リリー・フランキー×斎藤工「ペンション・恋は桃色」S4が描く“当たり前”の尊さ2026/08/12 12:00

東京の外れにある古びたペンションを舞台に、シロウ(リリー・フランキー)、ヨシオ(斎藤工)、ハル(伊藤沙莉)を中心とした、どこか不器用でいとおしい人々の日常を描いてきたドラマ「ペンション・恋は桃色」。そのseason4の全5話がFODで配信中だ。
何げない会話や言葉にならない感情から、人との距離や人生のままならなさを浮かび上がらせてきた本シリーズ。今シーズンでは、「ペンション・恋は桃色」がリフォームに入るため、シロウたちが、ジョージ(高木完)と息子のヤマト(柏木悠/超特急)が営む別のペンションで働くことに。ヨシオの元恋人・カコ(長谷川京子)との再会も重なり、当たり前のように続いてきた3人の時間にも変化の気配が訪れる。

作品の底にあるのは“切なさのあるコメディー”
「ふざけた深夜ドラマのようであって、実は監督の純文学なんですよ」。リリーは本作をそう表現する。清水康彦監督がその時々に抱える葛藤や実際の経験が、物語へ色濃く投影されているという。「監督の娘に対する思いをシロウが代弁しているし、この人もそうですし」と隣の斎藤を指すと、斎藤も「清水さんが見つめる先にヨシオがいる気がします」と応じ、「監督の細胞を、皆が演じているみたいなところがあります」と続ける。リリーは「あまりにも監督が出すぎている時は、『これはちょっと……』と言いますけどね(笑)」と付け加えた。
4シーズンを重ねても、ヨシオはいまだつかみどころがない。リリーは「最初は何をしている人なのかも分からなかった。シーズンを重ねるごとに、ヨシオのことがどんどん分かっていく部分もあるんでしょうね」と捉える一方、「冷静に見ると、いいやつなのか悪いやつなのかも分からない」と評する。
「それなのに、なぜか人々に愛されている。難しいキャラクター設定なんです。本来なら、もっと早くハルとくっついてしまえば話は丸く収まるのに、皆がそれを嫌がる(笑)。そんな難しい役どころを、かわいげのある人にできているのは、やっぱり工くんだからだと思います」。

一方、斎藤は、長年交流を重ねてきたリリーについて、完成した映像を見た時にこそ受け取るものが多いという。
「特に、リリーさんが言葉を発しないシーンから、大きなメッセージを受け取るんです。視聴者としてもそうですし、ヨシオとしても、その時に必要なものを手渡してもらっている感覚がある。振り返ると、実際の僕自身も、リリーさんからそういうものをいただいてきました。このシリーズでは特にそう感じました」。
互いに好きな作品を薦め合うこともある2人。リリーは「自分だけがドラマ・ロスになるのが嫌だから、工くんもロスにするために紹介する」と冗談を飛ばし、「切なさのあるコメディーはとてもいい。僕らが好きな海外のコメディーも、ちょっと切ないですから」と、本作の底に流れる温度にも触れた。
柏木悠&長谷川京子が新風を吹き込む! ヨシオの新技“タコ口”も誕生!?
season4に新たな視点を持ち込むのが、柏木演じるヤマトだ。SNSや効率を重視し、シロウたちとは異なる感覚でペンションを切り盛りする若者について、リリーは「悠ちゃんのお芝居もよかった」と太鼓判を押す。「あの年代が入ってくることで、シロウやヨシオがずっとピーターパンでいる感じが際立つ。特に俺とか工くんは大人げないですからね。ちゃんとした若い人がいると、その大人げなさがよく分かる」。

