Feature 特集

朴璐美、強欲でチャーミングな湯婆婆は「役者冥利に尽きる」。舞台「千と千尋の神隠し」インタビュー2022/01/01

舞台「千と千尋の神隠し」

 宮崎駿監督による不朽の名作「千と千尋の神隠し」が、東宝創立90周年記念作品として世界で初めて舞台化され、3月より東京・帝国劇場にて上演される。演出は、ジョン・ケアード。主人公の千尋は、橋本環奈と上白石萌音がダブルキャストで演じる。本作で、湯婆婆/銭婆役を演じるのが朴璐美だ(夏木マリとのダブルキャスト)。

 声優・女優として、舞台・アニメ・吹き替え・ナレーション・舞台プロデュースなど、さまざまなジャンルで活躍する朴にインタビュー。謎多き魔女・湯婆婆をチャーミングだと語る朴に、作品の魅力や意気込みを語ってもらった。

── 出演が決まった時の率直な感想を教えてください。

「私、映画『千と千尋の神隠し』のなかで、一番印象に残っていたキャラクターが、湯婆婆と銭婆だったんです。なので、オーディションのお話をいただいた際は、胸が踊るような気持ちでした。加えて『女優』という素晴らしい存在を初めて認識したのも、夏木マリさんだったもので、勝手に焦がれていた方だったんです。その夏木さんが演じられた湯婆婆がもう、本当にすてきだったので、その役に挑戦させていただけることが光栄でした。夏木さんが体得されている湯婆婆があると思うのですが、そのエッセンスをいただきつつ、自分に落とし込んで演じていきたいです。11月9日に行われた製作発表会で、初めてキャストが壇上に勢ぞろいした光景を目の当たりにし、あらためて濃いな、強いな、と思いました(笑)。なおかつ、自由な方々ばかりな感じがしましたので、これはきっと暴れ馬だらけのスペクタクルな現場になるんだろうなと、戦慄(せんりつ)しています。同時に、これだけの荒くれ者たちの舵を取り、まだ見ぬ世界へ最も簡単に連れ出してしまいそうな、ジョン(・ケアード)の強烈な懐の深さも感じてしまいました」

── オーディションでは、どのようなやりとりがあったのでしょうか。

「コロナ禍ということもあり、今回はオンラインでのオーディションでした。画面上にいる千尋役の代役の方と『自由に会話して』と言われてびっくり。でも、ジョンが『璐美のことを教えて!』とラフに言ってくれたおかげで、すごくリラックスして挑むことができました」

── ジョン・ケアードさんが作られる舞台の魅力とは、どんなところだと思いますか?

「私もまだミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』しか見たことがないのですが、ジョンは、最新技術を駆使した演出というより、もっと手あかのついたもの…人間のマンパワーから引き出される演出を大切にしているのだと思います。デジタルに頼るだけではなく、人の知恵や肉体から発せられる膨大なエネルギーを使ってダイナミックな舞台を創り上げていく。そこがジョンの舞台の魅力ではないでしょうか。ということは、私自身のエネルギー全開放でこの舞台に挑まねばならぬので、震えますけど(笑)」

──「千と千尋の神隠し」は、とても幻想的な作品ですからね。ちなみに朴さんは、湯婆婆のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

「何といっても、強欲なところが大好きです。欲がある人の方が、生き生きとしていて輝いているじゃないですか。湯婆婆の欲が一体どこから来ているのかは、作中では具体的に明言されていません。でも、何かしらの絶対的な使命感があると思うんです。それ故の何とも言えないチャーミングさと、ユニークさがある、魅力的な人物だと思っています。彼女があれだけ使命感を持って湯屋の秩序を守っている理由をぜひ宮崎駿さんにお聞きしたいです(笑)。彼女なりの正義の貫き方が、とっても好きです」

── 確かに、宮崎駿監督が描く頼もしい女性たちは、みんな自分なりの正義感があって魅力的です。

「そうそう。だから私、『天空の城ラピュタ』のドーラも大っ好きなんです。家で、山路(和弘)とものまねして演じているくらい大好き! ドーラ役の初井言榮さんは、青年座の山路の先輩なので、よく『俺の方が似ている』なんて言っています(笑)」

── 朴さんと山路さんによる「ラピュラ」も、ぜひお聞きしてみたいです!(笑)。そんな魅力的なキャラクターを実際に舞台で演じるとなるわけですが、どのような思いでしょうか。

「湯婆婆ほど、感情の起伏が豊かに描かれているキャラクターって、あまり他にはいないと思います。あんなエネルギーの塊のような役を生身で演じられるなんて…本当に役者冥利(みょうり)に尽きますよね。ビジュアル面がどうなるかは確かに気になるところですが(笑)、今はとにかく彼女を生きることが楽しみです。作品の中では描かれていませんが、きっとたくさんの苦労をしてきたうえでの今なんだろうなと、彼女の過去を深々と感じさせられる、魔女だけれどとても人間臭いところが、とても好きです」

舞台「千と千尋の神隠し」

── ご出演が決まる前と後とでは、作品の見方も全く変わってしまったのでは?

