「風、薫る」見上愛インタビュー後編 上坂樹里と築いたバディ感、看護師役で得た新たな発見2026/08/07 08:15

NHK連続テレビ小説「風、薫る」(月~土曜午前8:00ほか)で、一ノ瀬りんを演じる見上愛。
見上と上坂樹里がダブル主演を務める本作は、明治という激動の時代を舞台に、西洋式の看護学を学んだ一ノ瀬りん(見上)と大家直美(上坂)が、それぞれに生きづらさを抱えながら看護の世界へ飛び込み、やがて“最強のバディ”となって未知の世界を切り開いていく物語だ。
前編では、りんが“正しさ”を問い直し、新潟で再び看護へ向かっていくまでの心の動きや、“シマケン”こと島田健次郎(佐野晶哉)との関係性などについて聞いた。
後編では、りんにとって欠かせない存在である直美、そして直美を演じる上坂との関係性を中心に掘り下げる。最初はりんが直美を支えることも多かったが、物語が進むにつれ、直美もまた、りんが新しい道へ踏み出すきっかけを与えていく。
さらに、1年間同じ役を演じ続けたことで得たもの、現場で大切にしてきたこと、看護師という仕事への理解、そして視聴者へ届けたい思いまで。見上の言葉からは、りんとして過ごした時間の濃さと、作品に誠実に向き合い続けた姿勢が伝わってくる。

――後編では、直美との関係について伺います。物語が進む中で、りんにとって直美はどんな存在になっていくのでしょうか。
「最初の女学校編などでは、りんが直美を助けたり、輪に入れるようにアシストしたりすることが多かったんです。でもここからは、より直美がりんの道を導いてくれる存在になっていきます。ただ手を引っ張って導くというわけではなく、りんが新しい道に行くための一歩を踏み出すきっかけを、常に与えてくれているのが直美だなと。逆にりんも、今後は直美にそういうことをしていくので、バディ感がどんどん強まっていっています」
――直美との関係を演じる中で、上坂さんの存在はどのようなものでしたか。
「樹里ちゃんもそうですし、スタッフさんたちも含めて、平日は毎日顔を合わせることが当たり前になっていた1年間でした。しかも、その間はりんという役以外を演じる機会もほとんどなかったんです。だから、これが終わって、また新しい作品や新しい役に出会っていくことは、まだ少し想像できない部分もあります。でも、この1年を経たからこそ、それぞれ頑張れることもあるはずで。樹里ちゃんも含めて、共に過ごした仲間とまたどこかで出会えるように頑張っていきたいです」
――上坂さんと共演する中で、印象に残っていることは?
「樹里ちゃんは、最初の発表会見の時からしっかりしていて、年齢は自分より下なのに落ち着いているし、頼もしい方だなと感じていました。今もそれは変わらないです。多分、自分とは役へのアプローチの仕方も全然違っていて、感受性がとても豊かなんです。直美とリンクしていく瞬間がたくさんあって、直美と一緒に心を動かしながら撮影している姿を、隣で受け取る場面が多くありました。第17週や第19週以降の話でも、樹里ちゃんと直美が重なるように見える瞬間が、たくさんカメラに収められています。今後の放送でも、そういうところに注目していただけたらうれしいです」
――長く一緒に演じる中で、新たに見えてきた上坂さんの一面はありますか。
「あらためて感じたのは、やっぱり真面目なところです。取材会の前にも、何週の何話で何が起きているか、直美にどんなことが起きているか、お話の流れをちゃんと全部メモしてから臨んでいて、すごいなって。いろんなことに真面目に取り組めるのは、誰にでもできることではないと思うんです。手を抜けるなら抜いてしまおうと思う場面も、きっとあるじゃないですか。でも、そうせずに、仕事に関することには全部きちんと向き合う。その姿が本当にかっこいいですし、樹里ちゃんから得る学びは多いですね」

