Feature 特集

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技2025/08/15 07:00

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

 WOWOWにて8月22日から放送・配信される連続ドラマW-30「塀の中の美容室」(金曜午後11:00、全7話、第1話無料放送)。本作は、全国の女子刑務所の数か所で現在も営業を行う“受刑者が一般客の髪を切る”美容室をモデルに描かれた桜井美奈氏による同名小説を元に映像化したもので、主演を務める奈緒は、受刑者かつ美容師の小松原葉留役を担う。

 過去に罪を犯し刑務所に収容されている葉留(奈緒)は、女子刑務所の中にある「あおぞら美容室」で、事情を抱えた一般客の思いに寄り添うように彼女たちの言葉に耳を傾けながら、丁寧に髪を切っていく。さまざまな人たちとの交流を通して、自らが犯した罪やこれからの人生と向き合っていく葉留と周りの人たちの心の葛藤を優しいタッチで描いている。

 この難役に挑むにあたり、原作のモデルとなった岐阜・笠松刑務所を訪問し、そこで実際に働く美容師の所作などをしっかりと役に落とし込んでから、葉留を演じたと話す奈緒。美容指導を受け、練習を重ね、自身でヘアカットやヘアアレンジにも挑戦したという彼女が撮影を振り返り、本作の見どころや現場でのエピソードを語った。

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

──原作を読んだ感想と本作の魅力を教えてください。

「刑務所の中のお話ですが、そこに携わる塀の外の人たちのお話でもあるところが、原作を読んで面白いと感じたところです。実際に映像化するにあたって、きっとたくさんの方に自分ごととして見ていただけるんじゃないでしょうか。話が進むにつれて葉留の過去が明かされていきますが、刑務所に入った理由については、いろいろな想像をする人がいると思います。怖いことを想像する方もいるでしょうが、葉留の過去が分かっていくにつれて、彼女はごく普通の女の子だったんだと感じたんですよね。私たちはまだ罪を犯していないだけで、誰でも葉留になる可能性があるかもしれない。読み終わった後もずっと、葉留や彼女の家族の人生に、もし自分が携われるとしたら何ができるのだろう、美容室に行ったらどんな話ができるだろうと、いろいろな人の立場から想像が広がる作品だなと思いました。原作を読んだ方たちも、ドラマを見てくださった視聴者の皆さんにも、終わった後に、誰の立場で何を想像したのかを聞いてみたいなと思う作品でした」

──実際に笠松刑務所に足を運んだことによって、ご自身の思いや演技などに意識の変化はありましたか?

「原作を読んだ時も思ったのですが、刑務所内でいろいろなお話を聞いて、刑務官の皆さんや所長のお人柄を知ったり、実際の建物を目にしたりしたことで、今のリアルをより広く知ってほしいなと思いましたし、伝えなければいけないという意識が芽生えました。刑務所のイメージを変えるというか、新しいイメージにアップデートするためにもこの作品は必要だと非常に感じています」

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

──想像していた通りの場所でしたか?

「全然違いました。刑務官の皆さんも、自分たちが働いている刑務所の中と、一般的に抱かれている刑務所のイメージには少しギャップがあるように思うとおっしゃっていました。そのイメージを払拭したいので、本当は取材もたくさんお受けしたいけれど、受刑者の皆さんのプライバシーを考えると、ありのままを映せないし、また、一人一人に確認を取るのも難しい。いろいろな事情があるので刑務所の実情を見てもらうことは、なかなか難しいようです。それでも、一人でも多くの人に中を見てもらって、受刑者の皆さんが社会復帰する時に、刑務所は怖いというイメージが解消されるといいなと願っていると聞いたので、少しでもこの作品がその思いをかなえられるきっかけになるといいなと思いました」

──撮影中に印象に残ったエピソードを教えてください。

「台本には書かれていないですが、実際の刑務所では、今まで経験したことのないルールがたくさんありました。大変だった点もありましたが、みんなで協力しあって、台本のト書きには書かれていない刑務所のルールを一つずつ埋めていきました。貴重な経験でした」

──その中で、特に驚いたルールは?

