇貴監督インタビュー【前編】 「極端な貧困層には人々は共感してくれない」

 取材を重ねて書き上げられた「老人喰い」には、一口に“振り込め詐欺のプレーヤー”といっても、さまざまなタイプの若者が登場する。「スカム」は彼らの要素から小林監督が「伝えたい」と思う部分を抽出し、主人公の草野誠実(杉野)に投影していくという手法で作り上げていった。

「気を付けたのは、主人公を極端な貧困層にしないことです。鈴木大介さんの『家のない少年たち』や他の著書でも書かれているんですけど、思い切り貧困層にすると、人に伝えるのが非常に困難になるんです。まず、共感をしてくれない。『そいつのせいだろう』というふうに、すぐに心ない言葉や自己責任論が蔓延して、そこで一段ハードルが上がってしまうんです。それは『スカム』にも当てはまるなと思って。これまでの僕の作品では貧困層が暴れ回る姿を描くものが多かったんですけど、誠実に関しては、生活水準はそこよりは上げました。裕福すぎる暮らしなわけではないけれど、ちゃんといい大学にも通えていて、大手企業に就職できて。それがちょっとしたことで、こういう世界になってしまうという。そこは特に気を付けました。心ない自己責任論なんかで間口が広くなるよりは、広いところから見てもらって『こういうことがあるんだ』っていう実態を見せたいなと思ったんです」

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