――第16週では、りんと直美の感情が大きくぶつかる場面もあります。撮影ではどんなことを意識していましたか。
「あのシーンは1話がほぼワンシーンのような回だったので、まずその長いシーンをどのように撮っていくかということも難しかったです。りんと直美の信頼関係があの時点でどこまで芽生えているのか。お互いに、いつも何でも言い合っているようで、実は言えていなかったことや、心に秘めてしまっていたことが、あのシーンで見えてくるのかなと考えていました。そのため、第16週までの2人の関係性や距離感がちゃんと見えるように、ただのけんかや言い合いにならないようにと、みんなで考えました。かなり何度もテストやリハーサルをしたのを覚えています」
――上坂さんとは、そのシーンについてどのように共有していましたか。
「基本的に、私たち2人だけで話し合うというより、監督たちを交えて、『どうしましょうか』とみんなで相談しながら進めていくスタイルなんです。俳優同士だけで話をして、それが監督たちに伝わっていないと、現場が混乱してしまう可能性もあるので、開かれた場所で共有した方がいいと思っていて。今回の監督陣はしっかり話し合いをしながら作品を作ってくださる方々だったので、自然とそうなっていきました」
――一つの役に長く向き合い続けるという経験は、見上さんに何をもたらしましたか。
「今までは、同じ期間で4本くらいの作品を同時に撮影していくことが多かったんです。もちろん一つ一つの作品に大事に向き合っていましたが、1年間一つの役に向き合うというのは、それだけ時間を費やすということなので、思考がどんどん深いところまで行ける感覚がありました。映画だと脚本が出来上がった状態で撮影が始まることが多いですが、朝ドラは撮影している中でどんどん新しい台本が上がってきます。逆算するような役の作り方ではないので、そのやり方も勉強になりましたし、今後に生かされるんじゃないかなと感じた1年でした」
――見上さんご自身とりんとの距離感は、どのように保っていたのでしょうか。
「普段から、似ているかどうかをなるべく考えないようにしていて。自分が共感できるかどうかという軸で考えると、この年齢までしか生きていない自分の人生の軸だけになってしまって、自由度が減ってしまう気がするんです。脚本家やプロデューサー、監督が考えているりん像から離れていってしまうのも怖いので、極力考えないようにしているかもしれないです」
――長い撮影に入る前に、準備しておいて良かったことは?
「私は入る前に、少ししっかり休んだんですよね。それがとてもよかったです。何より体力が大事ですし、走り切るためには心が健康でいなきゃいけないなと強く感じました。自分の心が健康じゃないと、人の心まで健康じゃなくさせてしまう可能性があるので、そこは本当に欠かせないなと。ちゃんと休んで、1年間を走り切るためのエネルギーをチャージできたことは、かなりよかったです」
――作品づくりの中で、大切にしていたことは?
「きちんと対話をすることですね。撮影が始まる前の会見の時にも、『温かい現場をまず作るところから、温かい作品が生まれると思います』というお話をさせてもらっていました。プロデューサーやスタッフの皆さんもその思いに寄り添って考えてくださっていて。でも実際に進んでいくと、たくさんの人が関わる作品ですし、1年間走り続ける中で、それぞれに考えることや立ち止まる瞬間もあるんだなと気付きました。それでも、いい作品を作るために前向きに捉えられるものであれば、対話で解消できることもあると感じていて。疑問に思ったことはすぐ監督に質問しますし、監督から『こういうのはどうですか』という提案があった時にも、自分の考えを話しながら、すり合わせていけるように意識しています」

