「風、薫る」見上愛×上坂樹里インタビュー後編 シマケンとの再会、吾郎との別れ…2人がたどり着いた看護2026/09/11 08:15

NHK連続テレビ小説「風、薫る」(月~土曜午前8:00ほか)で、ダブル主演を務める見上愛と上坂樹里に前後編にわたってインタビュー。
明治という激動の時代を舞台に、西洋式の看護学を学んだ一ノ瀬りん(見上)と大家直美(上坂)が、それぞれに生きづらさを抱えながら看護の世界へ飛び込み、やがて“最強のバディ”となり、未知の世界を切り開いていく本作。
前編では、約1年間に及ぶ撮影を振り返り、ダブル主演だからこそ感じた心強さや、撮影を重ねる中で深まった2人自身の関係について語った。後編では、物語終盤のりんと直美に焦点を当てる。長い時を経て再会した“シマケン”こと島田健次郎(佐野晶哉/Aぇ! group)への思い、直美にとってかけがえのない存在である夫・小川吾郎(甲斐翔真)との別れ、そして2人が作品を通して向き合ってきた「看護」についても聞いた。

――りんは、長い時を経てシマケンと再会します。久しぶりに顔を合わせる場面では、どんな思いがありましたか。
見上 「7、8年ぶりでしょうか。会った瞬間は自分でもどんな表情をしているのか分からないくらい、何とも言えない気持ちになりました。ものすごく気まずいし、それと同時に『生きててよかった』という安心感や、『そもそも、なんでいなくなったんだろう』という思いもあって。モヤモヤしていたけど、なかったことにしていたものが一気に頭の中を駆け巡るような感覚でした。りんもそうですし、私自身も胸がざわつくシーンだったのを覚えています」
――その後、2人で言葉を交わす中で見えてきたものについて。
見上 「現代だったら、遠い場所に行っても何かしらの方法で連絡が取れますよね。その上で連絡を取らなかったのであれば、『もうこの人とは人生が交わらないんだな』と整理がつく。でも、あの時代はなかなか連絡手段もなくて。シマケンも手紙一つくらいくれればよかったんですけど(笑)。7、8年の間に、りんもシマケンも自分の中では整理がついて、もう何も感じていないつもりだったはずなんです。でも、いざ2人で話してみると、気まずさの中にあの頃の思いや、恋愛感情とはまた違った形でお互いを思いやる気持ちが出てきたように感じました。今後物語が進む中で、2人の関係にもまた変化が生まれていきます」
――第22週、吾郎の最期を知った直美が、一人でボタンを縫い付ける場面がありました。あの時の直美をどう受け止めていましたか。
上坂 「本当に苦しかったですね。吾郎さんとのシーンは、幸せな新婚生活から、最後に直美が一人でボタンをつけるところまで、1、2週間ほどで順番に撮ったんです。この先の展開が分かっているからこそ、吾郎さんがご飯を作って、2人で何げない会話をしているシーンも余計につらくなってしまって」
――あの一連の撮影で、特に難しかったことは?
上坂 「その期間は、とにかく泣くことを我慢するのに苦労しました。脚本では、吾郎さんが亡くなったと知ってから、直美は強く振る舞おうとして、最後に我慢していたものがあふれる流れになっていたので、それまでは涙を流すのは違う。でも、誰かに声を掛けられるだけで吾郎さんの姿が浮かんでしまって、涙を出さないようにしないといけない。それぐらい私自身も直美と重なっていました。一番愛した人ですし、強さも弱さも教えてくれた大事な人が亡くなってしまったことを受け入れがたい、苦しくてたまらないシーンでした」
――そして、最後に残ったボタンの場面も、とても印象的でした。
上坂 「ボタンが取れていたのも、吾郎さんが直美につけてもらう姿を見たいからという、そういうところも吾郎さんらしくてずるいなと。『許せない、許したくないけど、そんなところを好きになったんだよな』というか。2人らしい最後だったなと感じます」

