水樹奈々「べらぼう」で“狂歌師”デビュー！　言葉の力で挑む智恵内子役2025/06/01

　NHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」（日曜午後8：00ほか）。本作に、天明期の女性狂歌師・智恵内子（ちえのないし）役で出演している水樹奈々のインタビューを2回にわたっておくる。

　横浜流星が主演を務める「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」は、親なし、金なし、画才なし…ないない尽くしの生まれから、喜多川歌麿や葛飾北斎などを見いだし、“江戸の出版王”として時代の寵児（ちょうじ）になった“蔦重”こと蔦屋重三郎（横浜）の生涯を笑いと涙と謎に満ちた物語。脚本は、大河ドラマ「おんな城主直虎」（2017年）やドラマ10「大奥」（23年）など数多くのヒット作を手がけてきた森下佳子さんが担当している。

　智恵内子は、湯屋を営む夫・元木網（ジェームス小野田）と共に狂歌の会を主催する知的で芯のある女性。大人たちが“言葉遊び”を楽しむ場の中心で自由闊達（かったつ）に振る舞いながらも、時に愛情深く、時に鋭く物事を見つめる姿が印象的だ。

　大河ドラマ初出演となった水樹が、この役とどう向き合い、どんな思いで撮影に臨んだのか。そして“狂歌”という独特の文化にどう触れたのか――。声優、アーティストとして長年「言葉を届けてきた」彼女ならではの視点で語ってくれた。

――出演発表時にも「まさか私が大河ドラマに!?」と驚かれていましたが、今回「べらぼう」への出演を聞かれた瞬間、どんなお気持ちでしたか？

「マネジャーさんから『NHKの大河ドラマ、ご覧になりますか？』と聞かれた時は、『もちろん見ます』と答えたんです。そのあと『次の作品が“べらぼう”という作品なのですが、そこに出演のお話が来ています』と聞かされて…『えっ!?』って思わず聞き返してしまいました。最初はドッキリかと思うくらいびっくりしましたね。これまでドラマにはほとんど出演してこなかったので、まさか自分に大河ドラマのオファーが来るなんて、信じられなかったです。以前、デビュー直後に特撮ドラマに一度だけ出演したことがありましたが、それ以降は一切ドラマの現場とはご縁がなくて。だからなおさら衝撃でした」

――なぜ水樹さんにオファーが来たのか、理由も気になります。

「私自身も『どうして私に？』と不思議に思っていたら、役柄の説明をいただきました。智恵内子という女性は狂歌師で、言葉や歌を通して表現する存在。歌と言葉、その両方に関わる活動をしてきた私に、その表現力を重ねてくださったようです。私はこれまで作詞もずっとやらせていただいていて、“言葉の持つ力”や“伝え方のニュアンス”に敏感に取り組んできたこともあり、そういう部分を見てくださったのかなと。そう伺って、恐縮しました。しかも、今年はデビュー25周年という節目の年でもあったので、『これは新たな挑戦をしなさいという神様からのご縁かもしれない』と感じて、お受けすることに決めました」

――智恵内子という人物はどんな女性だと捉えていらっしゃいますか？

「彼女は、お風呂屋さんの女将としてしっかり店を切り盛りしながら、身分の違う人たちが集まる“狂歌の会”を、夫である元木網と一緒に仕切っている女性です。最初に監督さんから『ツンツンな女将さんです。ツンデレじゃなく、ツンツンです』と説明を受けました。でも、その“ツンツン”の奥に、実は夫を深く思い、みんなのことを考えている情の厚さがある。時代背景的に“男性を立てる”という意識もありながら、実は家の手綱はしっかり握っている、そんな女性です。見た目やしぐさは少し気の強い感じに見えるかもしれませんが、それは彼女の聡明さや繊細さの現れでもあると思っています」

――芯の強さと賢さを兼ね備えた女性ですね。

「まさにそうです。そして、狂歌を通じてサークルのような場を盛り上げ、会の中では羽目を外すような一面もある。そのギャップが魅力的だなと感じています」

――クランクインの際の印象的な出来事はありましたか？

「本当に分からないことばかりでした。まず、マイクのオン・オフを自分で操作しなければいけないことに驚いて。歌の現場だと音響さんがやってくださるので、『水樹さんマイク切れていますよ』と言われて、『えっ!?　自分で!?』みたいな（笑）。着物の中にマイクが仕込まれていて、遠隔でスイッチを押すという初めての経験でした。小物の管理も自分で行ったり、同じ角度をキープしなければいけなかったり、一つ一つが新鮮で、最初は戸惑いました。日本髪のカツラをかぶったのも今回が初めてで、思っていた以上に重くてびっくりしました。町人でこの重さなら、花魁の方たちはどれだけ大変なのだろう…とあらためて実感しました。長時間の撮影で着物もだんだん苦しくなってきますし、正座も続くとやはり厳しい。現場の皆さんの忍耐力に頭が下がります」

