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「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」2023/01/02

「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」

 古沢良太さんが脚本を手掛け、松本潤さんが主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」が、いよいよ1月8日よりスタート! 松本潤さん演じる徳川家康が、弱小国の主として生きる運命を受け入れ、織田信長(岡田准一)や武田信玄(阿部寛)という化け物が割拠する乱世に飛び込み、その戦いを終わらせた奇跡と希望の物語を描きます。

 今回は、人質として今川家に入った家康が父のように心から尊敬する今川義元を演じる野村萬斎さんに、撮影現場の雰囲気や大河ドラマについて、また古沢脚本の印象や義元の魅力などを伺いました!

――今川義元をどのように捉えて演じていますか?

「今川義元の人物像には諸説あるようです。お歯黒を塗ったいかにも公家というような人物造形もありますが、近年はそうではないとも言われていて。義元にとって家康は人質ではありますが、同じ生活圏にいて寝食を共にし、文武両道で国家をどういうふうに考えるなど、家康が幕府を開くにあたり、思想に大いに影響を与えたと捉えて演じました。家康(当時は次郎三郎や元康)に、身をもって何かを授ける役だと思っています」

――古沢さんの脚本をご覧になった印象はいかがでしたか?

「群像劇にもなっているし、松本くん演じる元康(家康)に収斂(しゅうれん)していくところもあって、いろんな人間像が見られます。主役だけでなく、視聴者の方が自身を投影できるような役やエピソードがたくさんあって、その頂点に家康がいるという感じなので、非常に見やすいと思います。松本くんとは、そんなにたくさんの共演シーンはありませんでしたが、『自分なりの家康像を確立するんだ』と言っていましたね」

――脚本を読んだ上で、今川義元を表現するために心掛けたことはありますか?

「キーワードは王道を説くということです。家康が生まれた時代は戦乱の世であり、まさしく覇道をかけた群雄割拠の時代だったので、戦うことは避けられない。だけど、義元はその後の理想的な国作り、徳をもって国を治めようとしたのがポイントだと思っています。カリスマ性のある人格者という面で、厳格な人物として演じることを心掛けました」

「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」

――「花の乱」(1994年)以来の大河ドラマの現場になりますが、久しぶりに大河ドラマに入った感想をお願いします。

「29年ぶりというと、随分になりますね。その間にもオファーはありましたが、なかなかスケジュールが合わなくて。大河ドラマは長期のものですから、それなりに覚悟がないとできないんです。29年前の大河ドラマは『応仁の乱』という時代を題材にした作品で、私もまだ20代でした。その時は、三田佳子さん、先代の市川團十郎さん、それから何より、萬屋錦之介さんや京マチコさんという、今のZ世代はおそらく知らない銀幕のスターと共演させていただき、時代劇を背負ってきたお歴々の胸を借りました。その方たちの演技を真剣に食い入るように見ながら、どうやったら対抗できるかと、ある種、他流試合のように緊張感を非常に持って臨んだ覚えがあります。また、29年ぶりになると、いろんなことが変わっています。以前は、本かつらでしたが、地毛を混ぜたかつらになり、衣装も昔だと時代考証そのままでしたが、今は作品のオリジナリティーを出すために少しずつ工夫がされている部分もあります。スタジオの背景にLEDパネルを立て、映像を流して撮るという技術の革新にも驚いています」

――前回は緊張されていたということですが、今回はいかがですか?

「古沢さんの脚本ということもあるでしょうし、松本くんをはじめとする徳川家臣団の方たちの感じも非常にアットホームな構成になっています。緊張感がないわけではありませんが、一種のファミリードラマとしての面白みがすごくあります」

――義元像において、人格者で尊敬もされているという部分が萬斎さんと重なるように思います。ご自身は今回の役との共通点、もしくは共感したポイントはありましたか?

「私が人格者かどうかは分かりませんけれども(笑)。義元は一種の信念を持ち、パワー型ではなく、伝統を保持しながらも新しい未来のためにどうしたらいいのかという理念を持って治める政治に長けています。私もいろんなことをやっているように見えるかもしれませんが、古きを守りながら伝統や歴史にこそ発想の種があると思って、そこから学び、実践に生かして理想の形を作っているので、そういう意味では、自分の置かれた境遇や思いと重なる部分は大変多かったです」

「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」

――演じてみて学んだことや刺激を受けたことはありますか?

