岡山天音、夜ドラ「ひらやすみ」で初主演 “生きる才能”を持つヒロトに共鳴2025/10/27 08:00

NHK総合で11月3日スタートの夜ドラ「ひらやすみ」(月~木曜午後10:45)。原作は真造圭伍さんによる同名漫画。東京の片隅に建つ一軒の平屋を舞台に、そこに集う人々の小さな希望や優しさを、穏やかな筆致で描いた物語だ。
主人公・生田ヒロトは、元俳優という経歴を持ち、定職なし、恋人なし、将来への不安も一切ない自由人。近所のおばあちゃんから譲り受けた平屋で、18歳のいとこ・なつみ(森七菜)と暮らし始めたことをきっかけに、さまざまな人々と出会っていく。
そんなヒロトを演じるのは、映画やドラマで確かな存在感を放つ俳優・岡山天音。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合ほか)では、滑稽さと情熱を併せ持つ絵師・恋川春町を演じ、視聴者の心をつかんだ。実直で柔軟、そして人の感情の揺らぎを丁寧にすくい取る感性を持つ俳優が、今回はNHKの連続ドラマで初主演を務める。
「原作はもともと大好きで、ずっと読み続けていた作品でした」と語る岡山。長く愛読してきた作品の主人公・ヒロトをどう生きたのか。そこに込めた思いを、静かに丁寧に語ってくれた。
子どもの頃から憧れた「友達」。ヒロトへの思い

岡山にとって「ひらやすみ」は、オファーを受ける前から愛読していた作品だった。
「僕が『ひらやすみ』の1巻を初めて読んだ時、『ああ、自分が出会いたかった人に、やっと出会えた』と思ったんです。ヒロトに対して。子どもの頃から『こんな友達がいたらいいな』と思い描いていた、そのままの人物だったんです」
この作品には、不思議な縁がある。原作者の真造さんが「ひらやすみ」を描き始める前、“俳優”を題材にした漫画を描く参考にと取材した俳優こそ、ほかならぬ岡山本人だったのだ。その時の岡山の姿が、ヒロトを描く上で多分に生かされているという。
「『ひらやすみ』は僕の周りにもファンが多くて、この役をやると発表される前から、『合いそうだね』と言われたことがありました」
ヒロトを“ある種の天才”と語る岡山が、演じる上で意識したのは、「自分の中で出来上がりすぎていたヒロト像を、ちゃんと“生きている人間”として表現すること」。彼を天才と呼ぶのは、“生きる才能”を持つ人物だと感じているからだ。目の前の日常にある小さなキラキラに、自然と気付ける。その感性こそが、ヒロトの魅力だと岡山は言葉を添える。
「トライ・アンド・エラー」を続ける現場で

「自分の中で出来上がり過ぎていたヒロト像を、ちゃんと“生きている人間”として表現できたら」という目標は、実際の撮影を通してどこまでかなったのか。
「一部分においてはそうだと思いますし、一部分では反省もあります。まあ、どの役でもそうなんですけどね」と岡山は振り返る。
決して満足していない岡山だが、彼が本当に気にしているのは自己評価ではない。
「そうですね……。やっぱり、自分の中で気になるのは、最終的には自己評価よりも“見てくださる方がどう感じるか”というところなんです。それがこれから楽しみというか、気になる部分ですね」
主演作品であり、しかも大好きなキャラクターを演じる。プレッシャーは相当なものだったはずだが、撮影が進んでも特に気持ちの変化はなかったという。
「楽しさも難しさも、特別にどちらかが強くなったということはなかったです」
そんな岡山が撮影現場で心に置いていたのは、“トライ・アンド・エラー”という姿勢だ。
「良し悪しに関わらず、常に自分の普段の芝居現場でのスタンスとして、日によっても、シーンによっても、何か一つ変えてみる。つまり“トライ・アンド・エラー”を続けるということをいつも意識していて。今回もそれは変わりませんでした」
“うまくできた”“できなかった”という判断は、自分の体感とモニターでの確認、両方で行うという。
「そこで監督の反応を見て合否を取るようなことはしないです。超個人的なテーマで遊んでいるような部分もあるので、自分なりの感覚で試していく感じですね」
うまくいく日もあれば、少し違うと感じる日もある。
「それをもとに『次はどう追い込んでみようか』『どんなふうに展開させようか』と考える。自分の中で整理して、次につなげていく作業です。楽しい時もあれば悩む時もあるけれど、どちらも含めて面白い過程だと思っています」
“トライ・アンド・エラー”を繰り返す中で、手応えを感じる瞬間はあるのだろうか。
「ないですね。撮影って、全部が終わって編集まで含めて初めて“どうだったか”を判断できるものだと思うので。今日たまたま自分の向かいたかった場所に近づけたとしても、『よっしゃ!』みたいな気持ちにはあまりならないです。やっぱり全体を通して見た時に初めてその全貌が見えるので、撮影中の一部分ってまだ結果が出ていない状態なんですよね。だから、一喜一憂はしないです」
日々試行錯誤を重ねながらも、決して結果を急がない。その職人的なスタンスは、ヒロトという人物の穏やかさにもどこか通じている。
友情が映す“ヒロトの芯”。ヒデキとの時間

