堤真一「ばけばけ」雨清水傳への思い「タエさん(北川景子)が心配で、死んでも死に切れん」2025/10/17 08:15

NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」(月~土曜午前8:00ほか)で、雨清水傳を演じている堤真一。主人公・松野トキ(髙石あかり)の親戚で、松江藩に名をはせる上級武士で文武両道のエリートだった。松江で知らない人はいないほどの人格者で、変わりゆく時代の中、多くの没落士族に手を差し伸べようと尽力する人物だ。
髙石が主演を務める「連続テレビ小説」第113作の同作は、ふじきみつ彦さんが小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・セツをモデルに描く物語。明治という西洋化で急速に時代が移り変わるなかで、松江の没落士族の娘・トキと、縁あって松江で英語を教えることになった英語教師のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が出会い、文化や言葉の壁を越えて愛を育む。「怪談」を愛し、何げない日常を歩んでいく夫婦の姿を通して、埋もれていった人々の声をすくい上げる愛の物語だ。
物語の中でトキを幼い頃からかわいがる雨清水傳という存在を、堤がどのように理解し、演じているのかを聞いた。

――演じる雨清水傳は、どんな役ですか?
「最初に台本を読んだ時に(妻の)タエさん(北川景子)が『傳』と呼び捨てだったので、あれ? 夫婦役と聞いたのに? と思いました。タエさんの方が家柄が上なので呼び捨てで、傳はタエさんに頭が上がらないんですよね。奥さんといる時は江戸時代、仕事をしている時は明治時代の感覚です。僕自身、佐藤浩市さんには若い頃に初めてお会いしたので、今お会いしても直立不動になってしまうんですよ。だから、最初に出会った時の関係性から態度を変えられない傳の気持ちはよく分かります」
――傳はどのように時代を生きようとしていたのでしょうか?
「雨清水家は上級武士でしたが傳は自ら髷(まげ)を切るような革新派でもあり、商売を始めて時代に乗っかっていこうと前向きに働いていたと思います。武士だった人がこれまでちょっとさげすんでいた商人になるのは相当勇気の要ることだったはずですが、そうしないと生きていけなかったのでしょうね。ただ、織物工場に部下のお嬢さんたちを呼び集めてノルマもなしに仕事をさせていたのはある種、救済のようなもので、商売人としては非常にぬるい考え方。その結果、世の中の激しい動きについていけず、タエさんに苦しい思いをさせてしまったと思います」
――役作りで意識されたことはありますか?
「演じる上では松野家との違いを出すために、あまりはしゃぎすぎないようにしていました。傳は武士道というものを全く忘れた人ではない気がしますから、どこかに武士の要素を入れています。雨清水家の品位は北川景子さんに任せておけば出るので、僕はあまり意識していません。セットや美術も大河ドラマかというぐらい素晴らしかったですね。台本だけでは分からない織物工場の規模感やどの程度の家柄かなど、セットに行くとよく分かるので役作りの面で本当に助けられました」

――傳の目におトキはどう映っていたのでしょうか?
「雨清水家は男の子3人だったので、松野家に養女に出したとはいえ、血のつながった女の子のおトキはやっぱり非常にかわいかったのだと思います。(息子の)三之丞(板垣李光人)たちに対しては『背中を見とけ』という接し方でしたが、おトキへの傳の振る舞いは単なる親切やいい人というレベルではなかったですよね」
――髙石あかりさんの印象をお聞かせください。
「おトキの非常に前向きでエネルギッシュなところが髙石あかりさんに本当にぴったりで、当て書きしたの? と思ったくらいです。髙石さんの人との距離をスッと縮められるところや、元気で明るいところがおトキそのものでした。朝ドラのヒロインというと、どこかステレオタイプになる部分がどうしてもあるじゃないですか。でも、ふじきみつ彦さんの脚本にはそういう部分がないのも魅力です」
――第15回(10月17日放送)で傳が亡くなるシーンはどんなお気持ちで演じられましたか?
「傳は志半ばで死んでしまうんですよね。人生としては頑張ったと思いますが、タエのこともおトキのことも、すべてにおいてやりきれなかったつらさを抱えたままだったと思います。息子たちに対しては『なんとか生きていってくれ!』という感じだけれど、とにかくタエさんがこれからどうなるのか心配だったんじゃないかな。ずっと侍女がついていて自分でふすまを開けたことすらない、生活していくすべを知らない彼女が生活していかなければいけないのがすごく心配で、本当に死んでも死に切れんという気持ちでした。おトキに関しては、血はどうあれ松野家で育ったので『この子は大丈夫、たくましく生きていけるだろう』と、たぶん死ぬ間際も思っていたと思います。雨清水家で育てていたら、もっと堅苦しい生き方になっていたかもしれません。松野家で育ったからこそ時代を生き抜ける力を持てたのでしょうね」

――撮影で印象的だったことはありますか?
「撮影していて『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』のような照明もとても印象的でした。照明をテカテカに当てず、セッティングに時間をかけて暗いところは暗くしていたんです。斜めの光しか入ってこない日本家屋らしさが表現されていると思いますので、ぜひそこにもご注目ください」
――今後の「ばけばけ」の見どころはどんなところでしょうか?
「究極に大変なことが起きてもなぜか悲劇という感じにはならず、乗り越えていく姿に元気をもらえるのがふじきさんの脚本です。時代の転換期に翻弄(ほんろう)される登場人物たちが、強く、そして楽しく生きる姿をこの先もどうぞ楽しみになさってください。たまに(松野)司之介(岡部たかし)さんにイラッとすることもありますが(笑)、怒りながらも笑ってしまう作品になっていると思います」
【番組情報】
連続テレビ小説「ばけばけ」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
文/TVガイドWeb編集部
※2025年10月17日11時15分加筆修正しました
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