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森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」2024/03/29

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

 これまで、「グリコ・森永事件」や「オウム真理教」など、日本中に大きな衝撃を与えた未解決事件の真相を徹底検証してきた「NHKスペシャル」の「未解決事件」シリーズ第10弾が、3月30日にNHK総合で放送されます。今回は、“戦後史最大のミステリー”として今もなお多くの謎に包まれている「下山事件」に焦点が当てられます。1949年7月、国鉄総裁・下山定則氏が突然の失踪後、謎のれき死体で発見された事件は、自殺だったのか、他殺だったのか。

 第1部のドラマ編では、捜査に当たった東京地検の主任検事・布施健(森山未來)の目線で事件の舞台裏を描き、第2部のドキュメンタリー編では、NHKの取材班が入手した第一級の資料を手掛かりに、当時検察がたどり着けなかった事件の核心に迫っていきます。

 番組の試写会後、ドラマ編で下山総裁の足取りを追う布施検事を演じた森山さんと、演出を手掛けた梶原登城チーフディレクターがステージに登壇。事件への思いや撮影でのエピソードなどを語りました。

――「下山事件」の印象を教えてください。

森山 「物語として面白いですよね。戦後最大のミステリーといわれているだけの面白さがあるのですが、事実を基に描かれていることは間違いがなくて。僕が台本を読み、あらためて自分でも調べ、NHKのスタッフさんから詳細を聞いた中で感じたことは、共産主義、資本主義ということだけでなく、アメリカ、ロシア、中国などいろんな国の間で、日本という国が生き方を見つけていかなければならなかったということです。戦中・戦後の原初的な部分がこの下山事件に凝縮されていたのではないだろうかと、勝手に想像しています。こういうことが本当にあったのだとより多くの人に知ってもらうことが、この番組の大きな意義につながると思います」

――事件の捜査に携わる主任検事・布施を演じていかがでしたか?

森山 「眉間にしわが寄りまくりました(笑)。手塚治虫さんや浦沢直樹さんが描かれた作品の中に『下山事件が基になって生まれたんだな』と分かるような名作があるのですが、僕はそれに触れていたんだなと感じました。物語として描きたい思いに駆られてしまうほどの謎めいた物語は、アウトラインで見ている分には面白いんですけど、撮影では無常観に襲われていた記憶がよみがえります。事件の詳細は分かっているのに話が詰んでいるという、ジレンマの真っただ中に置かれていた布施の感覚を思い出しました」

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

――演出の梶原さんは現場で森山さんの演技をどのようにご覧になっていたのでしょうか。

梶原 「森山さんはもともとスタイルもとてもいい方ですが、背筋がピンと張った布施という役を体現していただいていて、格好いいなとずっと思いながら見ていましたし、やはり声がいいなと。実は今作では三つの時代を描いているのですが、時代ごとに声色を微妙に変えていただいていて、そのさじ加減がすごいんです」

――令和に作られたとは思えない、もはや昭和なのではないかと思わせるような骨太のドラマでしたが、描くにあたってどんな工夫をされましたか?

森山 「喫煙シーンがたくさん出てくるところは今ではありえないなど表層的なことは言えるんですが、細かな話し方や立ち居振る舞いは、昭和だからというよりも、この人物が持っているキャラクターを自分なりに想像したものとしてやっていました。また、戦中・戦後を生きた人たちの食に対しての欲求の強さや考え方が、今の時代とは圧倒的に違うと考えていたところがあったので、弁当を広げて手紙を読んでいるシーンなど、どんなに大変な物事や事件が起こっていても、食べることは忘れていないということは意識していました」

――どのセリフが心に残っていますか?

森山 「このドラマは、パンチラインだらけじゃないですかね(笑)。どこを出しても結構パンチがあるんですよ。強いて言えば、最後、布施の上司であった馬場(渡部篤郎)と対峙(たいじ)するシーンのセリフは、セリフだから覚えなければならないということではなく、久しぶりに覚えておきたいセリフという感覚がありました。あの言葉を軸に布施のことを考えたし、その当時、あるいは今の検察について考えていた気がします」

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

――実際に起きた事件で実在の方を演じられましたが、どれくらいご本人の実像に思いをはせられたのでしょうか。

森山 「布施の人物像は調べられるとは思うんですが、基本的に実在に似せるかどうかは重要だと思っていないんです。監督やそのプロジェクトからの指示がない以上は、一挙手一投足をまねていくというような考え方は僕にはなくて。ただ、時効が成立してからもとにかく調べ続けていた、追い続けていた事実はあったそうです。周りから侍のような人だったといわれていたようですが、ほかの事件も追いながら淡々と一つの事件を追う実直さは、ある種、狂気にも近くて。布施を駆り立てたものは何なのだろうと考えながらやっていましたが、答えが出たかは分からないです」

――ドラマ編の後にドキュメンタリー編が放送されますが、そちらはご覧になったのでしょうか?