印象に残った場面として、岡山はヒデキとのシーンを挙げた。ヒデキは吉村界人が演じる、ヒロトの高校時代からの同級生だ。
「後半に、ヒロトとヒデキの関係性が変化していくシーンがあるんですよ。それまで“おかしなやつ”としてヒロトのそばにいたヒデキに、ある展開が訪れて。そこから少しずつヒデキ自身の変化が表れてくる。そのパートに入ると、これまでの『ひらやすみ』の穏やかなムードとはまた少しカラーが変わってくるんです。それぞれのキャラクターがより立体的に見えてくるというか、別の側面が現れるようになっていって。すごく面白い展開になっていると思います」
準備段階で吉村と話し合ったかと聞くと、岡山は首を横に振った。
「話は全然してないです。でも、やっぱり特別な関係の2人だと思うんですよ。単なる友達というより、友情そのものがすごくエモーショナルで。演じていて何度も感情が高ぶる瞬間がありました。吉村くんは独特のエネルギーを持った俳優さんで、彼と向き合っていると、大人になってからもう一度“青春”を過ごしているような感覚になる。そういう空気の中で一緒に演じられたのは、本当に楽しかったですね」
第2週に登場する、ヒロトが珍しく感情をあらわにするエスカレーターのシーン。原作でも印象的な場面だが、岡山にとっては「特別“普段のヒロトのレールから外れた場所”という印象はなかった」という。
「漫画の中では、たしかに珍しい表情を見せる場面だと思うんですけど、なつみとのやりとりの延長線上にあるだけで、ヒロトの中では自然な流れの一部という感覚でした」
むしろヒロトの“芯”に近いのは、ヒデキとの関係だと岡山は補足する。
「どちらかというと、ヒデキとの関係の方が、よりヒロトの“芯”に近い部分が出ていると思います。物語が進むにつれて、ヒロトの背景や心の奥行きが少しずつ見えてくる。その積み重ねの中で、『ひらやすみ』という作品が“ほのぼのした温かさ”だけでなく、人の営みや生き方の深い部分も描いていることが、より浮かび上がってくる気がします」
“完璧じゃないから面白い”共演者との関係と素顔

ヒロトと不動産会社勤務のよもぎ(吉岡里帆)との初対面シーンも印象的だ。“タイプではあるけれど緊張しない”。あの絶妙な空気感はどこから生まれたのか。
「うーん、なんででしょうね。たぶん、服がちょっとダサいからじゃないですかね?(笑)ヒロトはそこに親しみやすさを覚えたんじゃないでしょうか?」
吉岡との芝居について尋ねると、岡山は確かな信頼をのぞかせる。
「実は、一緒にお芝居している場面はそれぞれがハイライトではあるんですが、数としてはそこまで多くはなかったんです。でも、すごく安心感がありました。どんなことが起きても“柱になってくれる”ような存在で、本番でもその感覚を強く覚えました。非常にすてきな先輩であり、俳優さんだなと、あらためて今回ご一緒して感じましたね」
18歳のいとこ・なつみを演じる森からは、「俳優の先輩の中で一番話しやすい」と評された岡山。
「基本的に、けっこう話しちゃうタイプなんですよ。もともと、人の話を聞くのが好きで。あと、同業者の方って“好奇心をかき立てられる人”が多いじゃないですか。だから自然と話しちゃいますね」と笑いつつ、一方で「自分のことを話すのは本当に苦手。でも、人と話すこと自体はすごく好きなんですよね」と続けた。
本作の放送時間は午後10:45。岡山は普段、その時間に何をしているのか尋ねると…?「うわ、10:45……何してるんだろう(笑)」と少し考えてから、「たぶん出かけてはなくて、『まだ時間あるな』って思ってる時間ですね」と答える。「やろうと思ってたこととか、やりたいことをちょっと置いといて、YouTubeとか見ているかもしれません。そうですね。何もしてない時間かもしれないです。『寝るまでにまだ少し時間あるし』という感じです」
穏やかにそう語る岡山だが、リアルタイム視聴にはちょっとした問題があるそうだ。
「今テレビが壊れていて(笑)。でも、放送までには買い替えて、間に合わせます。皆さんと一緒に、ちゃんと見たいので」
この飾らない言葉に、岡山天音という俳優の人柄がにじむ。“トライ・アンド・エラー”を繰り返し、決して一喜一憂せず、ただ目の前の芝居に集中し続けた俳優が紡ぐヒロト。その姿が、私たちにどんな「ひらやすみ」の時間をもたらしてくれるのか。「オンエア、ぜひリアルタイムで見てもらいたいです」という岡山の言葉には、作品への確かな自信と、視聴者と共にこの物語を分かち合いたいという思いが込められていた。

【プロフィール】
岡山天音(おかやま あまね)
1994年6月17日生まれ。東京都出身。2009年、「中学生日記」(NHK 教育)で俳優デビュー。近作はドラマ「どうせ死ぬなら、パリで死のう。」(主演/NHK総合/25年)、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合ほか/25年)、映画「笑いのカイブツ」(主演/24年)など。26年春に特集ドラマ「片想(おも)い」(NHK総合)に菅原健二役で出演。
【番組情報】
夜ドラ「ひらやすみ」
11月3日スタート
NHK総合
月~木曜 午後10:45~11:00
取材・文/斉藤和美
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