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“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」2023/12/11

“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」

 12月16日と23日の2回にわたって放送するNHK総合の土曜ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」。耳が聞こえない親を持つ聞こえる子ども=コーダ(Children of Deaf Adults)の主人公・荒井尚人(草彅剛)。仕事と結婚に失敗し、家族や恋人に心を開けないでいるが、生活のため唯一の技能を生かして手話通訳士として働くことに。やがて仕事にも慣れ、新たな生活を送り始めた尚人の元に届いた依頼は、法廷でのろう者の通訳。この仕事をきっかけに、尚人は自身が関わった過去のある事件と対峙(たいじ)することに…。

 今回は、そんな“コーダ”を演じた草彅剛さんにインタビュー。ろう者の方々との共演エピソードやドラマの見どころを伺いました!

――ろう者の親がいる聴者の子ども“コーダ”という難しい役柄を演じられた感想を教えてください!

「作品をいただいたらあまり深く考えずにやりたいタイプなので、そんなに難しいとは思わず、すんなりと演じることができました。あとは、監督さんをはじめ、皆さんの力で引っ張ってくれたと感じています。手話など初めてのこともかなり量があったので練習して、撮影をしながらイメージを膨らませていって大成功となりました。手応えを感じています」

――幼い頃から手話で会話をしてきたネーティブの役でしたが、いかがでしたか。

「本当に難しかったですね。手話はほぼ初めてだったので、みっちり指導していただいて。本当に気持ちから伝えることを大事にして、普段だと感情を表す時は大きな声を出すなど、声を使うのがお芝居の醍醐味(だいごみ)の部分もありますが、それとは全く逆だったので、自分の中からデフ・ヴォイスがあふれてきたらいいなと思いながら演じていました。手話の先生に指導していただいて、なんとかコーダの役に見えるレベルまで持ち上げてくれたかなと思っています」

――どのくらい練習されたのでしょうか。

「すごく練習しましたよ。部屋を貸し切って、先生も3人いらっしゃって、みっちりと。難しいですからね。『ブギウギ』の撮影で大阪に行く新幹線の中でも練習していました。最初は、送ってもらった映像をそのまま覚えたら鏡みたいに逆になっちゃうのかなと、分からなくなることもありました。レストランでろう者のことを悪く言っていた青年たちに向かって手話をするシーンは、全部合わせると10時間以上練習したんですけど、顔のアップしか映っていなかったです。ちゃんと覚えて、完璧にやっているからこそ出る表情だったのかなと納得していますが、あれは、10時間の表情、“10時間フェース”です。でも、そんなことよりも、ろう者の方や先生と一緒の時間を過ごして、仲良くなることができて本当に楽しかったです」

――先生は3人もいらっしゃったんですね。

「手話にも流派というか、一つの言葉にも表し方がいろいろあるんです。それを最もシーンに合うように3人で擦り合わせ、視聴者の方やろう者の方にも納得いただけるように作ってくださいました」

――手話の表情がすごく豊かでしたが、意識されたことや渡辺一貴監督から言われたことはありましたか。

「監督も毎回手話の練習をする時に来てくださって、細かく手話指導の方と打ち合わせをしてくださいました。それで、僕と監督の中でも、手話を通じて尚人のキャラクターが出来上がっていったような感じです。監督が本当に温かい方で、監督の気持ちを借りて尚人になれたんじゃないかなと思っています。だから、僕は尚人は監督だと思っていて、荒井尚人じゃなくて、渡辺尚人という気持ちでやっていました」

――監督と一体になって撮影されていたんですね。

「そうですね。監督がすごく熱心で懐の深い方だったので、荒井尚人になれたなと思っています」

“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」

――手話の表情も、役に入り込めると自然に出てくるものなのでしょうか。

「今回、本当のろう者の方とお芝居するというのが新しい試みだったので、それによって、僕の中からあふれ出てくる表情があったのかなと思います」

――ろう者の出演者の方とのコミュニケーションは、スムーズにいきましたか?

「この現場は、エキストラさんなどセリフがない役もろう者の方にお手伝いしていただいたり、ろう者とそうでない人の垣根を越えて、一緒の方向を向いてシーンを作り上げようという気持ちがあったので、すごく温かくて、現場じゃないみたいでした。『僕だけ手話の練習があって忙しいのに、ほかのみんなは遊んでるのかな』と思うくらい温かかったです」

――今でも印象に残っている手話はありますか?

