第44回向田邦子賞受賞記念 此元和津也インタビュー2026/07/29 00:00

昨年10月~12月に放送されたドラマ「シナントロープ」(テレ東系)で脚本を担当した此元和津也氏が第44回向田邦子賞を受賞。授賞式当日の此元氏に、現在の率直な心境や作品の制作秘話、漫画と脚本を書く際の違いなどを聞いた。
――これから贈賞式に臨まれる、今の気持ちを教えてください。
「本当は出たくなかったんです。やっぱり自分は作家ですから、人前に出るのはちょっと……。でも本当に皆さん、(受賞を)喜んでくださっているので、頑張って出ようかなと思います」
――受賞後、お祝いメッセージなどはいただきましたか?
「はい。いろんな方からメールやLINEをいただきましたし、お祝いもしていただきました。一度、仕事関係の方に京都へ連れて行ってもらって、納涼床で食事をごちそうになりました」
――環境面や此元さんご自身の気持ちの上では、何か変化はありましたか?
「日々の生活というか、やっていることは以前と変わっていないです。ただ、賞という分かりやすい形で改めて評価していただいたことは、本当にうれしく思います」
――「シナントロープ」という作品は、最初どういう着想から生まれたのですか?
「たまたま鳥の本を読んでいて『面白そうだな』と思ったんです。鳥ってバリエーションが豊富だから『これ、キャラクター的に使えるな』と。それで鳥のキャラクターを当てはめながら、登場人物をたくさん作りました。そして彼らを動かして群像劇を作り、そこにミステリーの要素を加えていきました。書き始めた時点では、最終的にああいう構成で、ああいう着地になることまでは考えていなかったです」
――全部お一人でストーリーを考えられたのですか?
「そうですね。(所属する制作会社の)社長から『何か書いてくれ』と言われて、打合せもなしで一人で書き進めました。大体週に1話ずつぐらい、連載みたいな感じで提出していきました」
――作品を書かれる過程で、苦労されたことは?
「キャラクターが多かったので、無駄な人がいないように、それぞれちゃんと役割を与えて、その上で破綻することなく整合性を保っていくことが難しかったです。キャラを多くしすぎて困ったなと思ったこともありました」
――書いていて楽しいなと思えたことは?
「書きながら考えていたから、偶発的に『こことここがつながるな』と思い付いた瞬間がすごく面白かったです。後半になるにつれて材料も限られてきますが、その中で組み立ててバチッと当てはまると気持ちよかったですね」
――最初から緻密に構成していったわけではなく、書き進めながら組み立てていったんですね。
「そうです。途中途中で整合性を考えていくんですね。『あ、1話のアレ使えるなあ』とか思いながら。今回はたまたまうまくいったと思いますが、作り方としては珍しいですよね。そもそもこれを書いていた時点で、どこで放送されるかも決まっていなかったんです。だから途中で『無理でした』って止めちゃってもいいし、ある意味プレッシャーもなく、気楽にやっていました」
――「シナントロープ」の中で特に好きなシーンはありますか?
「たくさんありますが、最近『これ、すごいな』と思ったのは水町ことみ(山田杏奈)のラストシーンです。あそこの水町のリアクションについては、脚本には何も書いていなかったんです。でも出来上がった映像を見た時に何の違和感もなかったので、これが正解なんだと思って。表情や視線だけでも情報ってこんなに作れるんだ、俳優さんってすごいなと思いました」
――では、好きなセリフは?
「今パッと思い付いたのが、都成剣之介(水上恒司)の『ゾンビの方が怖い』というセリフです。別にお気に入りではないんですけど、これを書いた頃、『ウォーキング・デッド』にハマっていたことを思い出しました」
――キャラクターの中で特に思い入れがあるのは?
「みんなに思い入れがありますが、強いて言えば久太郎(アフロ)です。僕はあんまりモデルを設定して書くことがないんですけど、久太郎だけモデルがいたので書きやすかったです。鬼越トマホークの良ちゃんをイメージして書きました」

――そもそも漫画家デビューされてから、どういう経緯で脚本家になられたのですか?
「漫画『セトウツミ』の連載が終わる頃、社長から『脚本に興味ありませんか?』と言われて。それが『オッドタクシー』だったんです。実は『セトウツミ』が終わったら1年ぐらい休もうと思っていたんですよ。絵を描くのがしんどくて。でも『脚本ならいけるかな』って。普段漫画を描いているからお話を作ることはそんなに苦じゃなかった。脚本は絵を描く工程がないから、じゃあやってみようかなと。そんな軽い気持ちでした」
――漫画を描く時と脚本を書く時では、取り組み方や意識に違いはありますか?
「根本的には一緒ですが、漫画の方が自由ですね。キャストの都合や予算も関係ないし。絵で描けばいいだけなんで。でも脚本はそういうわけにはいかないから、『こういうシーンを書いても無理だろうな』とか考えてしまうんですね。なるべく考えないようにしてるんですよ。無理かどうかは向こう(制作側)で判断することなので。ただちょっと頭をよぎってしまうことはありますね」
――今後、ドラマの脚本で、どのようなものを書きたいですか?
「特に考えてないですけど、人が死なない話は書きたいですね。たとえば『シナントロープ』の青春群像の部分だけを面白くできたらいいなと思います」
――最後に「シナントロープ」を支持してくれたファンの皆さんにメッセージをお願いします。
「『シナントロープ』って売りづらい、宣伝しにくい作品だと思うんですよ。あらすじで説明できるような話でもないし、どういう話かちょっと分かりにくいですから。 そんな作品ですが、最初から最後まで見てくださった皆さんには、もう感謝しかないです。ありがとうございました」

【プロフィール】
此元和津也(このもと かづや)
大阪府出身。2010年に漫画「スピナーベイト」で漫画家としての活動をスタート。13年に連載開始した漫画「セトウツミ」は、映画・テレビドラマ化された。19年にドラマ「ブラック校則」(日本テレビ系)で脚本家デビュー。主な脚本作品はTVアニメ「オッドタクシー」(テレ東系/21年)、劇場アニメ映画「ホウセンカ」(25年)など。現在「週刊ヤングジャンプ」にて漫画「カミキル-KAMI KILL-」を連載中。
<向田邦子賞とは>
故・向田邦子さんがテレビドラマの脚本家として、数々の作品を世に送り出し活躍してきた功績をたたえ、現在のテレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞として、1982年に制定。選考は歴代受賞者らによる向田邦子賞委員会が担当。前年度に放送されたテレビドラマを対象に、選考委員がノミネート作品を選定。本選を含めて4回の討議を経て受賞作品を決定している。選考委員は大森寿美男氏、岡田惠和氏、大森美香氏、井上由美子氏、坂元裕二氏(向田邦子賞受賞順)。
取材・文/水野幸則 撮影/蓮尾美智子
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