尾碕真花&松本怜生主演「シンデレラ クロゼット」のプロデューサーが明かすこだわりの演出2025/07/09 01:28

TVerは、尾碕真花と松本怜生がダブル主演を務めるTBS系のドラマストリーム「シンデレラ クロゼット」(火曜深夜0:58、一部地域を除く)の第1話と最新話を配信中。第2話配信開始に合わせて、プロデューサーの大高さえ子氏がキャスティングや撮影秘話、漫画実写化への思いを語った。
原作の「シンデレラ クロゼット」は、柳井わかな氏の同名漫画。魅力的な登場人物たちが共感を呼び、電子コミックスでも支持を得て、連載が終了した今もなお多くの読者に愛されている。
おしゃれな大学生活に憧れて地方から上京してきた福永春香(尾碕)は、夢見たキラキラした都会の生活とは真逆の中にいた。そんなある日、春香は美を追求する女装男子・神山光(松本)と知り合う。真っすぐで素直な春香と、厳しい言葉をかけながらも「変わりたい」と心から願う春香を支える光。そんな2人が、メークやファッションをきっかけに成長していく新感覚の青春ラブストーリーが展開する。
作品への熱い思いから実写化へ
――この作品をドラマ化することになった経緯から聞かせてください。
「最初は、映画でアシスタントプロデューサー(AP)としてご一緒していた、脚本家志望の折戸(咲月)さんから『大好きな作品なんです』と『シンデレラ クロゼット』のドラマ化企画書を受け取ったことがきっかけでした。ちょうどドラマストリームの企画募集があったので、私も早速原作を読んでみたところ、撮影中で忙しかったにもかかわらず一気に全巻読むほどハマってしまって。とても求心力のあるストーリーで魅力を感じました。折戸さんも多忙でしたが、企画が通りやすいように企画書のブラッシュアップをお願いして、無事採用に至りました。メーンライターはベテランの加藤綾子さんにお願いしていますが、折戸さんには第5話と第8話を担当してもらいました。まだ駆け出しの彼女にとって脚本執筆の貴重なチャンスになりましたし、私にとってもすごく思い出深い作品になりました」

――作品のどんなところに魅力を感じたのでしょうか?
「天真らんまんでウブな主人公・春香と、一見クールだけど、繊細で優しい光の関係性がとてもすてきなんですよね。春香が光を友達として大事に思っているのに対して、光は早々に恋心を抱きながらも、それを隠して彼女の恋を応援するという切ない構図が、全世代に響くのではないかと思いました。実写化する上で、みんなは“女装男子の3次元化”について心配していましたが、正直、私はそれほど不安はなくて。むしろ、“繊細な登場人物たちの心模様を、モノローグに頼らず、どうやってドラマに起こしていくか”という点で、大変な思いをするだろうなと考えていました」
――モノローグに頼ることなく心の声を描くのは難しそうですが、具体的にどんな工夫をされたのでしょうか?
「最初は『妄想』という手法を考えたのですが、それでは春香のキャラクターとズレが生じてしまう。そこで、モノローグを使うのは春香が『本当は初デートなのに初めてではない』というシーンのように(第2話の13分41秒)、『本音と真逆のことを言っているときだけにしよう』と決めました。また、彼女が心の中で思っていることを別のキャラクターがポロッと言って、それを聞いてドキッとするような方法を取りました。ほかには原作者の柳井先生に相談して、漫画で『こんな過去があった』と語られている部分を、ドラマではオリジナル要素として描いたりもしています」
チーム全体で作り上げた“女装男子”
――キャスティングについて、尾碕さんにオファーされた決め手は何だったのでしょう?
「今回が4度目のお仕事なんですが、『企画が通った』と聞いた瞬間に、尾碕さんの顔が浮かんで、すぐにマネジャーさんに連絡しました。最初にご一緒した時には主役オーディションを受けてくださっていたんですが、年齢やイメージが残念ながら合わなくて。その時、『こんな小さな役で申し訳ないな』と思いながらお声がけした“生徒A”のような役を快く引き受けてくださって、今をときめく方がたくさんいる中でもすごく光っていたんです。初めから“女優”だったんですよね。若いのに落ち着いていて、心(しん)が強くて、肝が据わっている。今回4度目で念願の主役をお願いすることになって、ご本人もうれしいとおっしゃっていましたし、原作者の柳井先生も『すてきな方ですね』と喜んでくれました」