「王道と覇道を説くことも含め、物語全編を通して、家康自体に非常に大きな影響を与えますし、素晴らしい理念の持ち主だと思います。その後、徳川幕府になって二百数十年続く御代の礎になることは、すごいことで誇りを持てる役です」

――役作りで意識的にされたことや演じていて難しかった部分はありましたか?

「父親代わりという大きさを見せるということを心掛けました。大きな目で元康や氏真(溝端淳平)を見ていて。ただ本当に厳しい場面だったのは、氏真にある種の引導を渡すシーン。国を治めるという責任からすれば、そういう非情な判断をしなくてはいけないのかとも思いましたが、実の息子にここまで言うかと。時代劇をやる時にいつも思うことは、時代背景として何をメインにし、何を捨てるかという取捨選択の違いです。個人の尊厳を重視する今の世の中とは異なり、当時は国を大事にして、理想的な国家を作ることを第一にしていた。義元は自分の腕力だけで治めようとしない。それは優雅といえば優雅ですし、そこは京都仕込みなのかもしれません。泰然自若として信念を持っているある種のカリスマで、武力とはまた違うカリスマ性を見せなくてはいけない。これから戦いに向かうという場面で、今川義元という人が天と地とつなぐような、神ではないですが神に成り変わるような、何か大きなものを背負っている存在として見えたらうれしいです」

――では、「自分なりの家康像を確立する」と話されていた家康を演じる松本さんとの共演はいかがでしたか?

「個人的には、松本くんの演出家としての才能なども含めて尊敬できる方だと思っています。義元自身も当時の元康に才能を見いだします。悲しいかな、自分の息子にはちょっと強く当たりつつ、人質の元康の方にきらめくものを見いだしているという。松本くんが明るくてにこやかで才能のある方なので、元康の隠れた才能を信じている義元は、非常に演じやすかったです」

「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」

――萬斎さんから見た今回の家康の魅力を教えてください。

「古沢さんが考えた家康像は『どうする家康』というタイトルからも分かるように、いろんな場面に彼が遭遇した時に、“どうする”という決断をしなくてはいけないのですが、意外と決断していない気もします。それは自分の思いで暴走するのではなく、周りに助けられて流れに身を任せているのかと。三英傑の性格を表したホトトギスの句で、信長は『殺してしまえ』、秀吉は『鳴かせてみせよう』、家康は『鳴くまで待とう』というのもありますが、家康にはそういう忍耐力がある。“どうする”という時に自分から打って出て、損をするよりは何もしないという気もします。だからこそ、周りが活躍する面白いドラマになるし、歴史は小説より奇なりという感じに書かれているのではないでしょうか」

――戦国時代から江戸時代を描くことになりそうですが、その時代について思うことを教えてください。

「世の中が激動の時代から安定した時代になった戦国から江戸時代の物語は、今の時代にぴったりだと思います。価値観が入り乱れる中で、大きなリーダーがいること、そういう意味で家康の偉大さが再評価されるのは、とてもいいことなんじゃないでしょうか。この作品と並行して、家康がどんなふうに再評価されるのかが楽しみなところです」

――ありがとうございました!

「どうする家康」で今川義元を演じる野村萬斎、「松本くんが才能のある方なので、義元は演じやすかった」

【プロフィール】

野村萬斎(のむら まんさい)
1966年4月5日生まれ。東京都出身。狂言師。狂言以外でも、ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。2003年より、「にほんごであそぼ」(NHK Eテレ)のレギュラー出演を務める。また、23年1月26日には、東京・文京シビックホールで行われる「野村万作・萬斎・裕基 狂言三代の夕べ」、3月には世田谷パブリックシアターにて上演される「ハムレット」の公演などが控えている。

【番組情報】

大河ドラマ「どうする家康」
1月8日スタート
NHK総合 
日曜 午後8:00~8:45ほか ※初回は午後8:00~9:00
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
日曜 午後6:00~6:45 ※初回は午後6:00~7:00

NHK担当/K・H



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