――りんには、もう一人、初恋の相手である竹内虎太郎(小林虎之介)も大切な存在です。再会してから、りんの中で虎太郎への思いはどう変わっていったのでしょう。
見上 「初恋の人ではあったけれど、りんは結婚して子どももできて、その頃には自分が恋をするという発想自体がしばらくなかったんですよね。とにかく、環(たまき)を養っていかないといけないし、家族と生活するためにも看護師にならなければという気持ちが強かった。一方、虎太郎は再会した時にはかなり上昇志向が強くなっていて、りんが好きだった、おっとりして優しくて、人と比べることのない虎太郎とは変わっていました。『努力した人が上に行ける』という考えを持つようになって、そのあたりから、りんとの考え方にズレが生まれていったように思います」
――それでも、虎太郎への信頼は変わらなかった?
見上 「自分を昔から知っている人で、深く信頼していることは変わっていなかったと想像します。だからこそ、そういう考え方になっていく虎太郎に歯がゆさもあったんじゃないかなと。戦争から帰ってきた虎太郎を見た時は、監督から『(患者をめぐる出来事をきっかけに、適応障害になっていた)15週のりんと、今の虎太郎を重ねて見てほしい。あの頃の自分みたいだと感じてほしい』と言われていて、それは意識していました」
――戦争を経た虎太郎に、りんは何を感じていたのでしょうか。
見上 「りんとしては『おかえり』という気持ちもあるけれど、それ以上に、昔の虎太郎が戻ってきてくれたこと、心があの頃の虎太郎に戻っていることに安心したんだと思います。恋愛という軸では、もう虎太郎にそういう意識は持っていなくて。りん自身、結婚して子どもを持った頃から恋をするという発想がなかったからこそ、シマケンへの気持ちに気付くにも、あれだけ時間がかかったのかもしれません」
――そして、直美の前には、寛太こと小日向栄介(藤原季節)も再び現れます。今の直美にとって、寛太はどんな存在なのでしょう。
上坂 「23週でまた寛太が出てきて、しかも直美に関係のある偽の派出看護婦会を立ち上げている。『なぜ?』という(笑)。でも、そこがブレないのが寛太らしさでもあるんですよね。もちろん怒りはありますが、そこで直美は初めて『寛太はなぜ、こういう人生を生きているんだろう』と思うようになるんです」
――終盤へ向けて、2人の間にも変化が生まれていきます。
上坂 「直美たちが、自分たちの正式な派出看護婦会を信じてもらうためにどうすべきか模索する中で、寛太は重要な人物として関わってきます。かつて大きく分ければ同志で、境遇も似ていた2人が、年を重ねて経験を重ねる中で変わっていった部分も見えてくる。ラストに向けて寛太との距離も変わっていきます」

――終盤では、りんが宮川佳枝(相田翔子)、直美が遠藤平蔵(太田光/爆笑問題)の派出看護を担当します。
見上 「派出看護は普通の病院での看護とは違うということを、りんも直美も劇中でずっと意識していて。患者さんの人生にどう寄り添うのか、その人の人生を軸にして、自分たちのやり方を押し付けずにどう向き合っていくかが大事なんですよね。相田さんや太田さんが演じる人物との関わりを通して、りんと直美が派出看護に求めていることや、その可能性も見えてくるという印象です。それぞれ交わらない世界線ではあるけれど、悩みながら『看護とは何か』と向き合っていきます」
――宮川佳枝を演じる相田さんとの共演はいかがでしたか。
見上 「とてもかわいらしくてキュートで、それでいて品のある方で、本当にこの役にぴったりだと感じました。もともと脚本を読んでいた時に想像していた以上に、自分自身でできることが減っていく恐怖や迷い、それを少しずつ前向きに捉えながら、この病気と一緒にどう生きていくかを模索する宮川さんの姿が、相田さんのお芝居によって説得力をおびたように感じました」
――上坂さんは、遠藤平蔵を演じる太田さんとの撮影はいかがでしたか。
上坂 「まず最初に言わないといけないことがあって(笑)。太田さんが撮影現場に、すごくおいしいふわふわのドーナツを差し入れてくださったんです。『ごちそうさまでした。おいしかったです』と伝えたら、『俺がおごって差し入れしたことを、まず初めに公の場で言ってください』と言われたので(笑)、この場を借りて感謝を伝えたいです。すごく朗らかで、控室でもずっとお話ししてくださいますし、優しくて心地のいい方でした」
――平蔵との出会いは、直美自身の看護にも影響を与えます。
上坂 「平蔵さんは、お金がなくて医者に行かないという、まさに直美が看護を届けたかった人なんです。でも『体は弱いけど、弱い人間じゃない』と核心を突かれて。平蔵さんとの出会いによって、自分がしたかった看護は、もしかしたらきれい事だったのかもしれないと原点に戻って、それこそ『看護とは何か』につながっていきます。全く違う環境で暮らす人たちのもとへ派出することで得られるものがあって、それが今につながる訪問看護の心でもあると思います」
――1年間、看護師という仕事に触れて、仕事そのものへの見え方は変わりましたか。
見上 「撮影に入る前や初期の頃は、技術職という印象が強かったんです。養成所の撮影でも、包帯法などの技術を自分たちも学んで、できるようにならなきゃという気持ちが強くて。でも、撮影やイベントで実際の看護師の方々からお話を聞く中で、『心を使うお仕事なんだな』と印象が変わっていきました」
――技術だけではない部分を感じたと?
見上 「実際の看護師の方々も、一人一人にどんな看護が必要なのか、答えがない中で向き合い続けているんですよね。看護師は病気そのものを治すわけではないからこそ、患者さんが前向きになれるように、これからの人生をよりよく生きられるように支える。そういう職業なんだと分かりました。それはりんと直美にも重なる部分なんじゃないかなと思います」
上坂 「私は直美を演じ、派出看護のシーンを撮る中で、今の訪問看護でも、その人の生き方や人生を否定せず、よりよくなるようにサポートすることが大事だと教えていただきました。正解がなくても向き合い続ける。その過程が患者さんのためになるかもしれない。誰かの人生に寄り添って、一緒に生きるということを、直美を通して感じることができました」