――松本玲生さんの起用理由も教えてください。
「光のことを知らない人たちは、女性だと思い込んでしまうレベルの女装男子。しかも、ほかの作品の女装男子は最初はあまりしゃべらないことが多いけれど、光はたくさんしゃべるキャラクターなので、これは困ったぞと。私の中で、見た目のイメージから『光は松本怜生さんだ!』と決めていたんですが、一番心配したのは声でした。それでも、松本さんには普段の地声より、役を演じる時の方が声が高くなる印象があったので、『俳優だからうまいことイケるんじゃないかな』と期待して(笑)、お願いすることにしました」

――実際、松本さんの女装姿はいかがでしたか?
「ご本人はあごのラインや肩幅を気にされていたので、『優秀なスタッフがいるから、堂々としていてください』とお話ししました。最初は『高い声で話そう』と意識されていたんですが、そうすることでお芝居に気がいかなくなってしまうので、『声は編集でイジれるから』とうそをついて(笑)。実際に音程を上げるとヘリウムガスを吸ったような声になるので使えませんが、本人はそれで気が楽になったとおっしゃっていましたね」
――春香のメークも見どころになると思いますが、こだわりは?
「もともと尾碕さんがかわいい方なので、さえないメークからかわいくなるのはとても簡単でした。色味は少女漫画の世界観に合わせてパステルを使っているので、尾碕さんの普段のメークよりは“かわいらしい感じ”に仕上がっているかもしれません。もともと尾碕さんはショートヘアだったので、前髪からつむじまではご自身の髪で、後ろだけウィッグをつけてもらっているんです。途中で髪を切るシーンもありますが、すごくナチュラルに見えるので、メークさんの腕に感謝しています(笑)」

――変身後の春香は、まねしたくなるようなファッションもありそうですね。
「原作では春香がよく着回しをしていて、そこも忠実に再現しています。ワンピースに見えるセットアップ(第2話の9分40秒)を上下別々に着ていたりもするので、『あれ、この間着てたニットじゃん』などと見つけていただくのも面白いと思いますね。春香はお金のない大学生なので、“安いものをうまく利用する”というコンセプトの下、ファストファッションの服もたくさん着用しています。実際には高いブランドも使用していますが、同じようなもので代用もできるはずなので、すごく参考になると思います」

――松本さんのメークやファッションについてはどうでしょう?
「松本さんがすごくプレッシャーを感じられていたので、メークテストを何度か行い、ウィッグもいろいろと試しました。光は美容学校生なので、バンタン・ヴィーナスアカデミーを卒業したメークアップアーティストの方にもご協力いただきました。メークさんはもちろん、助監督たちも『すっぴんからメークをすればこうなる』というのを実践してもらい、骨格などを意識しながらみんなで研究を重ねました。女装の時だけカラーコンタクトを入れていますが、それも何十種類も用意したものをまた助監督たちに試着してもらい、その中から選びました。ただ、松本さんはコンタクトに慣れていないので、それが一番の苦行だったみたいです。あと、松本さんはもともとまつ毛がすごく長くて『うつ伏せで寝る癖があるから、起きると“天然ビューラー”がかかってる』と言っていましたね(笑)。持ち味が生かされて女性らしい目元だなと思いました」