「廊下でほかの受刑者と擦れ違う時、壁の方を向いて待っていないといけないんですけど、この作品でもそのルールを取り入れています。見ている人たちには何の説明もないので少し違和感があるかもしれませんが、受刑者の皆さんにとってはそれが日常なんですよね。実際に刑務所の中を歩いていると、空を見上げることがなかなかできないんです。常に『自分は怪しい行動をしていないです』『規律を守った行動をしています』という意識を体に染み込ませて生活しているので、キョロキョロすることもできない。台本を読んだ時には分からなかったことが、葉留として生活して撮影を重ねていく中で理解できた部分が結構ありました」

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

──実際に刑務所の中で撮影された際、奈緒さんご自身もキョロキョロしないようにして、規律を守っている意識になったのですか。

「葉留として居室(独房)にいる時間と、“奈緒”自身に戻った時では、この部屋の居心地が全然違ったんです。葉留になって撮影している時は、決まった時間に音楽で起きたり毎日のルーティンが決まっていて、それに合わせて生活するという葉留の日常を過ごすことになり、常に自分の罪と向き合っているので、部屋の中が少し冷たく感じるような気がして…。でも、葉留が生活する空間に慣れようと、撮影の合間に居室(独房)で待っていると、その時は、“奈緒”自身でいられるので、純粋にすごく居心地がよく感じました。それはとても不思議な体験でした。場所の捉え方すら自分の持っている背景で変わるんだなと感じましたね。あと、窓の鉄格子は逃亡できないようになっているのですが、女子刑務所の鉄格子はデザインがかわいくて、細部が人の心に寄り添って設計されているんだなと感じましたし、何より刑務官の皆さんがとっても明るくて優しい方たちばかりだったので、話をしていると元気が出てパワーをいただきました」

──現場はピリピリムードだったのですか。それともほんわかした感じでしたか。

「全然ピリピリしていなくてほんわかしていました。一つあるとすると、めちゃくちゃ寒いんですよ。今はエアコンが効いているし、防寒対策もされてるので、夏にすごく暑くて冬に寒いということはないと思うんですが、今は使われていない刑務所跡をお借りして撮影していたので、空調設備が止まっていたからすごく寒くて…。みんな、ピリピリはしていなかったですけど、プルプルしていました(笑)。すごく寒くて、震えながら撮っていた記憶があります」

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

──美容指導を約1か月間受けたそうですが、どのように習得されたのですか。

「1か月の練習期間をいただいたのですが、私自身に不安があったため、練習の回数を増やしてほしいというお願いにも快く応じていただき、本当にありがたく思っています。また、マネキンではなく、エキストラの方の中から実際の人の髪をカットする機会をいただき、たくさん練習させていただきました。あの時間がなければ、きちんと覚えることができなかったかもしれません」

──カット以外の練習もあったのですか?

「編み込みの練習も行いました。カットの練習も楽しかったのですが、編み込みの練習は、撮影が終わった後でも、自分が誰かにヘアアレンジをしてあげられるかもしれないと思うと、さらに楽しく感じました。きれいな長いストレートヘアのエキストラの方が、ヘアアレンジの練習に協力してくださったのですが、その方はその後、お子さんの授業参観に行く予定だったそうで、『このまま行きます』と言ってくださったんです。それを聞いて、完成までしっかり仕上げたいと思い、先生にも丁寧に教えていただきました。自分が担当したお客さまがそのまま街を歩くと思うと、いつも以上に気合が入りました。こうした経験はなかなかできるものではありませんし、お客さまが店を出た後も髪型が崩れないように想像することが、美容師にとって大切なことなのだと気付くことができました。本当に貴重な学びをいただき、感謝しています」

──ご自宅でマネキンを使って練習をしたのですか。

「カット用のマネキンを持ち帰ったので、自宅ではもっぱらカットの練習ばかりしていました。編み込みを練習するにはそのマネキンでは長さが足りなかったので、撮影の合間にスタッフさんに許可をもらって、お仕事しているスタッフさんの髪の毛を結わせてもらいました。だから、私のモデルになってくれたスタッフさんが数人います(笑)」

──再生とか許しがテーマに向けられている本作で共感されたことは。

「今作では、共感というよりも“気付き”が多かったように感じています。自分が葉留と同じような立場になった時、罪を犯した自分をどうやって受け入れていくのか。そんなことは今まで想像したこともなかったので、あらためて向き合うきっかけになりました。だからこそ、『今の私たちに何ができるのだろう』と考えるようになりました。もし私が葉留の身近な存在だったら、彼女とどう向き合い、どう一緒に生きていけばいいのか。そんなことを想像するきっかけにもなりました。きっとそれは、同じ社会の中で共に生きていくうえで、私たち一人一人にとって大切なことなのではないかと、あらためて感じています」