斎藤も「『よく許されてきたな』というものが浮き彫りになる」と重ね、「中年のミッドエイジ・クライシスのようなものに、気付くとぶち当たっている。若い世代の目線が入ることで、現実と『まだ夏休みでいたい』という感情がうごめいた感じがしました」と話す。メインストリームから少し距離を置き、サブカルチャーやカルト的な作品に引かれてきた2人。リリーは自分たちを「はぶられたまま大人になった」と表し、竹を割ったようなさわやかな若者を見ると「こうありたかった」と感じることもあるという。「俺たちに見えていなかったものが、彼らには見えている気もするんですよね」と、率直な心境をのぞかせた。
ヨシオの前には、長谷川演じる元恋人・カコも現れる。しかし、2人の関係はすんなり恋へ向かうわけではない。リリーによれば、脚本の打ち合わせで最も意見がぶつかったのが、カコとのキスを巡るくだりだった。
「普通に工くんが恋をすればいいじゃん、と思うんですけど。俺は何度も『キスをするかしないかで引っ張るのはやめよう』と言ったんです。でも、監督はどうしても残したかった。せっかく長谷川京子が来ているのに、元カノとのキスでずっともめる(笑)」。
そこで斎藤は、悩んだヨシオがタコのような口をするという“新技”を考案。「その口がキスなんじゃないか、みたいな(笑)。これをちりばめたら、キスのくだりが少し盛り上がるんじゃないかと思って。ヨシオも進化しました」と説明する。リリーは「40代の俳優と女優がタコの口をして、周りがキスをあおるって、今向けじゃないでしょう」とあきれつつ、「清水さんが『あの時こうしたかったな』と思っていることを鎮魂しているだけなんですよ」と分析。2人のインタビューを少し離れた場所で聞いていた清水監督も「やりたかったです」と認めた。

そんな清水監督について、斎藤は「そうあってほしい存在でもあるので。丸くならないでいてくれているな、と同時に思いました」と受け止める。時代に合わせて整えるより、個人的な記憶や願望をむき出しにする。その偏りが、「恋は桃色」にしかないおかしさと生々しさを生んでいる。
「ペンション・恋は桃色」は“帰る場所”――すべてがヨシオの妄想説も!?
今シーズンを貫くテーマの一つが、“帰る場所”だ。場所なのか、人なのか。そう尋ねると、リリーは「土地そのものではないんでしょうね」と口を開く。
「誰がいるとか、何があるとか、そういうことだと思う。いきなり土地が出てくる人って、かなりの人ですよ。『俺にとっての帰る場所はセドナだ。あの風景の中で俺は生まれたんだ』とか(笑)。愛せないな、そいつ。だから、やっぱり誰かがいるところなんです。動物でもいいし、人間でもいい。今は誰もいなくても、誰かがいた場所というか」。
斎藤が思い浮かべたのは、本作を共に作ってきたスタッフたちだった。若手だったスタッフが別の現場で経験を重ね、再びスケジュールを合わせて集まってくる。その姿から、この作品自体が“帰る場所”になっていることを感じたという。

リリーにも同じ実感がある。「沙莉も俺も、いろいろなところへ出稼ぎに行って、ここへ帰ってきている感覚は、もうさすがにあります。ここでもう1回リセットする。ほかの現場で身についた癖みたいなものを、1回ここで洗うんです」。山口智子や鈴木慶一、大水洋介(ラバーガール)ら、作品に関わる人々がここへ戻り、余計なものを落としていく。2人にとって「ペンション・恋は桃色」は、自分を元の状態へ戻してくれる現場になっている。
ヨシオが足を運ぶ居酒屋も、現実と空想の間に浮かぶ不思議な空間だ。リリーは、シリーズを通して出演するJOYを本編に登場させる案を出し続けているが、清水監督は頑として受け入れないという。「監督は、あそこを異空間にしたいんでしょうね」。斎藤も「JOYさんを封印することに意味がある。出したら終わりだから」と応じ、話は「あの居酒屋は存在しないのかもしれない」「ペンション自体もヨシオの妄想かもしれない」という説にまで広がった。