――そんな戸惑いの多かったクランクインの中でも、和装での撮影はまた特別な体験だったのではないでしょうか？

「私は過去に座長公演で和装をして演歌を歌ったことがあったり、幼い頃は演歌歌手を目指していたこともあって、着物にはある程度、親しみがありました。ただ、ドラマの現場で、しかも本格的な日本髪のカツラをつけるのは初めてだったので、最初はかなり緊張しました。スタッフの皆さんがキャラクターの背景を丁寧に考えてくださっていて、衣装も季節に応じて変えてくださったり、素材にもこだわりがあったりと感激しました。湯屋の女将という設定なので、少し上質な生地や、しっかりしたかんざし、控えめだけどきちんとした紅のメークなど…細部まで緻密に作り込まれていて、その丁寧さがうれしかったですね」

――完成した姿をご覧になって、いかがでしたか？

「『これが自分!?』と思うくらい新鮮でした（笑）。おでこを全開にすることもなかなかないので、ちょっと恥ずかしくてドキドキしましたが、放送前に予告を見た方々から『似合っていたよ！』と反響をいただけてほっとしました」

――時代劇の現場に入って感動もあったようですね。

「セットの作り込みが本当にすばらしくて。私はライブの演出でセットにこだわる方ですが、それとはまた一味違う緻密さで…。最初の撮影が宴会のシーンだったのですが、多くの出演者の皆さんに『よろしくお願いします』とごあいさつできて、それもうれしかったですね。普段はなかなかお会いできない方とも同じシーンでお芝居ができて、本当に貴重な経験でした」

――撮影では、どんなところに特に気を配っていらっしゃいますか？

「撮影シーンはそれほど多くはないのですが、短いシーンの中にも関係性や背景がにじみ出るようにしたいと考えています。特に、元木網さんとの夫婦関係を、ちょっとした目線や表情、間合いで表現できたらいいなと。あとは、セリフがない場面でも、例えば宴会の中での反応や、ふとした立ち居振る舞いからも“この人にはこういう一面もあるのかもしれない”と想像してもらえるように、意識しながら演じています」

――ご自身と役柄に重なる部分を感じることはありますか？

「“表現すること”に対する情熱や、仲間と一緒に場を作り上げていく姿勢には、どこか通じるものがあると思います。智恵内子という人物は、文献があまり残っていない分、自由に演じてくださいと言っていただいていて。だからこそ、プレッシャーもありますが、自分なりの解釈をしっかり深めて、丁寧に役と向き合っていきたいと思っています」

――登場シーンでは“狂歌”を詠む場面もありますが、演じるうえで特に面白かった点はありますか？

「最初はてっきり決まった節回しがあるものだと思っていたのですが、『完全に自由でいい』と聞いて驚きました（笑）。その場の雰囲気やテンションに合わせて、音頭のように『あ、よいしょ！』とにぎやかに詠んだり、逆にしっとりと格式ばって読んだり…。振れ幅がとても大きくて、キャラクターの“色”が自然に出せるんですよね。演じていて非常に楽しい部分です」

――実際に歌を詠んでみて、“言葉遊び”の奥深さも感じられたのではないでしょうか？

「まさにそうです。私が詠んだのはパロディーの歌だったのですが、小学生の頃に百人一首クラブに入っていたので、『この歌、知っている！』とうれしくなりました。それがダジャレふうになっていたりして、思わず笑ってしまうような面白さがありました。教養や知識があればあるほど深く味わえる、そんな懐の深さがあるんです。しかも、“うなぎに寄する恋”といったテーマが出されたら、即興でそれに合わせて詠むこともあって、今で言えばラップバトルのようなものかもしれません。瞬発力、構成力、言葉のセンス、知識の引き出し…すべてが問われるんですよね。智恵内子という女性が、どれだけ知的で教養に富んだ人物だったか、演じながら実感しました」

――水樹さんご自身も、実際に宴会の場で詠むシーンがあったそうですね。

「はい、しかも初めて詠んだのが、まさにその宴会シーンの真っ最中で（笑）。最初は“静かに1人で詠む”というものを想像していたので、『えっ、踊りながら!?』と戸惑ってしまって…。テストの時はうまくいかなかったところもありましたが、本番では“これだ！”という感覚で落とし込めたので、まずはしっかり第一歩を踏み出せたと思っています」

――その即興的な表現や遊び心は、現代の創作にも通じるものがあると感じますか？

「あると思います。“今までにないもの”“面白いもの”に人はひかれるというのは、時代が変わってもきっと変わらないんだなと。蔦重って、まさに現代で言うヒットプロデューサーみたいな存在で、常に“これは、はやる”“これは面白い”というものを敏感に察知するセンスを持っている。私もライブ演出や楽曲制作の中で、『誰も見たことがないものを作りたい』という思いがあるので、その精神には共感する部分が多かったです。声優としてのお芝居でも、『水樹奈々にしかできない表現は何か？』と考えながら、視点や発想を工夫していくので、そういった意味でもこの作品とは深いところでつながっている気がしました」

――“狂歌の会”では、共演者との掛け合いも見どころになりそうですね。

「はい。例えば、少し下ネタっぽい歌を詠む男性陣に対して、『この時代の女性が下ネタを聞いたら、どんなふうにリアクションするんだろう？』と想像しながら演じたこともあって（笑）。私がとっさに反応した時に、大田南畝を演じる桐谷健太さんが『それ、おもろい！』と言ってくださって、とても励みになりました。オンエアで使われているか分かりませんが（笑）」