ここから目覚める中国時代劇沼「灼灼風流~宮中に咲く愛の華~」2025/08/25 07:00

近年注目度を増している中国ドラマ。なかでも時代劇の活性化ぶりは目覚ましく、2019年に中国で放送された「陳情令」をきっかけに、日本でも若い世代にも視聴者層を広げたのは記憶に新しい。広大な中国では、毎年数十億円の製作費をかけた大作ドラマが次々と発表されている。
豪華絢爛な中国時代劇の世界へ

BS11で8月25日からスタートの「灼灼風流(しゃくしゃくふうりゅう)~宮中に咲く愛の華~」(月~木 午後3:59~5:00)も、そんな本格時代劇の一つ。そもそも中国では、大小含めて100以上の撮影所がある。浙江省の横店影視城などは、京都の映画村以上に広大な敷地内(東京ドーム約70個分!)に、時代劇の街並みや宮殿などを再現し、一般客も来訪できる一大エンターテインメントパークとなっている。国も支援するほどの潤沢な予算により、一つのドラマにかけられる制作費も日本とは桁違い。セットだけでなく豪華絢爛(けんらん)な衣装や小道具、さらにワイヤーとVFXを駆使した迫力のアクションシーンまで、徹底的にこだわり抜いてドラマが製作されているのだ。
現代的な自立したヒロインが時代劇で活躍

中国ではWeb小説やWebコミックの実写化が盛んで、「灼灼風流」もその流れを汲む作品の一つ。Web小説の読者層は若い世代が中心となっており、ドラマも同様に若者を含めた幅広い層に受け入れられた。
また、時代劇ということで「守られる存在」や「忍耐強く、運命に翻弄(ほんろう)される」ヒロイン像をイメージしがちだが、本作に登場するヒロインの慕灼華(ぼしゃくか)(ジン・ティエン)は現代的な自立した女性として描かれている。父親が勝手に進める縁談を蹴って家を飛び出し、役人になるための超難関試験・科挙の受験を目指す。科挙には女性の受験資格がないため、男装して試験に挑むという行動派。ちなみに「男装女子」は中国時代劇では定番設定。家族を奪った仇(かたき)を討つために将軍になったり、女人禁制の学校に入学して男子と一緒に寄宿舎で暮らしたり……シリアスものからラブコメまでジャンルはさまざまだ。

定王・劉衍(りゅうえん)(ウィリアム・フォン)も、イケメンな上に強く、しかもキャリアを積みたい彼女の後押しをしてくれる優しさが完璧。まさに“スパダリ(※)”定王! 2人の前に立ちはだかる壁は大きいが、数々の妨害や陰謀を打ち破ってく姿が見どころ。※スパダリ=日本の「3高」(高学歴・高身長・高収入)に「ヒロインを溺愛し、一途」の要素が加わった“スーパーダーリン”の略。

裕福な家庭に育ちながら、親が決めた結婚に背を向け、自分で人生を切り拓こうとする慕灼華。目指すのは官史としての道。恋愛よりも自己実現を優先する姿勢が、現代を生きる女性たちの価値観と重なる。
そんな彼女が出会うのは、かつて将軍として3万の兵を率いた定王・劉衍。激しい戦の中で心身に深い傷を負い、今もなお、命の危機と隣り合わせの生活を送っている。立場も境遇もまるで違う2人。だからこそ、互いの存在が強く心に響き、ひかれ合っていく…。
この恋は、従来の“寵愛(ちょうあい)されるヒロイン”という構図とは一線を画している。守られるだけの関係ではなく、互いに支え合い、尊重し合う対等な絆。まるで魂でつながるような、深く自由な関係性が描かれていく。旧来の価値観に縛られず、自分らしく生きることを選ぶ女性の姿が、今の視聴者の心にしっかりと届いている。
一方で主人公カップルが二人三脚で協力しあうのに対して、皇帝の娘・劉皎(りゅうきょう)(ワン・リークン)は表向き慈善家だが、権力に翻弄されて愛を見失った悲しい女性。闇落ちしていく公主にひたすら尽くす沈驚鴻(しんきょうこう)(シュー・ハイチャオ)の報われない愛もせつない。一方で、慕灼華の侍女の郭巨力(かくきょりき)(ヤン・ジーウェン)と、劉衍の護衛を務める執墨(しゅうぼく)(ジャン・ユー)とのフレッシュな恋愛もほほ笑ましい。主人公カップルのラブストーリーを軸にしながらも、サブカップルのラブラインにも注目だ。

中国のドラマスターは美男美女が勢ぞろい
中国の面積は日本の約25倍、人口は約11倍。それだけ広くて数が多いと、イケメンのタイプもさまざま。日本や韓国に近い東部では日本人に近い顔立ちだが、南部は東南アジアふうな南方系、西部はヨーロッパや中東っぽく、北はモンゴルやロシアなどに近く、それでいてアジア的な美男美女がそろっている。劉衍を演じるウィリアム・フォンは、2010年代以降の中国時代劇をけん引してきたスターの一人で、本作以外でも「明蘭〜才媛の春~」などは傑作として名高い。慕灼華を演じるジン・ティエンも、「グレートウォール」や「パシフィック・リム:アップライジング」など、ハリウッド映画にも出演する実力派。わずかな動きで感情を表現するのが中国ドラマの特徴と言え、抑え目な演技が日本人にも違和感なく入り込める。

脇役が別の作品で主演に抜てきされることもあり、郭巨力を演じたヤン・ジーウェンは「若様、それでも私をお気に召す」でヒロイン。執墨役のジャン・ユーが「策略ロマンス〜謎解きの鍵は運命の恋〜」で同じく護衛役などで活躍。出演俳優や演出家などからさかのぼっていくことで、中国時代劇の輪はさらに広がっていく。
【番組情報】
中国時代劇「灼灼風流~宮中に咲く愛の華~」※BS初放送
BS11
8月25日スタート
毎週月~木曜日 午後3:59~5:00
文/菊池昌彦
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