――ここまでの撮影を振り返って、特に楽しかった時間はありますか。
「楽しかったのは、やっぱり女学校のみんなと集まっていた撮影期間です。私も女子校に通っていたので、その時のことを思い出すような空気感がありました。朝から晩まで毎日撮影していたんですけど、それでも“みんながいたから頑張れた”と思えるくらい、温かい空気の中で撮影ができて楽しかったです」
――女学校編を支えた存在として、マーガレット・バーンズ先生を演じたエマ・ハワードさんも印象的でした。
「とてもチャーミングな方です。前室などでは、なるべく日本語で話してくださっていて。年齢差もあるんですけど、同級生と一緒にいるような気持ちにさせてくれるのがエマさんでした。クランクアップする時も、みんな寂しくなってしまって。スタッフさんたちも寂しがるくらい、すてきなお人柄でした」
――女学校で学ぶところから始まり、りんは看護婦として歩みを進めてきました。演じる中で、看護婦という仕事への見え方に変化はありましたか。
「クランクインする前や、撮影が始まってしばらくの頃は、養成所のシーンも含め、看護婦の役を演じるにあたって、まずは技術的な面を磨かないといけない、看護婦さんのすごいところはその技術にあるんだと考えていました。でも、実際の看護師の方とたくさんお話を伺いながら演じる中で、それ以上に、患者さんの心をみていく仕事なんだなと感じました」
――そこから、どんな気付きがありましたか。
「患者さんが病気と付き合いながら、どういう人生の選択をしていきたいのかに寄り添うこと。正解がなく、一人一人違う人生を歩んでいるからこそ、マニュアル通りにはいかない中で、その人の幸せにつながる道を考えていくこと。看護師の方々は、私が想像していた以上に、そうした部分に向き合っていらっしゃるんだと知りました。技術だけではなく、本当に心を使う仕事なのだという新たな発見がありましたし、実際に看護師を目指されている方や、今働いている方からのメッセージもかなり届いていて。お手紙を見せていただくこともあります。この作品が、現場で働く方々の背中を少しでも押せているのだと感じられて、ありがたかったです」

――朝ドラとして幅広い世代に届いていることを、どんな時に実感しますか。
「反響はたくさんいただいています。近くの人からもらった言葉で、特にうれしかったものが二つあって。一つは、転職活動中の親友からの言葉です。今、いろいろな勉強をしているそうなんですけど、朝8時から8時15分の朝ドラを見て、そこからまた勉強をしていると話してくれました。うまくいかない日でも、『主人公の2人が頑張っているから私も頑張ろうと思えて、これが朝ドラなんだと思った』と言ってくれて」
――朝ドラならではの届き方を感じる言葉ですね。
「それは本当に、長く一人の人生を歩んでいるからこそ伝えられることなのかもしれないなと思いました。もう一つは、恩師の先生から聞いたお話です。その先生はお母さまを自宅で介護されているそうなんですが、お母さまは感情が表に出ることが少なくなっている状態だったそうで。でも、テレビに映った私を見て、『あの教え子じゃない?』と言って、朝ドラの時間だけは笑ってくださると聞いて。『おっちょこちょい節』も歌ってくださっているそうで、そんなふうに届いていることが何よりうれしかったです」
――ここまでお話を伺って、りんと直美がどんな未来へ向かっていくのか、ますます楽しみになりました。では最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。
「朝ドラは、撮影期間も1年間と非常に長いですが、放送も半年という長い時間があります。まず、一緒に見守って走り抜けてくださっている皆さまに、心から感謝しています。最後、りんと直美の2人がどういう人生の選択をして、今自分たちが生きている時代やこの世の中にどう影響を与えていったのか。2人がどんな風を起こしたのかということに注目していただけたらと思います。最後までどうか見守ってください」

【プロフィール】
見上愛(みかみ あい)
2000年10月26日生まれ。東京都出身。19年にデビュー。NHKドラマ「きれいのくに」(21年/NHK総合)で注目を集め、近年はNetflix「恋愛バトルロワイヤル」(24年)、大河ドラマ「光る君へ」(24年/NHK総合ほか)、映画「不死身ラヴァーズ」(24年)、CX「119エマージェンシーコール」(25年)、映画「国宝」(25年)、映画「正直不動産」(26年)、Netflix「喧嘩独学」(26年)などに出演。第49回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
【番組情報】
連続テレビ小説「風、薫る」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
※NHK ONEで同時・見逃し配信
取材・文/斉藤和美
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