「印象に残っているのは…、“おめでとう”かな!」

――作中で、「手話は、日本語とは違う言語なんだ」というセリフがありましたよね。草彅さんはハングルを習得されて、外国語でのコミュニケーションの難しさは経験があると思うんですけど、通じ合えた時の喜びなどは感じましたか。

「僕の場合は日本語もままならないので、どの言語でもあまりこだわりがないんです(笑)。手話と外国語はちょっと異なりますが、人に分かってほしいという気持ちはどんな言語でも共通ですよね。楽しみながら伝えることとか、お互いが同じものを共感することが大事だなと思いながらやっていたかな。手話で通じ合えることは本当にうれしかったです。新しいものを覚えると、人ってうれしいんだなって。あらためて学ぶことは大切だなと思いました」

――手話やろう文化に触れて、感じたことはありますか。

「現場で一生懸命やるだけだったので、勉強になったことはあまりなくて。手話は難しかったですが、ろう者の方と関わることもそんなに特別なものではなくて、楽しかったことが多かったです。普段の撮影と違って、ろう者の方やお芝居が初めての方もいらっしゃる空気感は刺激的でした」

――ドラマのストーリーとしての面白さは、どこに感じられましたか。

「最初に『手話を扱った作品』と聞いた時に、もっとストレートに感動劇なのかなと思ったらミステリーだったので、面白いなと思いました。ミステリーでありながら家族愛もあって、ほかにない作品になりました。僕自身もこういう作品に出演したことがなかったので、また新しい作品を皆さんと作ることができてすごく満足しています」

――何森稔役の遠藤憲一さんが「以前から共演したかった草彅さんと共演できてうれしかったです」と出演発表時にコメントされていたんですが、お話などはされましたか。

「チャーミングな方で、和ませてくれて、格好いいですよね。僕も昔から気になる方だったので、共演できてよかったです。個人的な話ですが、僕が25歳の時に出演した『TEAM』(フジテレビ系)という少年犯罪を扱ったドラマで西村まさ彦さんと共演したんですけど、その時と通じるものがありました。遠藤さんと西村さんはもちろん全然違う方ですけど、こわもての感じがすごく懐かしくて、胸がキュンとしたんです。だから、僕も遠藤さんとお芝居できて、かけがえのない時間を過ごせました。あのはにかんだ笑顔で『今日元気?』みたいに言ってくれたり、芝居もすごくすてきで、遠藤さんと僕でバディを組んで『デフ・ヴォイス2』をやりたいですね」

“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」

――ぜひ、楽しみにしています!

「この作品がうまくいったら、誰か考えてくれないかな…。遠藤さんはそんなふうに思わせてくれる方です。尚人が何森さんと対面すると、空気が変わるんです。そういうところもすごく好きです。作品の中の緊張感も、何森を演じる遠藤さんがいるから成り立っていると思うので、今回の共演に感謝しています」

――ピリッとしたアクセントになっていて、すごくすてきなシーンでした。ほかの共演者とのエピソードがあったら教えていただけますでしょうか。

「皆さん、役をそれぞれ楽しんでいて、役に命を懸けているというオーラがバンバン出ていて、僕も真面目にやらないと駄目だなと思わされました。僕は撮影に入る前から手話の準備をしていたんですけど、みんなは練習していないのに、きちんと役をつかんで作品になじんでいて、ずるいなと思いました」

――“コーダ”を主人公にした作品はなかなかないですが、何か参考にしたものなどはありますか?

「映画『コーダ あいのうた』(2022年)を薦められて見て、空気感を感じました」

――草彅さんの視点で今作の注目ポイントを語ってください!

「単純に誰が犯人か考えるのは面白いし、見終わった後に、よく見たら『あの2人、似てるじゃん!』ってつながると思います。あとは、橋本(愛)さんの最後の扮装(ふんそう)がすごく奇麗で、それが僕はこのドラマで一番の見どころだと思います。『なんであんな奇麗なんだろう』と思って。全部持っていかれちゃいましたね」

“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」

――では、ご自身が印象に残っているシーンを教えていただきたいです。

「どれをとっても印象的で困っちゃうんだけど、益岡英雄役の山岸信治さんは、すごくデフ・ヴォイスが聞こえる方でした。それによって僕も心が高まって、一緒に良いシーンを作ることができたなと思っています」

――ろう者の皆さんは目をしっかり見て演技をされるので、感情が引き上げられる部分もありましたよね?

「そうですね。僕のお兄ちゃん・悟志役の田代英忠さんも、言葉を超えた悲しみや切なさなど、すごく迫力があるお芝居をしてくるので、僕も感化されて、気持ちのアクセルをぐっと踏むことができました。すごくワイルドなので、僕のお兄さんには見えないんじゃないかと心配しましたが、兄弟って似ているようで似ていないところがあるなと納得しました。お兄ちゃんとのシーンは、家族愛も出ていてすごく好きなシーンです」

――今作のことを稲垣吾郎さんや香取慎吾さんとお話されましたか。

「全くしていないですね。忙しかったからね。吾郎さんは『罠の戦争』(フジテレビ系)の第1話、りんごをつぶしたシーンで寝ちゃったって言っていたぐらいですから。でも、いい作品なので2人にも見てもらいたいです」

“コーダ”を演じた草彅剛、「『みんな遊んでるのかな』と思うくらい温かい現場でした」――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」

――2023年、草彅さんにとってどんな1年でしたか?

「とにかくセリフをずっと覚えていました。今も覚えているんですけど、この仕事をやっている上では本当に幸せなことです。ありがとうございます。今年はうさぎ年でしたが、大阪行ったり、京都行ったり、ぴょんぴょん跳んでいました。うさぎ賞を僕にください!」

――ありがとうございました!

【番組情報】

NHK総合NHK BSP4K
土曜ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」
12月16日、23日 土曜 午後10:00~11:13

NHK担当/Kizuka



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