――放送が進む中で、視聴者から届いた言葉で印象に残っているものはありますか。
上坂 「本当につい最近、SNSで現役の看護師さんから、『風、薫る』でりんちゃんや直美ちゃんが頑張っている姿を見て、ずっとやりたかった訪問看護の道に進むことにしました、という感想をいただいたんです。その方自身も驚いていたんですが、ちょうど直美と吾郎の間に子どもを授かったタイミングで、ご自身も婚約されたそうで。すごく感動しました。作品を見てくださっていることもうれしいですし、何かのきっかけになれたことは本当に幸せだなと思いました」
――朝ドラのヒロインを務め上げた今回の経験は、今後の俳優人生にどんな影響を与えそうですか。
見上 「どうなんでしょうか。まだ想像がつかないところがあって。というのも、私はまだあまり終わった実感がないんです。樹里ちゃんはもう“終わった”という実感があるそうなんですけど、私はさっき、終わったことを実感するために何もなくなったセットを見に行かせてもらって。りんの家や看護婦会、団子屋さんなど、いろんなものが立っていた場所が全く何もない状態になっているのを見ても、『来週からまた始まるんじゃないか』という気持ちになってしまって。本当にまだ終わった実感がないんですよね」
――そんな中で、この1年が今後につながっていく感覚は?
見上 「この作品を始める前から一貫して、豊かな人生を送りたいと思っているんです。このお仕事はもちろん好きですし、大切だけれど、表現の幅を広げるためにも、いろんな経験をしながら豊かに、のんびり、ゆったり生きていきたい。りんという一人の人間の人生に向き合い続けたので、いつか自分が悩んだ時に、りんの思考回路や強さ、柔軟さに助けられる瞬間が来るかもしれないなと思っています。でも今はまだ、一人だけ取り残されているような感覚で……とても寂しいです」
――上坂さんにとって、この1年間はこれからどんな意味を持っていきそうですか。
上坂 「直美という役と出会えて、1年間同じ役を生きさせてもらって、お芝居以外でも本当に感謝しきれないぐらいたくさんの方に支えてもらいました。この先、仕事でも、仕事じゃない時でも、自分の中で悩んだり、大変なことにぶつかったりした時に、この1年間が支えになってくれる気がします」
りんと直美、それぞれの人生と向き合いながら、約1年間を走り切った見上と上坂。2人が歩んできた道の先にどんな未来が待っているのか。物語は、いよいよ最終章へと向かっていく。

【プロフィール】
見上愛(みかみ あい)
2000年10月26日生まれ。東京都出身。19年にデビュー。NHKドラマ「きれいのくに」(21年/NHK総合)で注目を集め、近年はNetflix「恋愛バトルロワイヤル」(24年)、大河ドラマ「光る君へ」(24年/NHK総合ほか)、映画「不死身ラヴァーズ」(24年)、CX「119エマージェンシーコール」(25年)、映画「国宝」(25年)、映画「正直不動産」(26年)、Netflix「喧嘩独学」(26年)などに出演。第49回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
上坂樹里(こうさか じゅり)
2005年7月14日生まれ。神奈川県出身。2021年に「ミスセブンティーン2021」に選出され、「Seventeen」専属モデルとして活動を開始。同年、配信ドラマ「そらぞら」で俳優デビュー。NHK特集ドラマ「生理のおじさんとその娘」(23年/NHK総合)でヒロインを務め注目を集める。近年の主な出演作は、「ビリオン×スクール」(24年/フジテレビ系)、「御上先生」(25年/TBS系)、「いつか、無重力の宙で」(25年/NHK総合)など。
【番組情報】
連続テレビ小説「風、薫る」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
※NHK ONEで同時・見逃し配信
取材・文/斉藤和美
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