Feature 特集

スポーツクライミング・藤井快選手「東京五輪の舞台に立ちたい」2018/11/28

Cheer up! アスリート2020!

2020年の東京五輪に向けて、スポーツ関連特集を展開していく新連載。初回はスポーツクライミングに注目。冷静沈着な若きオールラウンダークライマーが競技について、そして自身の現在・未来を語る。

ココロに秘めた静かな闘志

 20年東京五輪の新競技の一つにスポーツクライミングが決定した。クライミングのトップ選手の一人である藤井快は、ビッグイベントに向けて徐々に気持ちを高めている。

「五輪競技になるというのは前からうわさがあったので驚きはなかったのですが、実感も湧いていなかったんです。ただ、時間が経つにつれて、周りの方の反応や注目のされ方で五輪の影響力を感じています。例えば、ありがたいことにスポンサーが増えました(笑)。メディアの露出も増えていますね。昔は年末年始の特番でクライマーがゲームに挑戦するぐらいだったのが、今は夜のニュースで『誰々選手が優勝しました』と伝えてもらえます。クライミングという競技自体が前に進んでいます。今では、ぜひ東京五輪の舞台に立ちたいと思っています」

 クライミングは3種目あり、それぞれ特徴が異なる。その違いゆえに選手は、1種目だけに取り組むことが多い。ところが東京五輪ではボルダリング、リード、スピードの3種目複合(コンバインド)で行われることも決まった。藤井は3種目に取り組むことでクライミングの楽しさや魅力を再認識している。

「僕はボルダリングをメインにリードもやっていたので、複合でやることに抵抗はなかったですね。スピードはまだまだこれからですけど、複合に前向きに取り組めていますし、よりクライミングが楽しめている気がします。クライミングは自分が登れないコースに出合うと、何度も挑戦して同じことを繰り返すことになるんですけど、自分には登れないんじゃないかとメンタル的に病みそうになります(笑)。それを乗り越えて登り切った瞬間は、色々と解放されて改めて気持ちいいなって思いますね。試合においては、他の人ができなかった課題を完登できると気持ちいいです。スピードのワールドカップの開催地で行ってみたい場所があったので、行けるのも楽しみです(笑)」

 3種目に取り組むことになり、藤井はそれぞれの種目のポイントをどう見ているのだろうか?

「まずボルダリングは、頭が疲れます。試合前にならないと課題が分からないので緊張もします。選手ごとに得意不得意が違いますし、戦略がすごく必要になってきますね。リードは、『クライミング』って言葉が一番似合う種目だと思います。単純に上に登っていくので、観戦初心者の方にも分かりやすいです。高さがある分、迫力もありますし、持久力が必要になってきます。スピードは取り組み始めたばかりなので、トップ選手は超人に感じますね。筋肉があってパワーで登るタイプと、全身のバネで登るタイプの2通りいます。筋肉が多すぎると体が重くなって、ボルダリングやリードが不利になるので、僕はバネで登る方を目指しています」

 今年の世界選手権では東京五輪に向けて初めて3種目複合が実施された。藤井は決勝進出の6人に見事残り、メダルが射程圏内であることを証明。東京五輪への課題も明確になった。

Cheer up! アスリート2020!

「決勝の6人に残れたのは大きな糧になっているとは思いますが、満足いく結果ではないです。ボルダリングは、課題が出てみないと誰が強いかが分からない種目です。たまたま得意な課題で1位になるかもしれないし、逆に苦手な課題で6位になるかもしれない。それを考えると実力通りの結果が出やすいリードで勝てる準備が大事になってくると思います。スピードでは、ミスをせずいかに速く登れるかの練習が必要になってきますね」

 藤井はトップ選手でありながら会社員の顔も持ち、秋葉原のボルダリングジムで働いている。

「最近は試合が多いのと、練習時間を増やしてもらっているのとで、前ほど勤務時間は多くないですが、受付をしていると驚かれたりします(笑)。海外からお客さんが来て、話しかけてくれたり、写真を撮ったりとかもたまにあります。この生活も4、5年目になるので、自分では当たり前という感じです」

 アスリート連載の記念すべき1回目を飾ってくれた藤井。多忙の中で取材を受けてくれたのには、「TVガイド」とのある縁があった。

「『TVガイド』は、有名な雑誌ですし光栄です。それに、実は姉が仕事で関わっているので縁もあるんです。取材のお話をいただいた時に、そういえば姉が『TVガイド』の仕事をやっていたなと思って確認したら、『そうそう』って。なので、『ぜひ!』ってなりました(笑)。本当にありがたいです。また取材してもらえるよう頑張ります!」

Cheer up! アスリート2020!
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【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツの名場面を教えて!
水泳の北島(康介)選手が、2回連続(アテネ五輪、北京五輪)で2種目の金メダルをとったのもですが、リレーも覚えていますね。「(康介さんを)手ぶらで帰らせるわけにはいかない」って言われるくらい慕われているのもすごい。

Q2 好きなTV番組/音楽を教えて!
「水曜日のダウンタウン」は面白いですし、何も考えずに見られるのも好きです(笑)。音楽は、嫁の影響でNulbarich(ナルバリッチ)をよく聴きますが、試合前はワンオク(ONE OK ROCK)の曲から気分に合わせて聴きます。

Q3 “2020”にちなんで“20”代のうちにやっておきたいことを教えて!
まだ行ったことない、ハワイに行きたい。大会が開催されれば、行けるんですけど(笑)。意外と国内旅行をしていないので、国内もいいですね。練習で行ってごはんがおいしかった愛媛にもう1回行きたいなという気持ちもあります。

【スポーツクライミングとは?】
人工のホールドを設置した壁を登り、難度や高度、速さなどを競う。高さ5m以下の壁に設定された複数のコースを制限時間内にいくつ完登できたかを競うボルダリング、高さ12m以上の壁を登り、その到達高度で順位を争うリード、10mまたは15mの壁をいかに速く駆け上がれるかを競うスピードの3種目があり、東京五輪では3種目の複合(コンバインド)で行われる。リード、スピードでは命綱があるのに対し、ボルダリングでは命綱がないのも特徴。

【プロフィール】

藤井快(ふじい こころ)

1992年11月30日、静岡生まれ。射手座。O型。

▶︎藤井は「元々はテニス部に入るつもりでした(笑)」と語るが、中学で友人に誘われ入部した山岳部でクライミングに出合う。高校から徐々に頭角を現し、ユースの国際大会などに出場するように。

▶︎「自分でこれが強いっていうのがないんですが、異なるタイプの課題をいかにすべて完登できるかを考えて練習してきた」と言うように、さまざまな課題に対応できるオールラウンダーぶりを発揮し、世界の第一線で活躍。2016年には、ボルダリングW杯で初優勝。ボルダリングジャパンカップでも初優勝すると、17、18年も制し、史上初の3連覇を達成。

▶︎「年齢的にもラストチャンスになる可能性が高く、節目になる大会」と位置付ける東京五輪では、メダル獲得も期待される。

取材・文/山木敦 撮影/髙橋定敬



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