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三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも2022/06/26

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

 第25回(6月26日放送)のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、大姫(南沙良)が亡くなるなど不幸が続き、不安にさいなまれる源頼朝(大泉洋)が死を恐れ、必死に抗う姿が描かれましたね。自分の亡きがらを夢で見て、餅を喉に詰まらせて危うく死にかけた頼朝が、わが身の運命を受け入れた矢先、落馬するという事件が発生。頼朝はどうなってしまうのか…。気になるラストで幕を閉じました。

 今回は脚本を執筆した三谷幸喜さんから、自身の頼朝像や演じた大泉さんへの思い、死に向かって歩みを進めていく頼朝を描いた心中などを伺いました。

――第25回は三谷さんの頼朝愛を感じた回でした。ご自身の考える頼朝像を交えながら、今回の頼朝について教えてください。

「源頼朝という人物をメインの登場人物として描ける喜びというのは、脚本家冥利(みょうり)に尽きます。あれだけドラマチックな人生を送った人はそういないし、でも決して聖人君子でもない。女好きだという点も含めて、たくさんの問題やマイナス面を抱えた歴史上の人物とも言えます。だから、僕以外の誰が書いたとしても魅力的な人物になる気がするんです。昔からそれぐらい面白い人物だと思っていました」

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

――第25回では死にそうでなかなか死なない頼朝が描かれました。死が迫っている頼朝をどのように描きたかったのでしょうか?

「頼朝の死には暗殺説をはじめ、いろんな説がありますが、これだけ長い時間、頼朝と一緒に寄り添ってきた僕としては、彼なりのつらさや孤独を十分感じてきているので、ちゃんと死なせてあげたかったんです。例えば、誰かに殺されるというのは、そこに殺す側のドラマも生まれてしまいます。あくまでも頼朝側のドラマとして完結させてあげたいという思いがありました。結局、彼の人生は何だったんだろうと考えながら、静かに死なせてやりたいと思ったんです。決してドラマチックな1日ではありませんが、最後の1日を丁寧に描くことで、彼の人生の答えが浮かび上がってくるように心掛けたつもりです。それを演出の吉田(照幸)さんがきちんとくみ取ってくださって、厳かに頼朝をみとる回になりました」

――大泉さんが演じる頼朝をご覧になっていかがでしたか?

「彼もそれをくみ取って、一生懸命やってくれたし、巴御前(秋元才加)とのやりとりのところでは、自然と涙が出てきたと言っていましたね。僕はあんなに頼朝が泣くとは思わなかったんだけど、それはこれまでずっと演じてきた積み重ねの上での涙だったんだと思います」

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

――インターネット上では「全部大泉のせい」などと言われて大変嫌われている頼朝ですが、こういう頼朝像にしたのは、大泉さんに対する信頼があったからなのでしょうか?

「大泉洋という俳優が源頼朝を演じることになったので、結果的にこういう頼朝像が出来上がったというのがすべてです。僕は彼の魅力や力量をよく知っています。彼だったら僕が望んでいる頼朝像をきちんと、もしかしたらそれ以上に演じてくれるだろうという信頼がありました。1人の権力者としての誇り、孤独や不安をここまで演じられる俳優はほかにはいないと思います。でも、最後に会ったのは『紅白歌合戦』で僕が審査員を務めた時。放送が始まってからは、会ったりメールのやりとりもほとんどしていないんですよね。全然接触はないんですが、完成した作品を見ながらいつも『彼は分かってくれているな』と感じていました」

――では、お褒めの言葉はかけられていないんですね?

「彼が、相当みんなに、日本中に嫌われていると思っているという話を聞いたもんですから、『日本中に嫌われても僕は君のことが好きだよ』とメールをしたら『お前のせいだ』って返事がありましたね(笑)」

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

――頼朝が死への恐怖から解放されて穏やかに死に向かっていく中で、想像を超えてきたシーンはありましたか?

「高校生の時に大河ドラマ『草燃える』(1979年)を見て感銘を受けたのですが、すごく覚えているのは、頼朝が馬から落ちた回なんです。その頃、当然脚本家になると思ってもいなかったし、よもや自分が大河ドラマで同じ時代のものを書くなんて想像もしてなかったんですが、そのシーンを見た時に『僕だったら、頼朝が倒れた瞬間ほかの人たちが何をしていて、何を思っていたのかを見たい』と思っていたので、当時の思いを脚本にしました。僕の中ではいろんな人の顔が一瞬浮かぶイメージでしたが、演出の吉田さんは、僕の思いをより強調して一人一人じっくり時間をかけて、それぞれの生活を描いてくださって。僕が約40年前に見たかったシーンはこれだったんだと感じたので、吉田さんにはとても感謝しています」

――また、死期が迫った頼朝にはキーンという音が聞こえていましたが、あれは何の音でしょうか?

「あの音は生理的なものですね。耳鳴りや頭痛とか、病気が原因で起こる現象の一つとして僕は書きました。それが吉田さんの解釈で鈴の音になって、みんなにも聞こえる形になっていましたね」

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

――頼朝が落馬したシーンでは、これまで「鎌倉殿」と呼んでいた安達盛長(野添義弘)が、最後「佐殿」と呼びましたが、そこに込めた思いを教えてください。

「あのシーンについて、僕としてはちょっともったいなかったなと思っている部分があって。それは、流人時代に盛長が頼朝の馬を引いて2人で蛭ケ小島の辺りを散歩しているシーンが今回なかったことです。もしかしたら視聴者の皆さんは『あの頃を思い出す』というセリフがあったので、脳内変換してあのシーンがあったと思われているかもしれないけど、ないんですよね。それが自分の中でとても心残りで。盛長は最初からいる家来で、その頃からずっと頼朝を慕っていて、彼にとっては生涯、“佐殿”だったんだろうと思ったので、あの呼び方にしました。演じている野添さんも本当にすてきな俳優さんなので、あの回の最後は盛長の『佐殿!』のセリフで終わりたかったんです」

三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも
三谷幸喜が描きたかった死期迫る頼朝とは? 「彼は分かってくれている」大泉洋への思いも

――ありがとうございました! 

【番組情報】

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
日曜 午後6:00~6:45

NHK担当/K・H



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