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柔道100kg級の金メダル候補・ウルフ アロン選手2019/05/08

Cheer up! アスリート2020!

 2000年シドニー大会の井上康生以降、優勝から見放されている100kg級に金メダル候補が現れた。どんな形でも“勝ち”を目指す、そのひたむきさで人々を魅了する柔道スタイルの秘密に迫る。

ひたむきに勝ちを取れ

 柔道を始めた小学校の頃は「面白さに気付けなかった」という。

「本当によく怒られるタイプでしたね。講道館の先生にも『やる気がないんだったら帰れ!』と言われることも多かったです。それで道場を追い出されて帰ったら帰ったで怒られるし、中に入ると帰れと言われる。どうすればいいんだろう、と思いました(笑)。ただ、自分はもともと負けず嫌いの性格で、中学生になって年下に負けるようになると、初めて負けたくないという気持ちになったんです。柔道に本腰を入れるようになったのはそこからでしたね」

 柔道で強くなるにはどうしたらいいのか。そこで彼が思いついたのが体力をつけることだった。

「中学生の時に安易な考えで、走ったら強くなれるんじゃないかと思ったんです。それで朝から走り込むようになりました。毎朝7時半の電車で学校に行っていたので、5時半ぐらいに起きて走ったり、学校が終わって練習までに時間がある時は、スカイツリーまで走ったりとかしていました」

 現在のウルフの柔道の持ち味の一つ、試合後半になっても落ちないスタミナはここで培われた。

「そうですね、今の僕の柔道の“貯金”になっていると思います」

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 ウルフのもう一つの特徴が「一本にこだわらず勝つ柔道」だ。

「昔からそう思っていたんです。何でみんな一本、一本と言っているんだろう? と思っていました。一本を取りにいって負けてもいい、みたいなことを言う人もいますが、それでは“負け”しか残りませんからね。一本を取る技を持っている選手で、それで勝てるのならいいと思いますが、それこそ無理に一本を取りにいって足元をすくわれるよりは着実に勝ちにいきたい。どうやったら勝てるか、をしっかりと考えてやっていくことが大事だと思っています」

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 どうやったら勝てるか? そんな単純と思える疑問が、現代柔道ではかなりの難問になっている。

「柔道自体も進化していますし、ルールも変わってきています。モンゴル相撲とか、各国の国技などを取り入れてくる選手もいるので、本当に柔道は日々進化していると思います。その進化にしっかり対応していかないと勝ち続けることは難しいです。単に組んで投げればいい、という世界ではない。投げるまでのプロセスというか、道のりがすごく複雑なんです。外国人選手だと型にはまっていない人もいて、例えば右利きの組み手なのに左の技がきたりするんです。事前に動画を見て研究して、何をやってくるのかを知っておかないとダメです」

 外国人選手が自国の国技を取り入れる複合柔道。日本人が苦手とするそれにも対応してきた。

「前襟ではなく相手の背中を持つスタイルは高校時代からやっていました。ただ、そればかりだと体を密着して戦う外国人選手の土俵で戦うことになり、大学1、2年生の頃は勝てない時期が続いたんです。それで前襟を持つ柔道を最近までやっていたのですが、それもうまく出来るようになってきたので、今は背中を持つスタイルと前襟を持つスタイルを使い分けていこうと思っています。外国人選手は日本人はみんな前襟を持ってくる、と思っているところがあるので、その裏をつくというか。背中を持つ日本の選手ですか? うーん、あまりいないですね、そんなに多くないと思います」

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 現在の目標は「東京五輪の金メダル」とはっきりと言い切った。

「やはり4年に一度しかない、というところで五輪にはすごい価値を感じます。1200日のうちの1日に一番強い自分を持っていく、というのはすごく難しいことだと思います。だからこそやりがいもあると思いますし、それだけ勝った時もうれしいんじゃないか、と思います。そのためにも大きな大会に出場して、その都度出てくる課題を克服していかないと。あとはあえて相手の得意の組み手にさせて技をかけさせてみる、という練習もしなければと思っています。試合中にそのような危ない場面もあると思いますし」

 目の前のウルフからは「柔道が好きではなかった」という小学生の頃の面影は微塵も感じない。

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「ここまで柔道を続けてこられたのは、柔道が好きだから。それが一番大きな要因ですね。試合に勝つようになってから好きになりました。負けて辞めたいと思うことはないですね、いかに勝つか、ということだけで。あとは柔道というスポーツがとても複雑で考えれば考えるほど上に行けるスポーツなんです。そういう意味でも楽しいですし、続けてこられた要因でもあったと思います。本当に頭が悪いと勝てないです。勉強ではなくて、臨機応変に対応する頭がないと。スマート? クレバー? 僕は英語は分からないですけど(笑)、勉強はできても頭が良くないと勝てないですね」

 無邪気に笑うウルフ。弾ける笑顔を東京の表彰台でも見てみたい。

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【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
良い意味ではなく衝撃的だったのは、’08年北京五輪で鈴木(桂治)先生がモンゴルの選手に双手刈りで負けた試合です。今は禁止されている技なんですが、自分がやっている柔道と世界の柔道がこんなに違うのかと驚かされた試合ですね。

Q2 好きなTV番組を教えて!
バラエティー番組はいっぱい見ますね。「水曜日のダウンタウン」、「世界の果てまでイッテQ!」は録画して見ています。あとは「ワールドプロレスリング」。プロレスは好きですね。放送が土曜日の深夜なので、やっぱり録画して見ています。

Q3 “2020”にちなんで、“20”分時間が空いたらしたいことを教えて!
スマホをいじっていますね。携帯ゲームをやったり、動画を見ています。マーベル系のアメコミが好きなんです。映画もたくさん公開されてますが、全部覚えています。映画は劇場ですね。いつもラグジュアリーシートで見るようにしています(笑)

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【柔道競技概要】
種目は男子60kg級~100kg超級、女子48kg級~78kg超級。さらに東京五輪からは男女混合団体が加わる。試合時間は4分。相手を制しながら①強く②速く③背中が畳につくように投げ、④着地の終わりまでしっかりとコントロールしていることや20秒間の抑え込みなどで「一本」。投技で①~④の内1つ以上が欠けた時、10秒以上20秒未満の抑え込みで「技あり」。「技あり」二つでも「一本」となる。「技あり」、「一本」のテクニカルスコアのみで勝者を決定する。

【プロフィール】

ウルフ・アロン

1996年2月25日東京生まれ。魚座。A型。

▶︎祖父の勧めで6歳から柔道を始める。当時は柔道を面白いと思わなかったが「気を遣える子だったらしく面白かったと答えてしまった(笑)。そこで正直につまらないと答えていたら今は柔道をやっていなかったと思います」

▶︎中学の頃から頭角を現し、高校時代はインターハイなどで優勝。東海大時代にはグランドスラムなど国際大会で活躍。4年時には世界選手権で優勝する。「学生の時の団体戦は団体種目のような楽しさを感じました。ただ2年の時に僕が負けて東海大の8連覇を逃した時はきつかった。勝った時より負けた時の方が覚えています」

▶︎昨年はグランドスラム・大阪で優勝、今年4月の体重別は準優勝だったが8月の世界選手権代表に選考された。「東京五輪で金メダルという目標に近づくためにも世界選手権では優勝したいです」

取材・文/田村友二 撮影/山本絢子



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