「もちろん、全く違って見えます。以前は視聴者として無責任に楽しめていましたが、今はもうすべてを知りたくて仕方ない…! 演じるうえでのとっかかりが欲しいんです。特にこの作品は、さまざまな解釈と考察ができますからね。ただ見ていた時には気付いていなかったものが、たくさんあるんだろうなと。今は『そもそも湯婆婆って何?』というところから、必死に考えているところです」

── これからヒントを見つけて膨らませていく段階かとは思いますが、どのような部分を大切に演じるのでしょうか。

「先ほども触れた通り、彼女は、すべてがうまくいってきた人ではないと思うんです。なぜかは分からないんですけどね。コンプレックスやジレンマなど、何かしらのものを抱えているはずなんです。そのことに、彼女自身が気付いているかどうかも、今はまだ分からない。なので、これからじっくりと理解を深めていきたいと思います。欲するエネルギーがあるということは、その分の憂いがあるはずなので、エネルギッシュな部分だけじゃなく、彼女の憂いのようなものが体得できたらなと。さらに、銭婆もまた難役ですよね。『2人で一人前の魔女』というセリフがありましたが、どういう意味なんでしょうね。分からないことだらけですが、その分、発想を膨らませて演じていきたいと思います」

── まだ舞台の台本は上がっていないタイミングですが、映画の中で演じるのが楽しみなシーンはありますか?

「やっぱり、最初に千尋が湯婆婆に会うシーンですね。オーディションにもあったシーンだったので、どうやって千尋を追い詰めようかと思っているところです(笑)。湯屋にオクサレ様が来るシーンや、暴れるカオナシに湯婆婆が立ち向かうシーンなんかは、どう演じるのか気になりますね。湯婆婆のシーン以外ですと、千尋たち家族があの世界に迷い込んできてから、どんどん日が落ちて夜になり、影たちがわらわらと出てくるあたりのシーンを、舞台上でどう表現するのかが気になります」

──「千と千尋の神隠し」は、「生きる力」が描かれた作品です。ご自身はどんな瞬間に生きる力を感じますか?

「私がエネルギーを発揮しているなと感じる瞬間って、自分の欲求のためじゃなかったりするんです。周囲や、成し遂げようとしている事柄にトラブルが生じたりする時、『私がなんとかしなければ!』と使命感に燃えるタイプ。その瞬間に、『生きてるなぁ』と実感しますね。もっと自分のために頑張れたらいいんですけどね(笑)」

── 朴さんは金曜ロードショーのナレーションも担当されていて、ジブリ作品に触れる機会は多いと思いますが、思い入れのあるジブリ作品はありますか?

「私、『風の谷のナウシカ』がとっても好きなんです。原作を読んだ時にもうハマってしまって。“虚無”という言葉がすごく胸に刺さってしまい…以来、“虚無”に取り込まれてはいけないと自分に言い聞かせながら生きてきた気がします。“虚無”の描かれ方やその絵面もすごくエグいのですが、きっとあれくらいでなければ、ここまで人の心に残るものにはならなかったと思うんです。あのドロドロとしたものに埋もれることこそ“虚無”なんだと、視覚的にも感じさせてくれた作品でした。すみません、語りだしたら止まらなくなってしまいました(笑)」

── ありがとうございます。最後に、公演を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。

「現段階では、どんな舞台になるのか私も全く分からない状態ですが、それってすごいことですよね。もしミュージカルとして舞台化するのであれば、ある程度想像しやすいと思うんです。でも今回は、ストレートプレー。どうなるのかは分かりませんが、これだけのキャストとスタッフがそろっていて、何かしら『爪痕を残してやろう』とギラつきと熱を持った濃ゆい人たちが一斉に挑むわけですから、面白くならないわけがないんです。日本ならではの表現や美しさが前面に出た、色気のある異空間が舞台上に生まれるんじゃないかと思います。全世界の方々に楽しんでいただける作品になると思いますので、ぜひ応援していただけるとうれしいです」

舞台「千と千尋の神隠し」

【プロフィール】

朴璐美(ぱく ろみ) 
1972年1月22日生まれ。東京都出身。みずがめ座。AB型。98年に声優デビュー。代表作は「∀ガンダム」(99年)、「鋼の錬金術師」(2003年)、「BLEACH」(04年)、「NANA」(06年)、「進撃の巨人」(13年~)ほか多数。「金曜ロードSHOW!」ではナレーションも担当。女優として舞台にも数多く出演しており、19年には「レ・ミゼラブル」でミュージカル初挑戦。22年には舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」で湯婆婆/銭婆を演じる(夏木マリとのWキャスト)。

【作品情報】

舞台「千と千尋の神隠し」

原作:宮崎駿 
翻案・演出:ジョン・ケアード 
共同翻案・演出補佐:今井麻緒子 
製作:東宝 

<公演スケジュール>
■3月2日・29日 帝国劇場
※プレビュー 2月28日・3月1日  
■4月13日~24日 大阪・梅田芸術劇場メインホール  
■5月1日~28日 福岡・博多座  
■6月6日~12日 札幌・札幌文化芸術劇場 hitaru  
■6月22日~7月4日 名古屋・御園座

<キャスト>
千尋…橋本環奈/上白石萌音 
ハク…醍醐虎汰朗/三浦宏規 
カオナシ…菅原小春/辻本知彦 ※辻のシンニョウは点1つ 
リン/千尋の母…咲妃みゆ/妃海風 
釜爺…田口トモロヲ/橋本さとし 
湯婆婆/銭婆…夏木マリ/朴璐美 
兄役/千尋の父…大澄賢也

【プレゼント】

TVガイドweb スペシャルインタビュー/プレゼント(朴璐美)

サイン入り生写真を2名様にプレゼント!

TVガイドweb公式Twitter @TVGweb(https://twitter.com/TVGweb)をフォローし、下記ツイートをリツイート。 
https://twitter.com/TVGweb/status/1478214985994358785

【締切】2022年1月28日(金)正午

取材・文/実川瑞穂 撮影/青木渚



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.