森山 「まだなんですよ。本当にNHKさんがよく調べられているので、ドキュメンタリーではどこまで情報が提示されているのか非常に興味があり、どこまで出すんだろうなと気になっています」

――ドラマで特に注目してほしいシーンを教えてください。

森山 「松本清張を大沢(たかお)さんが演じることは、前シリーズの『File.9』とつながっているので、そういうつながりを見るのも面白いと思います。人々がここまでずっとこの事件に引きつけられ続けているのかという話でいうと、単純に出来事の構造が面白いんですよ。想像をかき立てられてしょうがない。だからそういう目で見てもらって全然構わないのですが、実話ベースであることを後からふっと気付いてもらえたらうれしいです」

――撮影中の共演者の方々との思い出があればお願いします!

森山 「これは本当に個人的な話なんですが、僕と朝日新聞記者・矢田喜美雄役の佐藤隆太はデビューが同じで、彼が19歳で僕が15歳の時に同じ舞台でデビューしたところからのつながりなんです。こんなにがっつり芝居をしたことが25年くらいなかったので、すごく不思議なものを感じました」

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

――現場の雰囲気はいかがでしたか?

森山 「めちゃめちゃよかったです。必要以上に重くなることもなく、撮影中にも新しい情報が出てきて、監督や事件を調べているスタッフの皆さんと話をすることで、より見えてくるものがたくさんありました。僕自身は事前に梶原さんたちから最新情報を聞いて、その都度ドラマチックな驚きと感動を得ていましたが、布施としては、どのように秘密の捜査室で共有するべきかを確認しながら進めていました」

梶原 「通常のドラマと若干違う雰囲気があって、今回の企画に関わった報道ディレクターとプロデューサーが現場にずっといてくれたんです。それは通常のドラマではまずないので、さっき森山さんがおっしゃった確認だけでなく、シーンごとの役の感情を役者さんと一緒に探りながら撮影をしていました。森山さんはいろんなことを調べて勉強もされているから分かっているけれど、布施としては『ここは知らなくていいんですよね』っていう状況が出てくるんです。だから、『布施は知らないから、ちょっと驚いてもいいですよね』『これは結構驚いてください』というようなやりとりを毎回していました。僕は最終的にもらった情報をエンターテインメントにするのが仕事ですが、半ドキュメンタリー半ドラマのような形で作っていくことは、実はすごく面白かったです」

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

森山 「さじ加減が非常に難しいんですよね。この作品においてはマニアックすぎて重要ではないであろう細かいディテールも現場で積み上げていきました」

梶原 「さらに助監督が調べてくれたことも足しながら探り当てていって、これは面白いとなった時に撮影するという感じで。だから僕はとても楽しかったのですが、役者さんたちはちょっと大変でしたよね」

森山 「どうなんでしょうね。布施はいわゆる説明的なセリフがめちゃくちゃ多いんですけど、僕が自分で下山事件に興味を持ってお話を聞いたことで、意味を知らずにこの言葉を出しているのではなく、自分の中から出ている感じがありました。それは本当に皆さんからいろいろ知識や知恵をいただいたおかげです」

――演じる前と後で下山事件について印象が変わりましたか?

森山 「政治や宗教の話は飲み屋に持ち込むなという話をよく聞きますが、それは何から来ているのか、ずっと気になっていました。海外では、普通にティーンエージャーでも政治の話や自分たちの宗教の話をちゃんと共有します。もちろんそれが争いになる世界でもあるんですが、自分の思想について対話することは非常に重要なことだと思う気持ちは、下山事件に関わる前からありました。あえて令和という言葉を使うならば、共産主義や資本主義という考え方自体が、どんどん遠くに追いやられている。そこには何か原因があるし、意味があるんですよね。この作品を見た時に、それらを考えるきっかけになればいいなと思っています」

――最後に見どころをお願いします!

梶原 「森山さんをはじめとした俳優さんたちの熱演です。森山さんにはずっと葛藤し続ける演技をやっていただきました。これだけ緊張感の高いドラマになったのは、そのおかげだと本当に思っています。それともう一つは、事実に基づいたドラマではあるんですが、その事実をベースに、いかにサスペンスドラマとして面白いものに仕立て上げていくかということを一生懸命やったので、サスペンスドラマの面白さを味わっていただけたら。また、終戦直後の出来事ではありますが、過去の古いドラマだとは思っていません。今に通じるドラマだということが届くとうれしいです」

森山 「下山事件のことを知らなくても、松本清張さんや手塚治虫さん、浦沢直樹さんを知ってる人はたくさんいると思います。その人たちがこんなに引きつけられてしまい、自分の作品にしたくなる事件が下山事件であることを考えると、事実がベースではあるけれど、ワクワクドキドキする構造になっているんです。だから、いろんな思いや考えを持ちながら見ることもありですし、そういうものがなくても、シンプルにいろんなことがひもとかれていくことで、どんどん引きつけられていく作品になっているので、1回見てください!」

森山未來、今も多くの謎が残る「下山事件」を追う検事を熱演!「眉間にしわが寄りまくりました(笑)」

【番組情報】

NHKスペシャル「未解決事件 File.10 下山事件 第1部」
NHK総合
3月30日 午後7:30~8:48
NHKスペシャル「未解決事件 File.10 下山事件 第2部」
3月30日 午後10:00~10:54

NHK担当/K・H



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