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

──演じられた時と実際の映像をご覧になって、新たに気付いたことはありましたか。

「あらためて、すごく穏やかな作品になっていると思いました。というのも、葉留として『あおぞら美容室』の空間にいたんですけど、あの美容室の空間に葉留がいたという全体像を、自分自身が俯瞰(ふかん)して見ていなかったんです。あの空間が刑務所の中でどれだけ明るくて温かい場所だったのか…。編集でつないだ映像を見て、葉留にとって『あおぞら美容室』は、外の世界とつながるとても大きな場所だったんだとあらためて感じられました。あとは、葉留が刑務所にいた間に外でどういうことが起きていたのかは、私も初めて映像で見たので、家族の思いを見た時は、やっぱりちょっと胸が詰まるような苦しい思いがありました。いろいろな人の視点からあらためて見ることができる作品になっているなと感じました」

──監督の松本佳奈さんとはドラマ「春になったら」(フジテレビ・カンテレ系/2024年)に次いで2回目のタッグになりますね。

「新しい物語を、もう一度みんなと一緒に作れることが、こんなにも幸せなことなんだと、あらためて実感しました。『春になったら』が本当に素晴らしい現場だったので、また松本組に参加すれば、きっとまたみんなとすてきな作品に出合えるという確信がありました。だからこそ、私にとって『塀の中の美容室』のみんなと再会できる時間は、心から楽しみにしていた時間だったんです。もちろん、『初めまして』のスタッフさんもたくさんいらっしゃいましたが、初日からうれしくて、まだお会いしたことのない方々にも、心の中で『やっと会えましたね』とあいさつしたくなるような気持ちでした(笑)。クランクアップの時にその話をしたら、照明部の助手の皆さんが『すごく腑(ふ)に落ちました』と言ってくださって、『会ったことがないはずなのに、まるでどこかで会ったことがあるかのように、初日から奈緒さんが私たちを見てニコニコしていたので、どういうことなんだろうと思っていたんです。でも、心の中でそう思ってくださっていたんですね』と、まるで初日の答え合わせのようなやりとりがありました(笑)」

──葉留を見守る、「あおぞら美容室」担当の刑務官・菅生冬子は、「春になったら」に出演されていた小林聡美さんが演じていらっしゃいましたね。

「先輩としても人としても、聡美さんの好きなところがいっぱいあるのですが、どんな役をされても、“チャーミング”という人間味が聡美さんからにじみ出ていらっしゃるんですよね。そう感じることがたくさんあって、聡美さんが演じる菅生さんと対峙(たいじ)しているとめちゃくちゃ安心するんですよ。あの包容力と優しさには憧れます。聡美さんはやはりすごいなと、今回もたくさん思いました」

──木梨憲武さんとも再び共演されて、どんな感じでしたか。

「最後にはノリさんが来るということも、みんな楽しみにしていたので、お盆に親戚が集まるような感覚でワクワクしていました。ノリさんは久しぶりだけど恥ずかしがらないかなとか、人見知りしないかなとか監督と話しながら、当日はすごく不思議な感覚でしたね。『春になったら』では親子役だったのですが、違う関係性でノリさんとこんなに早くお芝居できるとも思っていなかったです。とても素晴らしいロケーションの中でノリさんと一緒のシーンで、クランクアップができて、みんな多幸感に包まれて作品を終えることができました。ドラマ全体の撮了がノリさんの登場されるシーンだったので、本当にいいクランクアップでした。物語としても、救われるような優しい内容で、葉留が塀の外でどうやって人生をやり直していくのかということを確認できるので、最後に皆さんに葉留の新しい姿を届けて物語が終わるのは良かったと思います」

奈緒が受刑者で美容師の難役に挑んだ「塀の中の美容室」刑務所体験が生んだリアルな演技

【プロフィール】
奈緒(なお)
1995年2月10日生まれ。福岡県出身。2018年、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」でヒロインの親友役に抜てきされ注目を集める。近作に映画「先生の白い嘘」「傲慢と善良」、ドラマ「東京サラダボウル』などがある。主演舞台「WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-」が8月5日~9月14日まで東京、兵庫、福岡で上演。8月22日より、WOWOWにて「塀の中の美容室」の放送・配信がスタート。

【番組情報】
連続ドラマW-30「塀の中の美容室」
WOWOW
8月22日スタート
金曜 午後11:00~11:30
※第1話無料放送(全7話)

取材・文/松下光恵



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.