――光が春香にメークを施すシーンもありますが、松本さんは練習されたのでしょうか?
「まずは長尺のメーク動画を送って勉強してもらいました。それから、本作のメークさんがもともと美容室で働いていた方だったので、松本さんに別途髪を切る練習を指導していただきました。別作品の撮影後だったので『疲れてるでしょう?』と言っても、『逆に夜遅くなってしまってすみません』と一生懸命練習していましたね。独特なハサミの持ち方や撮影での見せ方などを学んでいただきました。メークでいうと、リップを塗った後に口を“ンパッンパッ”(口を開いたり閉じたりしてなじませる)とやるじゃないですか。それがとてもうまいんですよ(笑)。きっと天性のメーク男子なんだと思います」
――バンタンに通う現役の学生さんも出演されているんですか?
「学校のシーンにいるエキストラさんは、バンタンの学生さんにもお願いしています。ドラマの後半には、バンタンの学内イベントで実際に賞を取った衣装が出てくるシーンもあるので、注目していただけたらと思います」
実写化する上で大事にした“キャラクター”と第2話までに登場するこだわりのセリフ
――あらためて、漫画を実写化する上で意識したことを教えてください。
「さまざまな事情で原作を変えさせていただいた部分もありますので、原作ファンの皆さんには『パラレルワールドのような感覚で楽しんでいただけたら』と思っています。原作者の柳井先生からは『絶対に変えてほしくないのは、登場人物の“キャラクター”です。“キャラクター”さえ分かっていてくだされば、どんな内容に変えても大丈夫です』と。実際、物語の構成に関してはなんでも受け入れてくださいましたが、セリフについてはとても細かく指摘していただきました」

「たとえば、かわいくなった春香を見た黒滝(八村倫太郎)が、漫画では『かわいい! いいじゃんいいじゃん』と言うんですね(第2話の11分〜)。そこを私たちが『いいじゃん、かわいいよ』という脚本にしたら、先生が『黒滝は“かわいい”から始まって、“いいじゃん”というタイプなんです。人を上から評価するような人間ではないから、順番を戻してほしい』とおっしゃって。そこで私たちにも『そんなにも深い考えがあるのか』という気付きがあったので、そこからは一言一句気をつけながら、もし原作からセリフの変更がある場合には、“なぜ変わったのか”という理由付きの脚本をお渡しするようにしました。最初は何度も何度もやりとりしましたが、後半には私たちも“キャラクター”が体にしみついてきて、新しいエピソードを作っても『違和感がない』とおっしゃっていただけたので、すごくありがたかったなと思います」

――原作で人気がある、光の美に対する持論“毒持論(どくじろん)”も話題になりそうです。
「実は、このドラマでは“毒持論”という言葉を一切使っていないんです。セリフだと、どうしても『毒持論』が『独自論』に聞こえてしまうんですよね。かといって、テロップで毎回表示するのもおかしい。そこで『“毒舌”にさせてもらえないでしょうか?』と先生に相談しましたが、あれは『毒舌ではないんですよ』と。光は性格の悪い毒舌キャラではなくて、毒要素のある持論を展開するキャラクターなんですよね。ですから、セリフはそのまま生かして、“毒持論”という表現だけをやめることにしました」
――では、最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
「第1話の『20歳超えたらブスは自己責任』という光のセリフ(第1話の12分59秒〜)、まさに“毒持論”が最初にドーンと来ますが、これは容姿のことではなくて、自意識の問題なんですよね。20歳を超えたら、自虐しても笑えないから、その意識をちゃんと持っていなさいと。『女性だからこうあるべき』という“思い込みの女性像”を春香が持っていて、そこを光が変えてくれる。女性にとってはすごく気持ちが休まるし、男性には『知らず知らずのうちに男女差別していたな』という気持ちになってもらえるかもしれません。『私なんて』と自己肯定感が低い春香と、実は『女装って恥ずかしいことなんじゃないか』と不安を抱いていた光が、お互いを肯定して高め合っていく。おのおのの登場人物の考え方が変わっていくところにも注目して、ぜひご覧ください」

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「シンデレラ クロゼット」
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