「風、薫る」上坂樹里、朝ドラ主演に挑んだ日々は「直美を演じたというより共に生きた感覚」2026/08/24 08:15

NHK総合ほかで連続テレビ小説「風、薫る」(月~土曜午前8:00ほか)が放送中。その中で、明治という激動の時代を舞台に、一ノ瀬りん(見上愛)と共に看護の世界を切り開く大家直美を演じているのが上坂樹里だ。
上坂が演じる直美は生後間もなく親に捨てられ、キリスト教の牧師に育てられたという出自がある役柄。信じられるのは自分の力と運でプライドなど役に立たない暮らしだったため、目的のためには多少のうそやズルをもいとわない柔軟さとしたたかさを持つ。
本作は、女性が職業を持つことすら難しかった時代に、正規に訓練されたトレインドナースたちが新たな時代を切り開いていく物語。りんと直美が葛藤しながらも生き抜いていく姿が描かれる。
朝ドラ初出演ながら、撮影開始から約1年にわたり直美を演じ続けてきた上坂。物語の中で直美は、大山捨松(多部未華子)の誘いでトレインドナースになることを決意し、りんらと共に看護婦養成所に入所。卒業後、帝都医大病院でキャリアを積み重ね、看護婦取締を担うまでになる。当初の人物像から大きな変貌を遂げた。

さらに、実の母親・文(内田慈)との別れ、派出看護婦会の創設、そして結婚と直美を取り巻く環境は大きく様変わりし、新たな人生のステージへと進んでいる。直美と歩んでいく中での役との向き合い方、現場での共演者との関係性、そして芝居に対する思いを上坂に聞いた。
――朝ドラの主人公を演じたことで、反響はありましたか?
「毎日朝ドラを見てくださっている方からメッセージが届いたり、知人からも『毎日見てるよ』と連絡をいただけるのはすごく励みになります。また、別のお仕事やSNSのコメントで、樹里ちゃんではなく“直美さん”って呼ばれることがあって。直美として認識してくださっていることがとてもうれしいです」
――撮影開始から約1年、直美を演じてきた率直な感想をお聞かせください。
「最初の頃は、直美の言動の意図が分からない部分もありましたが、りんをはじめ、さまざまな人との出会いを重ねる中で、直美の内面が変わったことを演じる私自身も感じていました。直美の成長を実感できました。1年という時間を使って一つの役を演じることができることは、朝ドラならではだなと思います」
――具体的には、どんなところに直美の成長を感じましたか?
「どんな困難な状況でも立ち向かっていく強さは、最初の頃から変わらないです。以前と違うのは、単なる気の強さではなく、患者さんをはじめ、助けを求めている人たちの力になりたいという強い信念が芯にあること。看護婦として働く中で芽生えてきた使命感に、直美の成長を感じました」

――特に印象に残っているシーンがありましたら教えてください。
「たくさんありますが、第17週で実の母親である文さんとの別れを経て、第20週で吾郎さん(甲斐翔真)という新しい家族ができて……。以前から直美を知っている人からすれば想像もできなかった世界。新たな環境に直美が飛び込んでいくシーンは、とても印象深いです」
――直美と文との場面について、最初に台本を読まれた時の感想を教えていただけますか?
「台本を読むまで、文さんが実の母親であることを知らなかったので、まさか文さんが……と。私自身も驚きました。過去に共演していたシーンもありましたが、その時は本当に何も知らなかったので、もう一度見返したいです」

――母親の文が亡くなったことは、直美にとって大きな変化でしたね。
「さまざまな人の看護に携わる中で、“目の前の人を助けたい”という思いが自分の本質なんだと、直美自身も少しずつ理解していったのではないかなと。そして、それを実現するために進むべき道は派出看護だと確信する。文さんを看護し、みとった経験が大きな転機になったと感じます」
――文との別れを経た直美に、りんの母・美津(水野美紀)が自分は直美の2番目の母であると伝える場面がありましたが、美津への思いもお聞かせいただけますか?
「美津さんからこの言葉をかけられ、それまで胸の奥に押し込めていた感情が一気にあふれ出すシーンだったのですが……撮影していても、言葉の重みを強く感じました。りんなど多くの人たちに支えられてきた直美ですが、中でも美津さんの存在は特別に大きかったと思います。だからこそ、『もう一人の母親だ』と言ってくれたことは直美にとって何よりもうれしく、深く心に響きました」