リリーは「ヨシオは第1話からお酒を飲めない設定なのに、あの居酒屋では飲み友達がいっぱいいる。しかも、明らかに東京っぽい場所で、距離感もおかしい」と“妄想説”の根拠を挙げる。冗談とも考察ともつかない2人のやりとりから、輪郭を決めすぎない本作の豊かさが見えてくる。
ヨシオとハルの関係は? まだまだ見届けたい、この先の物語――
では、シロウ、ヨシオ、ハルの関係は、このまま変わらない方がいいのか。それとも、動いていくべきなのか。リリーは「もし『season5で終わり』と分かっているなら、ハルの行く末は考えたい。ハルのことも、ヒカリ(山口)のことも。でも、いまだに何も決めきれずにいるのは、たぶん延々と続いてほしいと思っているから。だって、くっついちゃったら終わりだからね」と、シリーズが続くからこその迷いを口にする。斎藤も「season2か3ぐらいまでは、僕も視聴者としてくっついてほしいと思っていました」と振り返るが、今は「いい意味で凪のようなところにきた」と感じているという。

ただ、いつの間にかシリーズが途絶えることは、リリーの望む形ではない。「このまま立ち消えになるのは嫌なんですよ。『「ペンション」ってseason4のまま6年たってるよね』みたいなのは嫌。もし『season5は作るけど、絶対に6はやらない』と決まったら、そこから終わりを作り始めます」。続いてほしい。けれど、終わる時には3人の行く末をきちんと見届けたい。その思いに、長く育ててきた作品への愛着がにじむ。
今作で「恋は桃色」らしさが最も表れている場面を尋ねると、リリーは、いつものペンションを離れたことを挙げる。「幸か不幸か、今回はペンションを移動している。移動したことで、親子やヨシオ、いろいろな人の絆が深まったんです。当たり前のようにあったものがなくなること。親の存在もそうですけど、そこは感覚的に描けているかもしれない」。
斎藤が心に残したのは、オープニングの砂浜で描かれるシロウとハルの姿だった。「あの親子の場面に、全体のテーマが凝縮されているのかもしれない。冒頭のシーンを想像しながら、最後まで見ていた感覚があります。現実なのか夢なのか分からないような、美しい場面でした」。

物語には、シロウがふと倒れ、はっとさせられる描写も差し込まれる。リリーによれば、そこには「今後の予感がある」。清水監督自身が抱える“親の問題”が、シロウとハルの物語にも流れ込んでいるという。斎藤は、そんな極めて個人的な思いから生まれる本作の強さを、「大衆的なものよりも、パーソナルに深く入っていったものの方が、結果として深く届くことがあると思います。この作品らしさは、やっぱり清水さんらしさにある気がします」と言い表した。
全5話を見終えた時、何げなく交わされていた言葉や、冒頭の砂浜で向き合うシロウとハルの姿は、きっと少し違って見えてくる。ヨシオの恋愛や将来、シロウのこれからを通して、当たり前のように続いてきた3人の時間が、決して当たり前ではないことに気付かされる。ふざけているようで切実で、どこか頼りないのに温かい。season4は、そんな「恋は桃色」らしい余韻を残してくれる。

【プロフィール】
リリー・フランキー
1963年11月4日生まれ。福岡県出身。近作は、映画「ルノワール」(2025年)、ショートドラマ「地下アイドルの方程式」(DMM TV)など。TBS系で放送中のドラマ「Tシャツが乾くまで」(金曜午後10:00)や、笑福亭鶴瓶と共にMCを務めるテレ東系のトーク番組「素っ頓狂な夜」(不定期で放送)にも出演。
斎藤工(さいとう たくみ)
俳優・フィルムメイカー。主な出演作に映画「シン・ウルトラマン」(22年)、「キングダム 魂の決戦」(26年)、Prime Originalドラマ「犯罪者」など。ドキュメンタリー映画「大きな家」(24年)、27年公開予定の永尾柚乃初監督作品「LITA」は企画・プロデューサーを務める。また、全国の被災地等での移動映画館「Cinéma Bird」主宰、「Mini Theater Park」、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
【コンテンツ情報】
「ペンション・恋は桃色season4」(全5話)
FOD
7月31日午後8:00~全話配信中
※season1~3も配信中。

取材・文/斉藤和美 撮影/蓮尾美智子
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