――そして、直美は小川吾郎と結婚することになりますが、吾郎を演じる甲斐さんの印象をお聞かせください。
「吾郎さんは誰よりも真っすぐで、誠実でピュアで、どこか放っておけない。そんなすてきな人物です。吾郎さんを演じる甲斐さんは軍人役ということもあり、軍事所作指導の先生からとても厳しく指導を受けていらっしゃって……。役に打ち込まれている姿が強く印象に残っています。私自身、小川吾郎という役をまだつかみきれていない時期でしたが、演じる甲斐さんの姿に通じるものを感じて……。そのひたむきな姿勢に大きな魅力を感じました」
――ナースとしてのりりしい姿、または吾郎と一緒に過ごす時など、それぞれの直美を演じる際に意識していることがあれば教えてください。
「吾郎さんの前では、つい笑ってしまうことを大事にしていて。実際にお芝居していても、自然と柔らかい表情が出るようになりました。第17週の撮影をしている時、監督から『吾郎とのシーンは、直美が素で笑っていたね』と言われたんです。私は特に意識をしていなかったので、そんなふうに見えていたのだとしたら、吾郎さんの存在が大きいんだなと実感しました」

――結婚して家庭を築く展開について、演じる上での不安や難しさを感じましたか。それとも、撮影への期待の方が大きかったのでしょうか?
「今まで自分の実年齢より上の役をやったことがなくて。最初の時点では同世代だったのが、週を重ねるごとに、直美がどんどん年上になっていくので、直美と一緒に自分自身も成長したいと思っていました。でも、結婚や妊娠は未知の世界で……。母親として違和感なく存在できるのかという不安の方が大きかったです」
――ドラマの中ではありますが、未知の世界でもあった結婚や母親を経験してみて、どんなお気持ちでしたか?
「第21週の台本をいただいた時に、役名が大家直美から“小川直美”に変わっていたことに、感動してしまって……。吾郎さんと家族になったことを初めて実感しました。実際に赤ちゃんを抱いた瞬間も、それまで味わったことのない幸せな気持ちになりました。直美が感じていた思いと重なるような気がして、不思議な感覚でした。直美と共に人生を歩んできた積み重ねが、そんな感情に自然とつながったのかなと思います」

――結婚式のシーンはいかがでしたか。また原田泰造さん演じる吉江先生とのエピソードもありましたら、お聞かせください。
「結婚式のシーンでは、久しぶりに看護学校のみんなと会えて、同窓会のような雰囲気で撮影しました。とにかくすごく楽しくて……。当初、原田さんから『吾郎さんと結婚するんでしょ。行きたかったな』って言われて。そのあと、『結婚式、行けるようになったよ』と。吉江先生には結婚式に来てもらいたかったので、本当にうれしかったです」
――直美という役に出会えて、今一番強く思うのはどんなことですか?
「一つの役をこれだけ長い時間をかけて演じるのは初めてなので、ますます直美がいとおしく思えてきます。最初の頃は、自分自身の目線で台本を読んでいたのですが、気付けば自然と直美の目線で物語を追うようになっていて。自分でも変わったなと思いました。役作りに悩んでいるからなのか、直美という役を理解できているからなのか……自分でもまだ答えは出ていませんが、すごく不思議な感覚です」
――直美の気持ちが自然と反映されたんですね。具体的にはどんなシーンでしたか?
「吾郎さんや文さんとのシーンでは、台本に書かれている直美の表情を自然と表現できるようになりました。直美として内側から出てくる何かがあって……そんな感覚は初めてです」

――クランクアップも近づいてきますが、これまで直美として生きてきた時間は上坂さんにとってどんな時間でしたか?
「直美の人生を背負って生きてきたその軌跡は、自分の体に深く刻まれています。役を演じたというだけでなく、直美という存在からたくさんのことをもらうことができた。そんな感覚があります」
――最後に、ファンの方々へ、メッセージをお願いします。
「撮影の終わりが急に見えてきて、台本も片手で数えられるぐらいになって……。終わることへの不安ではないですけど、寂しさみたいな気持ちが出てきました。見上さんと最後まで健康に、一緒に駆け抜けられたらいいなと思っています」
――ありがとうございました。直美が駆け抜ける人生を、私たちも一緒に最後まで見届けたいと思います。

【番組情報】
連続テレビ小説「風、薫る」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
※NHK ONEで同時・見逃し配信
取材・文/K・H
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